聖女の姉ですが、宰相閣下は無能な妹より私がお好きなようですよ?

渡邊 香梨

文字の大きさ
461 / 786
第二部 宰相閣下の謹慎事情

538 ただいま準備中(前)

しおりを挟む
 シーグは結局、黄色いバラと赤いバラをそこそこに、あとは白いバラを少し抱えて戻って来た。

 なんでも白の在庫が少なかったとかで、シーグも、じゃあたくさんあった黄色や赤のバラで練習して、リックが帰って来たところで、白で最後仕上げようと考えてのチョイスだったらしい。

「とりあえず、花びらをからっからに乾かさないと作れないやつもあるから、それは今日は仕込みだけだね。リネンウォーターとモイストポプリとローズティーは試作出来るかな」

「⁉」

 シーグはとっさに、私が言った単語が聞き取れなかったらしい。
 それはそうか。日本でそう呼ばれて、作られていただけで、この世界ではまだ未知の商品名だ。

「名前は……単に私の住んでいたところで、そう呼ばれているだけだから。発音しにくいなら、そのうち何か考えようか」

「それは……私よりもフェドート元公爵閣下がお付けになられた方が良い気が……」

「ああ……それはそうかも知れないね。まあでも、どうせ日の目は見ない品物だから、深く考えなくても良いんじゃないかな」

 日の目を見ない、と聞いたシーグが僅かに不思議そうな表情を見せた。

「日の目……見ないんですか?」

「亡くなった大切な家族に捧げる品物を作っておいて、それをお金儲けの道具にする、普通?」

 まあ普通じゃない人もそりゃいるだろうけど、少数派は何にだって、どこにだっている。

「……なるほど」

「フェドート邸の花とは色違いになる訳だから、いっそ色ごとに違う名前にしても良いかもよ。区別つくし。シーグリック兄妹だけのオリジナルって感じもするじゃない」

「――――」

 それが存外シーグの胸に刺さったようなので、考え込む前に「まあ、その話はまた今度ね」と、私はシーグを厨房まで行くよう促した。

「ローズティーはね、乾いた後は紅茶の茶葉とブレンドしても使えるから、今はこのまま花びらを使ったやつにしよっか。花の量や紅茶の茶葉の量なんかも二人の好みとかあるだろうから、そっちは今度、量を変えながら色々実験すれば良いんじゃないかな」

 多分それはそれでフェドート邸のローズティーとは似て非なるものが出来る。
 完全に、兄妹の為だけのオリジナルブレンドだ。

「ああ、茶葉だって山ほど市販されている訳だから、どんな茶葉が好みか、今度街のカフェとか幾つか回ってみようか?私もそうだけど、シーグもなかなか茶葉ごとの紅茶の味なんて、そんなにたくさん区別つかないでしょ?」

 味が違う、くらいならもちろん分かるけれど、どこ産出の茶葉が……とかなると、まだまだお手上げ状態の筈。

 自分のコトではあったけど、15歳のシーグだってさほど変わるまいと思ってみたら、案の定、コクコクと頷いていた。

「――レイナ様、少々お待ちを」

 厨房に向かう廊下を歩きながら、それまで黙って話を聞いていたヨンナが、そこで不意に口を開いた。

「差し出がましい事を申し上げますが、それでしたら、この王都内で流通している茶葉を全て、少量公爵邸ここへ仕入れてはいかがかと」

「「えっ⁉」」

 全て、なんて言葉をさらりと言われて、私とシーグの声が驚愕まじりに裏返った。

「レイナ様も、先々フォルシアン公爵邸での茶会に招かれておいでの筈。茶葉と産地を学ばれる事は、立派な教育の一環にございます。途中で他の者が別の用途で試飲をする分には支障もございません。あとでセルヴァンに旦那様の許可を取らせますので、ぜひ、そのようになさいませ」

 本当に教育をしたいのか、シーグと二人で街中をふらふらカフェ巡りする事を阻止させたいのか、どっちだろう。
 いや、両方か。

「気に入った茶葉をいずれ定期的に仕入れたいと予め告げておけば、商人たちとて最初から大量に持ち込んだりはいたしません。どこの貴族の邸宅やしきでも、新種やその年の摘みたてが入荷されてきた際には、最初は主一家が飲む数杯分だけを仕入れて、感触を探るのです」

「そ、そうなんだ」

 既に拒否権はなさそうだ。
 そう思いながらシーグに「……で、いいかな」と話を振ってみると、シーグも同じように思ったんだろう。同席させて貰えるなら、と最後は頷いていた。

