彼女と勇者と往復書簡

深月織

文字の大きさ
12 / 18

12 彼女の手紙(五)

 
×××××××××××××××××××××××××××××××

王国通信 《増刊号》‐秘湯☆探訪‐
それは、知る人ぞ知る。同好の士の間だけで囁かれる秘密の場所。どんな険しい山道だろうと、どんな危険な魔獣出没地帯だろうと、それを求めてどこまでも! 片手に桶を携えて、使用するのはもちろん環境に優しい自然派石鹸、タオル巻きなんて邪道だぜ! この道四十七年、秘湯狩人☆モーリッツが今回皆様にこっそりと、癒しの湯・活力の湯・美肌の湯・痺れるほど刺激的な湯・魔獣が混浴をねだるスリリングな湯等々、様々な効能を持つ温泉をご紹介!
~~~秘湯へ向かわれるときは、充分周りに注意を払い、場合によっては何が起こっても後悔しないように一筆残しておくか、冒険者ギルド員に同行をお願いすることをオススメ致します~~~

◆特別付録
・紹介秘湯効能一覧表
・危険察知に便利な魔獣分布図
・心残りチェック表

×××××××××××××××××××××××××××××××

親愛なるクロード様

 本日もおつとめご苦労様です。魔王領域から離れた田舎にいると、魔物の被害や魔族の侵攻のことは遠い世界の話のような気がしていたけれど、現実に幼馴染みの貴方がそこにいると思えば、他人事ではないのだと身につまされます。
 クロードにお願いされたので、王国通信号外見るのはやめて、今はギルドの情報誌を取ってるわ。ちょっと値は張るけれど、いろいろと勉強になります。
 そう、もうお気づきのこととは思われますが、私、この度薬師階級を上げました! 情報誌を購読できるギルドランクが必要だったのと、改めて師匠や長に勧められたのよね。階級を上げるとクエストの義務が生じるし面倒だから、登録時のままにしていたけれど、このご時世だもん、贅沢は言えないわ。
 いいこともあったのよ。ギルドを通しての薬や薬草の買取額が二割増しになったの。巷の流行りは治癒術だけど、実のところ術力切れになったらそこで終わりだから、ギルドでは重篤な怪我でもない限りは薬や薬草を使うことをオススメされているんだって。
 それに何といっても、私の薬は勇者さま御用達ですから。稼がせていただいてますわ。
 と、いうわけで売れっ子薬師になってしまった私は、少なくなった在庫補充のためにただいま採集の旅に出ております。いつもはアンタについてきてもらって、村周辺の森を回るくらいだったし、こんなに遠出するのも初めてだから、ちょっとビクビクしてる。王都行ったときのアンタを笑えないわ。
 ホントのところ、師匠が「村ひま、温泉行きてぇ癒されてぇー!」って駄々こねたのが発端。そしたらギルド長が「いいところ知っていますよ」って、師匠を唆してさ(ちなみにアンタん家で飲み会やってる最中。ツマミ作製要員が私)。なだめるのも邪魔くさかったから、「ハイハイ行ってらっしゃいお土産よろしくー」、なんて見送る気満々だったのに、温泉地で特別に取れる薬草の話なんて持ち出されたら行くしかないでしょう。「温泉なら私たちも行きたいわ」ってヨキアさん家のお姉さんたちも言い出して、めでたく出発と相成ったわけです。ギルド長ってば師匠に体よく魔獣討伐押し付けて、私を薬草採取に誘導して一挙両得を狙ったんじゃないの……?
 なんだか釈然としないながらも、温泉堪能しつつの魔獣退治は師匠とお姉さんたちに任せて、私は隅っこでちまちま採取を頑張ってます。美人姉妹を両手にウハウハしている師匠がウザイので、調合中偶然できたっぽい『ちょっと男性が大人しくなるお薬』を、実験がてら今夜飲ませてみようかと思ってる。
 採取している以外はなにもすることがなくて、毎日上げ膳据え膳、温泉にまったりつかって、怠けた身体がもちもちしてきたような気がします。ヤバイ。肌がもちもちはいいけど身体がもちもちはヤバイ。明日から走る。
