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第二部 宰相閣下の謹慎事情
491 続・元王族の風格
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「いや、大公、私は『バリエンダールでやるとなれば、陛下が出て来る』と言っただけであって、まだ、バリエンダールで会談の場を設けようと提案している訳では――」
何だかちょっぴり「悪いお顔」になっていたテオドル大公を、止めようとしたのかどうか、エドヴァルドの方が珍しく抑えの側に回っている。
「確かに最初は、アンジェスとバリエンダールとの会談をアンジェス王宮でと言う話ではあったがな」
「ええ」
「だが、サレステーデの宰相が、おいそれと国を空けられぬのと同様に、バリエンダールとて、フォサーティ宰相家が謹慎させられている現状、王と王太子が政治の矢面に立つ状態であろう?」
言われてみれば、特にミラン王太子が、今は宰相相当の権限を持って、舵取りにあたっている筈だ。
エドヴァルドも、否定が出来なかったのか、微かに眉根を寄せた。
「翻ってみれば、我がアンジェスは其方と陛下が両輪となって政務を回しておろう?フォルシアンやコンティオラあたりでも次点にはなり得る。どう見ても三国の中で、今、一番安定しておるからな」
…どうやらテオドル大公の中でも、エドヴァルドの「謹慎」は頭の片隅にもないらしい。
同じ謹慎でも、身内がやらかしているフォサーティ家と違い、管轄領下、しかも子爵家がしでかした事とあっては、被る責も薄いと思われているのかも知れなかった。
多分アンジェスの王宮側にしても、ベルセリウス将軍よりは額が多い程度の給与返上で済ませたかったところが、エドヴァルドが力づくで謹慎処分に持っていったが為に、すきあらば有耶無耶にしたいと思っているフシさえある。
「大公、お言葉ですが――」
恐らくは、自分の「謹慎」処分の話をしようとしたエドヴァルドを、そこでテオドル大公が、片手を上げて遮った。
「イデオン公。今、この国において『使者』としての役割を持つのは、誰ぞ?」
「……っ」
「多少は儂の事もあったにせよ、其方は言わば『私用』で婚約者の安否を確かめに来たのではなかったか?」
「私は……此処へ来る前、陛下に『王である以上は自ら乗り込むのではなく、相手に来させてこその権威。陛下に他国の土は踏ませません』と言い含め――ゴホン、説得して来ているのですが」
「陛下の事だ。自分が説教をしに行った方が、話が早くまとまる――くらいは仰っていたのではないかな」
私用、のところから離れての説得を試みようとしたエドヴァルドに、テオドル大公はまたしても別方向で、ちゃんとそれを打ち返して見せた。
この辺り、やっぱりテオドル大公もアンジェス王家の人なんだな…と思う。
エドヴァルドが再び言葉選びに困ったところからすると、きっと陛下は、テオドル大公が言った通りの言葉を口にしたんだろう。
…私ですら、言いそうだと思うくらいだし。
苦い表情を見せるエドヴァルドに、テオドル大公は「ただ」とそこで舌鋒を収めた。
「この話は、メダルド国王が『バリエンダール王宮を、どこぞの公爵家の血で染めてしまっても良い』と決断をするのでなければ、成り立たぬ話だ。ミラン王太子に、将来の国王としての研鑽を積ませるべく、敢えて国王がアンジェスに赴くと言うのであれば、それはそれで受けるべきであろうと思うしな。今、ここで決める話ではなかろうよ」
フィルバートの行幸が、そのまま血塗れ粛清一直線になっているのはどうなのかと思うんだけど、何せサイコパス陛下サマ、まあきっと、私の知らない前科がてんこ盛りにあって、周辺諸国にもそれが認識されているんだろう。
「儂としては、陛下に行幸いただき、次期聖女としてボードリエ伯爵令嬢に、バリエンダールの当代聖女、ノヴェッラ女伯爵との交流を図って貰うべく同行して貰えたら――との思いもあるのだがな」
「宝石による治癒法……でしたか」
エドヴァルドの表情は、複雑そうなままだ。
フィルバートを行かせる事に気は進まない、だけどシャルリーヌに宝石による治癒の話を聞いて、会得出来るものなら会得して貰う事は、決してアンジェスにとって悪い話ではない。
「それは……逆もまたしかりでしょう。もし、メダルド国王陛下がアンジェスに来られるとなれば、こちらから同行を乞うても良いのでは?」
「うむ……」
一見するとエドヴァルドが不利ではあるけれど、結局完全に白旗を上げる事がなかった為に、結論は持ち越しになった。
メダルド国王とミラン王太子の判断に委ねると言う事なんだろう。
一長一短だなぁ……なんて思いながら、私はそれを口には出せなかった。
*******************************************************
いつも読んで頂いて有難うございます!