 そうこうしているうちに厨房に辿り着いた。

 夕食の後片付けの邪魔にならない場所を、予め確保して貰ってある。

 どうやら最近では「今度は何を」状態で、場所の確保と若手を一人貸し出すのとが、厨房内でも定着しつつあった。

「まあ多分、売り物として考えるならローズティーやジャムなんかは、赤いバラの方が見栄えは良いのよ。だけど香り付けした水リネンウォーターやドライポプリは香り重視だから、そこまで色はこだわらなくて良い。クッキーもまぁ、そうかな?」

 とりあえず……と説明をしながら、私は手近にあった黄色いバラを一輪手にして、片手でバラの茎を持って、反対の手で花びらをちぎって、バラバラにした。

「茎のトゲに気を付けながら、まずはひたすらブチブチと引きちぎろうか。あ、茎とか葉っぱとかも使えるから、そのあたりは保管しやすいサイズに切っておいて貰って良い?」

「え、葉や茎もお茶になる……?」

「なるよ?ただ、そう聞いたことがあるだけで、実際に作ったことも飲んだこともないから、まあ実験の一環にはなるけど」

 葉や茎を焙じた、加賀棒茶なんかは結構有名だ。
 同じようにできるのか、違うものが出来るのか想像も出来ないけど、この際だからまとめて試作してしまえば良い。

「で、それぞれ軽く水洗いをして汚れをさっと落としたら、今使う分と天日干しして乾燥させる分とに分けようか」

「レイナ様、手伝わせていただきます」

 同時進行的に作業が発生する事を、ざっと見て察したヨンナが、手伝いを申し出てくれた。

 トゲに気を付けるよう言ったせいか、それを自分たちがやるから、洗って干す方をやってくれと言われてしまう。

「え……そこから茶が出来るのか?」

 そしてヨンナに続いて、片づけがひと段落したラズディル料理長まで、こちらに興味を示し始めた。

「そうですね、花びらが乾燥すればクッキーなんかにも使えますよ」

「――――」

 どうやら厨房の皆さんも、巻き込まれてくれるようだ。
しおりを挟む
感想 1,465

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】

星森 永羽
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~

水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」 夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。 王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。 「左様でございますか」 彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

【完結】婚約者に忘れられていた私

稲垣桜
恋愛
「やっぱり帰ってきてた」  「そのようだね。あれが問題の彼女?アシュリーの方が綺麗なのにな」  私は夜会の会場で、間違うことなく自身の婚約者が、栗毛の令嬢を愛しそうな瞳で見つめながら腰を抱き寄せて、それはそれは親しそうに見つめ合ってダンスをする姿を視線の先にとらえていた。  エスコートを申し出てくれた令息は私の横に立って、そんな冗談を口にしながら二人に視線を向けていた。  ここはベイモント侯爵家の夜会の会場。  私はとある方から国境の騎士団に所属している婚約者が『もう二か月前に帰ってきてる』という話を聞いて、ちょっとは驚いたけど「やっぱりか」と思った。  あれだけ出し続けた手紙の返事がないんだもん。そう思っても仕方ないよでしょ?    まあ、帰ってきているのはいいけど、女も一緒?  誰?  あれ?  せめて婚約者の私に『もうすぐ戻れる』とか、『もう帰ってきた』の一言ぐらいあってもいいんじゃない?  もうあなたなんてポイよポイッ。  ※ゆる~い設定です。  ※ご都合主義です。そんなものかと思ってください。  ※視点が一話一話変わる場面もあります。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

酒の席での戯言ですのよ。

ぽんぽこ狸
恋愛
 成人前の令嬢であるリディアは、婚約者であるオーウェンの部屋から聞こえてくる自分の悪口にただ耳を澄ませていた。  何度もやめてほしいと言っていて、両親にも訴えているのに彼らは総じて酒の席での戯言だから流せばいいと口にする。  そんな彼らに、リディアは成人を迎えた日の晩餐会で、仕返しをするのだった。

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧井 汐桜香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

何もできない王妃と言うのなら、出て行くことにします

天宮有
恋愛
国王ドスラは、王妃の私エルノアの魔法により国が守られていると信じていなかった。 側妃の発言を聞き「何もできない王妃」と言い出すようになり、私は城の人達から蔑まれてしまう。 それなら国から出て行くことにして――その後ドスラは、後悔するようになっていた。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。