記憶喪失のフリをしたら婚約者の素顔が見えちゃった

ミカン♬

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12 手紙

 
 ブラッドに言われて、あれからすぐ手紙は出してあった。


 ──お父さま、お母さまへ

 こっちで元気にやってます。
 寮の暮らしも、もう慣れました。
 自分でやるって、思ったより大変だけど……
 そのぶん、おふたりがどれだけわたしを大事に育ててくれたか、よくわかります。

 急な話でごめんね。
 わたし、エリオットとの婚約、解消したいと思ってるの。

 彼ね、この一年の間に、他に好きな人ができたみたい。
 もうわたしのこと、好きじゃないの。

 たくさん泣いたよ。すごく、悲しかった。
 でも、そのとき、そばにいてくれた人がいてね……
 わたし、その人のこと、好きになっちゃったの。

 だから、エリオットとはこれでおあいこ。そう思うの。
 きっちりと穏やかに終わらせたい。

 ……ただ、カラント伯爵ってこわい人だから、
 双子に暴力ふるったらイヤだなって、それが少し心配。

 でも、誤解しないでね?
 わたしの気持ちは片思いで、浮気なんてしてない。
 むしろ最初に記憶喪失だなんてウソをついたのはわたしだから、自業自得なのよね。

 ごめんなさい、ずっと嘘ついてて。心配かけて。

 でも、あのウソがあったから、エリオットの本当の姿が見えたの。
 ……最低だった。もう、見たくもない。

 一日も早く、婚約を解消してもらえたら、うれしいです。

 わがままで、ごめんなさい。

 ――ビビアンより



 返事を待ってる間に、ダイアナたちは退学になった。
 そのあとはバレンシア子爵家の出番、たぶん父が動くと思う。

 それからエリオットも退学になるって。
 やっと静かになって、これで平和な学校生活が送れる……そう思ってたのに。


「なんで? なんでブラッドも退学なの?」

「……俺、エリックの代わりに追試を受けたんだ」

 えっ、そんなの、黙ってればよかったのに! 正直すぎるよ……

「ブラッドがいなくなったら、進級も、卒業も、むりかも」

「大丈夫。ビビアンは優秀だから。テストの結果を見たら、自信がつくよ」

「そんなことないと思う……集中できなかったし」

「たった一年勉強して、ここに入学できたんだ。ちゃんとやればできる」

 なんだか、泣きそう。


「……お別れだ。君を騙して、傷つけて、本当に悪かった」

「わたしも同じ。記憶喪失なんて……うっそぴょーん、って……ごめんなさい」

 ブラッドは少しだけ笑った。
「そうじゃないかって、時々ね、疑ったよ」
 なんて、軽く言うから、
 わたし、ほんと馬鹿だなあ、って思った。
 
「そ、それで、退学になって……これから、どうするの?」

「まずは婚約のことを片づける。それから、ゆっくり考えるよ」

「そっか」

「さようなら」
 そう言って、ブラッドは背を向けて歩き出した。

 呼び止めたかった。
 だけど、なんて言えばいいんだろう。
 だから、動けなかった。

 エリオットに失恋したときより、百倍つらかった。
 涙も三倍は出た。
 あとで頭がガンガンするくらい、わたし、いっぱい泣いた。

 * * *

 テストの結果は、100人中57番。
 ……びみょう。

 やっぱり、ブラッドがいないと、ダメだなあ、私。

 図書室、いつもの場所に座っても、ブラッドと過ごした時間を思い出すだけ。

 少しして、父から手紙が届いた。
「婚約は正式に解消された」と書いてあった。

 でも、そのあとに、信じられないことが続いた。

 カラント伯爵が重傷。親子で、殴り合いになったらしい。
 ブラッドが逮捕されて、牢屋に入ってるって。しかも、廃嫡になったって。

 うそ、うそでしょう?

 そういえば前に言ってた、「全部責任取って、過去を、帳消しにする」って。

 あのときは意味が分からなかった。
 これが、そういう事なの?

 きっと婚約を解消したからだ、
 どうしよう……

 手紙を持つ手が、震えてた。
 心が、ギュウってしめつけられた。

 
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