他人の寿命が見える私は、婚約者の命が残り3ヶ月だと知っている~婚約破棄されて辺境の実家に帰ることになった令嬢は隣国の王子から溺愛されます~

上下左右

文字の大きさ
20 / 39
第一章

第一章 ~『超級魔術師と魔女』~

しおりを挟む

 ワイバーン討伐から数日後のこと、メアリーはカインから貴賓室に来て欲しいと呼び出しを受けていた。

 貴賓室は複数ある客室の中でも特に重要な人物をもてなす際に使用される部屋だ。廊下を進み、部屋の前まで辿り着くと重厚な扉が出迎えてくれる。

「失礼しますね」

 ノックをして扉を開けると、気後れしそうなほどに豪華絢爛な室内が待っていた。高い天井には彫刻が施され、壁には美しい絵画が掛けられいる。

 部屋の中央には大きな黒塗りのソファが配置され、そこにはカインが腰掛けていた。

「来てくれたんだね。ありがとう」
「カイン様お一人なのですか?」
「来賓は用件を終えたからね。すでに帰った後さ」

 どのような用件だったのかと問うよりも前に、テーブルの上に置かれた褒賞状が目に入る。王家の紋章と讃辞で満たされた文面から訪問理由にも推測がついた。

「ワイバーン討伐に関する訪問ですよね?」
「僕を救国の英雄として称えるとのことだ」
「重責を背負わせて申し訳ないです……」
「僕が君に助けてほしいと願った結果だ。責任を受け入れるのも覚悟の上さ」

 カインに後悔はない。正しい選択をしたと、声には自信が満ちていた。

「どのような方が来賓されたのですか?」
「第一王子が直々に讃辞を届けてくれたよ。君は会ったことがあるかな?」
「いえ、お会いしたことは……どのような人なのですか?」
「優秀だよ。それに器も大きい。きっと次期国王は彼で間違いないだろうね」
「私からすればカイン様も優秀な人ですよ」
「ははは、ありがとう」

 カインが苦笑を零したのは、同じ王子でもカインの生まれ故郷とは大きな力の差があるからだ。

 シルバニア辺境伯領を始めとする力ある領家をまとめあげるリンテンブル王国は、大規模な領地と軍事力を誇る世界最強の国家だ。

 それに対してカインの生まれ故郷であるエルント王国は領地が小さく経済力も劣っている。リンテンブル王国からすれば吹けば吹き飛ぶような小国家だが、現国王の外交手腕で平和を維持していた。

「さて、本題に入ろう。ワイバーン討伐の功績で僕は名誉と宝物が与えられたんだ」
「名誉とは爵位でしょうか?」

 男爵、いや伯爵もありうる。その考えを否定するように彼は首を横に振る。

「さすがに隣国の王子には爵位を与えられないそうだ。その代わり、超級魔術師に認定されたよ」
「それは予想以上の名誉ですね」

 手をパチパチと叩いて賞賛を送る。だがカインはピンと来ていないのか釈然としない表情を浮かべていた。

「魔術師の世界にはまだ疎くてね。それほど名誉あることなのかい?」
「ええ。超級魔術師は世界で五人目しかいませんから。リンテンブル王国ではお父様だけですよ」
「あれ? メアリーは?」
「選ばれていません。私は上級魔術士止まりですから」

 術式と同じように魔術師にも等級が存在する。初級、中級、上級、超級と区分されており、彼女は上級に区分されていた。

「もちろん上級魔術師になるのも簡単ではありませんよ。なにせ私を含めて百人ほどしかいませんから……ただ私はあまり等級に興味がありません。だから超級に選ばれなくて、むしろ良かったとさえ感じています」

 世界で五人の超級に選ばれれば、望まなくても目立ってしまう。それは彼女の本意ではなかった。

「でも不思議だね。メアリーほどの力がありながら、今まで超級魔術師に選ばれてこなかったなんて……」
「超級に選ばれるには国家の危機を救わなければならないのです。私が魔物駆除で救ったのはアイスビレッジ公爵領だけですから。上級止まりなのですよ」
「それなのに領民たちは君に感謝しなかったんだね」
「あの領地は魔術を陰気なものとして馬鹿にする文化がありましたから……」
「酷い話だね」

