9 / 60
第二章 ~『パートナー選び』~
しおりを挟む式典を終えて、ティアラと共にAクラスの教室へと向かう。階段型教室には横長の机が並べられており、自由な席に座ってよい形式だ。
席の数は二十人分用意されている。既に交友を深めたグループが盛り上がっているところもある。
(ティアラと友人になっていて、本当に助かりましたわ!)
既存のグループに話しかけるのは勇気がいる。だが声をかけられるほど積極的な性格でもない。隣に立つ友人が心強かった。
「マリア、ここの席に座ろう」
「いいですわね」
ティアラが確保してくれたのは後ろの窓際の席だ。まだ他の人に取られていない幸運に感謝しながら腰掛けると、続くように彼女の前の席に男性が腰掛ける。
(どうして、神父さんがいるのかしら⁉)
小麦色の肌に、綺麗な黒髪と黒目。鍛えられた肉体は修道服の上からでも分かるほどに盛り上がっていた。
「あ、あの、はじめまして」
「フン、俺に何の用だ……」
「え?」
「用事がないなら黙っていてくれ。俺は友人と話すのに忙しい」
ツンツンした態度を向けた後、彼は窓辺の小鳥に話しかけていた。その行動は異常者そのものだ。
(イケメンなのに、残念な人ですわ!)
最悪な第一印象を感じていると、ケインが教室へとやってくる。教卓の前に立つと、彼はグルリと周囲を見渡した。
「僕が君たちの担任になるケインだ。よろしくね。さっそくだけど、君たちの疑問を解消しようと思う」
その疑問とはなぜ大聖女候補が集められた教室に同世代の神父がいるのかだ。
その答えを伝えるため、ケインが指をパチンと鳴らすと、手帳が輝いた。中身を確認すると、新たなページが追加されていた。開くと、そこには学友である神父たちのプロフィールがズラリと並んでいた。
「これから君たちには、この場にいる神父の中から一人を選んでパートナーを組んでもらう。彼らは君たちの仲間であり、使用人でもある。なにせ大聖女候補は忙しい。学ぶだけで毎日が激務となるからね。それに候補生は命を狙われることもある。そんな時、彼らがボディガードとなり、守ってくれるはずさ」
予想もしていなかった展開に、教室の候補生たちがざわめく。逆に神父たちは冷静さを保っている。既に教会側から事情を聞いていたからだろう。
「もちろん、彼らにも特典がある。パートナーが大聖女へと至った際、莫大な報奨金と上級司教の地位が手に入るからね。特に後者はお金で買えない。公爵でさえ喉から手が出るほどに欲しい権威なのさ」
上級司教は王国に数えるほどしかいない。その権威は王族と並ぶ力があるため、十分過ぎるほどの報酬といえた。
「では誰と組むかだけど、ここにいる神父十名が投票し、票数の多い候補生が優先的にパートナーを選択できる。同数の場合は評価ポイントが高い者が優先されるから、順序が曖昧になることもないよ」
説明を受け、パートナーの選定の難しさを知る。
まずは票集めだ。同級生の神父たちに自分が大聖女になるだけの力があると示す必要がある。幸いにもマリアには主席合格という武器があるが、特徴のない人物だと票を集めるのも一苦労だ。
さらに問題はもう一つある。それはパートナーを誰にするかだ。
(手帳のプロフィールを読んだ限りだと、最も人気がありそうなのはジル様ですわね)
黄金の髪に、整った顔立ち。魔法の腕も超一流で、家柄も子爵家と悪くない。さらに幾つかのビジネスを成功させた経験もある商人としての顔も持ち、国内有数のお金持ちでもあった。
だが彼の本当の価値はその職業適性にある。万能――時間制約はあるものの、どんな適正も模倣できる。数ある適正の中でも上位数パーセントに位置する貴重な能力だった。
(ジル様は誰に投票するのかしら?)
ジッと視線を向けていると、彼は気づいたのか柔和な笑みを返してくれる。愛想も良く、人気者になるのは間違いないと確信した。
「投票は明日の夕方に実施するので、悔いのないようにね」
ケインは説明を終えると、授業を始める。内容が頭に入らないほど、パートナー選びの件で頭を悩ませるのだった。
2
あなたにおすすめの小説
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろう、ベリーズカフェにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
公爵令嬢アンジェリカは六歳の誕生日までは天使のように可愛らしい子供だった。ところが突然、ロバのような顔になってしまう。残念な姿に成長した『残念姫』と呼ばれるアンジェリカ。友達は男爵家のウォルターただ一人。そんなある日、隣国から素敵な王子様が留学してきて……
死に戻りの元王妃なので婚約破棄して穏やかな生活を――って、なぜか帝国の第二王子に求愛されています!?
神崎 ルナ
恋愛
アレクシアはこの一国の王妃である。だが伴侶であるはずの王には執務を全て押し付けられ、王妃としてのパーティ参加もほとんど側妃のオリビアに任されていた。
(私って一体何なの)
朝から食事を摂っていないアレクシアが厨房へ向かおうとした昼下がり、その日の内に起きた革命に巻き込まれ、『王政を傾けた怠け者の王妃』として処刑されてしまう。
そして――
「ここにいたのか」
目の前には記憶より若い伴侶の姿。
(……もしかして巻き戻った?)
今度こそ間違えません!! 私は王妃にはなりませんからっ!!
だが二度目の生では不可思議なことばかりが起きる。
学生時代に戻ったが、そこにはまだ会うはずのないオリビアが生徒として在籍していた。
そして居るはずのない人物がもう一人。
……帝国の第二王子殿下?
彼とは外交で数回顔を会わせたくらいなのになぜか親し気に話しかけて来る。
一体何が起こっているの!?
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。
けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、
やがて――“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー&聖女覚醒編
第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編
第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください>
私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
前世で私を嫌っていた番の彼が何故か迫って来ます!
ハルン
恋愛
私には前世の記憶がある。
前世では犬の獣人だった私。
私の番は幼馴染の人間だった。自身の番が愛おしくて仕方なかった。しかし、人間の彼には獣人の番への感情が理解出来ず嫌われていた。それでも諦めずに彼に好きだと告げる日々。
そんな時、とある出来事で命を落とした私。
彼に会えなくなるのは悲しいがこれでもう彼に迷惑をかけなくて済む…。そう思いながら私の人生は幕を閉じた……筈だった。
【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!
白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。
辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。
夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆
異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です)
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆
王太子妃専属侍女の結婚事情
蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。
未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。
相手は王太子の側近セドリック。
ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。
そんな二人の行く末は......。
☆恋愛色は薄めです。
☆完結、予約投稿済み。
新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。
ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。
そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。
よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる