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第二部 宰相閣下の謹慎事情
539 ただいま準備中(後)
白いバラの花が好きだったというシーグの亡くなった母親の為に、花が咲かない季節、花の代わりに供えられるモノを開発するのだと言ったところ、厨房にいた使用人一同、いたく感動をしていた。
後片付けの済んだ人間からどんどんとこちらを手伝うようになり、結局誰も部屋に戻らないと言う状況が出来上がっていた。
セルヴァンもヨンナも、それで早く終了して、エドヴァルドの目に触れないのならと、最終的には黙認を選んでいた。
どうやらアンジェスでは、この花は色や品種はともかく、総称としては「ロゼーシャ」と呼ばれていて、そこから品種改良した人間がロゼーシャ〇〇、〇〇ロゼーシャなどと付けて区別をしているらしい。
「まあ、シーグは自分で欲しい花の名前を覚えておいてね。何だか品種をイチから聞きだしたらキリがない気がするわ」
「……確かに」
ここで見ているだけでも、白と黄色と赤のバラは、それぞれ咲き方が違う。
品種が違うのが一目瞭然だ。
「あ、でも、この白いバラ――じゃなかった。ロゼーシャは、お母様がお好きだった花と一緒?」
多分だけど、白いバラだって何百と種類がある筈だ。
私の言いたい事が分かったのか、シーグは白いバラを一輪、顔に近付けて香りを確かめていた。
「これ、中央が淡いピンク色じゃないですか。母が好きだった花はもっと淡い色だった気がするんです。でも、この香り……果物みたいなこのハッキリした香りは、私の記憶にある香りとそっくりで……」
「そっか。もしかしたら途中で色が変遷するとか、シーグが探してる花の亜種だったりとかするかも知れないね。じゃあ、一輪はこのまま残しておく?次に探す時に役に立つかもだし」
「そ……そう、ですね。それは考えつきませんでした」
「このままでも、からっからに乾かそうと思えば、出来るしね。さてと、じゃあまずは花びらのまま今仕込めるのは香水だから――料理長、厨房の中で一番酔うお酒、ちょっといただけます?色は付いていない方が良いですね。ああ、私が飲むとかじゃないですから、もちろん」
さて、ウォッカと言おうにもこれも単語を知らないために、とりあえず度数の高いお酒を何種類か引っ張り出して貰うコトにした。
上からそっと香りを確かめれば、運の良い事に、ウォッカに近い香りのするお酒があった。
「じゃあ、ひとつは煮沸した容器に花びらとお酒入れて、蓋をして1日置いておきます――と」
どうやら王冠みたいな蓋や、スクリューキャップ、ゴムパッキン的なモノはこの世界まだ存在していない。
あるのはコルク栓で密封すると言うやりかただけみたいだったから、なるべく口の広い容器で対応する事にした。
「明日の夜にでも、この花びらを木べらで上から潰して、煮沸消毒した水を足して、1週間ほど置いておく感じ?最後、目の粗い綿のガーゼやふるいなんかでそれを濾せば、香水の完成です、と。手間は少ないよね?ちょっと日にちがかかるって言うだけで」
「た、確かに」
「まぁお兄ちゃんは香水とか使わないかも?いや、シーグとお揃いだって言えば喜んで使うか」
ちょっとした冗談のつもりで私は言ってみたけど、シーグはまったく笑わなかった。
あり得る、とか思ったのかも知れない。
「で、お酒の代わりに一度沸騰させた後に少し温くなった水を入れて、10分ほど香りを移した後、水はそのまま、花びらは潰します、と。あとは水の色が変わってくるまで、濾して潰すという手順を繰り返すのね。香水ほどキツくないから、寝具なんかに噴霧する感じかな」
更に沸騰させた後、温くさせずに熱湯の状態で4~5分置けば、香りと成分が抽出されたローズティーが完成する。
