11 / 20
七年目◇ 謹賀新年
しおりを挟む『初詣行くぞ、出てこい。』
そんな俺様な電話が掛かってきて、里帰りのため家族が不在の家で、まったりダラダラ寝正月を楽しもうとしていたあたしの目論みは敗れる。
もう、返事くらい聞けよオッサン。とか本人の耳に入ればお仕置きが待っていそうなことを切れた携帯電話にブツブツ呟いて、あたしはコタツから這い出た。
まあね、妙齢の乙女が一日中寝巻きで怠惰に正月を過ごすより、俺様専務のお伴でお詣り行く方がマシかもだけどさ。
十五分という驚異のスピードで、とりあえず化粧お着替えと仕度を整え、玄関を開けてから気付く。
――出てこいって何処によ?
ドアを開けたまま、むぅと眉間にシワを寄せていたあたしに、表から声が。
「用意できたか」
「ぎゃっ!?」
ドビックリなことに、うちのちっこい門柱に身を預けた専務どのが、そこにいらっしゃったのです……!
会社にいるときよりラフな雰囲気で、前髪を下ろした専務は仰天して固まっているあたしを見、不服そうに眉をあげる。
「“ぎゃっ”てなんだ、俺はモンスターか」
心情的に似たものがあるよ! とは言わず(ええ、この歳になると口は災いの元、という言葉をよぅく理解出来ているもので)、ぷくりと頬をふくらませ、上も上にある専務のシレッとした顔を睨んだ。
「うちの前に来てるとは思わないじゃないですか。電話、近くからかけてたんですか」
「ああ、そこの駐車場で」
じゃあ行くか、と促されるまま歩き出す。
今日が正月でよかったかもしれない。
こんなのがあたしを待ち伏せしているところをご近所に目撃されたらどういう騒ぎになるか。皆様おうちに籠っていらっしゃるかお出掛けなさっているため、まるきり人気がないことがあたしを救った。
いつの間にやらお年頃ですからねー、あたしもー。
うるさいんだよー、彼氏とか結婚とかー。
余所ん家の子どもを気にする暇があったら、自分ん家の旦那や子どもの方を構ってろというの。
この専務のルックスだ、あたしのオトコじゃないと言ってもそうそう諦めて貰えないだろう。何だかんだ、面白おかしく噂話を立てられるに決まってる。
「もー、なんでイキナリ来るんですか。社長のお家には行かなくていいんですかー?」
「昨夜のうちに挨拶は済ませてある。今日なんかにあの家にいたら面倒だ、年始参りに来た連中の相手押し付けられるだろ」
うんざり告げられた内容に、あたしは呆れた溜め息を漏らした。つまり逃げてきたんじゃん。でもって誘ったのがあたしって、どんだけ相手がいなかったんだ。正月だから仕方ないけど。
「暇人ですね、専務」
「十五分で出てこれる奴に言われたくない。どうせお前だってゴロゴロしてたんだろ」
そうですよーだ。暇していることを見越されて誘われたのが微妙に腹立たしい。
あたしだってね、明日は友達と初売りに行くし、明後日はみどりちゃんとこにお邪魔したりする予定あるんだからー! ……今日は暇してたけど。
うちの近所を専務と歩いてるって、変な感じ。前を行く図体のデカイ人を見やって、あたしはハタと気づく。
そういえば。
「専務ー」
ツンツンとコートの背中を引っ張ると、なんだ? と軽く振り返る顔に。ぴょこん、と頭を下げる。
「あけましておめでとうゴザイマス、今年もヨロシクです」
挨拶。してなかった、よね。専務はきょとんと瞬いたあと、
「おめでとう。今年こそよろしく」
破顔した。
あたしは見る機会が多いけれど、やっぱり専務の満開の笑顔ったら心臓に悪いなぁ、なんて思いつつ。
“こそ”って何だ、と密かに首を捻ったのだった。
(初出:2010/01/01メルマガSS)
0
あなたにおすすめの小説
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる