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第二章 ~『優秀な女王』~
しおりを挟むクレアが女王に就任してから数か月が経過した。王族が生きていたと知り、国中が大騒ぎとなったが、すぐに落ち着きをみせた。
先代の女王が国民から愛されていたおかげで、その一人娘であるクレアを歓迎する声が大きかったからだ。
女王として認知されたクレアは、アイスバーン公爵家の屋敷を後にし、王宮で暮らすようになった。
だが彼女は豪華絢爛な王宮で、悠々自適な毎日を過ごしているわけではない。新たな女王として、王族の務めに没頭していた。
(女王の仕事は聞いていた以上に多忙ですね)
執務室で書類の山に囲まれながら、ふぅと一息つく。玉座不在の間に溜まっていた仕事がたくさん残っており、それを片付けるだけでも一苦労だった。
「クレア、手伝いにきたよ」
「お兄様!」
金髪蒼眼の整った顔立ちのギルフォードが顔を出すと、花が咲いたように執務室が華やかになる。
「お兄様が来てくれて助かりました。仕事が終わらなくて困っていたのです」
「クレアが一人でやっているのかい?」
「判断が求められる仕事はそうですね。ただそれ以外の仕事は文官の皆さんが手伝ってくれていますよ。とても頼りになるんです♪」
執務室では文官たちが書類と睨めっこしている。白髭を蓄えた彼らは、元々、アイスバーン公爵家で働いていたベテランたちである。クレアのために、ギルフォードが王宮に貸し出したのだ。
「知っているさ。なにせ僕を支えてきてくれた忠臣たちだからね」
「お兄様の負担に繋がってはいませんか?」
「大変だけど、今は僕よりクレアさ。それに彼らのノウハウを吸収して、成長していると聞いたよ」
「いえ、私なんてまだまだです」
「謙遜しなくてもいい。彼らは正直者だ。優秀な女王だと賞賛するなら、それは嘘偽りのない真実さ。だろ、皆?」
ギルフォードの問いかけに、文官の一人が大きく頷く。威厳のある顔立ちの彼は、白髭に手を触れながら笑みを浮かべる。
「クレア様のことは子供の頃から知っていますが、女王の立場になっても、優しいままですから。王宮に務める者で、悪く言う者は一人もいません」
先代女王の血を引いていることもあり、クレアにはカリスマがあった。人が付いていきたいと願う輝きがあったのである。
「それに勤勉です。我々が業務を終えた後も、クレア様は夜遅くまで勉強されている。だからこそ我らも頑張ろうと思えるのです」
「さすが僕の妹だね」
家族を褒められて悪い気はしない。ギルフォードは誇らしげに微笑むと、クレアを見据える。
「でも、あんまり無理しないようにね。女王の務めも大切だけど、健康を崩しては元も子もないからね。困ったらいつでも僕ら家族を頼って欲しい」
「お兄様は優しいですね……私、アイスバーン公爵家で育てられて本当に良かったです♪」
実の母は亡くしたが、クレアにはまだ家族がいる。甘えられる身内がいるだけで心が軽くなったような気がした。
「それに安全にも気を付けないとね」
「私に危害を加えるような人はいませんよ」
「そうともいえないよ。なにせ君は女王だ。利益のために排除したいと願う者がいてもおかしくはない。それにルインの存在もある」
「ルイン様がどうかされたのですか?」
「家を追放されたそうだ。行方知れずで、どこにいるかも分からない。逆恨みで襲ってくるかもしれないから注意すべきだね」
「そんな……」
婚約破棄された被害者であるはずのクレアだが、実家を追放されたルインに罪悪感を覚えてしまう。理性では自分が悪くないと知っていても、彼女の良心が申し訳なさを訴えたのだ。
「まさかサーシャも家を追放されたのですか⁉」
「クレアはそれを望むかい?」
「いえ、ルイン様を奪われましたが、大切な妹ですから。あまり惨いことはしないで欲しいです」
「君ならそう言うと思ったよ。だから屋敷での謹慎処分を言い渡している。外出はできないけど、普段と変わらない生活を送っているよ」
「それなら安心しました」
街で派手に豪遊するのが好きだったサーシャだ。外出できないのは辛いだろうが、だからこそお灸を据えることになる。
「それに謹慎処分も終わりが近い。なにせ帝国の第二皇子から縁談が届いたからね」
「帝国からですか⁉ それは凄いですね!」
「サーシャは容姿だけなら整っているからね。そこを気に入ったそうだ。彼女自身も前向きでね。帝国で贅を尽くした毎日を過ごすんだと、笑っていたよ」
王国の隣国である帝国は、数十倍の国土と経済力を誇る大国だ。その第二皇子と結婚できれば、王国で謹慎するよりも幸せになれると考えての判断だろう。
「帝国との縁が深まれば、この国にとっても大きなプラスになる。僕らもサーシャに負けないように王国に貢献しようか」
「ふふ、そうですね♪」
ギルフォードとクレアは協力して仕事を片付けていく。兄妹の絆を発揮し、積まれた書類を減らしていくのだった。
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