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第二部 宰相閣下の謹慎事情
538 ただいま準備中(前)
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シーグは結局、黄色いバラと赤いバラをそこそこに、あとは白いバラを少し抱えて戻って来た。
なんでも白の在庫が少なかったとかで、シーグも、じゃあたくさんあった黄色や赤のバラで練習して、リックが帰って来たところで、白で最後仕上げようと考えてのチョイスだったらしい。
「とりあえず、花びらをからっからに乾かさないと作れないやつもあるから、それは今日は仕込みだけだね。リネンウォーターとモイストポプリとローズティーは試作出来るかな」
「⁉」
シーグはとっさに、私が言った単語が聞き取れなかったらしい。
それはそうか。日本でそう呼ばれて、作られていただけで、この世界ではまだ未知の商品名だ。
「名前は……単に私の住んでいたところで、そう呼ばれているだけだから。発音しにくいなら、そのうち何か考えようか」
「それは……私よりもフェドート元公爵閣下がお付けになられた方が良い気が……」
「ああ……それはそうかも知れないね。まあでも、どうせ日の目は見ない品物だから、深く考えなくても良いんじゃないかな」
日の目を見ない、と聞いたシーグが僅かに不思議そうな表情を見せた。
「日の目……見ないんですか?」
「亡くなった大切な家族に捧げる品物を作っておいて、それをお金儲けの道具にする、普通?」
まあ普通じゃない人もそりゃいるだろうけど、少数派は何にだって、どこにだっている。
「……なるほど」
「フェドート邸の花とは色違いになる訳だから、いっそ色ごとに違う名前にしても良いかもよ。区別つくし。シーグリック兄妹だけのオリジナルって感じもするじゃない」
「――――」
それが存外シーグの胸に刺さったようなので、考え込む前に「まあ、その話はまた今度ね」と、私はシーグを厨房まで行くよう促した。
「ローズティーはね、乾いた後は紅茶の茶葉とブレンドしても使えるから、今はこのまま花びらを使ったやつにしよっか。花の量や紅茶の茶葉の量なんかも二人の好みとかあるだろうから、そっちは今度、量を変えながら色々実験すれば良いんじゃないかな」
多分それはそれでフェドート邸のローズティーとは似て非なるものが出来る。
完全に、兄妹の為だけのオリジナルブレンドだ。
「ああ、茶葉だって山ほど市販されている訳だから、どんな茶葉が好みか、今度街のカフェとか幾つか回ってみようか?私もそうだけど、シーグもなかなか茶葉ごとの紅茶の味なんて、そんなにたくさん区別つかないでしょ?」
味が違う、くらいならもちろん分かるけれど、どこ産出の茶葉が……とかなると、まだまだお手上げ状態の筈。
自分のコトではあったけど、15歳のシーグだってさほど変わるまいと思ってみたら、案の定、コクコクと頷いていた。
「――レイナ様、少々お待ちを」
厨房に向かう廊下を歩きながら、それまで黙って話を聞いていたヨンナが、そこで不意に口を開いた。
「差し出がましい事を申し上げますが、それでしたら、この王都内で流通している茶葉を全て、少量公爵邸へ仕入れてはいかがかと」
「「えっ⁉」」
全て、なんて言葉をさらりと言われて、私とシーグの声が驚愕まじりに裏返った。
「レイナ様も、先々フォルシアン公爵邸での茶会に招かれておいでの筈。茶葉と産地を学ばれる事は、立派な教育の一環にございます。途中で他の者が別の用途で試飲をする分には支障もございません。あとでセルヴァンに旦那様の許可を取らせますので、ぜひ、そのようになさいませ」
本当に教育をしたいのか、シーグと二人で街中をふらふらカフェ巡りする事を阻止させたいのか、どっちだろう。
いや、両方か。
「気に入った茶葉をいずれ定期的に仕入れたいと予め告げておけば、商人たちとて最初から大量に持ち込んだりはいたしません。どこの貴族の邸宅でも、新種やその年の摘みたてが入荷されてきた際には、最初は主一家が飲む数杯分だけを仕入れて、感触を探るのです」
