彼女と勇者と往復書簡

深月織

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02 勇者の手紙(一)

 
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《選ばれし者の剣》
アトスに伝わる聖剣。選ばれし勇者にしか手にすることは出来ず、魔王を唯一傷つけることのできる武器。主が居ないときは王都の主神殿に預けられる。
四年周期で勇者選定式が行われ、アトスの成年男子は生涯に一度は必ず選定に挑まねばならない。

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親愛なるエーファへ

 王都は人が多くて疲れます。お察しの通り、一度迷子になってしまいました。この年で情けない。
 荷物が大変そうなご婦人と、道に迷っているところを助けて頂いた娘さんと知り合いましたが、別にフラグなどは立てていません。おかしな心配はしないでください。
 選定式の前に買った土産が無事届いてほっとしています。出来れば自分で渡したかったのですが、すでにご存じの通りの訳で、しばらくは帰れそうにありません。
 髪飾りですが、それは君のために俺が選んだのだから、余計な気を回さずに使ってもらえるとうれしい。
 あと、髪飾りのことがなくても戸締まりはきちんとしなさい。すぐに駆けつけられる距離に俺がいるわけではないので、気をつけて。くれぐれも、過剰防衛にはならないように。半分の半分くらいで勘弁してやることです。
 一緒に選定式に来た皆は、この手紙が届く頃には村に帰っているだろうから、選定式の詳しいことは彼らが話すと思うけれど――マジだ。大マジだ。
 根性なしのこの聖剣がうっかり俺なんかに抜かれたもんだから、もう大変だったんだよ……。
 怪しいなと思ったときに抜けないふりでもすればよかったと後悔しきりだ。本当なら今ごろ村に帰って……ああくそ、とっとと魔王ぶっ飛ばして帰る!
 と、俺としてはすぐさま旅に出るつもりだったんだが、陛下の野郎が激励会を! とか神殿長のメタボが加護の儀式を! とか言い出しやがってまだ城だよ。
 おう、城だぞ城。城の一室に滞在中ですよ。騎士だの侍女だのあちこちに人がいてウゼエ。聖剣に呪われてるんだから逃げねえっつうの。
 田舎モンだからウカツに出歩けないしよ。迷子は一度で十分だ。城、アホみてえに広いんだよ。
 で、パーティーやらお祈りやらの合間合間に魔王討伐のメンバーを決めているらしいんだが、これがまた辛気くさいのなんの。足手まといだから口ばっかりの貴族の坊っちゃんやら実戦経験が乏しい神官なんていらないんだが。
 あと一日待ってまだ決まらないようなら勝手に出発しようと思っている。何なら、城下で冒険者雇ってもいいしな。
 そうそう、勇者には給料は出ないが、支度金や援助として金貨50000枚頂いたぞ。その日にギルドの金庫に預けておいた。いまいち神殿は信用出来ないっぽい。使い慣れているところの方がいいだろ。
 締まり屋のエーファが金に困ることはないだろうが、もし何か入り用のことがあれば多少は使ってもいいぞ。暗証番号は知っているだろ?
 ああ、そうだ薬助かった! 城の飯旨いんだけど量は多いわ味は濃いわで胃薬貰ったらまんまと中ったよ……。また送って。
 もう王宮料理はいいや、エーファの野菜シチューが食いたい。


 水の月十七日 すでにうんざりクロードより
 
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