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第二章 ~『ジルからのアプローチ』~
しおりを挟むパートナー説明を聞き終えたマリアとティアラの二人は寮を訪れていた。白で統一されたモダンな空間は、ガラス張りの窓から差し込む光で輝いていた。
「オンボロな建物を想像していましたが、意外にもお洒落なところですわね」
「ふふ、部屋だけではないぞ。食事に関しても優遇されている」
「カフェが無料で使えますのよね」
「お菓子も、軽食も、紅茶もすべてが無料だ。しかも元宮廷料理人が調理していると聞く。これも大聖女候補の特権だな」
「お腹が空きましたし、早速権利を使いましょうか」
時刻は正午と、お昼には丁度良いタイミングだ。二人はカフェのテラス席へと移動する。内庭の緑豊かな景色を眺めながら食事のできるベストスポットだった。
「私が食事を取ってこよう。マリアはなにがいい?」
「私はサンドイッチでお願いしますわ」
「任された」
ティアラが席を離れたのを見送ると、庭を茫洋と見つめながら、物思いに耽る。そんな彼女に一人の男性が近づいてくる。金髪赤眼の麗人――ジルである。
「ここの席いいかな?」
「でも近くに空席ならありますわよ?」
「君と話したいことがあるんだ。座るよ」
「あ……」
許可を待たずに、ジルは椅子に腰掛ける。正面に座ると、その整った容姿に魅了される。
(肌も綺麗ですし、瞳の色も宝石のようですわ)
なぜこんな美丈夫が自分に話しかけてきたのか。疑問がグルグルと頭の中で渦巻いていると、先にジルが口火を切った。
「回りくどいのは嫌いでね。率直に伝えるよ……私をパートナーにする気はないかい?」
「え⁉」
「私は役に立つよ。もちろん投票も君に入れる。是非、私を選んでくれ」
「そ、それは光栄ですわね」
一番人気だと思われるジルからの熱烈なアプローチは嬉しさもあるが、戸惑いが勝った。なぜ自分にと疑問に感じていると、ジルもそれを察したのか説明してくれる。
「初日だからね。知り合いならともかく、現時点で候補生たちの優劣を知る手段は評価ポイントしかない。そして君はクラスでトップの成績だ。私は子爵家に生まれた者として上級司教になる義務があるからね。是非、君のパートナーになりたいんだ」
いくらでも取り繕えるはずなのに、ジルは本心を隠そうとしなかった。正直な彼に好感を抱く。
(ジル様がパートナーなら心強いですしね)
彼の提案に乗ってもよいかもしれない。そんな彼女の想いを打ち消すように、新たな人影がテーブルを叩く。
「その判断は早いと思うわ。ジル、あなたは私――リーシェラを選ぶべきよ」
リーシェラと名乗った少女は眉尻の吊り上がった気の強そうな外見をしていた。金色の髪はよく手入れされているのか、陽光で輝いている。
「リーシェラ、また君か……」
「私は諦めが悪いの。それに私の評価ポイントは95点と、クラスでは二位の成績よ。さらに公爵家の令嬢で、あなたの幼馴染。将来まで見越すなら私を選ぶべきよ」
「残念だけど、君は大聖女になれないよ」
「どうしてよ⁉」
「大聖女は魔力や学業だけが評価されるわけじゃない。人間性も加点対象だからね」
「私の性格が悪いと⁉」
「率直に答えると、そうだね」
「――――ッ」
一触即発の空気が流れる。だがリーシェラの敵意はあろうことかマリアへと向けられた。
「あなたのせいよ!」
「私は悪くありませんわ!」
「あなたさえいなければ私がクラスで一番だったのよ!」
「それは逆恨みですわ……」
フンと鼻を鳴らしてリーシェラは立ち去る。そんな彼女に続くように、ジルも「パートナーの件、よろしくね」とだけ言葉を残し、リーシェラの後を追った。
「面倒なことになりましたわね……」
「マリアくんはいつも大変そうだね」
マリアのぼやきを拾ったのは、いつの間にかそこにいたケインだ。彼はコーヒーカップとケーキをテーブルに置くと、マリアをジッと見据える。
「ケイン様も私に御用ですか?」
「ああ。君の将来に関わる大切な話だ」
ゴクリと息を飲む。彼の美しい瞳を眺めながら、話が切り出されるのを待つのだった。
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