【完結】ハッピーエンドを目指す大聖女は家族を見返します

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第三章 ~『白猫とダンジョン』~

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 霊獣と契約するための試練に挑むため、マリアは一旦寮に戻って準備を整える。そのせいで他の候補生たちに出遅れてダンジョンへ到着するが、入り口前には他の候補生たちが留まったままだった。

「ティアラ!」
「マリア、一足遅かったな。残念だが、他の聖女たちは既に動き始めている」
「でも、みんなここにいますわよ」
「動いているのはパートナーの神父なんだ」

 霊獣探しはダンジョンを踏破する体力と機動力が求められる。体力仕事ということもあり、神父の方が適任だからと皆は一任していたのだ。

 そのため入口で待つ聖女たちは、パートナーが霊獣を捕まえて戻ってくるのを待つばかり。中にはピクニック感覚で紅茶を啜る者までいる始末だ。

「ティアラもカイト様を待っているんですの?」
「彼の動物と話せる能力を使えば、最短ルートで上位種の魔物を探すことができるからな。私が一緒では、むしろ足手纏いになる。彼に任せるのが最善だと判断したんだ」
「そうですの……」

 合理的な判断だが、マリアはこの方法を採用できない。

 なぜならケインは担任として候補生を引率する立場であり、聖女たちが集まっているダンジョンの入口から離れられないからだ。

(私は私の力で霊獣を探してみせますわ)

 ケインをパートナーに選んだ時、このようなハンデは承知していた。心細さを感じながらも、ダンジョンへ向かおうとすると、ケインが声をかけてくれる。

「マリアくん、ちょっと待ってくれ」
「ケイン様、どうかしましたか?」
「これを渡したくてね」

 ケインが一枚の紙を手渡す。中身を確認してみると、ダンジョン内部の地図だった。

「これって……」
「昨晩、一人でダンジョンに潜ったんだ。その時に調べた内容を記してある」

 ケインの目元にはクマができていた。睡眠時間を削って、マリアのために調査してくれたのだ。

「感謝しますわ」

 絶対に期待に応えてみせると意思を強め、土壁に囲まれた洞窟を進んでいく。ぼんやりと薄く光っているおかげで、暗いながらも歩くことができていた。

 進んだ先で、さっそく三叉路にぶつかる。だがマリアにはケインから貰った地図がある。

(右に進むと行き止まりですわね。左に進むのが正解ですわ)

 ケインに感謝しながら、最適コースを選択する。出遅れたハンデを覆すように、グングンと奥へ進んでいく。

 そして到着したのは最奥部。ポタポタと水滴が落ちる空間で、目当ての魔物を発見する。

(あれがキャット種ですわね……でも……)

 モフモフとした毛並みの白い猫――グレーでもブラックでもない。選択肢として残されたのは、最高得点が期待できるマジックキャットだ。

 ただその身体の至るところに怪我を負っていた。そのせいか聖女に懐くと聞いていたキャット種でありながら、マリアにも敵意を向けている。

「にゃあああ!」

 白猫の周囲を囲むように、空中に炎が浮かぶ。その炎の照準はマリアに向けられていた。

「わ、私はあなたの敵ではないですわ!」
「にゃあああ!」

 マリアの説得は虚しく、炎が発射される。近づいてくる炎の弾丸は躱すことができないほどに速く、もう駄目だと諦めかけた時である。人影が彼女を庇うように前に立つ。その正体は彼女の良く知る人物――ジルだった。

「……大丈夫だったかい?」
「ジル様⁉」

 ジルが背中を焼かれながらも庇ってくれたのだ。そんな彼を、マリアは回復魔法で癒す。淡い輝きに包まれ、彼の傷は最初からなかったかのように元どおりになる。

「君の回復魔法は凄いね」
「ジル様……どうして私なんかを……」
「君が魅力的だからさ。私が身を呈して守りたいと思うほどにね」

 ジルは立ち上がると、懐からナイフを取り出す。

「人を傷つける魔物を生かしておくことはできない」

 警戒しながら、ジルは徐々に近づいていく。脅威を感じ取ったのか、白猫は尻尾をピンと立てていた。

「ジル様、待って頂きたいですわ」
「だが……」
「私に任せてくださいまし」

 両手を開くことで自分は無害だとアピールしながら、マリアは白猫に近づく。言葉だけは響かなかった。だが彼女は命を賭けている。警戒を向けられながらも、ゆっくりと白猫に近づき、ゆっくりと抱きしめる。

「大丈夫、私は安全ですわ」

 白猫が彼女の肩に爪を突き立てるが、笑顔でそれを受け入れる。白猫に回復魔法を施し、傷を癒していくと、次第に抵抗が小さくなっていった。

「落ち着いてくれたようですわね♪」
「にゃああ」
「事情は分からないですが、あなたは酷い目にあって怯えていただけ。本来のあなたはきっと良い子ですわ」
「にゃー」
「ふふ、可愛いですわね」

 白猫はマリアの優しさを理解したのか、尻尾を振って懐いてくれる。そして彼女の手には契約の模様が刻まれるのであった。
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