ヒロインかもはみだし番外編集

深月織

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七年目~結婚後◆◇冬 【before・after・ばれんたいん】

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 二月十四日。
 それは一部の人々にとって祭りの日。
 俺にとっては憂鬱な日。甘いものが嫌いなわけではないが、チョコレートは苦手なんだよ。
 だが今年は。
 アイツから貰えるだろうか、なんて中学生のような期待に胸を踊らせていた。
 去年までは同期女子で男連中にまとめて、だったが、俺が鈴鹿を堕とす意思表示をした今年は誰かがうまく誘導してくれるはずだ。
 ――なんて下心があったのが悪かったのか。

「ええ~。専務、今年はチョコ受け取ってないんですかぁ~」
 終業後、それとなく待ち伏せた鈴鹿は、何も持っていない俺に、期待外れ! な視線を向けやがったのだ。
 こっちがそうしたいっての。
「……お前はないのか、俺に」
「うえ? だって専務、チョコ嫌いじゃないですか。今年は皆で話し合って、義理チョコ配布禁止したしー」
 誰だ。誰がそんなことを。
 そう思った俺に、ある人物の高笑いが聞こえた。
 ……女史か。あの女狐め。
 ビジネスバッグしか持っていない空っぽの俺の手を見つめて、“お裾分け貰おうと思ってたのにガッカリー”なんて呟いている鈴鹿を小突く。
 誰のために義理チョコから本命チョコまで受け取り拒否したと思ってやがる。 
 そりゃ今まで消費しきれない分は全てお前にやっていたが。
 はあ、とため息を吐く。
 色気より食い気なコイツの思考を忘れていた。
「木内。デザートのチョコケーキが美味い店知ってるが、食いに行くか」
 途端、行きますとも! と瞳を輝かせた女に、来年は覚悟してろよ、と些か不穏なことを計画しながらとりあえず俺は本日のディナーデートを満喫することにした。


 *********************


「さあ、去年の借りを返してもらおうか」
 家に帰るなり、旦那が不穏な笑いを浮かべあたしに迫ってきた。
 手をワキワキさせながらにじり寄るフミタカさんに、じりじりと後ずさるあたし。
 てゆか、何よ去年の借りって!
「去年。義理チョコも本命チョコも断って、鈴鹿のチョコを待っていたケナゲな俺にした仕打ちを忘れたのか、奥さん?」
 はい?
 フミタカさんがケナゲだとか気色の悪い言葉は置いといて、えーと。
 去年のバレンタイン?
「……奢っていただいた店の生チョコケーキは絶品でございました……」
 思い出してもヨダレが。
「それしか覚えてねーのかお前は」
 ムニュリと頬をつねられる。
 ク、クリームパスタも激美味しかったよ! また行きたいな、あのお店!
 いたっ! いやいや覚えてますよ!
 フミタカさんってばいつも山盛り貰ってるチョコ、全然受け取ってなかったんだよね。お裾分け貰えなくて残念無念……って、あたしからのチョコ、待ってたの? 嫌いなくせに。
 もう、ツンデレなんだからー。どう思いますよ、隊長?
 去年のフミタカさんの心持ちをさとって、にやにやするあたしを再びつねる彼。
「さ、奥さん? 今年はどんなバレンタインにしてくれるつもりなんだ?」
 笑顔が怖いっス、旦那さま!
 どんなって、どんなって……一応、夫婦ですから?
 自分の腹に大部分が入るとわかっていても(いや、だからこそ?)奮発して有名店の一粒むにゃむにゃ円するチョコレートを用意させていただきましたが。
 ……そーゆーことを求めてるんじゃないよねぇー……。
 あの顔はエロいこと考えてる顔だ。エロオヤジめ。
 でも何をしろってゆうのだ。
 むぅ。
 あたしのリアクションを期待に満ちた艶っぽい目で見ている彼を、ソファーまで引っ張っていく。
 そこで“お座り、待て”の指示。
 彼が首を傾げている間に、自室へすっ飛んで行き、隠していたチョコの紙袋を持ってくる。
 えーと。
 怪訝な顔をして、眉を寄せているフミタカさんの膝に、よっこらしょと乗っかって。
 綺麗なラッピングをバリバリ破り、「オイ」と彼が呟くのも無視して中身をひとつ、摘まんで。
「あ、あ~んして?」
 おずおず差し出す。
 パチクリと瞬きして見つめ返す彼に、頬が染まるのがわかった。
 くそう、恥ずかしいことさせやがって!
 間抜けに開いた彼の口の中に、隙をついてチョコを無理矢理突っ込んでやる。呆然としたまま咀嚼するのを見届けて、よし! やり遂げたぞと拳を握った。
 シャンパン風味の生チョコ、美味しいんだよね〜。
 どうですか、旦那さまっ。
 しばらくそれをモグモグしていたフミタカさんが、はああとチョコ臭のするため息を吐く。
「お前ね……」
「ぅぎゃっ?!」
 疲れたように呟いた、と思ったら寄りかかるように抱きしめられて。
 気が付いたら宙に身体が浮いていた。
 また荷物運びぃー!
「天然なんだかワザとなんだか……煽った責任はとってもらうぞ」
 ナンノコトデスカ!
 ジタバタするも、運ばれて下ろされたのは――もちろん寝室で。
 ネクタイをほどきながら、色っぽく笑う旦那さまが、チョコを片手に抱えたままのあたしを見下ろした。
「遠慮なく、『いただきます』」
 いや! いやいやいや、チョコをいただいてくださいっ!
 というあたしの訴えは、当たり前に却下された。

(初出:2010/01/31)
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