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第一章 ~『魔法の才能』~

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 ローランドに手を引かれ、連れてこられたのはダイニングだった。テーブルの上にはスープの入った白い皿が並べられている。中央にはパンが積まれた大皿も置かれていた。

「二人共、おはよう」

 最初に声を掛けたのは父親のユリアスだ。兄のローランドと瓜二つで、年齢を重ねていても美しさを保った顔立ちをしている。金髪と、澄んだ青い瞳が特徴的だった。

「今日のスープはカボチャです。冷めぬ内に食べてしまいなさい」

 母親のシャーロットが椅子に座るよう勧める。眼鏡をかけた黒髪の女性で、マリアともローランドとも似ていない。鷹のような鋭い目付きから厳しそうな印象を受けた。

「あとはミーシャだけか。ローランド、すまんが、起こしてやってくれ」
「マリアンヌのついでに声をかけたけど、部屋にはいなかったよ」
「なら外に遊びに出かけたんだな。こんな朝早くから勝手なことをしよって。あのバカ娘が」

 いつものことなのか、ユリアスは溜息を零す。その息に合わせるように、悩みの種となっている人物が扉を勢いよく開く。

「素晴らしい朝ね、凡人たち。私の登場よ!」

 現れたのは茶髪の少女だった。外見から察するに、年齢はマリアより上で、ローランドより下だ。だが態度の大きさだけは誰にも負けていない。

「さぁ、私の朝食はどこ?」
「ここだ、バカ娘」
「ふふ、私への不敬、お父様でなければ処刑していますわね」

 ユリアスに対しても、ミーシャの態度は変わらない。席に座ると、パンを二つ掴んで、自分の皿に置いた。

「こら、パンは一人一つだ」
「ならマリアンヌの分を私が頂くわ。銀髪のブスに食事なんて必要ないでしょうし」
「駄目に決まっているだろ。大人しく、そのパンをマリアンヌに返しなさい」

 父親の鋭い視線にもミーシャは怯まない。それどころか、二つのパンを同時に口の中に入れると、そのままペロリと飲み込んでしまった。

「胃袋の中に入っては返せませんわね」
「お前は本当に誰に似たんだ……」
「凡人のお父様でないことは確かですわね」

 ミーシャがここまで傲慢になれるのには理由があった。彼女は美しい茶髪の持ち主だ。容姿が整っていることもあり、男選びに困ることはないだろう。

 さらにもう一つ。彼女には絶対の自信となる根拠があった。

「美貌に加えて、男爵家の令嬢とは思えない魔法の才能。どうして、私はこんなに完璧なのかしら」
「お姉様はそれほどに優秀なのですか?」
「あら、マリアンヌ。私の実力に興味があるの?」
「どんな魔法が扱えるのか気になります」

 転生先の世界は、マリアの過ごした前世から数百年の時を経ている。時間は進化を生む。魔法の技術がどれだけ発展しているのか興味があった。

「ふふ、いいでしょう。姉の才に驚くがいいですわ。これが天才、ミーシャ・フォン・ルンベルの炎魔法ですわ」

 宣言と同時に、ミーシャは詠唱を始める。大気の精霊に問いかけることで魔素が反応し、魔力が炎へと変化していく。

 浮かんだ炎は蝋燭の火ほどの大きさだ。失敗したのかと思いきや、ミーシャはドヤ顔を浮かべている。

「どう、凄いでしょう?」
「あの、これで終わりでしょうか?」
「マリアンヌのくせに、私の炎魔法に文句でもあるの⁉」
「いえ、そういうわけでは……ただこの規模の炎魔法なら詠唱なしでもよいのでは?」
「馬鹿ね。魔法が詠唱なしで使えるはずないじゃない」
「使えますよ」
「え?」

 マリアは見本を示すように、手の平に炎を浮かべる。詠唱なしで、しかも炎の大きさは拳ほどもある。どちらの魔法が優れているかは一目瞭然だった。

「マリアンヌ、まさかお前……」

 家族たちは驚愕でゴクリと息を飲む。何かしてしまったのかと固まっていると、表情がパッと明るくなる。

「天才だったのか⁉」
「あ、あの、別に天才では……」
「謙遜しなくてもいい。さすがは私の娘だ! それにローランド、お前の教育のおかげでもある」
「僕はただ本を読み聞かせていただけで……でも凄いよ。これなら将来も安泰だね」

 娘に才能があったことを二人は素直に喜ぶ。だがミーシャはそれが気に入らないのか、不満をぶつける。

「な、なによ、魔法の才能があっても、マリアンヌはブスじゃない!」
「確かにマリアンヌの髪では、嫁ぎ先が見つからないだろう。だが魔法の才能があるなら話は別だ。宮廷勤めの魔法使いにでもなれば、下手な爵位持ちより裕福に暮らせる。恋だけが幸せのすべてではないからな」

 ユリアスの言う通りだ。前世と違い、愛してくれる家族がいるのだ。そこに魔法使いとしての成功が加われば、きっと幸せな人生を過ごせる。

 マリアはカボチャのスープを啜りながら、未来への希望を胸に抱く。隣のミーシャは彼女への嫉妬を剥き出しにするのだった。

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