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第三部 宰相閣下の婚約者
591 怒りの森の美女ふたたび
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「リーリャギルド長、実際にシャプル商会よりも前にカルメル商会に声をかけた囮の商会はありましたか?」
そもそもそれがなければ、私が考える投資詐欺の前提は怪しくなる。
問われたリーリャギルド長は、そんな私の顔を見ながらキッパリと答えた。
「囮と言うと語弊があるんだけどね。シャプル商会よりもよほど実態があるから。まあでも、声をかけた商会があるかと問われれば、私も『ある』と答えざるを得ないよ」
リーリャギルド長曰く、シャプル商会は実店舗登録のない、当初のユングベリ商会にも似た存在らしい。
ただそれよりも先に、カルメル商会に声をかけたと言う商会は店舗登録のある商会で、その商会の存在があったが故に、一度目は慎重を期した筈でも、まったく同じ投資話を持ってきたシャプル商会を信じたと言うことのようだった。
「ブロッカ商会。店舗登録はあるが売上実績はまだないね。どうやらエモニエ侯爵家の血縁関係者が婿養子となって立ち上げたばかりのようだよ」
「……エモニエ侯爵家」
どこかで聞いた名前だなと思っている横で、リーリャギルド長はなおも話を続ける。
「まあ普段なら他の商会の情報をベラベラと明かすようなコトはしないよ。ただ、どれもこれも貴族の家が絡んでいそうだろう?ユングベリ商会にも同様の勧誘があるかも知れないし、なかったとしても、イデオン宰相やボードリエ伯爵が後見、後ろ楯となっている商会がこの件で動いていると知れたら、これ以上の被害は広がらないかも知れない。ちょっと協力をして欲しいと思ったのさ」
多分、ラヴォリ商会の商会長代理が用があると言うのも、似たような用件じゃないかとギルド長は言った。
それを聞いている途中で、私は「あ……」と、引っかかっていた疑問の答えが見つかって、思わず声を洩らしていた。
「エモニエ侯爵家……コンティオラ公爵夫人のご実家ですね」
確かめる様にエリィ義母様を見れば、それが正しいとばかりに頷いている。
「多分、そのシャプル商会とやらと、手を組んでいるとはまさか思わないだろうと考えているのかも知れないわね。ブロッカ商会に関する情報を未だ隠そうともしていないのが良い証左だわ」
「とすると、真面目に考えればコンティオラ公爵領内で何かしらの揉め事があって、それを決着させるのに、他の公爵領、この場合はフォルシアン公爵領に責任をなすりつけようと――」
私は何気に自分の思うところを口にしたつもりが、どうやらエリィ義母様にとっての地雷がそこにあったらしい。
ゆらゆらと立ち上る怒りのオーラに、思わず顔も声も痙攣らせてしまった。
しまった、と思っても手遅れだった。
「何故、フォルシアン公爵家なのかしらね……?」
「えー……あくまでも予測なんで、なんともなんですが……コンティオラ公爵領で本当に何かしら起きていて、それを隠蔽したいのであれば、地続きのクヴィスト公爵領とイデオン公爵領は避けたいと思ったのかも……一見土地を接していない分、すぐに疑いの目は向かないと考えた……とか」
フォルシアン公爵家とスヴェンテ公爵家を天秤にかけて、どうしてフォルシアン公爵家だったのかは分からない。
そこはもう、シャプル商会かブロッカ商会の関係者を締め上げて吐かせるしかない気がする。
「そもそも、巻き上げたお金をどうするつもりなのか……」
考えられるとすれば、競売か何かで落札をしたい、あるいは子飼いの商会を潰すことで親元とまとめて破産させたいか、だ。
・コデルリーエ男爵家が有罪なのか、名前だけを使われているのか。
・カルメル商会が「投資」した資金の行方
・シャプル商会とブロッカ商会に共通点はないか。
・エモニエ侯爵家の動向。特にブロッカ商会に婿養子として出されるほどの、周辺の人間関係。
「お義母様……これ、お義父様の耳に入れないわけには……」
当然、エドヴァルドにもだ。
更にこの場合、コンティオラ公爵に対しては、自身の無罪が証明されるまでは何も耳に入れられないかも知れない。
動いている額によっては、王家への叛乱や他国への資金援助を疑われかねない。
「……ええ。けれど三国会談を控えている最中、今すぐ耳にお入れした方が良いかと問われると私には判断が……」
「とりあえず、半日くらいは様子見で大丈夫だと思いますよ?」
顔色の悪いエリィ義母様を落ち着かせようと、敢えて軽めの言い方を私はした。
「ギルドにもギルドの矜持があるでしょうから、まずは優先して動いてくれますよ、きっと」
