ラスボス手前でレベルアップ ~《旅行》のスキルが役立たずだと追放されましたが、終末の街で最強装備を揃えました~

上下左右

文字の大きさ
15 / 15

第一章 ~『ゴブリン肉のシチュー』~

しおりを挟む

 リーシャの手料理をご馳走になるために食卓へと案内される。白いテーブルクロスの上にはシチューとパンが並んでいた。

「お爺さんは?」
「病み上がりだから、しばらく安静にしているとのことです」
「ずっと寝ていたし、お腹が空いていないのかな?」
「なぜだかお腹がいっぱいだそうで」
「薬の効果かもね」

 ポーションは体調を回復させるために、栄養が多量に含まれている。ハイポーションなら、それはポーションの比ではない。空腹でさえ満たせる万能薬。それこそがハイポーションの力だった。

「しばらくは祖父を街のお医者様のところに預けようかと思います」
「ずっと目を覚まさないような大きな病にかかっていたんだ。経過を観察するためにも、そのほうが良いね」

 餅は餅屋である。ハイポーションを飲んだことで本当に完治したかどうかは素人のジンには判断できない。専門家に診てもらうべきだ。

「では食事にしましょうか」
「折角のご馳走だからね。冷める前に食べないと」
「ジン様のお口に合うとよいのですが……」
「この見た目だ。絶対に美味しいに決まっている」

 ジンが最初に手を伸ばしたのはサラダだ。山で採れた山菜は、シャキシャキと口の中で弾ける。パンもしっかりと焼けており、小麦の甘みが口の中に広がった。

「うん。美味しいよ。次はいよいよメインディッシュのシチューだね」

 デミグラスソースでゴブリン肉が煮込まれている。スプーンで肉を掬い上げると、プルプルと震えていた。

「ゴブリン肉なのに柔らかいね」
「空気を圧縮する魔道具を使うと、トロトロになるんです。硬いゴブリン肉も、ご馳走に生まれ変わるんですよ」
「へぇ~、それは凄い」

 魔道具とは、その名の示す通り、魔力を込めるだけで、誰でも魔法を発動することができる便利な道具のことである。

 例えば調理器具などがそうだ。魔力で火を起こせる魔道具は生活に欠かせない必須アイテムとなっている。

「では、いただきます」

 トロトロになった肉を恐る恐る口の中に放り込む。独特の臭みは消えており、旨味だけが口の中一杯に広がった。

「このシチュー、すごく美味しいよ」
「喜んでもらえたのなら作り甲斐がありました。おかわりもあるので、遠慮なく仰ってください」

 二人は談笑しながら食事を楽しむ。エデンの食事と比べれば豪華とはいえないが、それでも幸せを実感できる味だった。

「ご馳走様」
「ふふふ、お粗末様です」
「リーシャのお爺さんは幸せ者だね。いつもこんな美味しい料理をご馳走してもらえるのだから」
「いえ、普段の食事はもっと質素ですよ」
「え、そうなの?」
「ジン様から受けた恩を僅かでも返すために奮発しました。これでもきっとまだ足りないと思いますが……」
「僕はただ薬をあげただけで」
「ですが、あの薬はハイポーションですよね?」
「知っているの?」
「昔はスターティア地区でも製造されていましたから。噂には聞いたことがあります。なんでもポーション百本分の原液を混ぜ合わせて作るとか……」
「百本か。それであんなに高かったのか……」

 特別な製造技術がなくても、素材さえあれば精練できる。しかし金貨九枚の薬を買えるような経済的余裕を持つ者はスターティア地区にほとんどいない。

 需要がなければ供給しても仕方がないと、製造がストップしてしまったのだ。

「あ、あの、薬代、いつか必ず返しますから」
「いいよ、別に。食事もご馳走になったしね」
「いいえ、いけません。ジン様は冒険者です。命懸けで稼いだお金を私のために使ってくれたのですから。受けた恩には必ず報いるべしというのが、我が家の家訓です!」
「…………」

 リーシャの瞳には強い意志が込められている。恩を感じなくてもいいと伝えても、きっと勝手に感謝するだろう。

 ハイポーションの代金を稼ぐために、過労になられても困る。妙案がないかと頭を捻り、そこで当初の計画を思い出す。

 スターティア地区の発展。そのための足掛かりとしてヒューリック村を拠点とするのは悪くない。

「それならこの家に住ませてもらってもいいかな?」
「もちろんです! ですが、それだけでは薬代に足りません」
「ならご飯も付けてもらおうかな。毎日の食事と宿代は馬鹿にならないからね。薬代として受け取るより、僕もそっちの方が助かるんだ」
「ジン様は、やっぱり優しい人ですね♪」

 ジンの厚意を感じ取ったリーシャは口元に笑みを浮かべる。二人の共同生活がとうとう始まったのだった。
しおりを挟む
感想 8

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(8件)

kj
2021.04.21 kj

あまり突っ込みとかいちいち入れるのもなんだけど「ハイポーションの購入」でハイポーションを売ってくれる人が途中から変わってしまっていますよ。

解除
太真
2021.04.20 太真

クリフの性格が原因だよね‼️エリスちゃんは気の毒です😭

解除
フォックス
2021.04.20 フォックス

コン◯ンとの往復でいい金策だな。ただしやり過ぎは値崩れの可能性があるが。この作品のコ◯ロン村は銅剣は鑑賞用だろうか?それとも縛りプレイ用だろうか?