「そ、そうなんだ」
既に拒否権はなさそうだ。
そう思いながらシーグに「……で、いいかな」と話を振ってみると、シーグも同じように思ったんだろう。同席させて貰えるなら、と最後は頷いていた。
そうこうしているうちに厨房に辿り着いた。
夕食の後片付けの邪魔にならない場所を、予め確保して貰ってある。
どうやら最近では「今度は何を」状態で、場所の確保と若手を一人貸し出すのとが、厨房内でも定着しつつあった。
「まあ多分、売り物として考えるならローズティーやジャムなんかは、赤いバラの方が見栄えは良いのよ。だけど香り付けした水やドライポプリは香り重視だから、そこまで色はこだわらなくて良い。クッキーもまぁ、そうかな?」
とりあえず……と説明をしながら、私は手近にあった黄色いバラを一輪手にして、片手でバラの茎を持って、反対の手で花びらをちぎって、バラバラにした。
「茎のトゲに気を付けながら、まずはひたすらブチブチと引きちぎろうか。あ、茎とか葉っぱとかも使えるから、そのあたりは保管しやすいサイズに切っておいて貰って良い?」
「え、葉や茎もお茶になる……?」
「なるよ?ただ、そう聞いたことがあるだけで、実際に作ったことも飲んだこともないから、まあ実験の一環にはなるけど」
葉や茎を焙じた、加賀棒茶なんかは結構有名だ。
同じようにできるのか、違うものが出来るのか想像も出来ないけど、この際だからまとめて試作してしまえば良い。
「で、それぞれ軽く水洗いをして汚れをさっと落としたら、今使う分と天日干しして乾燥させる分とに分けようか」
「レイナ様、手伝わせていただきます」
同時進行的に作業が発生する事を、ざっと見て察したヨンナが、手伝いを申し出てくれた。
トゲに気を付けるよう言ったせいか、それを自分たちがやるから、洗って干す方をやってくれと言われてしまう。
「え……そこから茶が出来るのか?」
そしてヨンナに続いて、片づけがひと段落したラズディル料理長まで、こちらに興味を示し始めた。
「そうですね、花びらが乾燥すればクッキーなんかにも使えますよ」
「――――」
どうやら厨房の皆さんも、巻き込まれてくれるようだ。
なんでも白の在庫が少なかったとかで、シーグも、じゃあたくさんあった黄色や赤のバラで練習して、リックが帰って来たところで、白で最後仕上げようと考えてのチョイスだったらしい。
「とりあえず、花びらをからっからに乾かさないと作れないやつもあるから、それは今日は仕込みだけだね。リネンウォーターとモイストポプリとローズティーは試作出来るかな」
「⁉」
シーグはとっさに、私が言った単語が聞き取れなかったらしい。
それはそうか。日本でそう呼ばれて、作られていただけで、この世界ではまだ未知の商品名だ。
「名前は……単に私の住んでいたところで、そう呼ばれているだけだから。発音しにくいなら、そのうち何か考えようか」
「それは……私よりもフェドート元公爵閣下がお付けになられた方が良い気が……」
「ああ……それはそうかも知れないね。まあでも、どうせ日の目は見ない品物だから、深く考えなくても良いんじゃないかな」
日の目を見ない、と聞いたシーグが僅かに不思議そうな表情を見せた。
「日の目……見ないんですか?」
「亡くなった大切な家族に捧げる品物を作っておいて、それをお金儲けの道具にする、普通?」
まあ普通じゃない人もそりゃいるだろうけど、少数派は何にだって、どこにだっている。
「……なるほど」
「フェドート邸の花とは色違いになる訳だから、いっそ色ごとに違う名前にしても良いかもよ。区別つくし。シーグリック兄妹だけのオリジナルって感じもするじゃない」
「――――」
それが存外シーグの胸に刺さったようなので、考え込む前に「まあ、その話はまた今度ね」と、私はシーグを厨房まで行くよう促した。
「ローズティーはね、乾いた後は紅茶の茶葉とブレンドしても使えるから、今はこのまま花びらを使ったやつにしよっか。花の量や紅茶の茶葉の量なんかも二人の好みとかあるだろうから、そっちは今度、量を変えながら色々実験すれば良いんじゃないかな」