ね?と、私がリーリャギルド長を見れば、呆れた様な、鋭いような、そんな微妙な視線が、ギルド長から向けられた。
そもそもそれがなければ、私が考える投資詐欺の前提は怪しくなる。
問われたリーリャギルド長は、そんな私の顔を見ながらキッパリと答えた。
「囮と言うと語弊があるんだけどね。シャプル商会よりもよほど実態があるから。まあでも、声をかけた商会があるかと問われれば、私も『ある』と答えざるを得ないよ」
リーリャギルド長曰く、シャプル商会は実店舗登録のない、当初のユングベリ商会にも似た存在らしい。
ただそれよりも先に、カルメル商会に声をかけたと言う商会は店舗登録のある商会で、その商会の存在があったが故に、一度目は慎重を期した筈でも、まったく同じ投資話を持ってきたシャプル商会を信じたと言うことのようだった。
「ブロッカ商会。店舗登録はあるが売上実績はまだないね。どうやらエモニエ侯爵家の血縁関係者が婿養子となって立ち上げたばかりのようだよ」
「……エモニエ侯爵家」
どこかで聞いた名前だなと思っている横で、リーリャギルド長はなおも話を続ける。
「まあ普段なら他の商会の情報をベラベラと明かすようなコトはしないよ。ただ、どれもこれも貴族の家が絡んでいそうだろう?ユングベリ商会にも同様の勧誘があるかも知れないし、なかったとしても、イデオン宰相やボードリエ伯爵が後見、後ろ楯となっている商会がこの件で動いていると知れたら、これ以上の被害は広がらないかも知れない。ちょっと協力をして欲しいと思ったのさ」
多分、ラヴォリ商会の商会長代理が用があると言うのも、似たような用件じゃないかとギルド長は言った。
それを聞いている途中で、私は「あ……」と、引っかかっていた疑問の答えが見つかって、思わず声を洩らしていた。
「エモニエ侯爵家……コンティオラ公爵夫人のご実家ですね」
確かめる様にエリィ義母様を見れば、それが正しいとばかりに頷いている。
「多分、そのシャプル商会とやらと、手を組んでいるとはまさか思わないだろうと考えているのかも知れないわね。ブロッカ商会に関する情報を未だ隠そうともしていないのが良い証左だわ」
「とすると、真面目に考えればコンティオラ公爵領内で何かしらの揉め事があって、それを決着させるのに、他の公爵領、この場合はフォルシアン公爵領に責任をなすりつけようと――」
私は何気に自分の思うところを口にしたつもりが、どうやらエリィ義母様にとっての地雷がそこにあったらしい。
ゆらゆらと立ち上る怒りのオーラに、思わず顔も声も痙攣らせてしまった。
しまった、と思っても手遅れだった。
「何故、フォルシアン公爵家なのかしらね……?」
「えー……あくまでも予測なんで、なんともなんですが……コンティオラ公爵領で本当に何かしら起きていて、それを隠蔽したいのであれば、地続きのクヴィスト公爵領とイデオン公爵領は避けたいと思ったのかも……一見土地を接していない分、すぐに疑いの目は向かないと考えた……とか」
フォルシアン公爵家とスヴェンテ公爵家を天秤にかけて、どうしてフォルシアン公爵家だったのかは分からない。
そこはもう、シャプル商会かブロッカ商会の関係者を締め上げて吐かせるしかない気がする。
「そもそも、巻き上げたお金をどうするつもりなのか……」
考えられるとすれば、競売か何かで落札をしたい、あるいは子飼いの商会を潰すことで親元とまとめて破産させたいか、だ。
・コデルリーエ男爵家が有罪なのか、名前だけを使われているのか。
・カルメル商会が「投資」した資金の行方
・シャプル商会とブロッカ商会に共通点はないか。
・エモニエ侯爵家の動向。特にブロッカ商会に婿養子として出されるほどの、周辺の人間関係。
「お義母様……これ、お義父様の耳に入れないわけには……」
当然、エドヴァルドにもだ。
更にこの場合、コンティオラ公爵に対しては、自身の無罪が証明されるまでは何も耳に入れられないかも知れない。
動いている額によっては、王家への叛乱や他国への資金援助を疑われかねない。
「……ええ。けれど三国会談を控えている最中、今すぐ耳にお入れした方が良いかと問われると私には判断が……」
「とりあえず、半日くらいは様子見で大丈夫だと思いますよ?」
顔色の悪いエリィ義母様を落ち着かせようと、敢えて軽めの言い方を私はした。
「ギルドにもギルドの矜持があるでしょうから、まずは優先して動いてくれますよ、きっと」
ね?と、私がリーリャギルド長を見れば、呆れた様な、鋭いような、そんな微妙な視線が、ギルド長から向けられた。
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