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B4 とある常連客の観察日記2
しおりを挟む今日もカウンターには常連客の彼女の姿があった。
彼女の定位置はカウンターの奥の席、その日の気分で飲む紅茶を選ぶ。
店が空いているときは店長と軽い会話を。それ以外の時は、持ち込んだ本を手に、ゆったりとした時間を過ごしていた。
この店に集うのは、大半が一人の時間を大事にしたいと思っている者ばかりだから、それも珍しい光景ではない。
立地のせいか、宣伝不足のせいか――これは店長の、紅茶を楽しみたい人の店というコンセプトが意図するところだが――開店当初は奮わなかった客足も、最近は口コミで店の存在が知られ、割合繁盛している。
開店から通っている俺を含む数名の常連客も次第に増え、誰が始めたのか不明だが、【織苑】愛好家ネットワークというものを作り出していた。
そして、近頃の話題と言えば。
我らが【織苑】店長と、その想い人である彼女――透子ねーさんの恋路がどうなるかどうにもならないか、というものだった。
いい年をして焦れったいんだよ、あの二人。
窓際の一角に集まり、カウンターの二人をこっそりうかがいつつ、本日の報告会。
みつあみおさげの大学生ニイナちゃんが口を開いた。
「最近二人でよく飲みに出掛けてます」
「おおっ、マジでマジで! 酔った透子ねーさんを介抱しているうちに、店長がガバッと……!」
「ないな」
「ないわー」
「ないですね。そもそも、透子さん酒豪なんですよー」
「そうなの?」
俺の問い掛けにニイナちゃんはこっくり頷く。
「そうなんです。ガバガバとかじゃないんですけど、気がついたらどれだけ飲んだんですかってくらい杯を重ねてて。しかもケロッとしてるんです」
「ねーさん……」
「さすがだわ、ねーさん」
生温く遠い目をする仲間と、首を捻る俺。
「というか、よく知ってるね?」
「うちのバイト先によく来られるんです。そこの居酒屋なんですけど、だいたい……日曜が多いですね」
「今日は……」
「日曜日……」
カウンターの中と外でほのぼのと会話している二人に俺たちの視線が集まる。
OL和泉嬢がクルリとこちらに向き直った。清々しい笑顔だ。
「ねえねえー、ちょっと今日飲みに行かないー?」
大学院生勇馬がウキウキとその誘いに乗っかる。
「だいたい閉店してからっスかね?」
「じゃあそれよりちょい早めに集まろうか」
「私、これからバイトなんでみなさんの席取っときます! 二人が来たらいい席に誘導します!」
ニイナちゃんが興奮した様子で宣言する。それをついでに、俺は携帯を出した。
「おうニイナちゃん、アドレス交換しとこうよ。赤外線イケる?」
「ハイッ」
「へえ、ニイナちゃんて新菜って書くんだ」
「クレサキさんも、こういう字だったんですねー。日が暮れるの方だと思ってました」
お互いのデータを見て、にっこりした俺たちだが、その笑顔が全然種類が違うものだということには、誰も――いや、二名以外は気がついていないだろう。
また夜にお店で! とはしゃいだ様子で店を後にする娘さんにニコニコと手を振り返し、アドレスをしっかり保管しておく。
そんな俺に突き刺さる、和泉嬢と勇馬のまなざし。
「……ちゃっかりしてるって言っていいのかしら」
「どさくさにまぎれて……」
俺は携帯をポケットに突っ込み、ニヤリと笑う。
「何のコトだか」
「このロリ」
「犯罪者」
「失礼だな。成人してるでしょ、彼女」
ニイナちゃん――新菜ちゃんは大学三年生、ぽっちゃりふっくらした身体付きに色白な肌で、大福みたいな子だなと常々思っていた。
美人でも、しいて目を引く容姿でもないが、いつもニコニコしていて、「一週間に一度の贅沢なんです!」と【織苑】へ来てお茶とケーキをひとくちひとくち大事そうにいただいている様子が、ハムスターのようで可愛らしい娘さんなのだ。
うん、はっきり言おう。
ほっちゃりさ加減と小動物の様相がとても好みです。
前から目を付けていたのだが、けっこうな年の差もあって攻めあぐねていたんだよな。
アドレスも彼女だけ知らなかったのだが――こうして、手に入れたわけだし?
楽しい明日を想像して鼻歌でも歌いかねない俺に、二人が頭を抱えた。
「どうしよう、何だか犯罪の片棒担いだような気がして罪悪感が……!」
「俺もぉ……」
まったくもって失礼な。
俺は釣った魚には餌をやりまくるししっかりじっくり可愛がるタイプだ。
悪いことなど何もない。
「店長と俺と、どっちが先に相手をモノにするか賭けるか?」
「「賭けるかァ!」」
叫んだ二人に驚いて、店長と彼女がこちらを見るが、何でもないと笑顔で返した。
(語り手の呉崎は29歳、初期からの常連客。
あとの三人は常連歴一年くらい。
まだ透子と苑生がくっつく前、書籍で言うなら12~13のあたりのお話)
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