多分それはそれでフェドート邸のローズティーとは似て非なるものが出来る。
完全に、兄妹の為だけのオリジナルブレンドだ。
「ああ、茶葉だって山ほど市販されている訳だから、どんな茶葉が好みか、今度街のカフェとか幾つか回ってみようか?私もそうだけど、シーグもなかなか茶葉ごとの紅茶の味なんて、そんなにたくさん区別つかないでしょ?」
味が違う、くらいならもちろん分かるけれど、どこ産出の茶葉が……とかなると、まだまだお手上げ状態の筈。
自分のコトではあったけど、15歳のシーグだってさほど変わるまいと思ってみたら、案の定、コクコクと頷いていた。
「――レイナ様、少々お待ちを」
厨房に向かう廊下を歩きながら、それまで黙って話を聞いていたヨンナが、そこで不意に口を開いた。
「差し出がましい事を申し上げますが、それでしたら、この王都内で流通している茶葉を全て、少量公爵邸へ仕入れてはいかがかと」
「「えっ⁉」」
全て、なんて言葉をさらりと言われて、私とシーグの声が驚愕まじりに裏返った。
「レイナ様も、先々フォルシアン公爵邸での茶会に招かれておいでの筈。茶葉と産地を学ばれる事は、立派な教育の一環にございます。途中で他の者が別の用途で試飲をする分には支障もございません。あとでセルヴァンに旦那様の許可を取らせますので、ぜひ、そのようになさいませ」
本当に教育をしたいのか、シーグと二人で街中をふらふらカフェ巡りする事を阻止させたいのか、どっちだろう。
いや、両方か。
「気に入った茶葉をいずれ定期的に仕入れたいと予め告げておけば、商人たちとて最初から大量に持ち込んだりはいたしません。どこの貴族の邸宅でも、新種やその年の摘みたてが入荷されてきた際には、最初は主一家が飲む数杯分だけを仕入れて、感触を探るのです」
「そ、そうなんだ」
既に拒否権はなさそうだ。
そう思いながらシーグに「……で、いいかな」と話を振ってみると、シーグも同じように思ったんだろう。同席させて貰えるなら、と最後は頷いていた。
そうこうしているうちに厨房に辿り着いた。
夕食の後片付けの邪魔にならない場所を、予め確保して貰ってある。
どうやら最近では「今度は何を」状態で、場所の確保と若手を一人貸し出すのとが、厨房内でも定着しつつあった。
「まあ多分、売り物として考えるならローズティーやジャムなんかは、赤いバラの方が見栄えは良いのよ。だけど香り付けした水やドライポプリは香り重視だから、そこまで色はこだわらなくて良い。クッキーもまぁ、そうかな?」
とりあえず……と説明をしながら、私は手近にあった黄色いバラを一輪手にして、片手でバラの茎を持って、反対の手で花びらをちぎって、バラバラにした。
「茎のトゲに気を付けながら、まずはひたすらブチブチと引きちぎろうか。あ、茎とか葉っぱとかも使えるから、そのあたりは保管しやすいサイズに切っておいて貰って良い?」
「え、葉や茎もお茶になる……?」
「なるよ?ただ、そう聞いたことがあるだけで、実際に作ったことも飲んだこともないから、まあ実験の一環にはなるけど」
葉や茎を焙じた、加賀棒茶なんかは結構有名だ。
同じようにできるのか、違うものが出来るのか想像も出来ないけど、この際だからまとめて試作してしまえば良い。
「で、それぞれ軽く水洗いをして汚れをさっと落としたら、今使う分と天日干しして乾燥させる分とに分けようか」
「レイナ様、手伝わせていただきます」
同時進行的に作業が発生する事を、ざっと見て察したヨンナが、手伝いを申し出てくれた。
トゲに気を付けるよう言ったせいか、それを自分たちがやるから、洗って干す方をやってくれと言われてしまう。
「え……そこから茶が出来るのか?」
そしてヨンナに続いて、片づけがひと段落したラズディル料理長まで、こちらに興味を示し始めた。
「そうですね、花びらが乾燥すればクッキーなんかにも使えますよ」
「――――」
どうやら厨房の皆さんも、巻き込まれてくれるようだ。
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