 この辺りで採れる野草を使ったお料理、宿の人に教えてもらったので、クロードが帰ってきたら作ってあげるわね。腹痛や胃痛に気をつけて、無理せず頑張ってください。

 流月十四日 エーファ
(ところでギルド便、ここにまでやって来ました……。いや、長から私の居場所は聞いていたのかもしれないけど、けどっ……! ギルド便恐い。)
 
感想 0

あなたにおすすめの小説

〖完結〗旦那様が私を殺そうとしました。

藍川みいな
恋愛
私は今、この世でたった一人の愛する旦那様に殺されそうになっている。いや……もう私は殺されるだろう。 どうして、こんなことになってしまったんだろう……。 私はただ、旦那様を愛していただけなのに……。 そして私は旦那様の手で、首を絞められ意識を手放した…… はずだった。 目を覚ますと、何故か15歳の姿に戻っていた。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全11話で完結になります。

我慢しないことにした結果

宝月 蓮
恋愛
メアリー、ワイアット、クレアは幼馴染。いつも三人で過ごすことが多い。しかしクレアがわがままを言うせいで、いつもメアリーは我慢を強いられていた。更に、メアリーはワイアットに好意を寄せていたが色々なことが重なりワイアットはわがままなクレアと婚約することになってしまう。失意の中、欲望に忠実なクレアの更なるわがままで追い詰められていくメアリー。そんなメアリーを救ったのは、兄達の友人であるアレクサンダー。アレクサンダーはメアリーに、もう我慢しなくて良い、思いの全てを吐き出してごらんと優しく包み込んでくれた。メアリーはそんなアレクサンダーに惹かれていく。 小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。

片思いの貴方に何度も告白したけど断られ続けてきた

アリス
恋愛
幼馴染で学生の頃から、ずっと好きだった人。 高校生くらいから何十回も告白した。 全て「好きなの」 「ごめん、断る」 その繰り返しだった。 だけど彼は優しいから、時々、ご飯を食べに行ったり、デートはしてくれる。 紛らわしいと思う。 彼に好きな人がいるわけではない。 まだそれなら諦めがつく。 彼はカイル=クレシア23歳 イケメンでモテる。 私はアリア=ナターシャ20歳 普通で人には可愛い方だと言われた。 そんなある日 私が20歳になった時だった。 両親が見合い話を持ってきた。 最後の告白をしようと思った。 ダメなら見合いをすると言った。 その見合い相手に溺愛される。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

過保護な公爵は虚弱な妻と遊びたい

黒猫子猫
恋愛
公爵家当主レグルスは、三カ月前に令嬢ミアを正妻に迎えた。可憐な外見から虚弱な女性だと思い、過保護に接しなければと戒めていたが、実際の彼女は非常に活発で明るい女性だった。レグルスはすっかりミアの虜になって、彼女も本来の姿を見せてくれるようになり、夫婦生活は円満になるはずだった。だが、ある日レグルスが仕事を切り上げて早めに帰宅すると、ミアの態度はなぜか頑なになっていた。そればかりか、必死でレグルスから逃げようとする。 レグルスはもちろん、追いかけた。 ※短編『虚弱な公爵夫人は夫の過保護から逃れたい』の後日談・ヒーロー視点のお話です。これのみでも読めます。

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

仮面王の花嫁

松雪
恋愛
婚約者を腹違いの妹に奪われ、新しい相手も見つからず修道院に行く覚悟を決めたルチア。修道女となるため髪を切った日の夜、王城から「国王がルチアを妻に望んでいる」という書簡を持った使者がやって来た。 しかし、従兄弟であり恋仲だったニールが国王のせいで死に至った過去を持つルチアは、国王からの求婚を喜べずーー。