他人の寿命が見える私は、婚約者の命が残り3ヶ月だと知っている~婚約破棄されて辺境の実家に帰ることになった令嬢は隣国の王子から溺愛されます~

上下左右

文字の大きさ
31 / 39
第二章

第二章 ~『自己犠牲の治療と魔女』~

しおりを挟む

 治療を開始してから三日が経過した。峠を超えて、残りの寿命が一週間の状態を保てるようにはなったが、未だに根本的な治療には至っていなかった。

 交代制で看病を行っていることもあり、皆の表情には疲労が浮かぶようになっていた。体の免疫力が低下すれば、被害が拡散してもおかしくない。

(奥の手さえ使えれば……)

 カインやエリーシャの看病の申し出を認めたのは、仮に彼らが感染したとしても、何とかする秘策があったからだ。

 だがその手を打つための条件はまだ満たされていない。医務室の座椅子に腰掛けながら、頭を抱えていると、扉が開かれた。

「メアリー、手伝いに来たよ」

 医務室に姿を現したカインは、ベッドで横になるクロイツェンを一瞥する。この三日間、ずっと意識を失っており、顔色も悪くなっていた。

「たった三日で随分と痩せたね」
「ベッドから動けないですからね……」

 光魔術で生命力を付与すれば、食べなくても餓死することはない。だが肉体は動かさなければ着実に衰えていく。

「メアリーの体調の方はどうだい?」
「一晩中、光魔術を使い続けていましたから……疲労は隠しきれないですね」
「僕が光魔術を使えれば、代われるのにね……」
「人はそれぞれに役目があるのですよ」

 光魔術の適性は希少だ。その限られた才能を今回はたまたまメアリーが持っていただけに過ぎない。

「カイン様の優しさだけ頂いておきますね……それに私はタフですから。まだまだ頑張れま――ゴホッ、ゴホ」
「メアリー、大丈夫かい!」

 咳き込んだ際に、真っ赤な血が手にべったりと付着する。吐血した理由にはすぐに察しが付いた。

「どうやら私もウィルスに感染したようですね」
「なんだって!」

 付きっきりの看病が感染に繋がったのだ。カインは額に焦りの汗を浮かて、心配そうに目を細める。

「君をこんなところで死なせはしない! 僕が必ず治療法を見つけ出すから!」
「いつも冷静なカイン様らしくない反応ですね……」
「それくらい君は僕にとって、かけがえのない人なんだ!」

 カインが目尻に涙を浮かべながら訴えかける。声も張り上げていたからか、医務室の外にいたエリーシャも踏み込んでくる。

「どうかしましたの!」
「たいしたことはありませんよ。私がウィルスに感染しただけです」
「それは只事ではありませんわよ!」
「いえ、すべて想定通りですから」

 事態を軽く受け止めているのはメアリーだけだ。彼らを安心させるため、秘策の内容を明かす。

「私は感染するのを待っていました」
「どういうことだい?」
「光魔術は他者よりも自分に使うほうが効果はより大きくなるのです。いまも体内でウィルスを駆除していますが。あと数分もすれば完全に除去できるでしょう」
「つまり君の病気は治せるんだね?」
「はい。そして一度でも治療法を体で覚えれば、それをお手本にして他者も治療できます」

 秘策の内容を語るメアリーに対し、カインは呆れ顔を浮かべる。

「君はなんて無茶を考えるんだ……」
「反対されると思いましたから。秘密にしていたのですよ」

 自分を犠牲にして、治療法を編み出すと伝えたらきっと反対されていたはずだ。だからこそカインには奥の手を黙っていたのだ。

「呆れましたよね?」
「ああ。でも同じくらい他人のために命を張れる君を尊敬するよ」
「お褒めの言葉、ありがたく受け取っておきます」

 体内のウィルス除去が終わる。治療法のノウハウを体で覚えたメアリーは、クロイツェンに癒やしの輝きを浴びせる。

 光に包まれたクロイツェンの顔色が見る見る内に回復して意識を取り戻した。

「ここは……」

 ベッドから起き上がったクロイツェンが周囲を見渡し、エリーシャと顔を見合わせる。父親の無事を確認した彼女は抱きつくと、大粒の涙を流した。

「パパが無事で良かったですわ!」

 メアリーたちは親子が抱き合う瞬間を微笑ましげに見つめる。美しい絆を前にして、体を張った甲斐があったと治療の達成感に満たされるのだった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~

白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。 王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。 彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。 #表紙絵は、もふ様に描いていただきました。 #エブリスタにて連載しました。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

聖女を騙った罪で追放されそうなので、聖女の真の力を教えて差し上げます

香木陽灯
恋愛
公爵令嬢フローラ・クレマンは、首筋に聖女の証である薔薇の痣がある。それを知っているのは、家族と親友のミシェルだけ。 どうして自分なのか、やりたい人がやれば良いのにと、何度思ったことか。だからミシェルに相談したの。 「私は聖女になりたくてたまらないのに!」 ミシェルに言われたあの日から、私とミシェルの二人で一人の聖女として生きてきた。 けれど、私と第一王子の婚約が決まってからミシェルとは連絡が取れなくなってしまった。 ミシェル、大丈夫かしら?私が力を使わないと、彼女は聖女として振る舞えないのに…… なんて心配していたのに。 「フローラ・クレマン!聖女の名を騙った罪で、貴様を国外追放に処す。いくら貴様が僕の婚約者だったからと言って、許すわけにはいかない。我が国の聖女は、ミシェルただ一人だ」 第一王子とミシェルに、偽の聖女を騙った罪で断罪させそうになってしまった。 本気で私を追放したいのね……でしたら私も本気を出しましょう。聖女の真の力を教えて差し上げます。

護国の聖女、婚約破棄の上、国外追放される。〜もう護らなくていいんですね〜

ココちゃん
恋愛
平民出身と蔑まれつつも、聖女として10年間一人で護国の大結界を維持してきたジルヴァラは、学園の卒業式で、冤罪を理由に第一王子に婚約を破棄され、国外追放されてしまう。 護国の大結界は、聖女が結界の外に出た瞬間、消滅してしまうけれど、王子の新しい婚約者さんが次の聖女だっていうし大丈夫だよね。 がんばれ。 …テンプレ聖女モノです。

神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星井ゆの花
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」 「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」 (レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)  美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。  やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。 * 2025年10月25日、外編全17話投稿済み。第二部準備中です。 * ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。 * ブクマ、感想、ありがとうございます。

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

処理中です...