4 / 9
第一章 ~『魔法の才能』~
しおりを挟むローランドに手を引かれ、連れてこられたのはダイニングだった。テーブルの上にはスープの入った白い皿が並べられている。中央にはパンが積まれた大皿も置かれていた。
「二人共、おはよう」
最初に声を掛けたのは父親のユリアスだ。兄のローランドと瓜二つで、年齢を重ねていても美しさを保った顔立ちをしている。金髪と、澄んだ青い瞳が特徴的だった。
「今日のスープはカボチャです。冷めぬ内に食べてしまいなさい」
母親のシャーロットが椅子に座るよう勧める。眼鏡をかけた黒髪の女性で、マリアともローランドとも似ていない。鷹のような鋭い目付きから厳しそうな印象を受けた。
「あとはミーシャだけか。ローランド、すまんが、起こしてやってくれ」
「マリアンヌのついでに声をかけたけど、部屋にはいなかったよ」
「なら外に遊びに出かけたんだな。こんな朝早くから勝手なことをしよって。あのバカ娘が」
いつものことなのか、ユリアスは溜息を零す。その息に合わせるように、悩みの種となっている人物が扉を勢いよく開く。
「素晴らしい朝ね、凡人たち。私の登場よ!」
現れたのは茶髪の少女だった。外見から察するに、年齢はマリアより上で、ローランドより下だ。だが態度の大きさだけは誰にも負けていない。
「さぁ、私の朝食はどこ?」
「ここだ、バカ娘」
「ふふ、私への不敬、お父様でなければ処刑していますわね」
ユリアスに対しても、ミーシャの態度は変わらない。席に座ると、パンを二つ掴んで、自分の皿に置いた。
「こら、パンは一人一つだ」
「ならマリアンヌの分を私が頂くわ。銀髪のブスに食事なんて必要ないでしょうし」
「駄目に決まっているだろ。大人しく、そのパンをマリアンヌに返しなさい」
父親の鋭い視線にもミーシャは怯まない。それどころか、二つのパンを同時に口の中に入れると、そのままペロリと飲み込んでしまった。
「胃袋の中に入っては返せませんわね」
「お前は本当に誰に似たんだ……」
「凡人のお父様でないことは確かですわね」
ミーシャがここまで傲慢になれるのには理由があった。彼女は美しい茶髪の持ち主だ。容姿が整っていることもあり、男選びに困ることはないだろう。
さらにもう一つ。彼女には絶対の自信となる根拠があった。
「美貌に加えて、男爵家の令嬢とは思えない魔法の才能。どうして、私はこんなに完璧なのかしら」
「お姉様はそれほどに優秀なのですか?」
「あら、マリアンヌ。私の実力に興味があるの?」
「どんな魔法が扱えるのか気になります」
転生先の世界は、マリアの過ごした前世から数百年の時を経ている。時間は進化を生む。魔法の技術がどれだけ発展しているのか興味があった。
「ふふ、いいでしょう。姉の才に驚くがいいですわ。これが天才、ミーシャ・フォン・ルンベルの炎魔法ですわ」
宣言と同時に、ミーシャは詠唱を始める。大気の精霊に問いかけることで魔素が反応し、魔力が炎へと変化していく。
浮かんだ炎は蝋燭の火ほどの大きさだ。失敗したのかと思いきや、ミーシャはドヤ顔を浮かべている。
「どう、凄いでしょう?」
「あの、これで終わりでしょうか?」
「マリアンヌのくせに、私の炎魔法に文句でもあるの⁉」
「いえ、そういうわけでは……ただこの規模の炎魔法なら詠唱なしでもよいのでは?」
「馬鹿ね。魔法が詠唱なしで使えるはずないじゃない」
「使えますよ」
「え?」
マリアは見本を示すように、手の平に炎を浮かべる。詠唱なしで、しかも炎の大きさは拳ほどもある。どちらの魔法が優れているかは一目瞭然だった。
「マリアンヌ、まさかお前……」
家族たちは驚愕でゴクリと息を飲む。何かしてしまったのかと固まっていると、表情がパッと明るくなる。
「天才だったのか⁉」
「あ、あの、別に天才では……」
「謙遜しなくてもいい。さすがは私の娘だ! それにローランド、お前の教育のおかげでもある」
「僕はただ本を読み聞かせていただけで……でも凄いよ。これなら将来も安泰だね」
娘に才能があったことを二人は素直に喜ぶ。だがミーシャはそれが気に入らないのか、不満をぶつける。
「な、なによ、魔法の才能があっても、マリアンヌはブスじゃない!」
「確かにマリアンヌの髪では、嫁ぎ先が見つからないだろう。だが魔法の才能があるなら話は別だ。宮廷勤めの魔法使いにでもなれば、下手な爵位持ちより裕福に暮らせる。恋だけが幸せのすべてではないからな」
