記憶喪失のフリをしたら婚約者の素顔が見えちゃった

ミカン♬

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10 ビビアンを返してよ…… エリオット視点

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 なんか、いろいろ小細工しすぎた。
 思ってたより、ぜんぜんダメだった。大失敗


「ダイアナが妊娠したんだ、どうしよう」

 そう言ったときのブラッドの顔、面白かった。
 目の奥の正義感みたいなやつが、一瞬で濁る感じ。

「……お前、今度こそ父に殺されるぞ」

「じゃあさ、もう僕たちであの毒親、殺しちゃおうか?」

 結構マジで言ったつもりだったけど、ブラッドは苦笑いした。
 冗談だと思ったらしい。

「それで、どうするつもりなんだ」

「ビビアンを返してよ……
 ブラッドのこと、本当の婚約者だって信じてる。もう限界なんだよ」

「自分で蒔いた種だろ。婚約者のフリを押し付けたのは、お前じゃないか」

 ほんと、こういうとこ。
 正論とか筋とか、振り翳してくるから、気に障る。

「ねぇ、助けてよ!
 婚約破棄したくないんだ。……もしビビアンの記憶が戻って、僕と別れてたら……彼女、絶対に悲しむと思う。ビビアンが僕に夢中なの、知ってるでしょ?」

 こういう頼み方をしたら、ブラッドは断れない。
 昔からそう。

 面倒なことは、全部、兄が引き受けてくれる。
 たとえば、追試の代わり受けや、親への言い訳、厄介ごとの尻拭い。
 
 双子って、ほんとうに便利だと思う。

 ──ビビアンとの婚約が破談になりかけている。
 この事態をどうにかするために、僕はブラッドに、こう頼んだ。

「彼女の記憶が失われたその日から、傍らにいた“ブラッド”の正体──実は僕、エリオットだったというオチにして欲しい」と。

 ビビアンの記憶が戻ったとき、僕がそばにいた──と思い込ませるためにね。

「また彼女を騙すのか?」

 ブラッドは乗り気じゃなかったけど、
「僕の婚約者だからね。これからは大事にするから、協力してよ」って言って黙らせた。

 その上で、ビビアンにはブラッドのことを徹底的に嫌って欲しかった。

 記憶が戻ったとき、「ブラッドなんか大嫌い」と思ってもらえるように。
 だから、“ブラッドがダイアナを妊娠させた”なんていう、嘘まででっちあげたのに。
 

 ビビアンはすぐに嘘だと見抜いた。

「エリオット! 婚約は破棄よ! もう、こんなの、たくさん!」って大きな声で。

 オマケに僕を殴るなんて、信じられなかったよ。
 彼女の記憶はなくなって、別人に生まれ変わったみたいだ。

 まさか、本気でブラッドを好きになったんじゃないよね?
 兄は君のこと、大嫌いなんだからね。

 だからさ、戻ってよ、ビビアン。
 甘くて、何でも許してくれる、僕のビビアンに。

 今のままじゃ、本当に終わっちゃう。
 婚約破棄なんて絶対に許さないからね。

 どうしたら記憶って戻るの?


「ショックを与えれば、戻るかもしれないわ」

 そう言ったのは、ダイアナ。
 赤いマニキュアを直しながら。

「殴るとか? 僕がそんなことしたら、完全にアウトだ」

「知り合いに頼んでもいいけど……
 その代わり、約束は守ってもらうわよ?」

 ダイアナは僕を愛してる。たぶん。
 でもそれ以上に、お金が好き。
 僕がバレンシア子爵家を継いだら、こっそり生活の面倒を見て欲しいって。
 要するに、愛人志望。

 ──まかせてもいいか。
 バレても、彼女がやったことだし。
 僕は、知らないフリすればいい。

「じゃあ、これで」

 ビビアンからもらった高級腕時計を、ダイアナの手に渡す。

「任せて」

「あ、顔は傷つけないでよ」

 ダイアナは「ふんっ」て鼻で笑って、そのまま行っちゃった。


 あとから図書室を覗いたら、ビビアンはブラッドと試験勉強してた。
 距離が近い。
 笑い合ってる。

 イライラする。

 賢くなんて、ならなくていいのに。
 愚かなままのビビアンでいてよ。

 ……僕だけの、ビビアンでさ。



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