24 / 60
第三章 ~『白猫とダンジョン』~
しおりを挟む霊獣と契約するための試練に挑むため、マリアは一旦寮に戻って準備を整える。そのせいで他の候補生たちに出遅れてダンジョンへ到着するが、入り口前には他の候補生たちが留まったままだった。
「ティアラ!」
「マリア、一足遅かったな。残念だが、他の聖女たちは既に動き始めている」
「でも、みんなここにいますわよ」
「動いているのはパートナーの神父なんだ」
霊獣探しはダンジョンを踏破する体力と機動力が求められる。体力仕事ということもあり、神父の方が適任だからと皆は一任していたのだ。
そのため入口で待つ聖女たちは、パートナーが霊獣を捕まえて戻ってくるのを待つばかり。中にはピクニック感覚で紅茶を啜る者までいる始末だ。
「ティアラもカイト様を待っているんですの?」
「彼の動物と話せる能力を使えば、最短ルートで上位種の魔物を探すことができるからな。私が一緒では、むしろ足手纏いになる。彼に任せるのが最善だと判断したんだ」
「そうですの……」
合理的な判断だが、マリアはこの方法を採用できない。
なぜならケインは担任として候補生を引率する立場であり、聖女たちが集まっているダンジョンの入口から離れられないからだ。
(私は私の力で霊獣を探してみせますわ)
ケインをパートナーに選んだ時、このようなハンデは承知していた。心細さを感じながらも、ダンジョンへ向かおうとすると、ケインが声をかけてくれる。
「マリアくん、ちょっと待ってくれ」
「ケイン様、どうかしましたか?」
「これを渡したくてね」
ケインが一枚の紙を手渡す。中身を確認してみると、ダンジョン内部の地図だった。
「これって……」
「昨晩、一人でダンジョンに潜ったんだ。その時に調べた内容を記してある」
ケインの目元にはクマができていた。睡眠時間を削って、マリアのために調査してくれたのだ。
「感謝しますわ」
絶対に期待に応えてみせると意思を強め、土壁に囲まれた洞窟を進んでいく。ぼんやりと薄く光っているおかげで、暗いながらも歩くことができていた。
進んだ先で、さっそく三叉路にぶつかる。だがマリアにはケインから貰った地図がある。
(右に進むと行き止まりですわね。左に進むのが正解ですわ)
ケインに感謝しながら、最適コースを選択する。出遅れたハンデを覆すように、グングンと奥へ進んでいく。
そして到着したのは最奥部。ポタポタと水滴が落ちる空間で、目当ての魔物を発見する。
(あれがキャット種ですわね……でも……)
モフモフとした毛並みの白い猫――グレーでもブラックでもない。選択肢として残されたのは、最高得点が期待できるマジックキャットだ。
ただその身体の至るところに怪我を負っていた。そのせいか聖女に懐くと聞いていたキャット種でありながら、マリアにも敵意を向けている。
「にゃあああ!」
白猫の周囲を囲むように、空中に炎が浮かぶ。その炎の照準はマリアに向けられていた。
「わ、私はあなたの敵ではないですわ!」
「にゃあああ!」
マリアの説得は虚しく、炎が発射される。近づいてくる炎の弾丸は躱すことができないほどに速く、もう駄目だと諦めかけた時である。人影が彼女を庇うように前に立つ。その正体は彼女の良く知る人物――ジルだった。
「……大丈夫だったかい?」
「ジル様⁉」
ジルが背中を焼かれながらも庇ってくれたのだ。そんな彼を、マリアは回復魔法で癒す。淡い輝きに包まれ、彼の傷は最初からなかったかのように元どおりになる。
「君の回復魔法は凄いね」
「ジル様……どうして私なんかを……」
「君が魅力的だからさ。私が身を呈して守りたいと思うほどにね」
ジルは立ち上がると、懐からナイフを取り出す。
「人を傷つける魔物を生かしておくことはできない」
警戒しながら、ジルは徐々に近づいていく。脅威を感じ取ったのか、白猫は尻尾をピンと立てていた。
「ジル様、待って頂きたいですわ」
「だが……」
「私に任せてくださいまし」
両手を開くことで自分は無害だとアピールしながら、マリアは白猫に近づく。言葉だけは響かなかった。だが彼女は命を賭けている。警戒を向けられながらも、ゆっくりと白猫に近づき、ゆっくりと抱きしめる。
「大丈夫、私は安全ですわ」
白猫が彼女の肩に爪を突き立てるが、笑顔でそれを受け入れる。白猫に回復魔法を施し、傷を癒していくと、次第に抵抗が小さくなっていった。
「落ち着いてくれたようですわね♪」
「にゃああ」
「事情は分からないですが、あなたは酷い目にあって怯えていただけ。本来のあなたはきっと良い子ですわ」
「にゃー」
「ふふ、可愛いですわね」
白猫はマリアの優しさを理解したのか、尻尾を振って懐いてくれる。そして彼女の手には契約の模様が刻まれるのであった。
2
あなたにおすすめの小説
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろう、ベリーズカフェにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
公爵令嬢アンジェリカは六歳の誕生日までは天使のように可愛らしい子供だった。ところが突然、ロバのような顔になってしまう。残念な姿に成長した『残念姫』と呼ばれるアンジェリカ。友達は男爵家のウォルターただ一人。そんなある日、隣国から素敵な王子様が留学してきて……
死に戻りの元王妃なので婚約破棄して穏やかな生活を――って、なぜか帝国の第二王子に求愛されています!?
神崎 ルナ
恋愛
アレクシアはこの一国の王妃である。だが伴侶であるはずの王には執務を全て押し付けられ、王妃としてのパーティ参加もほとんど側妃のオリビアに任されていた。
(私って一体何なの)
朝から食事を摂っていないアレクシアが厨房へ向かおうとした昼下がり、その日の内に起きた革命に巻き込まれ、『王政を傾けた怠け者の王妃』として処刑されてしまう。
そして――
「ここにいたのか」
目の前には記憶より若い伴侶の姿。
(……もしかして巻き戻った?)
今度こそ間違えません!! 私は王妃にはなりませんからっ!!
だが二度目の生では不可思議なことばかりが起きる。
学生時代に戻ったが、そこにはまだ会うはずのないオリビアが生徒として在籍していた。
そして居るはずのない人物がもう一人。
……帝国の第二王子殿下?
彼とは外交で数回顔を会わせたくらいなのになぜか親し気に話しかけて来る。
一体何が起こっているの!?
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。
けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、
やがて――“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー&聖女覚醒編
第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編
第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください>
私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
前世で私を嫌っていた番の彼が何故か迫って来ます!
ハルン
恋愛
私には前世の記憶がある。
前世では犬の獣人だった私。
私の番は幼馴染の人間だった。自身の番が愛おしくて仕方なかった。しかし、人間の彼には獣人の番への感情が理解出来ず嫌われていた。それでも諦めずに彼に好きだと告げる日々。
そんな時、とある出来事で命を落とした私。
彼に会えなくなるのは悲しいがこれでもう彼に迷惑をかけなくて済む…。そう思いながら私の人生は幕を閉じた……筈だった。
【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!
白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。
辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。
夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆
異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です)
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆
王太子妃専属侍女の結婚事情
蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。
未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。
相手は王太子の側近セドリック。
ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。
そんな二人の行く末は......。
☆恋愛色は薄めです。
☆完結、予約投稿済み。
新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。
ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。
そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。
よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる