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四年目◆ 【とある帰り道】
しおりを挟むつくづく見ていて楽しい二人組だと思う。
自分が巻き込まれなければ、という但し書きがつくが。
前期決算の打ち上げ飲み会。次の日が連休というのも弾みをつけたのか、みんな酒を過ごしすぎたようだった。
目の前を歩く、凸凹コンビの片割れも例に漏れず。
酔いざましに歩いて木内の家まで送る途中。二人の愉快なやり取りを聞きつつ後ろを歩く。
最初に飲みやすいチューハイを大人しく傾けていた筈の木内は、保護者の南条が目を離した隙に、周囲の酔っ払いに日本酒やら水割りやら飲まされ、気づいたときにはすっかり出来上がっていた。
いつもならストップをかけるはずのもう一人の保護者である湯島は、なにやらストレスが溜まっていたらしく、木内の比ではない飲んだくれになっていたのだ。
この時間に問答無用で迎えに来させられた男に同情するね。
そしてゴキゲンに酔った木内の話題といえば、さっきからその彼氏のことばかりで。
よほど衝撃だったらしい。
最近は意識して落ち着た話し方を心がけていた木内だが、酔ったことで逆戻りしたのか節制が働かないのか、舌足らずに支離滅裂な雄叫びを上げている。
それにいちいち相づちを打っている南条は幼児を宥める父親のようだ。
ほんっとお前、木内とその他の女と態度が違うよな、自覚なしだけど。
「みどりちゃんのかれしさんちょおぉかわいかったねええ!」
「漢字で話せ」
「ちょおおおぉドーガン! あれでとしうえとかしんっじらんなーい! びしょうねんっ。おさけのなまえじゃないよ!」
「お前に幼いとか言われたかないだろうよ……コラ酔っ払い! フラフラどこ行くっ」
南条に手を繋がれ連行されるように歩いていた木内が、ピタリと足を止めた。
――かと思うと、次の瞬間南条の手を振りほどいてある一点に向かって突進する。
慌てて後を追う南条。
俺はそのまた後ろをのんびりついて行く。
「うううーくまー」
木内がべたりと張り付いたのは、ユル顔のクマのぬいぐるみが詰まったガラスの箱。
クレーンゲームの筐体だった。
「おもちかえり~してやるっ」
鼻息も荒く木内が挑戦し始める。
……が、常態の腕のほどはいざ知らず、酔っ払いでは無理に決まっているだろう。
コインを入れたとたん流れるやたら能天気なBGMをお供に、「にょあ!」「ほぁた!」「てぇ!」「うにょれ!」などと奇声を上げた木内がボタンを叩きまくり奮闘すること数分。
俺たちが生暖かい目で見守る中、結果は無惨なものに終わった。
ガクリと項垂れ筐体にもたれ掛かる木内。
その凹み様に南条がため息を吐いて彼女を操作盤の前から押し退けた。
「むぅ……」
「どれが欲しいんだよ」
不満そうに唸る木内に、小銭を出しながら南条が訊く。
キラリと木内の瞳が期待に輝いた。
「! あれっ、あれ! めがはんびらきなのっ」
「…………」
よりによって何であんなの、とそれこそ半目になった南条がゲームをスタートさせる。
ちょっとおかし過ぎる絵面なんだが!
写真に撮ってみんなに回したい。
腹筋に力を入れつつ、カチカチと迷いもせずボタンを押す南条に訊いた。
「お前できるの?」
「あー。大体見ててわかった。……んー、ホレ」
俺が話しかけたにも関わらず、南条が操作したアームはぬいぐるみの頭を捉え、そのまま落とし口まで運ぶ。
落ちてきたぬいぐるみを受け取った木内は、パクリと開けっ放しだった口を閉じ、頬を染め涙目でプルプルと身を震わせた。
「しっ……」
うん?
「しにぇええええ!!」
「なんでだよ!」
物騒な言葉を吐かれ、南条が間髪いれず反駁する。
ぬいぐるみをギュウギュウ握り潰すように抱きしめたまま、悔しいと嬉しいの混じった顔で木内が南条を睨む。
……うん、まあ、ようするにアレだ、自分があれだけ苦心したぬいぐるみを初めてやるような奴があっさりとっちゃってスゴーイでもなんかムカつくなんじょーさんてばこんなことまでデキル男じゃなくてもいいのにカッコイイってかやっぱりムカつく死ねぇ! ってとこか。
子どものように今にも地団駄を踏みそうな木内に、困ったまなざしを向ける南条。
俺はその肩を軽く叩いた。
「南条。ついでに俺にも取ってくれ。あの白い口が半開きになったやつ」
物凄く疑わしげな目で見られたが、笑顔で圧力をかける。
渋々再びゲームに向かう南条。なんだかんだ木内はちまっとその側に陣取って、操作を見守っていた。
ほどなくして、俺の手にもユルいクマのぬいぐるみが納まる。
木内が持っているのより小ぶりの白いクマは、キョトンとした円らな瞳と少し開いた口が間抜けに可愛いものだ。
「サンキュー」
「……神代、そういう趣味が」
「ぎ、ぎゃっぷがあっていいとおもうよ?」
恐る恐る南条が言えば、その後ろに隠れて顔だけ覗かせた木内がフォローのつもりなのだかひきつった笑顔で付け加える。
何だかな、このコンビは。
「このクマ、俺の彼女に似てるんだよ。並べて愛でてやろうと思って」
いい土産が出来た、とぬいぐるみを片手に嘯いた俺は、じゃあ俺はこの辺で、と背を向ける。
「俺、彼女ん家行くから。多少の送り狼は許可するがちゃんと送り届けろよ、南条」
「は? いや彼女っていつの間に……送り狼? ちょ、オイ神代っ」
「かのじょー! ぬいぐるみにのかのじょー! みたいっ。みたいー!」
「その内なー」
ヒラリと片手を振って、後ろでなにやら喧しくやり取りを交わす二人と別れた。
いつまでも進展しないくせに、いちゃつきっぷりは半端ない二人を眺めているのは楽しいが、アホ焦れったすぎてストレスが貯まる。
バカップルに付き合っていられないからな。
せっかく連休なんだし、もっと有意義な時間を過ごさねば。
あの二人といるとこっちまでノンキが移りそうだ。それは勘弁願いたい。
突然現れた俺に迷惑げに嫌な顔をするだろう、小動物のような彼女を思い浮かべて、ニヤリと笑った。
(初出:2011/08/01メルマガSS)
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