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六年目◆クリスマス
しおりを挟む「木内、今日の予定は?」
給湯室にでも行くのか、コップを片手に振りながら、廊下をぴょこぴょこ歩いていた相手を捕まえた。
二十歳をとうに過ぎても、小娘めいたところは変わらない女は、不審そうなまなざしでこちらを見やる。
「清水課長に頼まれたアーシェンタさんとこのデータファイル作成がありますけど」
「仕事の話じゃねえ、夜空いてるかって言ってるんだよ」
思わず晒された額を指で弾くと、むう、と唇を尖らせてこちらを睨んできた。
睨みたいのはこっちだっつうの。
こんなわかりやすい日に夜の予定を訊ねる男の思惑に全く気づかないなんて、女としてどうなんだ、お前は。
さすが長年害虫を駆除していただけある。
男女の機微のことなど、『ナニソレおいしいの?』とでも言い出しかねない。
入社して知り合ってからずっと、木内に気のある素振りを見せた奴らを、俺や彼女を可愛がっている女が、それとなく、場合によってはあからさまに牽制し続けていたため、すっかり恋愛沙汰に鈍い娘が出来上がってしまっていた。
最初の頃は、かわいい子分がおかしな野郎に遊ばれたりしないようにと思っていたそれが、俺以外の男をコイツの周りから排除するためだったと今は自覚している。
――ここまで純粋培養するつもりもなかったのだが。
「空いてますけどー。飲みに行くんですか? クリスマスですよ、店いっぱいじゃないかなぁ」
今日がクリスマスだっていうのは理解しているのか。
「――神代のとこの嫁さんが、ホームパーティするから来ないかってさ。朝からはりきってご馳走作ってるらしいぞ」
実際は、クッションとして巻き込もうと思っていた神代に、「アホか、なんでクリスマスにまでヘタレ野郎と天然娘の不毛な橋渡しをせにゃならんのだ」自分でなんとかしろ、とバッサリ切られ、そこへ奴の嫁さんが、「じゃあうちでパーティーでもしたらどうかしら~。ご馳走作っちゃうから、鈴ちゃん喜ぶわよ~」と、言い出したわけなのだが。(ちなみに神代んちで酒を飲んでいたときの話だ)
夫婦だけでクリスマスを楽しみたかったらしい神代は、ものすごい複雑そうな顔で嫁さんを見ていたが、あそこも相手には弱いカップルだ。
嬉々としてパーティーに出す料理を考え始めた彼女に、神代は諦めたようなため息をひとつ落として、俺に『嫁を充分喜ばせたらとっとと帰れよ』と刺すような目で言ってきやがった。
わかってるっつうの。
『専務と二人きりはマズイ』という、俺との距離を勝手に置いている木内の気がゆるむまでの話だ。
旨いものを食ってご機嫌にさせたら、お気に入りのイルミネーションでも見に連れ出してやる。
――要は、本来の趣旨を離れて“恋人同士が過ごす日”になっているこの日を、コイツと一緒にいたいっていう、俺の自己満足だ。
―誰にもコイツの笑顔をやりたくない。
―コイツが笑うのは俺の隣であるべきだ。
ある意味、昏い執着と変わらぬ恋情を、俺が自分に持っていると気づいたら、コイツはどうするだろうか。
とりあえず今は。
「リョーコさんの手料理ー! 行く行くー!」
テキメンにはしゃぎだした木内の関心を、何で釣ればこちらを向くだろうかと考える俺だった。
(初出2010.12.16 メルマガSS)
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