昨日は副反応に苦しみ……待っていて下さった方には大変申し訳ない事をしました(´;ω;`)
ただ、平熱35度台の私に、36.6度はまだちょっとキツイので、今日は少し短めですがご容赦下さいませ。
明日からちゃんと復帰出来ればと思っています……m(_ _)m
引き続き読んで頂けると嬉しいです。
何だかちょっぴり「悪いお顔」になっていたテオドル大公を、止めようとしたのかどうか、エドヴァルドの方が珍しく抑えの側に回っている。
「確かに最初は、アンジェスとバリエンダールとの会談をアンジェス王宮でと言う話ではあったがな」
「ええ」
「だが、サレステーデの宰相が、おいそれと国を空けられぬのと同様に、バリエンダールとて、フォサーティ宰相家が謹慎させられている現状、王と王太子が政治の矢面に立つ状態であろう?」
言われてみれば、特にミラン王太子が、今は宰相相当の権限を持って、舵取りにあたっている筈だ。
エドヴァルドも、否定が出来なかったのか、微かに眉根を寄せた。
「翻ってみれば、我がアンジェスは其方と陛下が両輪となって政務を回しておろう?フォルシアンやコンティオラあたりでも次点にはなり得る。どう見ても三国の中で、今、一番安定しておるからな」
…どうやらテオドル大公の中でも、エドヴァルドの「謹慎」は頭の片隅にもないらしい。
同じ謹慎でも、身内がやらかしているフォサーティ家と違い、管轄領下、しかも子爵家がしでかした事とあっては、被る責も薄いと思われているのかも知れなかった。
多分アンジェスの王宮側にしても、ベルセリウス将軍よりは額が多い程度の給与返上で済ませたかったところが、エドヴァルドが力づくで謹慎処分に持っていったが為に、すきあらば有耶無耶にしたいと思っているフシさえある。
「大公、お言葉ですが――」
恐らくは、自分の「謹慎」処分の話をしようとしたエドヴァルドを、そこでテオドル大公が、片手を上げて遮った。
「イデオン公。今、この国において『使者』としての役割を持つのは、誰ぞ?」
「……っ」
「多少は儂の事もあったにせよ、其方は言わば『私用』で婚約者の安否を確かめに来たのではなかったか?」
「私は……此処へ来る前、陛下に『王である以上は自ら乗り込むのではなく、相手に来させてこその権威。陛下に他国の土は踏ませません』と言い含め――ゴホン、説得して来ているのですが」
「陛下の事だ。自分が説教をしに行った方が、話が早くまとまる――くらいは仰っていたのではないかな」
私用、のところから離れての説得を試みようとしたエドヴァルドに、テオドル大公はまたしても別方向で、ちゃんとそれを打ち返して見せた。
この辺り、やっぱりテオドル大公もアンジェス王家の人なんだな…と思う。
エドヴァルドが再び言葉選びに困ったところからすると、きっと陛下は、テオドル大公が言った通りの言葉を口にしたんだろう。
…私ですら、言いそうだと思うくらいだし。
苦い表情を見せるエドヴァルドに、テオドル大公は「ただ」とそこで舌鋒を収めた。
「この話は、メダルド国王が『バリエンダール王宮を、どこぞの公爵家の血で染めてしまっても良い』と決断をするのでなければ、成り立たぬ話だ。ミラン王太子に、将来の国王としての研鑽を積ませるべく、敢えて国王がアンジェスに赴くと言うのであれば、それはそれで受けるべきであろうと思うしな。今、ここで決める話ではなかろうよ」
フィルバートの行幸が、そのまま血塗れ粛清一直線になっているのはどうなのかと思うんだけど、何せサイコパス陛下サマ、まあきっと、私の知らない前科がてんこ盛りにあって、周辺諸国にもそれが認識されているんだろう。
「儂としては、陛下に行幸いただき、次期聖女としてボードリエ伯爵令嬢に、バリエンダールの当代聖女、ノヴェッラ女伯爵との交流を図って貰うべく同行して貰えたら――との思いもあるのだがな」
「宝石による治癒法……でしたか」
エドヴァルドの表情は、複雑そうなままだ。
フィルバートを行かせる事に気は進まない、だけどシャルリーヌに宝石による治癒の話を聞いて、会得出来るものなら会得して貰う事は、決してアンジェスにとって悪い話ではない。
「それは……逆もまたしかりでしょう。もし、メダルド国王陛下がアンジェスに来られるとなれば、こちらから同行を乞うても良いのでは?」
「うむ……」
一見するとエドヴァルドが不利ではあるけれど、結局完全に白旗を上げる事がなかった為に、結論は持ち越しになった。
メダルド国王とミラン王太子の判断に委ねると言う事なんだろう。
一長一短だなぁ……なんて思いながら、私はそれを口には出せなかった。
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いつも読んで頂いて有難うございます!
昨日は副反応に苦しみ……待っていて下さった方には大変申し訳ない事をしました(´;ω;`)
ただ、平熱35度台の私に、36.6度はまだちょっとキツイので、今日は少し短めですがご容赦下さいませ。
明日からちゃんと復帰出来ればと思っています……m(_ _)m
引き続き読んで頂けると嬉しいです。
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