虫と女嫌いの宮廷魔導師と恋するアプレンティス【AP版】

端月小みち

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第十一話 謁見の間 ①

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『──魔導師サイラス殿! レウィシルト王国デゲイア公爵ご息女マーガレット殿! 』

 謁見の間の扉が左右に開け放たれ、王宮執事が控えの間で待つ二人の名を声高に知らしめた。

(さぁ、マーガレット、俺の後に付いて来てくれ……あと、大人しくな? 行儀よく頼むぜ……)

(──な、何よ、その言い方? 失礼しちゃうわ! 勝手にわたしを誘拐しておいて……)

 マーガレットはまだぶつぶつと愚痴を洩らしながら、サイラスの背後に隠れるようにおずおずと中央に敷かれたカーペットの上を進んで行った。

──嫌だな……厳めしい殿方達が一杯並んでる……

 カーペットを挟んで左右に居並ぶヴェネス王国の重臣達を眺めながら、マーガレットはそう思った。

 その最奥に据えられた、精巧な金細工の施された背の高い玉座には、日に焼けた顔に白銀色につやめく豊かな顎髭をたくわえ、快活そうな笑みを浮かべたヴェネス国王アンドレイがどっかりと腰を下ろして待ち構えていた。

 アンドレイ王は、一礼をして恭しく足下にひざまずくサイラスと、その背後でしぶしぶとサイラスに倣う隣国の令嬢を眺め、上機嫌で頷いた。

「──うむ。魔導師サイラスよ、この度の役目、見事果たされたな。実に天晴。御苦労であった──」

「ありがたきお言葉、誠に光栄の至り。国王陛下……」

「うむ。そう畏まらんでもよい。おもてを上げよ、サイラス? お主は早速、大いに余の期待に応えてくれおった。流石は西の大陸きっての魔術の使い手だけのことはあるわい。余の見立てには狂いはなかった。のう? そうだろう、モーリスよ? 」

 アンドレイ王は、自ら座る玉座の右手に控えるヴェネス王国宰相モーリスを見た。

「まっことその通りにございますな、国王陛下。大海の向こうより渡って来られまだ間もないのに、サイラス殿は早速に見事な功績を立て申しされた」

「うむ──」

 アンドレイはサイラスの方を再び向く。

「──この大陸には秀でた魔力をもつ魔導師はおろか、ささやかな魔術を施せる魔法使いとてほとんどおらん。戦におけるその力は魔導師一人で騎兵一個大隊にも匹敵するという、まさに一騎当千の貴重な存在じゃ。そして、そちはそのことを我が前で直ぐに証明して見せた──」

「過分なるお言葉──」

「──うむ……サイラスよ、どうだろう? ゆくゆくは我が国で、そちがマスターとなり魔導師養成のための機関を立ち上げてはくれぬか? 余はそのための支援は惜しまんつもりだ──」

 アンドレイは白い歯を覗かせ、褐色に日焼けした顔に満面の笑み浮かべた。

「誠にありがたきお言葉……」

 しかし、サイラスは少し顔を曇らせた。

「──しかし、恐れながら、国王陛下。俺はただ静かに住める安住の地を得られれば、それ以上の望みはない……」

「ほぉ……サイラスよ、それは何故だ? そちはまだまだ若いではないか? なぜもっと高い理想を追いかけぬのだ? あるいは──」

 アンドレイ王は顎髭に手を遣り、目を細めて眼下の若者を眺めた。

「……西の大陸で、何かそちのような才ある若者の志を挫く悶着でもあったというのか? 」

「いえ、そんなことは……」

 サイラスはうつむいたまま王の問い掛けに答える。

「──そんなことはない。確かに魔導師になるためには持って生まれた才能が要る。もちろん日々のたゆまぬ修練もだ……その者の持てる才を見極め、選ばれし者が魔術を日々学び修練できる場が用意されれば、確かにこの大陸でもいずれ魔導の力を操る者が現れよう……しかし、形ばかり魔導師の力を使えてもダメなんだ。それがこの大陸により大きな厄災を招くことになるかもしれない……だから、魔導師としての魔力とか技量とか、そのような次元よりももっと大事なことを教えられる者が必要なんだ。それを忘れてはならない……しかし、俺にその役は……」

「──うむ……そうか……どうやら安直に魔術学校さえ創ればよいともいえぬ深い理由があるようだな……まぁよい、サイラスよ。今はその件で結論を急ぐこともあるまい? この話は今後も追々とさせてくれ? 今は我が国が直面している問題の解決に力を貸してくれればそれでよい……」

「御意のままに──」

「──うむ」

 アンドレイはそう言って頷くと、サイラスの背後で二人の話を黙って聞いてるマーガレットの方を見た。

「──そうそう、マーガレット殿よ! よくぞ我が国へ参られた。そなたの父上デゲイア卿とは、若い頃より顔見知りの仲でもあった……そなたがまだ幼き頃、そなたにも一度会って頭を撫でやったこともあったぞ? 覚えておられるかな? 」

「はぁ……そうでしたか……残念ながらすっかり……アンドレイ王」

 マーガレットは王を見上げ率直に応える。

「わははは! それも詮なきことだ、そなたがまだ四、五歳の頃だろうゆえな、気にするでない──」

 そう言ってアンドレイは、マーガレットの青い瞳をじっと見据え、その目をすがめた。

「──だが残念ながら、そなたも知っての通り、我が国とそなたの国レウィシルトの関係は上手くいってはおらん──」

「はい。勿論存じてますわ……」

「──近年そなたの国では騎士や兵士を束ねる騎士団長キーガンの内政上の発言力が強まった結果と、我が方では分析している。自国の勢力を外へと押し広げようというキーガンを中心とする強硬派の意見が国内で強く指示されるようになったためとな……今そなたの国の騎馬兵団が頻繁に我が国と接する国境を脅かしており、我が国の被害は甚大になっている。残念至極だ。そこでマーガレット殿には暫く我が国に滞在してもらうことにさせてもらった──」

「──た、滞在だなんて! まるで観光旅行みたいに言わないで下さいます? わたしを国同士の争いに勝手に巻き込んで! わたしはあなた方の都合で連れ拐われたのですよ? わたしを早く国へ帰して頂戴、アンドレイ王! 」

「──王の御前だ! 場をわきまえろ! 小娘っ! 」

 マーガレットが臆することなく抗議の声を上げるや、すぐさま王より左手前の筆頭に列する甲冑を纏った大柄な男が声高に叫んだ。




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