ラスボス手前でレベルアップ ~《旅行》のスキルが役立たずだと追放されましたが、終末の街で最強装備を揃えました~

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第二章 ~『ヒューリック村の復興』~

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 『都市旅行』のスキルで、スターティア地区の村へと転移したジンは周囲を見渡す。右手には鬱蒼とした森が広がり、正面には石造りの建物がポツリポツリと並んでいる。視線を上に上げると、『ヒューリック村へようこそ』との看板が掲げられていた。

「聞き覚えのある村の名前だ」

 どこで聞いたかを思い出そうと頭を捻るが、すぐには出てこない。そんな時である。森の方角から女性の悲鳴が届く。

「襲われている人がいるのかも」

 頭に浮かんだ可能性は二つ。一つは野盗の存在だ。森や山に潜み、迷い込んだ村人を襲う。罪を犯した元冒険者も多く、敵となれば厄介な存在だ。

 二つ目の可能性は魔物の出現だ。基本的に魔物はダンジョン内に生息しているが、地上へ這い出てくる者もゼロではない。

 森の中で繁殖した魔物たちは、しばしば村人たちを襲う。野盗と違い、理性を持たない魔物が相手だからこそ、急いで救出しなければならない。

「声が聞こえるくらいだから、距離はそう遠くないはずだ」

 声の主を救出するために、泥濘を駆ける。レベルアップしたことで、足の速さも大幅に向上していた。

 鬱蒼とした森を進むと、気配を感じとる。その正体を確認すると、三体のゴブリンの群れだった。

「女性の姿がない。もしかして自力で逃げられたのかな」

 心配が杞憂で終わればいいのにと願いながら、腰のナイフを手にする。魔物を前にしてやることは一つだ。


 ゴブリンの間合いに近づくと、漆黒の刃で急所を切り裂く。緑の血が吹き上がった。

 手には肉を裂いた感触が残る。相手がゴブリンなら後れを取ることはない。だが魔物は生命力が強いため、もし仕損じれば、いずれ復活し、再び村人の脅威となる。しっかりとゴブリンの生死を確認してから、安堵の息を吐く。

「やっぱり魔物と戦うのは緊張するなぁ」

 数日前まで、ジンはゴブリン相手に苦戦していた。その頃の苦い思い出が油断を忘れさせてくれた。

 ナイフに付着した血を拭うと、鞘に納める。緊張が解けたことで、肉体に感じる違和感に気づいた。不思議な活力が身体に満ちていたのだ。

「レベル40の僕がゴブリンを倒したくらいでレベルアップするはずないし。いったいどうしてだろ?」

 疑問を解消するためにステイタスを確認する。すると装備欄に、情報が追記されていた。

Aランク武器:《黒龍の小刀》:
 『使用者の望みに応じて成長する』
 追加効果《ゴブリンに対する必殺能力。ステイタス差を無視して倒すことが可能》

Aランク防具:《黒龍の外套》:
 『使用者の望みに応じて成長する』
 追加効果《ゴブリンを倒すと、使用者の身体能力が一時的に向上》

「僕がゴブリンを倒したいと願ったから武器も成長したのか。さすがはAランク評価だね」

 《銅の剣》で満足していた頃にはもう戻れない。次なる敵を求めて、ジンは周囲を見渡す。そこで泥濘に足跡が残っていることに気づいた。

「近くにゴブリンの巣があるようだね」

 ゴブリンは捕らえた獲物を一旦巣へと持ち帰り、仲間と獲物を分け合う習性がある。この先に悲鳴をあげた女性がいるかもしれない。ジンが足跡を辿って進むと、洞窟が見えてきた。

「周囲にゴブリンの姿はなしと」

 洞窟の中に入ると、ひんやりとした空気に包まれる。土壁に囲われた道をまっすぐに直進する。

「そろそろかな」

 ダンジョンでゴブリンと戦っていた頃を思い出す。彼らは狡猾だ。いつだって不意を突こうとする。

 最初の一体は岩陰から飛び出してきた。歯を剥き出しにしながら襲ってくる。

 だが動きは遅く、ジンならば捌くのは容易い。躱しざまに黒刃を奔らせ、ゴブリンの身体に傷を刻む。必殺の効果が発動すると、眠るように膝を折り、ゴブリンは命を落とした。

「ははは、これは便利だ」

 トドメを刺したことを確認する必要もない。倒れたゴブリンを無視して先に進むと、次に現れたのは三体のゴブリンだ。

 タイミングを合わせて一斉に襲い掛かってきたが、ジンの身体能力は《黒龍の外套》の効果で上昇している。

 目にも止まらない速度で、ゴブリンを斬り刻む。即死の効果が発動し、ゴブリンはその場に崩れ落ちた。時間稼ぎにもならないほどの戦力差だった。

「そろそろかな」

 洞窟の最奥にまで辿り着く。ゴブリンの姿はない。だが代わりにオークが石造りの玉座に座っていた。

「オークか。最近は随分と多いな」

 オークがジンの姿を認め、立ち上がろうとする。しかしその一瞬を見逃す彼ではない。間合いを詰めると、腹にナイフを突き刺し、クルリと回転させた。

 オーク相手に特攻効果は働かなかったが、急所に刺さった一刀は命を奪うに十分な一撃だった。腹から緑色の血を流して、椅子の上で冷たくなった。

「これで敵は全員倒した。あとは助け出すだけだ」

 魔物は捕らえた獲物を保管する貯蔵庫を用意しており、そこはボスであるオークの近くにあると考えるのが自然だ。

 岩壁にジッと視線を巡らせると、岩肌の色が不自然な個所を見つける。

「秘密扉か。やっぱりゴブリンの知能は馬鹿にできないなぁ」

 扉を押すと、大穴が開き、その先には大きな空間が広がっていた。餌として捕まった人間の死体がミイラのような状態で吊られている。傍には食用の山菜も保存されていた。

「まだ生きている人はいないか……」

 生存者を探すために、吊られている人をチェックして回る。そこで意識を失っている見覚えのある少女を発見する。

 透明感のある白磁の肌に朱色の外套がよく似合っている。アーモンド形の瞳と、色素の薄い唇は、忘れたくても忘れられないほどに美しい。

「確か名前は……そうだ、リーシャだ」

 道具屋以来の再会を果たす。彼女との邂逅がこれからの彼を変えていくのだった。
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