 恩人に石を投げるような行いに、カインは憤ったように眉根を釣り上げる。

「私のために怒ってくれて、ありがとうございます」
「君は大切な人だからね。当然さ」
「カイン様……」
「そうだ、君に渡すものがあった」

 カインはソファの脇に置かれていた杖を手に取る。深海のような青の魔石が埋め込まれており、淡い光を内部から放っている。杖の柄には美しい波紋のような模様が彫り込まれ、水の流れるような曲線が繊細に表現されていた。

「その杖は……」
「名誉とは別に与えられた宝物でね、国宝に指定されるほどに貴重な品だそうだよ。メアリー、これは君のものだ」
「私には必要ありません」
「しかし……」
「杖は魔術のコントロールを円滑にするものですから。馬の鞍と同じようなものです。私には必要ないのですよ」

 凄腕の魔術師であるメアリーは杖がなくても緻密な制御が行える。宝の持ち腐れになるだけだ。

「でも、カイン様の役には立てるはずです。あなたが受け取ってください」
「だが君の活躍でワイバーンを倒せたのに」
「素晴らしい道具も活かされなければ持ち腐れですから」
「分かった……この杖は僕が受け取るよ。だから代わりの品を受け取ってほしい」

 あらかじめ用意していたのか、カインは脇からドレスを取り出す。しなやかなシルク生地で作られ、繊細な刺繍が施された桜色のドレスは、着用しなくとも美しいと思える品だった。

「このドレスは?」
「もしかしたら君が杖の受け取りを拒否するかもしれないと思ってね。用意していたのさ」

 二人は幼馴染であり、互いの性格をよく知っている。名目上は杖を授与されたのがカインである以上、メアリーが素直に受け取らない可能性が高いと予想していたのだ。

「君が黒のドレスばかりを着ていることは知っている。でも別のドレスがもう一着くらいあっても良いかなと思ってね。受け取ってくれるかな?」
「ふふ、ありがとうございます。大切にしますね」

 贈られたドレスをギュッと抱きかかえながら感謝を伝える。喜びが伝わったのか、伝播したように彼もまた微笑むのだった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~

白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。 王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。 彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。 #表紙絵は、もふ様に描いていただきました。 #エブリスタにて連載しました。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

聖女を騙った罪で追放されそうなので、聖女の真の力を教えて差し上げます

香木陽灯
恋愛
公爵令嬢フローラ・クレマンは、首筋に聖女の証である薔薇の痣がある。それを知っているのは、家族と親友のミシェルだけ。 どうして自分なのか、やりたい人がやれば良いのにと、何度思ったことか。だからミシェルに相談したの。 「私は聖女になりたくてたまらないのに!」 ミシェルに言われたあの日から、私とミシェルの二人で一人の聖女として生きてきた。 けれど、私と第一王子の婚約が決まってからミシェルとは連絡が取れなくなってしまった。 ミシェル、大丈夫かしら?私が力を使わないと、彼女は聖女として振る舞えないのに…… なんて心配していたのに。 「フローラ・クレマン!聖女の名を騙った罪で、貴様を国外追放に処す。いくら貴様が僕の婚約者だったからと言って、許すわけにはいかない。我が国の聖女は、ミシェルただ一人だ」 第一王子とミシェルに、偽の聖女を騙った罪で断罪させそうになってしまった。 本気で私を追放したいのね……でしたら私も本気を出しましょう。聖女の真の力を教えて差し上げます。

護国の聖女、婚約破棄の上、国外追放される。〜もう護らなくていいんですね〜

ココちゃん
恋愛
平民出身と蔑まれつつも、聖女として10年間一人で護国の大結界を維持してきたジルヴァラは、学園の卒業式で、冤罪を理由に第一王子に婚約を破棄され、国外追放されてしまう。 護国の大結界は、聖女が結界の外に出た瞬間、消滅してしまうけれど、王子の新しい婚約者さんが次の聖女だっていうし大丈夫だよね。 がんばれ。 …テンプレ聖女モノです。

神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星井ゆの花
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」 「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」 (レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)  美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。  やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。 * 2025年10月25日、外編全17話投稿済み。第二部準備中です。 * ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。 * ブクマ、感想、ありがとうございます。

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

処理中です...