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第一章 ~『魔物の討伐履歴』~
しおりを挟む「こちらの依頼はどうでしょうか?」
エマが運んできたのはギルドの依頼をまとめた図鑑だ。先頭にある薬草探しの依頼ページが開かれていた。
目を通すと、魔物の森で薬草を集め、近くのヒューリック村へと届けて欲しいという依頼だった。
「あの、これは……」
「どうです。悪くない依頼でしょう。魔物と戦う必要がないから安全ですし、依頼料は銀貨三枚と納得の金額です!」
スターティア地区の中堅冒険者が一日働いて手に入る報酬相場が銀貨三枚だ。それを薬草集めだけで稼げるなら悪い話ではない。
だが現在のジンはレベル40の猛者だ。より効率的に稼ぎたいとの欲が湧く。
「あのぉ、できれば魔物討伐の依頼だとありがたいのですが」
「ですが一人で魔物と闘うのはやっぱり危険ですよ!」
「はい。でも僕も冒険者ですから。魔物との闘いを避けて通ることはできません」
「ジンさんがそう言うなら……このスライム退治の依頼とかどうです?」
「いえ、それよりも……オークの討伐依頼とかありませんかね?」
「オーク!」
エマの驚きの声はギルド内に響き渡るほどに大きかった。酒を飲んでいた冒険者たちの注目が集まる。
「あ、ごめんなさい。オークの生息域は危険エリア2ですもんね。討伐依頼なんてありませんよね?」
「いえ、ありますよ。オークはゴブリンの進化種ですから。滅多に出現しませんが、可能性としてはゼロではありませんから」
エマがページを捲って、オーク討伐の依頼票を見せてくれる。報酬は金貨三枚。魔物退治としては破格の報酬だった。
「オーク討伐って儲かるんですね」
「危険エリア1ですからね……腕に自信のある冒険者はエリア2へと旅立ちますから。オーク出現の際には、冒険者が総出で立ち向かうのですよ」
「山分け前提だから報酬が高いというわけですね……」
もしオーク討伐依頼を危険エリア2の冒険者ギルドで受けても、金貨三枚の報酬は得られないだろう。
スターティアのギルドに話を持ってきたのは正解だった。ジンはステイタス画面を開き、戦績情報を示す。
「依頼って過去に遡って受けることも可能ですよね?」
「もちろん」
「実は僕、オークを倒したんですよ。これが証拠です」
「またまたぁ、冗談を……って、ええええ!」
「信じてくれましたか?」
「ド、ドラゴンを討伐……それも単独で……」
「あっ!」
戦績情報には、今まで討伐してきた魔物の情報が時系列順に並んでいる。オークの下にはドラゴン討伐の戦績がしっかりと残されていた。
「ドラゴンをどうやって倒したのですか!? いえ、それよりもスターティア地区にドラゴンはいません。どこで見つけたのですか!?」
「偶然、死にかけていて……ゴブリンから進化したのかな?」
「しませんよ!」
「でも、ダンジョンの秘密は完全に解き明かされていないですし、そういう進化もあるのかも」
「……っ、な、納得できませんが、魔物がエリア越えしたと考えるよりは自然かもしれませんね」
それぞれのエリアには包み込まれるように結界が張られている。その結界は一方向にしか進むことができず、一度足を踏み出すと、二度と戻ってくることはできない。
この仕組みがあるから、危険エリア1の住民は、ドラゴンのような魔物に怯えずに暮らしていけるのだ。エマもその前提を疑うようなことはしない。まだ進化の方が信じられると、ジンの説明に一応の理解を示した。
「戦績情報に記されているなら、ジンさんがオークとドラゴンを倒したのは事実なのでしょう。ですが残念ながらドラゴン討伐は依頼にありませんから。報奨金はでませんよ」
「元々、オークだけのつもりでしたから。それは構いません……それより、エマさん。なんだか怒っていませんか?」
「怒っていますとも! オークだけでも危険なのに、ドラゴンと戦うなんて……命がいくつあっても足りませんよ!」
「……ぅ――は、反省します」
「よろしい。では許します」
エマの怒りはジンの身を案じてのモノだ。それが何だか嬉しくて意識しないままに口角が吊り上がる。
「これが報酬です。大切に使ってくださいね」
オーク討伐の報酬をエマがカウンターテーブルの上に置く。金貨三枚の革袋がドシっと音を鳴らした。
「これが僕の全財産ですからね。使い道はしっかりと考えま――」
「どうかしましたか?」
「エマさん、僕、最高の使い道を思いつきました! さっそく買いに行ってきます!」
「ちょ、ちょっと待ってください。いったい何を買うと?」
「決まっています。《銅の剣》を買いに行くんですよ!」
ジンは冒険者ギルドを飛び出す。彼の頭の中にはオーク討伐の報酬を何十倍にも膨らませるプランが描かれているのだった。
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