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第三話 鴉(カラス)
しおりを挟む「──うへへへへっ! 女だ……しかも、こいつぁ、飛びっきりの上玉ときた……」
傍らで崩れ落ちるキーガンをよそに、一人の兵士がマーガレットを馬の背から強引に持ち上げ、地面に押し倒し、その青い瞳を見開き蒼白に震える可憐な顔を覗き込んだ。
「──いっ、いやぁっ! こっ、この手を離しなさいっ! 」
この時マーガレットは、男の圧倒的な力の前に成す術もないまま茫然と想った。
──あぁ、キーガン様……ごめんなさい……わたしを助けようとして……それなのにわたしは……心のどこかで……
あなたを拒んでいた……
今更ながらどうしようもなく自分を悔いる気持ちが心に溢れてきて、顔を背ける目の端からは、光る一筋の雫が伝い落ちた。
「おっ、おい、止めとけ! あの怖い兄ちゃんが上から見てるぞ! 」
もう一人の兵士が傍らで男に自制を促すが、しかし、その兵士はマーガレットにのし掛かったまま退こうとはしない。
「へへへ、ちょっとくらいいいだろ? こんな綺麗な女を見逃すって手はないぜ? 」
兵士はごつい手でマーガレットの喉輪を押さえ付け、容赦なくそのギラギラと血走った眼を近寄せてくる。
──クンクン、クンクン、スーハスーハ……
「うっひゃあ! すっげぇいい匂いだ! 堪らないぜ……それに、いいおっぱいしてやがるぜ……」
「──いやっ! ちょっと、やだっ! やめてぇっ!! 」
「ちょっと触るだけだ。なぁ、いいだろ? 触るだけだ……すぐ終わる……はぁはぁ……はぁはぁ……」
兵士はマーガレットの腰の上に跨がり首を押さえ付け、片手で自らのズボンの釦を外し始めた。
それから兵士は、左右に身体を捩り懸命に抗うマーガレットに構わず、着ている乗馬服の前をはだけさせようと手を伸ばしてくる。
「──いやぁぁっ! やめてぇぇっ! 」
『おいっ! やめろっ! 』
その時、頭上を覆うブナの高木の枝から鴉が一羽舞い降りてきたかと思うと、それは常人の目には世にも不可思議な情景を映し出した──
鴉は人の形へとみるみると姿を変えていったのだ。
「女は丁重に扱えと言ったはずだ……」
目の前で黒マント姿に変身した男は暗紫色に艶めく長髪を靡かせ、尚も諦めきれずにマーガレットに覆い被さっている兵士を、髪と同じ色合いの輝きを放つ瞳で睨め付けた。
「くっ、くそっ! いいところで………」
「……早く女から離れろ! 焼け死にたいのか? 」
長身痩躯の体格に細面の、その切れ長の涼やかな目をした男は、胸の前で手の平を上に向けると、そこにメラメラと燃え盛る火球が現れ、手の上でユラユラと不気味に踊り始めた。
「……ちっ! ……へへっ、冗談だよ! ……勿論、冗談に決まってるだろ! 魔導師のお兄さんよ? ほらこれこの通り、この美人のお嬢さんには何にもしてねぇって! 」
マーガレットは失意の底にありながら、今目の前で起こった不思議な現象と、兵士が言った『魔導師』という言葉を信じられないといった気持ちで反芻していた。
──え? 魔導師? ……この広い世にはそんな不思議な能力を持つ人もいると、噂でしか聞いたことのない、あの? ……西の大陸ですら数人しかいない言われる、あの魔導師が目の前にいるの?
兵士が、やれやれといった仕草で手を広げながらノロノロ立ち上がると、黒マントの男はそこに集まってきた他の兵士共々を鋭い眼光で睨み据えた。それから懐に手を突っ込み、兵士達の前へ金貨の入った革袋をポンと無造作に放り投げた。
「ほら、約束の金だ……」
「──うひょぉぉっ! 殺されちまった奴らにゃ申し訳ねぇが、ホントにありがてぇ……あんなクソみてぇな場末の酒場で、こんな実入りのいい仕事にありつけるなんてな! またよろしく頼むぜ、魔導師の旦那よ! 」
「……もう貴様らに用はない。酒場へ帰るがよい! 」
魔導師がそう呟き、額に置いた右手をクルリと回すようにしてサッと脇に払うと、兵士たちはその場から跡形もなく、すっと消え去った。
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