ユリアスの言う通りだ。前世と違い、愛してくれる家族がいるのだ。そこに魔法使いとしての成功が加われば、きっと幸せな人生を過ごせる。
マリアはカボチャのスープを啜りながら、未来への希望を胸に抱く。隣のミーシャは彼女への嫉妬を剥き出しにするのだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
163
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
幼馴染に振られたので薬学魔法士目指す
MIRICO
恋愛
オレリアは幼馴染に失恋したのを機に、薬学魔法士になるため、都の学院に通うことにした。
卒院の単位取得のために王宮の薬学研究所で働くことになったが、幼馴染が騎士として働いていた。しかも、幼馴染の恋人も侍女として王宮にいる。
二人が一緒にいるのを見るのはつらい。しかし、幼馴染はオレリアをやたら構ってくる。そのせいか、恋人同士を邪魔する嫌な女と噂された。その上、オレリアが案内した植物園で、相手の子が怪我をしてしまい、殺そうとしたまで言われてしまう。
私は何もしていないのに。
そんなオレリアを助けてくれたのは、ボサボサ頭と髭面の、薬学研究所の局長。実は王の甥で、第二継承権を持った、美丈夫で、女性たちから大人気と言われる人だった。
ブックマーク・いいね・ご感想等、ありがとうございます。
お返事ネタバレになりそうなので、申し訳ありませんが控えさせていただきます。
ちゃんと読んでおります。ありがとうございます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
王妃となったアンゼリカ
わらびもち
恋愛
婚約者を責め立て鬱状態へと追い込んだ王太子。
そんな彼の新たな婚約者へと選ばれたグリフォン公爵家の息女アンゼリカ。
彼女は国王と王太子を相手にこう告げる。
「ひとつ条件を呑んで頂けるのでしたら、婚約をお受けしましょう」
※以前の作品『フランチェスカ王女の婿取り』『貴方といると、お茶が不味い』が先の恋愛小説大賞で奨励賞に選ばれました。
これもご投票頂いた皆様のおかげです! 本当にありがとうございました!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!
ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、
1年以内に妊娠そして出産。
跡継ぎを産んで女主人以上の
役割を果たしていたし、
円満だと思っていた。
夫の本音を聞くまでは。
そして息子が他人に思えた。
いてもいなくてもいい存在?萎んだ花?
分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。
* 作り話です
* 完結保証付き
* 暇つぶしにどうぞ
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】平凡な容姿の召喚聖女はそろそろ貴方達を捨てさせてもらいます
ユユ
ファンタジー
“美少女だね”
“可愛いね”
“天使みたい”
知ってる。そう言われ続けてきたから。
だけど…
“なんだコレは。
こんなモノを私は妻にしなければならないのか”
召喚(誘拐)された世界では平凡だった。
私は言われた言葉を忘れたりはしない。
* さらっとファンタジー系程度
* 完結保証付き
* 暇つぶしにどうぞ
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
私は聖女(ヒロイン)のおまけ
音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女
100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女
しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。
もう我慢なんてしません!家族からうとまれていた俺は、家を出て冒険者になります!
