聖女の姉ですが、宰相閣下は無能な妹より私がお好きなようですよ?

渡邊 香梨

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第三部 宰相閣下の婚約者

556 海鮮BBQ・下拵え編(後)

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「まあ、単純に焼いて食べる切り身をある程度よけておくとして」

 それをひたすら塩で食べるのも芸がないので、私は追加で立食向けのメニューを考えることにした。

 ・ジャガイモの鮭フレーク&チーズ乗せ
 ・鱒フレークとチーズ入りキッシュ風一口オムレツ
 ・ムール貝とマテ貝+キノコのアヒージョ
 ・ニシンと野菜のアクアパッツァ風
 ・サンマとチーズ、香草のロール巻き
 ・白身魚(パーチ、タラ)とジャガイモのピカタ+香味野菜、そば粉クレープ包み

 鮭と鱒も、ウナギとアナゴ的に海か川かと言う話なので、この際どっちもフレークにしたって良いだろうと思う。

 アクアパッツァやアヒージョは小さなココット状の入れ物を用意して貰って、火にくべてもらうことにした。

「えっ、そば粉⁉」

 そして案の定、シャルリーヌがそちら側にも反応していた。

「サレステーデとバリエンダールの国境付近、そばの産地があるみたいなのよ。ただ、うどんと一緒でつゆを作れないから、私たちの知っているお蕎麦は諦めて、じゃあクレープにして、野菜と巻いて主食風に食べればいいか……的な?あとでデザートにもスライド利用出来るし」

 念のため聞けば、シャルリーヌにもそばアレルギーはないとの事だった。
 一応、食べてダメそうだった人のために、普通のクレープも用意はしておこうと思う。

 高位貴族の皆さまがたはともかく、大半は自分で好きなように並べて巻いて貰えばいいだろう。

「そっか……うどんも蕎麦もつくれるけど、肝心かなめのつゆが作れない、と」
 
 魚醬じゃちょっとね、と苦笑いの私に、シャルリーヌも仕方がないと諦めたみたいだった。

「そういえば、サンマを巻いてるのは見たことあるわ」
「マッシュポテトとかミニトマトとか間に挟んであるのをデパ地下で見たこともあるけどね?」
「じゃあ、それもセットしておけば?バリエーションが出ていいじゃない」

 これで、シャルリーヌ本人には悪気はない。間違ったコトは言っていないのだ。
 ただちょっと、厨房の皆さんゴメンなさい、と言うだけのことだ。

「今日はそれで全部?」

 私はそこでシャルリーヌに、ちっちっちっ……と、人差し指を立てて、左右に振った。

「なんとこの後、コンティオラ公爵閣下がホタテを搬入して下さる予定!今日の参加料だって、ふっかけちゃった」

 ホタテさまが、本日のメインゲストです!と片目を閉じた私に、シャルリーヌは一瞬沈黙した後で「ええっ⁉」と驚愕の声をあげた。

「そう言えば、こっちに来てから貝料理は確かに口にしているけど、ホタテはなかったかも⁉」

「アンジェスでは『ジェイ』とかって言うらしいわよ?でも、お店でそう言って出されたのはホタテだった。で、コンティオラ公爵領で多く水揚げされるって言うから、頼んだの」

「バーベキューの醍醐味じゃない!殻ごと火にくべて、ぱかっと開いたところにバター醤油を……って、醤油……」

 言いかけて、しまったと言った表情になったシャルリーヌに、私は魚と一緒に持ち込まれた魚醤の瓶をいくつか取り出した。

「いや、それがそうでもないのよ。魚醤って言っても使う魚によって味が全然違うみたいで、これ、イワシの魚醤。これならギリギリ、バターとケンカしていないのよ。だからさ、これでちょっと試してみようかと思って」

 と言うか、これならちょっと塩分は濃いけど焼うどんくらいには使える気がする。
 もともとパッタイにナンプラーやニョクマムを使っているくらいなのだから。

 瓶の一つを指さしながらそう言ったら、シャルリーヌの顔色がハッキリと変わった。

「えっ、じゃあそれ、今度のお泊り会に持って来てよ!夜食にしよう!」
「えっ、お泊り会って決定事項⁉」
「決まってるでしょ!……って、まあそれは今はいいわ。ホタテの話よ」

 シャルリーヌも、私が指さした瓶の中の液体を、少しだけ小指の上に乗せて、味見をしている。

「……確かに、いけるかも」
「そう?シャーリーも、そう思ってくれる?じゃあもう、ホタテさまはそれで決定ね!」

 バターソテーやカルパッチョは、既にレストランメニューとして存在していた。
 ただ「殻焼き」となると、少なくとも高位貴族の目には絶対に留まらない。

 せいぜい地元の漁師が知っているかどうかと言ったレベルの筈。

 量によっては、ソテーやカルパッチョ分は避けておいて貰っても良いけれど、とりあえずは殻焼きにしよう!

 そう決めて満足をしたところで、ガヤガヤと厨房の入り口が騒がしくなった。

「――やっぱり、ここにいましたね」

 聞きなれたその声に振り返ると、ウルリック副長がそこに立っていた。
 そして当然、その後ろには軍の皆さま方もこちらを覗き込んでいる。

 ラズディル料理長たち厨房の皆さんが、もはや誰もそこにベルセリウス将軍が混ざっていることに驚かなくなっていた。

 慣れってコワイ。

「まあ、我々も手ぶらで来て、タダで新しい料理を食べつくすのも気が引けますからね。出来ることがあれば手伝いますよ」

「うむ!近頃は公爵邸ここに来ると、見たことのない新しい料理ばかりを食すことが出来ているからな!今日も期待をして来た!」

 そう言って副長のすぐ後ろで、ベルセリウス将軍が呵々かかと笑っている。

「庭で〝鷹の眼〟と手合わせでもしながら待っていればいいのにと思うかも知れませんが、それはそれで庭師たちの強硬な拒否にあいますからね。そのあたりはもう、お気になさらずこき使って下さい」

 ベルセリウス将軍とファルコの手合わせは、双方加減が出来ないあまりに、その場所を毎回破壊してしまう。
 年に一度の税の申告に来た時でさえも揉めているところ、それ以外に機会が増えるなどと、彼らからすれば許容出来るものではないらしかった。

 まして今は庭の一角にカンパニュラの花を鉢植えから移し替えているところだ。
 余計に立ち入り禁止にしたいのだろう。

「じゃあ……鮭とか鱒の身をほぐすとか、今ある貝を殻から剥がすとか、そのあたりですかね、料理長?」

 イデオン公爵邸の厨房は、主の食事が不規則だったせいもあって、必要最低限の人数で、品質重視の少量の食事をこれまで作っていた。

 だから来客があるとなると、調理と味付け以外の下拵えの部分に関しては、ぶっちゃけ猫の手も借りたい状態。

 だから身分がとか、料理経験の有無とかは言っていられないのだ。
 誰でも出来そうな単純作業なら「立っている者は将軍でも使え」状態。

 この時もラズディル料理長は、私が提案した下拵えの作業に関しては、ほぼ即決でこちらに投げてきた。

「ああ、いいですね。この魚を身をほぐしたものと卵料理との相性は、こちらも知りたかったところです。喜んで手伝いましょう」

 どうやら鮭フレークとオムレツの話を少ししていたのを、ウルリック副長はちゃんと覚えていたらしい。

「そうですね。じゃあ、どこまでが初見の料理で、レシピ化出来そうか。作りながらでも食べながらでも良いんで、私に教えて下さい」

 私もそう、ウルリック副長に笑い返した。









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