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第二章
第二章 ~『自己犠牲の治療と魔女』~
しおりを挟む治療を開始してから三日が経過した。峠を超えて、残りの寿命が一週間の状態を保てるようにはなったが、未だに根本的な治療には至っていなかった。
交代制で看病を行っていることもあり、皆の表情には疲労が浮かぶようになっていた。体の免疫力が低下すれば、被害が拡散してもおかしくない。
(奥の手さえ使えれば……)
カインやエリーシャの看病の申し出を認めたのは、仮に彼らが感染したとしても、何とかする秘策があったからだ。
だがその手を打つための条件はまだ満たされていない。医務室の座椅子に腰掛けながら、頭を抱えていると、扉が開かれた。
「メアリー、手伝いに来たよ」
医務室に姿を現したカインは、ベッドで横になるクロイツェンを一瞥する。この三日間、ずっと意識を失っており、顔色も悪くなっていた。
「たった三日で随分と痩せたね」
「ベッドから動けないですからね……」
光魔術で生命力を付与すれば、食べなくても餓死することはない。だが肉体は動かさなければ着実に衰えていく。
「メアリーの体調の方はどうだい?」
「一晩中、光魔術を使い続けていましたから……疲労は隠しきれないですね」
「僕が光魔術を使えれば、代われるのにね……」
「人はそれぞれに役目があるのですよ」
光魔術の適性は希少だ。その限られた才能を今回はたまたまメアリーが持っていただけに過ぎない。
「カイン様の優しさだけ頂いておきますね……それに私はタフですから。まだまだ頑張れま――ゴホッ、ゴホ」
「メアリー、大丈夫かい!」
咳き込んだ際に、真っ赤な血が手にべったりと付着する。吐血した理由にはすぐに察しが付いた。
「どうやら私もウィルスに感染したようですね」
「なんだって!」
付きっきりの看病が感染に繋がったのだ。カインは額に焦りの汗を浮かて、心配そうに目を細める。
「君をこんなところで死なせはしない! 僕が必ず治療法を見つけ出すから!」
「いつも冷静なカイン様らしくない反応ですね……」
「それくらい君は僕にとって、かけがえのない人なんだ!」
カインが目尻に涙を浮かべながら訴えかける。声も張り上げていたからか、医務室の外にいたエリーシャも踏み込んでくる。
「どうかしましたの!」
「たいしたことはありませんよ。私がウィルスに感染しただけです」
「それは只事ではありませんわよ!」
「いえ、すべて想定通りですから」
事態を軽く受け止めているのはメアリーだけだ。彼らを安心させるため、秘策の内容を明かす。
「私は感染するのを待っていました」
「どういうことだい?」
「光魔術は他者よりも自分に使うほうが効果はより大きくなるのです。いまも体内でウィルスを駆除していますが。あと数分もすれば完全に除去できるでしょう」
「つまり君の病気は治せるんだね?」
「はい。そして一度でも治療法を体で覚えれば、それをお手本にして他者も治療できます」
秘策の内容を語るメアリーに対し、カインは呆れ顔を浮かべる。
「君はなんて無茶を考えるんだ……」
「反対されると思いましたから。秘密にしていたのですよ」
自分を犠牲にして、治療法を編み出すと伝えたらきっと反対されていたはずだ。だからこそカインには奥の手を黙っていたのだ。
「呆れましたよね?」
「ああ。でも同じくらい他人のために命を張れる君を尊敬するよ」
「お褒めの言葉、ありがたく受け取っておきます」
体内のウィルス除去が終わる。治療法のノウハウを体で覚えたメアリーは、クロイツェンに癒やしの輝きを浴びせる。
光に包まれたクロイツェンの顔色が見る見る内に回復して意識を取り戻した。
「ここは……」
ベッドから起き上がったクロイツェンが周囲を見渡し、エリーシャと顔を見合わせる。父親の無事を確認した彼女は抱きつくと、大粒の涙を流した。
「パパが無事で良かったですわ!」
メアリーたちは親子が抱き合う瞬間を微笑ましげに見つめる。美しい絆を前にして、体を張った甲斐があったと治療の達成感に満たされるのだった。
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