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第一章 ~『道具屋でのリーシャとの出会い』~
しおりを挟む《銅の剣》を手に入れるために、ジンは街の道具屋を訪れていた。そこには武器だけでなく、薬草やポーションなど冒険に必要なアイテムも売られている。
武器と道具を一緒に売っているのは単純に商品数が少ないからだ。武器は大きく二種類しかなく、《棍棒》と《銅の剣》のみである。
「ジン、よく来たな。性悪の勇者は一緒じゃないのか?」
カウンターに座る店主がジンに声をかける。黒髭の巨漢が狭いスペースに押し込まれている姿は何だか苦しそうだ。
彼の名はグラトン。本人曰く、元はスターティア地区でも有名な冒険者だったそうだ。
「クリフとはパーティを解消したのさ」
「ガハハ、それは愉快だな。それで次は誰と組むんだ?」
「当分は一人で行動するよ」
「それは危険だな。何ならワシが仲間になってやろうか?」
「気持ちだけ受け取っておくよ。街一番の道具屋がなくなって、冒険者たちから恨まれたくないからね」
「ガハハ、嬉しいことを言ってくれる。確かにワシは街に必要な人間だ。冒険をしている暇はない。ワシの力が惜しいだろうが、諦めてくれ」
「ふふふ、分かったよ」
仲間になりたいと誘ってきたのは、パーティを追放されたジンに対するグラトンなりの慰めだ。
心遣いだけで十分だと、礼を伝える。そして本題に入るために、懐から革袋を取り出した。中には三枚の金貨が入っていた。
「《銅の剣》を売って欲しい。銀貨一枚だよね?」
「言いづらいんだが、実は値上がりしてな……銀貨三枚だ」
「え、でも、どうして?」
「魔物が活性化していてな。武器の需要が増しとるのさ。棍棒でさえも、銅貨五枚で取引されているくらいだ」
「それはタイミングが悪かったね」
銅貨十枚で銀貨一枚、銀貨十枚で金貨一枚の価値がある。つまり金貨三枚で《銅の剣》は十本しか買うことができない。
「でもまぁいいか。《銅の剣》を十本買っていくよ」
「十本って、予備にしても買いすぎじゃないか?」
「ちょっと使い道があってね。詳しいことは聞かないで欲しい」
「ジンがそういうなら聞かないでやるが……だがこれで在庫は空だ。また仕入れないとな」
グラトンが店の奥から《銅の剣》を束にして運んでくる。金貨と交換で受け取ると、《旅行鞄》のスキルで異空間に保存する。
「お、おい、今のはなんだ?」
当然、グラトンはジンのスキルに驚く。質問に答えずに、曖昧な笑みを浮かべていると、彼は自分の中で納得する。
「スキルか……詳細は秘密だろうが、その力が《銅の剣》を欲しがった理由ってことだな?」
「…………」
「ガハハハッ、思った以上に将来有望株かもな。よし、先行投資だ。おまけに薬草も付けてやる」
「いいの?」
「おう、持っていけ。ただし、うちの店をこれからも贔屓にしてくれよ」
「任せてよ。知り合いにも宣伝しておくね」
「さすがはジンだ。商売というものを分かっているな」
戸棚から取り出した薬草を受け取る。煎じて飲めば毒や麻痺を癒やせるため、冒険するなら持っておきたいアイテムの一つだ。
「じゃあ、僕は帰るよ」
「おう、またな」
ジンは店を後にしようとする。その時だ。道具屋の扉が勢いよく開かれ、銀髪赤眼の少女が店内に飛び込んでくる。
透明感のある白磁の肌に朱色の外套がよく似合っていた。アーモンド形の瞳と、色素の薄い唇は、はっとさせられるほどに美しい。
そんな彼女だが、額に玉の汗が浮かんでいた。急ぎの用でもあるのか、縋るようにグラトンのいるカウンターテーブルへと向かう。
「あ、あの、この店の薬草をすべて売ってください」
「薬草か……だがそれは……」
「お金ならあります。病気の祖父を助けるためなんです。お願いします」
瞳に涙を浮かべながら少女は懇願する。グラトンは困り顔で頬を掻く。
「実はな、そこの兄ちゃんに、すべて売っちまったんだ」
グラトンはジンを指さす。少女は振り返ると、ジッと彼の顔を見つめた。
「あ、あの、薬草を私に譲っていただけませんか! お金なら払いますから!」
「お金はいらないよ。はい」
「え、でも……」
「元々オマケで貰ったものだからさ。お金を取るのは心苦しいんだ」
「……ぅ――あ、ありがとうございます。慈悲深き心に感謝です!」
「大袈裟だなぁ」
「いえ、あなた様は大切な恩人です。お名前を聞かせてください!」
「僕はジン。君は?」
「私はリーシャ。ヒューリック村のリーシャです!」
薬草を受け取ると、リーシャは頭を下げる。祖父に薬草を届けるために店を後にした。
「人助けは気分がいいや」
ジンもまた続くように店を出る。周囲には誰もいない。魔力を消費し、《一人旅》のスキルを発動させる。
移動先は終末の街エデン。《銅の剣》を転売するために、彼は最も危険なエリアへと旅立つのだった。
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