ジャムやハチミツ、レモンと合わせれば立派に食卓に乗せられる。
「クッキーは、まあ明日以降にするとして、とりあえずローズティーに合わせてのジャムだよね。これも基本の花びらに、あとは水と砂糖とレモン汁しか要らないしね。砂糖と花びらを煮詰めていくんだけど、砂糖は……うん、二回に分けて入れるくらいが良いかな」
トロッとしてきた頃にレモン汁を足せば、見た目も味も引き締まる。
「本日ラストは、シーグもバリエンダールで見たよね?塩と花びらを交互に詰めて重ねて、しばらく寝かせておくってヤツ。赤い花と違って売り物としての見栄えは落ちると思うけど、目的はそれじゃないし、香りが移りさえすれば、それでイイでしょ」
「そ、そっか」
「ああ、そのローズティーってのとジャムは厨房のオレらの方が本職だから、今日は隣で作るのを見てな。お嬢二人は香水と香り付けの水の仕込みをやりゃイイだろ」
多分、覚束ない手つきの私とシーグに、ラズディル料理長が不安を覚えたんだろう。
葉っぱと茎をお茶にするところまで、請け負ってくれるらしかった。
どのくらい蒸らせば良いとか、色々と試してくれるらしい。
飲食関連は、もう任せておけとでも言いたげだった。
「確かに初めから全種類を一人でやれるモノでもないし……じゃあシーグ、お茶とジャムは明日以降練習ってコトで。クッキーとかは、花びらが乾燥してからかな」
「わ、分かった、頑張る」
「リックと一緒にやるにしても、そう難しい作り方じゃないでしょ?頑張れ!」
私個人としては、セラシフェラの花でも同じようにやりたいけれど、それをこのイデオン公爵邸でやっていいのかとなると、どうしても躊躇が先に立ってしまう。
チェリータルトなんかで、既にスヴェンテ公爵家が使い慣れている事を思えば、ここではなくスヴェンテ公爵邸で、作らせて貰えるかどうかと言ったところだ。
(いや、バラは売り物に出来ないけど、セラシフェラならレシピ化出来る……?)
どちらにしても、まずはバラであれこれ完成させてからかな――と、私は自分に言い聞かせた。
後片付けの済んだ人間からどんどんとこちらを手伝うようになり、結局誰も部屋に戻らないと言う状況が出来上がっていた。
セルヴァンもヨンナも、それで早く終了して、エドヴァルドの目に触れないのならと、最終的には黙認を選んでいた。
どうやらアンジェスでは、この花は色や品種はともかく、総称としては「ロゼーシャ」と呼ばれていて、そこから品種改良した人間がロゼーシャ〇〇、〇〇ロゼーシャなどと付けて区別をしているらしい。
「まあ、シーグは自分で欲しい花の名前を覚えておいてね。何だか品種をイチから聞きだしたらキリがない気がするわ」
「……確かに」
ここで見ているだけでも、白と黄色と赤のバラは、それぞれ咲き方が違う。
品種が違うのが一目瞭然だ。
「あ、でも、この白いバラ――じゃなかった。ロゼーシャは、お母様がお好きだった花と一緒?」
多分だけど、白いバラだって何百と種類がある筈だ。
私の言いたい事が分かったのか、シーグは白いバラを一輪、顔に近付けて香りを確かめていた。
「これ、中央が淡いピンク色じゃないですか。母が好きだった花はもっと淡い色だった気がするんです。でも、この香り……果物みたいなこのハッキリした香りは、私の記憶にある香りとそっくりで……」
「そっか。もしかしたら途中で色が変遷するとか、シーグが探してる花の亜種だったりとかするかも知れないね。じゃあ、一輪はこのまま残しておく?次に探す時に役に立つかもだし」
「そ……そう、ですね。それは考えつきませんでした」
「このままでも、からっからに乾かそうと思えば、出来るしね。さてと、じゃあまずは花びらのまま今仕込めるのは香水だから――料理長、厨房の中で一番酔うお酒、ちょっといただけます?色は付いていない方が良いですね。ああ、私が飲むとかじゃないですから、もちろん」
