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第三章 ~『白猫の正体』~
しおりを挟む白猫との契約を交わしたマリアは、ダンジョンから地上へ戻っていた。モフモフとした体毛の感触を確かめながら、愛情を伝えるように頬を摺り寄せる。
(こんなに可愛らしい猫様は他にいませんわ)
契約した霊獣だからこその贔屓目もあるが、この白猫よりも可愛い存在がいるとは思えなかった。
「名前を決めないといけませんわね。白猫ですし、シンプルにシロ様で如何でしょうか?」
「にゃあ♪」
「気に入ってくれて良かったですわ」
シロ――安直な名前だが、被ることはない自信があった。周囲を見渡すとクラスメイトの聖女たちが抱きかかえる猫は、灰や黒の毛色をしており、白が一匹もいなかったからだ。
「やはり君のシロだけが特別だね。マジックキャットで間違いなさそうだ」
ジルもまた太鼓判を押してくれる。だがシロは彼のことが苦手なのか、警戒するように鋭い目を向けている。
(きっと私を守るためにナイフを向けられたことを覚えているのですわね)
人であれば事情を理解できるが、猫にそれを求めるのは酷だ。ジルは徐々に仲良くなっていくさと、苦笑を浮かべるのだった。
「試練終了! 全員、霊獣との契約を終えたね。これより評価を伝える」
ケインの号令に反応し、聖女たちの意識が彼の元に集まる。
「まず霊獣を従えられなかった者はゼロだ。例年だと、数名はいるからね。今年の大聖女候補は優秀で誇らしいよ」
「…………」
「さて、では採点だが、ほとんどの者がグレーキャットだ。該当者は評価ポイントが10点加算される。おめでとう」
最低点だが、それでも試験をやり遂げた達成感に満たされる。乾いた拍手が鳴った。
「続いて、ランクDのブラックキャットと契約した者が二名いる。リーシェラくんとティアラくんだ。おめでとう、君たちは評価ポイントに20点加算だ」
拍手の勢いが強くなる。成績二位と三位が順当な結果を出したことに納得している者が多かった。
「そしてマリアくん。最後は君だ」
「はい!」
「君の霊獣は……グレーでもブラックでもない。そしてマジックキャットでもない。なにせマジックキャットは毛の色が赤だからね」
「ならシロ様はいったい……」
「ホワイトキャットだ。マジックキャットよりもさらにレア。成長すると、キャット族の王――キャット・ロードとなるランクAの魔物さ」
「ランクA……シロ様はやっぱり特別な魔物でしたのね♪」
誇らしげに抱えると、シロは「にゃあ」と期待に応えるように鳴く。成績トップの彼女が最高評価を得たことに納得したのか、皆から盛大な拍手が鳴った。
「ランクAと契約した聖女は評価ポイントが50点加算される。手帳も更新されているから、改めて確認してみるといい」
「はい!」
ケインの勧めで、ステイタスをチェックすると、新たに霊獣の項目が追加されていた。
――――――――――
総評:
イリアス家のマリア。男爵令嬢。年は十二歳。魔力量は候補生の中でも優れており、学業成績も優秀。所属クラスはA。遅刻経験あり。
評価ポイント:
200点
パートナー:
ケイン神父
霊獣:
シロ(ホワイトキャット)
――――――――――
「おめでとう、やはり君は凄いね」
ジルもパチパチと拍手で褒め称えてくれる。
「さすがは私が憧れた人だ」
「いえ、たまたまですわ」
「謙遜しなくてもいい。私の称賛は本心だからね……だからこそ改めて伝えるよ。君とデートさせてくれないか?」
マリアにはケインという立派なパートナーがいる。そのため僅かな罪悪感を抱き、躊躇いを覚えるが、一方でジルには身を呈して庇ってもらった恩がある。
(さすがに断り切れませんわ)
仕方ないと首を縦に振ると、ジルは嬉しそうにガッツポーズを決める。
「ありがとう、きっと楽しませてみせるから!」
蕩けるような甘い笑みを浮かべる。そんな彼に心を揺れ動かされるのだった。
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