解除

あなたにおすすめの小説

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

A級パーティーを追放された黒魔導士、拾ってくれた低級パーティーを成功へと導く~この男、魔力は極小だが戦闘勘が異次元の鋭さだった~

名無し
ファンタジー
「モンド、ここから消えろ。てめえはもうパーティーに必要ねえ!」 「……え? ゴート、理由だけでも聴かせてくれ」 「黒魔導士のくせに魔力がゴミクズだからだ!」 「確かに俺の魔力はゴミ同然だが、その分を戦闘勘の鋭さで補ってきたつもりだ。それで何度も助けてやったことを忘れたのか……?」 「うるせえ、とっとと消えろ! あと、お前について悪い噂も流しておいてやったからな。役立たずの寄生虫ってよ!」 「くっ……」  問答無用でA級パーティーを追放されてしまったモンド。  彼は極小の魔力しか持たない黒魔導士だったが、持ち前の戦闘勘によってパーティーを支えてきた。しかし、地味であるがゆえに貢献を認められることは最後までなかった。  さらに悪い噂を流されたことで、冒険者としての道を諦めかけたモンドだったが、悪評高い最下級パーティーに拾われ、彼らを成功に導くことで自分の居場所や高い名声を得るようになっていく。 「魔力は低かったが、あの動きは只者ではなかった! 寄生虫なんて呼ばれてたのが信じられん……」 「地味に見えるけど、やってることはどう考えても尋常じゃなかった。こんな達人を追放するとかありえねえだろ……」 「方向性は意外ですが、これほどまでに優れた黒魔導士がいるとは……」  拾われたパーティーでその高い能力を絶賛されるモンド。  これは、様々な事情を抱える低級パーティーを、最高の戦闘勘を持つモンドが成功に導いていく物語である……。

追放された俺の木工スキルが実は最強だった件 ~森で拾ったエルフ姉妹のために、今日も快適な家具を作ります~

☆ほしい
ファンタジー
ブラック企業で過労死した俺は、異世界の伯爵家の三男・ルークとして生を受けた。 しかし、五歳で授かったスキルは「創造(木工)」。戦闘にも魔法にも役立たない外れスキルだと蔑まれ、俺はあっさりと家を追い出されてしまう。 前世でDIYが趣味だった俺にとっては、むしろ願ってもない展開だ。 貴族のしがらみから解放され、自由な職人ライフを送ろうと決意した矢先、大森林の中で衰弱しきった幼いエルフの姉妹を発見し、保護することに。 言葉もおぼつかない二人、リリアとルナのために、俺はスキルを駆使して一夜で快適なログハウスを建て、温かいベッドと楽しいおもちゃを作り与える。 これは、不遇スキルとされた木工技術で最強の職人になった俺が、可愛すぎる義理の娘たちとのんびり暮らす、ほのぼの異世界ライフ。

異世界転生特典『絶対安全領域(マイホーム)』~家の中にいれば神すら無効化、一歩も出ずに世界最強になりました~

夏見ナイ
ファンタジー
ブラック企業で過労死した俺が転生時に願ったのは、たった一つ。「誰にも邪魔されず、絶対に安全な家で引きこもりたい!」 その切実な願いを聞き入れた神は、ユニークスキル『絶対安全領域(マイホーム)』を授けてくれた。この家の中にいれば、神の干渉すら無効化する究極の無敵空間だ! 「これで理想の怠惰な生活が送れる!」と喜んだのも束の間、追われる王女様が俺の庭に逃げ込んできて……? 面倒だが仕方なく、庭いじりのついでに追手を撃退したら、なぜかここが「聖域」だと勘違いされ、獣人の娘やエルフの学者まで押しかけてきた! 俺は家から出ずに快適なスローライフを送りたいだけなのに! 知らぬ間に世界を救う、無自覚最強の引きこもりファンタジー、開幕!

追放された荷物持ち、【分解】と【再構築】で万物創造師になる~今更戻ってこいと言われてももう遅い~

黒崎隼人
ファンタジー
勇者パーティーから「足手まとい」と捨てられた荷物持ちのベルク。しかし、彼が持つ外れスキル【分解】と【再構築】は、万物を意のままに創り変える「神の御業」だった! 覚醒した彼は、虐げられていた聖女ルナを救い、辺境で悠々自適なスローライフを開始する。壊れた伝説の剣を直し、ゴミから最強装備を量産し、やがて彼は世界を救う英雄へ。 一方、彼を捨てた勇者たちは没落の一途を辿り……。 最強の職人が送る、痛快な大逆転&ざまぁファンタジー!

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。