聖女の姉ですが、宰相閣下は無能な妹より私がお好きなようですよ?

渡邊 香梨

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第三部 宰相閣下の婚約者

643 その鳥はお義兄様を懐柔する

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 何故リファちゃんを起こす必要があるのか、と言う無言の問いかけを感じたので、ここは「王宮護衛騎士トーカレヴァ・サタノフが本来の飼い主であり、脱走していたのを保護したから届けに来たと言えば途中で怪しまれない」と、とりあえず説明しておいた。

「え、そんな他人様の飼っている鳥が何故ここに――」
「可愛いからです」
「⁉」
「リファちゃんは、皆のリファちゃんなんです」
「…………」

 明らかにお義兄様ユセフの顔には「何言ってんだコイツ」と書かれている。

「あー、はいはい。もう、ソイツへの愛は分かったから、さっさとお館様に連絡入れろって――っ⁉」

 多分、寝起きなところにファルコの適当発言が耳に入って来たんだろう。

 気付けばリファちゃんの小さな飛び蹴りが、ファルコの額に命中していた。

「てめっ、何しやがる!」

 実際にはほとんど痛くも痒くもないだろうけど、見た目シマエナガなヘリファルテの飛び蹴りは、なかなかにインパクトが大だ。

 あ、これ、多分王宮でサレステーデのドロテア王女の居る部屋に乗り込んだ時にも、こうだったんだな、と何となく察せられてしまった。

 何故ならお義兄様ユセフが、目を見開いたままリファちゃんをガン見したからだ。

「……その……鳥……」

「あ、お義兄様覚えていらっしゃいます?部屋に乗り込んで、最初に王女サマを蹴り飛ばした恩人――じゃなくて、恩鳥?です」

 どうやら怪しげな薬で朦朧としていた中でも、白い小さな塊が王女にぶつかっていた覚えがあったらしい。

 ファルコを蹴飛ばして、私の頭の上にぽすっと戻って来たリファちゃんは、そのままユセフにドヤ顔を決めた――んだろう、きっと。

 頭の上から「ぴ!」と聞こえるくらいだから。

「ほら、ファルコがとっとと帰れみたいなコトを言うから!」
「いや、俺か⁉」
「他に誰が⁉」
「俺は単に、愛でたきゃ全部終わってからにしろって言おうとしただけだっつの!」
「う……」

 そう言われると、私としても反論出来ない。
 私は頭の上のリファちゃんを手に乗せて、キーロの方にそっと差し出した。

「……リファちゃん、寝起きにごめんね? もう一回お仕事お願いして良い?」
「ぴ!」

 頑張る!
 ……と言っているような気がした。

「あらあら」

 そんなやりとりを見ていたエリィ義母様が、片手を頬にあてながら、こてんと小首を傾げた。

「そういうお話なら、我が家にとっても賓客になるわね? レイナちゃん、そのコはお肉が好きなのね?」

「はい! 脂身が特に好きみたいです」

「そう……じゃあ、今度来る時にはウチもお肉をあげましょうね。ユセフ、貴方が良いお肉を仕入れておきなさいな」

「え⁉」

 いきなり話を振られたお義兄様ユセフは困惑もあらわだったけど、私の「王女サマを蹴飛ばした鳥」との言葉にはインパクトがあったらしく、じっとリファちゃんを見たまま「……分かりました」と、最終的には答えていた。

「そう言えば、おまえには礼を言えていなかったな。助かった。ラヴォリ商会の商会長代理にでも、良い肉とやらを聞いてみよう」

「「⁉」」

 しかもそこから手を伸ばしたお義兄様ユセフが、ふんわりとリファちゃんを撫でたものだから、私どころかエリィ義母様まで目を見開いていた。

「ぴっ!」

 リファちゃんは、元のお義兄様ユセフをあまり知らないからか「よろしく!」と、鳴いていた。

 お義兄様ユセフをも懐柔するリファちゃん、恐るべし!

 ほら、やっぱり「皆のリファちゃん」だ!
 これでフォルシアン公爵邸にも気兼ねなく来れるようになったね!


*         *         *


「――じゃあファルコ、イデオン家から誰か出してくれても、ファルコが行ってくれても良いから、将軍のところに行って事情を説明してきてくれないかな」

 表向き王宮に向かうていのキーロが、リファちゃんを肩に乗せて出て行くのを見送った私は、くるりとファルコに向き直った。

「今からか?まだお館様に話も通ってないだろう」
「多分エドヴァルド様だったら、否とは言わないと思うよ?」

 王都近辺に戦力分散しながら相手を捕縛する。しかもこれ以上話を外部に洩らさない――と言う観点で考えたなら、将軍を戦力として加えるしかないからだ。

 考えられるとすれば、王宮側に思惑があって、セルマ以外の所へ行けと言われる可能性くらいだろう。

 ファルコも同じようには思ったのか「……言わねぇだろうな」と、呟いていた。
 ちょっと間があったのは――気付かないフリをしておこう、うん。

 機嫌は悪くなるかも知れない……なんてことは、気が付かないったら、気が付かない。

「ただ、夜って言ってもイデオン公爵領防衛軍関係者をフォルシアン公爵邸に呼ぶとなったら差し障りがあるかもだから、とりあえず話だけ通して貰って、エドヴァルド様からちゃんと了解貰ったら、現地集合かな?」

「あー……まあな、万が一にも目撃者がいて、叛逆の密談とか言われたら目も当てられねぇもんな」

 片手でがしがしと頭を掻きながら、ファルコも納得したみたいだった。

「うん。ホントなら私が行って説明するべきなんだろうけど、一日のうちにそう何回も馬車が出たり入ったりするのも、誰が不審に思わないとも限らないでしょ?手紙とかも、迂闊に残さない方が良いと思うし……」

「確かに……そう言う話なら、俺が行った方が良いんだろうな。イデオン邸から誰か行かせるにも、詳しい話を説明しなきゃならねぇからな。ルヴェックはコンティオラ邸の方に行ってるし、こっちでお嬢さんを護衛しとけってだけなら、そこまで詳しい説明はいらねぇし、多少察したところで詮索もしないだろうからな」

「ん。誰を呼ぶかは任せるよ」

 ――結局、ファルコがベルセリウス将軍の所に行っている間は、フィトがこの邸宅やしきに来てくれることになった。

「……ユセフ、レイナちゃん、明け方まで少しだけでも仮眠をすれば?たとえ少しでも、頭がスッキリするのではなくて?」

 別に気にしないとは思ったものの、お義兄様ユセフが「特に母上は休まれた方が良いでしょうね」と言いながらもこちらを見たために、私やお義兄様ユセフが休まないことには、エリィ義母様もそのまま起きているだろうと――言わんとしていることを悟ったのだ。

 今、フォルシアン公爵邸を出た何人かが戻ってくるまでは待機になることもまた確かなので、結局は半ば強制的に、別室で仮眠をさせられることになった。
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