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第一章
第一章 ~『弟子入りと魔女』~
しおりを挟む数日が経過したが、メアリーに対する周囲の態度に変化はなかった。使用人や騎士たちは、変わらない笑みを振りまいてくれる。
それはカインに対しても同様で、畏怖が向けられることはない。むしろ、憧れる者が増える結果となった。
(カイン様の人格のおかげでしょうね)
優しく、謙虚でありながらも強い。騎士たちは彼のようになりたいと、修練により時間を割くようになり、彼の評判はうなぎ登りだ。
(ただ予想していなかった反応もありましたね)
それはメアリーの次の婚約者に、カインこそが相応しいというものだ。
(皆の期待も理解はできます……)
容姿に優れ、人格者であるだけでなく、隣国の王子で、騎士団長として部下からも慕われている。
そこにワイバーン千体を瞬殺する魔術の腕が加わったのだ。彼を次期領主にと望む声が高まるのも無理はなかった。
(カイン様が素敵な人だとは認めます。ですが私は……)
もう一度、婚約破棄されたらと恋に臆病になっていた。だが友情なら壊れる心配がない。だからこそ、今のままの関係性維持を彼女は望んでいた。
(ずっと変わらない時間を過ごせれば私は満足ですから)
自室のベッドで横になりながら、天井を見上げていると、窓の外から小鳥の鳴く声が聞こえてくる。子供の頃から変わらない聞き慣れた音色だ。
ノスタルジーに浸りながらゆったりとした時間を過ごしていると、扉がノックされる。その叩くリズムから訪問者が誰か分かった。
「カイン様ですね、どうぞ」
「失礼するよ」
入室してきたカインは気恥ずかしそうである。メアリーと結ばれて欲しいとの噂を彼も耳にしたからだろう。
「有名になりすぎるのも困ったものだね」
「私のために、ご苦労をおかけします」
「構わないさ。満更でもないしね」
軽口のように好意を伝えてくれるのは、彼なりの優しさだ。真剣な告白であれば白黒を付けなければならない。曖昧な灰色のままでも良いと、彼が許しを与えてくれているのだ。
「それでカイン様はどんな御用で?」
「実は君に頼みがあってね。僕に魔術を教えてほしいんだ」
「私がカイン様にですか!」
完璧超人のカインに師事を求められるとは思わなかったので驚きを隠せなかった。
「実はね、僕は魔術が使えないんだ」
「王族の教練の中で習わなかったのですか?」
「剣技と比べると、才能が乏しかったからね。我が家は優れた能力を伸ばす方針だったから、魔術については二の次になっていたんだ」
「ですが、カイン様からは魔力を感じますよ」
「魔物討伐のおかげだろうね。闘いの中で自然と魔力が増えたんだ」
「十分にありえますね」
倒された魔物は魔力を霧散させるが、この時、一部の魔力が討伐者に移動するのだ。魔物との戦闘経験が、彼の肉体に魔力を蓄積させてくれたのだ。
「カイン様の魔力量は常人と比較しても多いです」
「子供の頃から魔物とばかり戦っていたからね」
「でも魔術は使わなかったのですね」
「宝の持ち腐れとはこのことだね」
下地はあるため、後は技術さえ習得すれば魔術が扱えるようになる。努力家の彼なら、きっと成長速度も早い。教えるのはさぞかし楽しいだろう。
だが弟子にする前にどうしても確認しなければならないことがあった。
「カイン様はなぜ魔術を習得したいのですか?」
「気になるかい?」
「動機が分かれば、最適な鍛錬を提案できます。そして……いえ、こちらの理由はいりませんね」
魔術は極めれば国を滅ぼすことさえ可能だ。悪意ある者に伝授するわけにはいかないため弟子にする場合、理由の確認は必要となる。
だがカインの人間性はよく知っている。彼が私利私欲のために魔術を使うとは思えないため、わざわざ確認することを止めたのだ。
「……僕はワイバーン千体を倒した魔術師ということになっている。でもいつかボロが出るかも知れない。だからこそ、嘘を真実に変えたいんだ」
今度こそメアリーの力を頼らずにとも問題を解決したい。そんな想いを乗せた言葉をぶつけられ、自然と笑みが溢れた。
「分かりました。ただし私はスパルタですよ」
「望むところさ」
努力家のカインならば、いつかメアリーさえも超えられる日が来るかも知れない。二人の師弟関係がスタートし、心の距離が近づいていくのだった。
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