さて、ウォッカと言おうにもこれも単語を知らないために、とりあえず度数の高いお酒を何種類か引っ張り出して貰うコトにした。
上からそっと香りを確かめれば、運の良い事に、ウォッカに近い香りのするお酒があった。
「じゃあ、ひとつは煮沸した容器に花びらとお酒入れて、蓋をして1日置いておきます――と」
どうやら王冠みたいな蓋や、スクリューキャップ、ゴムパッキン的なモノはこの世界まだ存在していない。
あるのはコルク栓で密封すると言うやりかただけみたいだったから、なるべく口の広い容器で対応する事にした。
「明日の夜にでも、この花びらを木べらで上から潰して、煮沸消毒した水を足して、1週間ほど置いておく感じ?最後、目の粗い綿のガーゼやふるいなんかでそれを濾せば、香水の完成です、と。手間は少ないよね?ちょっと日にちがかかるって言うだけで」
「た、確かに」
「まぁお兄ちゃんは香水とか使わないかも?いや、シーグとお揃いだって言えば喜んで使うか」
ちょっとした冗談のつもりで私は言ってみたけど、シーグはまったく笑わなかった。
あり得る、とか思ったのかも知れない。
「で、お酒の代わりに一度沸騰させた後に少し温くなった水を入れて、10分ほど香りを移した後、水はそのまま、花びらは潰します、と。あとは水の色が変わってくるまで、濾して潰すという手順を繰り返すのね。香水ほどキツくないから、寝具なんかに噴霧する感じかな」
更に沸騰させた後、温くさせずに熱湯の状態で4~5分置けば、香りと成分が抽出されたローズティーが完成する。
ジャムやハチミツ、レモンと合わせれば立派に食卓に乗せられる。
「クッキーは、まあ明日以降にするとして、とりあえずローズティーに合わせてのジャムだよね。これも基本の花びらに、あとは水と砂糖とレモン汁しか要らないしね。砂糖と花びらを煮詰めていくんだけど、砂糖は……うん、二回に分けて入れるくらいが良いかな」
トロッとしてきた頃にレモン汁を足せば、見た目も味も引き締まる。
「本日ラストは、シーグもバリエンダールで見たよね?塩と花びらを交互に詰めて重ねて、しばらく寝かせておくってヤツ。赤い花と違って売り物としての見栄えは落ちると思うけど、目的はそれじゃないし、香りが移りさえすれば、それでイイでしょ」
「そ、そっか」
「ああ、そのローズティーってのとジャムは厨房のオレらの方が本職だから、今日は隣で作るのを見てな。お嬢二人は香水と香り付けの水の仕込みをやりゃイイだろ」
多分、覚束ない手つきの私とシーグに、ラズディル料理長が不安を覚えたんだろう。
葉っぱと茎をお茶にするところまで、請け負ってくれるらしかった。
どのくらい蒸らせば良いとか、色々と試してくれるらしい。
飲食関連は、もう任せておけとでも言いたげだった。
「確かに初めから全種類を一人でやれるモノでもないし……じゃあシーグ、お茶とジャムは明日以降練習ってコトで。クッキーとかは、花びらが乾燥してからかな」
「わ、分かった、頑張る」
「リックと一緒にやるにしても、そう難しい作り方じゃないでしょ?頑張れ!」
私個人としては、セラシフェラの花でも同じようにやりたいけれど、それをこのイデオン公爵邸でやっていいのかとなると、どうしても躊躇が先に立ってしまう。
チェリータルトなんかで、既にスヴェンテ公爵家が使い慣れている事を思えば、ここではなくスヴェンテ公爵邸で、作らせて貰えるかどうかと言ったところだ。
(いや、バラは売り物に出来ないけど、セラシフェラならレシピ化出来る……?)
どちらにしても、まずはバラであれこれ完成させてからかな――と、私は自分に言い聞かせた。
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