後宮画師はモフモフに愛される ~白い結婚で浮気された私は離縁を決意しました~

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第四章

第四章 ~『呪いの真相』~

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 謎を解いた雪華せっか承徳しょうとくは廊下を移動し、黒羽くろはの部屋を訪れる。窓の外は日が傾きかけており、空気も冷たさを増している。後宮全体が静けさに包まれているようだった。

黒羽くろは様、いらっしゃいますか?」

 雪華せっかは扉を軽く叩くが応答は返ってこない。

「不在でしょうか……」
「いや、中にいるはずだ」
「どうして分かるのですか?」
「耳が良くてね。小さくだが部屋の中から物音が聞こえたからね」

 承徳しょうとくの声は室内にも届いたのだろう。居留守は通じないと悟ったのか、ようやく扉が開かれる。

 姿を現した黒羽くろはは扉を僅かに開けたまま、半身を隠すようにして雪華せっかを睨む。その目には苛立ちと警戒心が浮かんでいた。

「私は忙しいんだけど……」
「お手間は取らせませんよ。伝えるべきことを伝えに来ただけですから……」

 雪華せっかが静かに告げると、黒羽くろはは唇を僅かに震わせながら、視線の鋭さを増す。

「伝えることって何よ」
「事件について謎が解けました。黒羽くろは様、あなたが犯人ですね」

 雪華せっかの一言はまるで刃のように空気を切り裂く。黒羽くろはの顔が強張り、平静とは呼べない表情に変わる。

「き、聞き捨てならないわね」
「では納得できるように説明しましょう」

 雪華はゴホンと息を鳴らすと、頭の中で整理した推理を披露するために口を開く。

「事件はあなたが部屋を荒らすところから始まりました。蛇の呪いに見せかけるために細工までして……私の評判を落とそうとしたんです」
「違うわ、あれは蛇の呪いよ!」
「いいえ、人間の仕業です。私も部屋を確認しましたが蛇にはできない荒らされ方でしたから」
「ま、待ちなさい! 誰があなたに部屋を見せたの?」

 裏切り者を問い詰めるような口調に対して、雪華せっかは首を横に振る。

「協力者が誰かは、事件の真相とは関係ありませんよ」
「そ、それはそうかもしれないけど……」
「反論は推理に対して、お願いします」
「うぐっ……な、なら、指摘させてもらうわ。今回の事件を引き起こしたのは呪いなのよ。現実の蛇にできない荒らし方ができても不思議じゃないわ!」

 超常現象だとすれば、どのような矛盾も説明できる。だが雪華せっかは反論になっていないと受け入れようとしない。冷静さを保つ雪華せっかを打ち崩すために黒羽くろはは言葉を重ねる。

「そ、そうだわ。あの部屋は密室だった。それはどう説明するの!」

 黒羽くろはの震えがちな声には追い詰められた焦りが滲んでいる。袖口をぎゅっと握りしめて、雪華せっかを睨みつけるが、彼女は冷静さを維持したまま静かに応じる。

「その謎については既に解明済みです。あなたはあの時、こう言いました。あの日、全員が管理人に鍵を預けていたと。この発言に私は違和感を覚えました」
「どうしてよ?」
「なぜ全員が預けたことを知っていたのですか?」
「――――ッ」

 鍵を預けずに自分で持つ者がいてもおかしくはないし、わざわざ会話の中で鍵を預けたと話すこともないだろう。

 だが黒羽くろはは全員が鍵を預けたと知っていた。その理由こそが密室の謎を解く最大のヒントだったのだ。

「そこで私はある可能性に思い当たりました。もしかすると遊びに行く前に、グループを代表して誰かが管理人に鍵を預けに行ったのではないかとね。確認してみたところ、その仮説は正しいことが分かりました。黒羽くろは様、あなたが皆から鍵を預かり、管理人の元へ届けたのです」

 その際、帰って来るまでに時間が掛かっていたことも確認済みだ。部屋を荒らすだけの時間は十分にあったのだ。

「罪を認めてくれますね?」
「わ、私は……」

 黒羽くろはは口を開くものの、喉の奥で何かが詰まったように言葉が続かない。瞳が揺れていることからも、後一押しの状態だった。

「言い逃れせずに大人しく罪を認めてくれるのなら、事件を大事にしないと約束しましょう」

 幸いにも部屋を荒らされたのは、黒羽くろはの友人たちばかりだ。イタズラとして処理してほしいと説得もできる。

「罪を認めた方が利口だよ。もし大事になれば、後宮からの追放もありえるからね」

 承徳しょうとくが追い打ちをかけると、黒羽くろはの顔がひきつり、唇が震える。もやは平静を装うことさえ困難になっていた。

「私よ……私が犯人よ!」

 震える声で黒羽くろはは罪を認める。そして崩れ落ちて床へ膝をつくと、力なく俯きながら肩を震わせた。

「動機は私への嫌悪ですか?」
「それもあるわ。でもね、それ以上に邪蓮じゃれんさんの占いが本物だと皆に証明したかったの」

 呪いが本当だと分かれば、邪蓮じゃれんの占いを信じる者が増える。彼女の役に立ちたい。それこそが事件を起こした動機だった。

邪蓮じゃれん様はこのことを知っていたのですか?」
「いいえ、知らないわ。すべて私の独断よ」
「そうですか……」

 黒羽くろはは否定するが、きっと邪蓮じゃれんは気づいていたはずだ。それでいながら、自分の手を汚さないように立ち回ったのだ。

(許せませんね……)

 その悪意に怒りを覚え、雪華せっかは拳を握りしめる。指が白くなるほどに力が入り、抑えきれない感情を心の中で燃え上がらせていくのだった。
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