をち。
BL
公爵家の3男として生まれた俺は、家族からうとまれていた。
母が俺を産んだせいで命を落としたからだそうだ。
俺は生まれつき魔力が多い。
魔力が多い子供を産むのは命がけだという。
父も兄弟も、お腹の子を諦めるよう母を説得したらしい。
それでも母は俺を庇った。
そして…母の命と引き換えに俺が生まれた、というわけである。
こうして生を受けた俺を待っていたのは、家族からの精神的な虐待だった。
父親からは居ないものとして扱われ、兄たちには敵意を向けられ…。
最低限の食事や世話のみで、物置のような部屋に放置されていたのである。
後に、ある人物の悪意の介在せいだったと分かったのだが。その時の俺には分からなかった。
1人ぼっちの部屋には、時折兄弟が来た。
「お母様を返してよ」
言葉の中身はよくわからなかったが、自分に向けられる敵意と憎しみは感じた。
ただ悲しかった。辛かった。
だれでもいいから、
暖かな目で、優しい声で俺に話しかけて欲しい。
ただそれだけを願って毎日を過ごした。
物ごごろがつき1人で歩けるようになると、俺はひとりで部屋から出て
屋敷の中をうろついた。
だれか俺に優しくしてくれる人がいるかもしれないと思ったのだ。
召使やらに話しかけてみたが、みな俺をいないものとして扱った。
それでも、みんなの会話を聞いたりやりとりを見たりして、俺は言葉を覚えた。
そして遂に自分のおかれた厳しい状況を…理解してしまったのである。
母の元侍女だという女の人が、教えてくれたのだ。
俺は「いらない子」なのだと。
(ぼくはかあさまをころしてうまれたんだ。
だから、みんなぼくのことがきらいなんだ。
だから、みんなぼくのことをにくんでいるんだ。
ぼくは「いらないこ」だった。
ぼくがあいされることはないんだ。)
わずかに縋っていた希望が打ち砕かれ、絶望しサフィ心は砕けはじめた。
そしてそんなサフィを救うため、前世の俺「須藤卓也」の記憶が蘇ったのである。
「いやいや、俺が悪いんじゃなくね?」
公爵や兄たちが後悔した時にはもう遅い。
俺は今の家族を捨て、新たな家族と仲間を選んだのだ。
★注意★
ご都合主義です。基本的にチート溺愛です。ざまぁは軽め。みんな主人公は激甘です。みんな幸せになります。
ひたすら主人公かわいいです。
苦手な方はそっ閉じを!
憎まれ3男の無双!
初投稿です。細かな矛盾などはお許しを…
感想など、コメント頂ければ作者モチベが上がりますw
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
断捨離令嬢は恋の拾い方が判らない
cyaru
恋愛
パウゼン侯爵家のレイニーはある日「弾けた」
婚約者のフェリッツが「友人」のジュディスと不貞する場を見て、心の中で「パァン!」と何かが弾けた。
大富豪のパウゼン家。金だけは腐るほどあるのだが、王都を恐怖に陥れた黒死病でパウゼン家の血を引くものはレイニーと祖父のみ。
アンブレッラ王国では「入り婿」はとても恥ずかしい事だとされていたが、ヘゼル伯爵家のフェリッツが入り婿になるという確約の元、婚約が結ばれた。
しかしフェリッツは我が物顔でやりたい放題。
レイニーは前時代的な祖父の教えで「我慢する事」が当たり前のように考えてしまい、他人の顔色ばかり窺って「どうせお金はあるんだし」と言われるがままにフェリッツの機嫌を取って来た。
それで良いとは思っていなかったが、不機嫌をあてられるよりずっといい。そう思っていたのだが不貞の場を見たことで馬鹿馬鹿しくなった。
「捨てるわ!」思い立ったが吉日。レイニーはフェリッツ達から「似合う」と買わされたものを次々に捨てて行く。物が無くなると部屋が広くなり、心にもスペースが出来た。
「なんて気持ちいいの!」
極端に逆振れしたレイニーは兎に角物を捨てた。
「婚約が破棄できないなら家も捨てる」と言い出したレイニー。祖父もならばとヘゼル家との婚約を不貞行為を理由に破棄した。
だがパウゼン家が途絶えるとなると王家も困るし、祖父も困る。
国王が仲介となって新たな縁談が持ち上がった。
今度の相手は第3王子のグラウペル・アンブレッラ。
しかし、このグラウペル。大の女嫌いだった・・・。
★例の如く恐ろしく省略し、搔い摘んでおります。
★タグは出来るだけ検索で引っ掛からないようにしてます。
★話の内容が合わない場合は【ブラウザバック】若しくは【そっ閉じ】お願いします。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションでご都合主義な異世界を舞台にした創作話です。登場人物、場所全て架空であり、時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
二人目の妻に選ばれました
杉本凪咲
恋愛
夫の心の中には、いつまでも前妻の面影が残っていた。
彼は私を前妻と比べ、容赦なく罵倒して、挙句の果てにはメイドと男女の仲になろうとした。
私は抱き合う二人の前に飛び出すと、離婚を宣言する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる