ヒロインかもはみだし番外編集

深月織

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結婚後◇ 【休日の過ごしかた。2】

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 同期として、婚約者として、夫婦として。間柄はいろいろ変わったけれど、長いこと付き合ってるのに、彼とデートというものを今までしたことがありませんでした。
 どういうこと? 手を抜きすぎじゃないの、旦那さん!
 一人で拗ねてぷりぷりしていたら、微妙にそれを察したフミタカさんが、機嫌を取るようにお出掛けを提案してきた休日の朝。
 そんなんで蔑ろにされた気持ちは治まらないし、騙されたりしないんだからね!
 ……お出掛けはするけども。

「おおぉあ」
 ぐるりと頭の上を巡る水槽トンネルを見上げる。
 いくつかの層に分かれていて、あたしが一番ハマったのはクラゲが集まった一角だった。
 ゆらゆらと、泳いでるというより漂っていると表現したいクラゲの動きを追っているだけで、なんだか楽しい。
 見上げすぎてひっくり返りそうになったあたしを支えた背後のフミタカさんが、呆れた目で見下ろしてきた。
 お子ちゃまか、って余計なお世話だし!
 いわゆる、『一般的なデート』というものを望んだあたしに、フミタカさんが連れてきてくれたのは新しく改装されたばかりの水族館。
 かなり前に来たとき以来だよと言うと、誰と来たとかうるさい。
 友だち以外に誰がいるというのだ。家族とは、子どもの頃に、海の近くの動物園が一緒になったところに行った覚えがある。
「前に来たときはゆっくり見られなかったから、シンセンだぁー」
 主に友人が騒ぎ、走り回る弟妹を捕獲し、お魚ほとんど堪能できなかったし。
 ちらちらと素早い動きで岩場や海藻、サンゴの間を行きかう色鮮やかな小さな魚に目を奪われたり、群れてそれ自体が一つの生物のように泳ぐ魚の数を数えて目を回したり。
 回遊する魚の動きを追っていると、時間の流れを忘れてしまう。
 ハッと気づくと水槽の前にはあたし一人で、少し離れた場所からフミタカさんがハンディカムを回していた。
 ちょ、いつのまにー!
「なに撮ってんの! お魚見なよお魚っ」
「俺がそこにへばりついていたら邪魔だろ。鈴鹿が充分面白いからここでいい」
 一緒にキャッキャしなきゃデートの意味がないっつうの。孫のビデオムービー撮ってる好々爺じゃあるまいし!
「いまそんなに人いないから図体でかくても大丈夫だってば! 近くでお魚も撮ってよ」
 こんなところで言い争っているのも迷惑になるのかと悟ったのか、フミタカさんが諦めてこっちへやってくる。
「んもー。ぼっしゅう、あたしが撮るっ」
 カメラを取り上げ、ついでにフミタカさんの懐へもぐってやった。
 秘技、二人羽織! これであたし分のスペースが空くから、かまわないだろう。
 あたしのすることを諦めた様子で眺めていたフミタカさんも何も言わないし、オッケー!
「フミタカさん、これ、この魚なんだっけ、映画のキャラ名しか出てこないにもっ」
「カクレクマノミ。スズキ目スズメダイ科クマノミ亜科に属し、ハタゴイソギンチャク科の大型イソギンチャク類と共生、雄性先熟の特性を持つ」
 あたしが指差しながら撮るのに合わせて、フミタカさんが説明板の文言を読む。駄話を混ぜながら、ふと顔を上げると――何やら取り囲まれていますよ!?
 フミタカさんのエロボイスに惹かれてきたのか説明を便乗して聴いていたのか、いつの間にか増えていた客があたしたちの周りに群がっていた。
 フミタカさんも気づいていたのか、虚ろな目をしている。
 あたしたちガイドじゃないよおお!
 今さら逃げることもできず、にわかガイド音声マシーンと化したあたしたちは、水槽が途切れるまでお勤めを果たすことになったのでした。


「うあー、面白かったけどつっかれた!」
「疲れたのは俺だよ……。明日喉が嗄れたらどうしてくれる」
 かすれたエロボイスなんてわいせつ物として取り締まったほうがいいんじゃなかろうか。
 とりあえずポケットに常備しているのど飴をフミタカさんの口に突っ込む。
 舐めずに噛み砕いたら意味がないと思うんだよ……?
「それじゃ、食事して帰るか。奥さん、何が食べたい」
「お寿司!」
 イキイキと答えたあたしに、フミタカさんの何とも言えないまなざしが落とされる。
 なんだよ、定番でしょ、水族館のあとのお寿司屋さん。
 イワシがキラキラしてるのとか、タカアシガニがゆらゆらしてるの見たら、食べたくなるのは日本人のサガだと思うの。
 まあいいか、とつぶやいてフミタカさんはあたしの手を引き駐車場へ向かった。
「楽しかったか?」
「うん! 帰ったら熱帯魚の動画、社内ブログにUPしようかな、副社長ボイスつき」
「ヤメロ」
 本気で嫌そうなフミタカさんに笑って、あたしはジンベイザメのぬいぐるみを抱き直した。

 デートとか、何でもよくて、ただあなたと一緒に楽しく過ごせたらいいんだよ、と言い損ねた休日のこと。



*オマケ

「……しかし、俺は今までお前と出掛けた全て、デートだと思っていたんだがな。お前はそうじゃなかったんだな」
 車を走らせる旦那さんがボソリとこぼした言葉にあたしは固まった。
 うだうだしていたフミタカさんが、あたしを捕まえると開き直ってから、求婚されるまでの一年。
 映画に連れて行ってもらったりご飯食べに行ったりドライブ連れて行ってもらったり食事したり飲みに行ったり花見に行ったり宴会したり会社帰りにどこか寄るかと誘われたり、していたのは確か。
 そう言われてみれば今日のデートの内容は、今までのお出掛けと何ら変わることはなく……いやいや一番肝心なところが違うよ!
「普通にトモダチとお出掛けじゃん! 恋人じゃなかったし!」
「普通いい年した男女が二人で出掛けたらそれはデートって言うんですー」
「あたしの中ではお付き合いする男女がお出掛けするのがデートなんですぅー」
 以前は、ただの同期で、飲み仲間で、意識するような間柄じゃなかったし!
 いわば、引率のお兄さん?
 脳内でつぶやいた言葉は勝手に口から洩れていたらしい。
「ほう」
 低ぅい声が耳を震わせる。
 ぎくりと隣を見ると、とても不穏な雰囲気で微笑んでいる旦那さまが……ひいい!
「お家に帰るまでが、デートだよな?」
「えっ、うん……? そうかな……ってどこ行くの! お家の道はあっちだよ!?」
 ハンドルを切った彼は「またしばらくそろって休日なんてないからなあ、みっちりデートのコースこなしておくか」などと意味不明なことを言いながら、謎の建物に針路を定めた。
 そして人生初のラブホテルに連れ込まれたあたしは、みっちりいろいろと堪能させられてしまったのだった……。

(初出:2012/04/01 メルマガSS)
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