他人の寿命が見える私は、婚約者の命が残り3ヶ月だと知っている~婚約破棄されて辺境の実家に帰ることになった令嬢は隣国の王子から溺愛されます~

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第二章

第二章 ~『看病と魔女』~

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 倒れたクロイツェンが医務室へと運ばれる。部屋の隅に設置された大型のベッドに横たわり、その周りを囲うようにメアリーたちが集まっていた。

 窓から差し込む光が部屋を明るく照らしていたが、医務室の雰囲気は対照的に暗い。陰鬱とした空気の中で、メアリーが口火を切る。

「クロイツェン様はウィルス性の心臓病です。感染力は弱いので簡単には伝染らないですが、長時間一緒にいると可能性は高まります。そのため、こちらの医務室に隔離させていただきました」

 メアリーの対応は迅速だった。医務室は消毒され、使用人たちにも接近しないように伝えていた。

「これから私が看病をします」
「それは駄目だ」

 カインが反対するのは、メアリーの身を案じたからだ。だが彼女は首を横に振る。

「私の光魔術を使えば、完治は無理でも延命ならできます」
「だとしても君を危険に晒すわけには……」

 カインにとってメアリーは誰よりも優先して守るべき対象だ。だが彼女自身は違う。

「助ける手段を持ちながら、見殺しにはできません」
「……説得は無駄かな?」
「ご察しの通りです」

 幼馴染であるカインはメアリーの性格を熟知している。こういう時の彼女が絶対に折れないと知っていた。

「分かった、認めるよ。ただし僕も手伝わせて欲しい」
「それは……」
「君も僕が頑固だと知っているだろ」
「ふふ、仕方ありませんね」

 カインの性格上、メアリーだけを危険に晒せるはずもなかった。言っても聞かないと知っているからこそ、彼の申し出を受ける。

「私も手伝いますわ」

 続いて声を挙げたのはエリーシャだ。彼女はドレスの裾をぎゅっと掴みながら、勇気を振り絞っていた。

「あなたも感染するかもしれませんよ」
「覚悟の上ですわ。だって私の家族ですもの」

 その台詞を聞いていたのか、クロイツェンは意識を朦朧とさせながらも微笑む。彼が言った通り、思慮が足りないだけで、根は悪い娘ではないのかもしれない。

「では、お二人はクロイツェン様の汗を拭ってください。私は並行して光魔術の治療を行います」

 カインがお湯を用意し、エリーシャは丁寧にクロイツェンの体を温かい布で拭いていく、青白く、息を荒くするクロイツェンを健気に看病していた。

(私も負けていられませんね)

 手に集めた光のエネルギーを丁寧にクロイツェンの身体へ流し込んでいく。その光は柔らかな輝きを放ち、彼を優しく包み込んだ。

(生命力さえ戻れば、きっと延命できるはずです)

 クロイツェンとは少し話しただけだが、身内の不義理を恥じる優れた人間性の持ち主である。このまま死なせるには惜しい人物だ。

 練り上げた魔力の光が、ウィルスによって蝕まれた彼の肉体を癒やしていく。顔色も次第に健康的になり、荒れていた息も落ち着いていった。

 残りの寿命を確認してみると、三日から一週間に伸びていた。光魔術がさっそく効力を発揮したのだ。

「応急処置は成功しました。少なくともすぐに命を落とすことはないでしょう」
「――ッ……ありがとうございますわ」

 家族のピンチを救われ、エリーシャは涙ながらに感謝する。

「ですが、根本的な治療ができたわけではありません」
「どうにか治せませんの?」
「いまはまだ治療薬が存在しませんから……」

 王都でも猛威を振るっている難病だ。いずれは治療薬も開発されるだろうが、それがいつになるかは誰にも分からない。

「私も協力しますので、クロイツェン様を一緒に助けましょうね」
「あの……っ……」
「どうかしましたか?」
「改めて謝罪させてくださいまし。私が間違っていましたわ」

 父親の危篤がエリーシャを変えたのか、この僅かな時間で彼女は人として大きな成長を遂げていた。それが分かるほどに心の込められた真摯な謝罪だった。

「失礼します、お嬢様。温かいタオルをお持ちしました」

 医務室の扉が開かれ、足を踏み入れたのはエマと同僚の使用人たちだ。ウィルスの感染リスクがあると知りながらも怯える様子はない。

「どうしてエマ様がここに?」
「お嬢様たちだけに負担を強いるわけにはいきませんから……もちろん感染を広げるつもりもありません。話し合って、タオルや食事の用意で協力することにしたんです」
「皆さん……ありがとうございます……」

 使用人たちの温かい優しさに感動していると、カインは何かを思い出したかのように微笑む。

「僕が子供の頃にも似たことがあったね……」
「カイン様が高熱で倒れた時ですね」

 使用人に助けてもらいながら、カインを必死に看病したのだ。あの頃は今よりも魔力が少なかったため、光魔術の効力も弱く、治療に苦戦したことを覚えている。

「いま、僕の命があるのは君のおかげだ」
「カイン様は大袈裟ですね」
「少なくとも僕はあの時の恩を忘れないよ。君のためなら命だって捨てられる」
「そんなことを口にしてはいけませんよ。あなたには長生きしてもらわないと。なにせ私の大切な幼馴染なのですから」

 幼馴染という言葉を受けて、カインはどこか寂しそうな横顔を浮かべる。それは長い付き合いのメアリーでさえ、見たことのない表情だった。

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