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第3章 魔導要塞の攻防
第55話 哀しみにくれて(後編)
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2話分かけて回想シーンをしましたが、ようやく現在のシーンに戻ります。
──────────
テーブルの席に着き、差し出された茶をすするセラフィーナ。数分して嗚咽はようやく収まった。別に泣くほど悲しいことというのはなかったかもしれない。しかし、あまりにもショックが大きすぎ、彼女の精神が現実に追いつけなかったのだろう。
無理もない。命がけの戦いをくぐりぬけ、一度は仲間たちを殺されかけたこともある館に単身乗り込み、また、性奴隷にされた少女の安否も気遣っていたのだが・・・。扉を開けてみれば、その少女は館の主リアムとあろうことかエッチの真っ最中だったのだ。
自分たちが命を懸けて戦っている時に、その戦いの相手はセックスに励んでいた。これほど屈辱的なことがあろうか。激昂して二人に斬りかかるという反応をしてもおかしくなかったかもしれないが、セラフィーナは逆に何もかもがバカバカしくなり、生きているのさえ嫌になってしまった。救わねばと思っていた少女は、およそセラフィーナが考えうる最悪の状況にありながら(性奴隷としての奉仕ね)、嬉しそうな表情で絶頂していたのだ。
一時は衝動的に、本気でもう死んでしまおうかと思ったが、リアムに引き留められ今に至る。茶はよい葉を使っているようで非常に香り高い。彼女が普段飲むものと比べ物にならないくらい高級な茶だ。茶一つでも、もう消えてしまいたくなる心持ちだ。
「そろそろ話そうか。。ともかく、さ・・・さっきのことは置いておいてくれ。お仲間は戦闘中だし、ぐずぐずしてはいられんだろ?」
頃合いを見てリアムが声をかけた。セラフィーナは無言のまま、少しだけ顔を上げリアムを見た。
「まさか、またここでお前の顔を見るとは思ってなかったぞ。今回はここに何をしに来た?また、アーネスト神父が手を回したのか?」
「・・・アーネスト神父?・・ああ。あいつは関係ない。今は牢獄の中だよ。」
「え?」とリアムは驚く。彼は今回の件も、神父が自分をひっとらえようとして行ったことだと思っていたのだが、あっさり予想は裏切られた。
「どういうことだ?今回はフォルセル王国の魔術師まで動員しているみたいだが。そこまでしてこんな島で何をしようというんだ。」
逆にセラフィーナの方が訝しげな顔をする。世界が終焉の危機を迎えているかもしれないという時に、その現場の最前線でセックスしてた挙句、「何をしに来た?」とは・・・。そこは聞くまでもない話のはずだと思っていたのに、この男は本当に理由がわからないという顔をしている。
「何をしに来たって・・・。あんたら何でここで呑気に暮らしてるのさ。ここは、暗黒大事変の起きた現場。あたいらは神話の魔王が復活したのではないか、この島を発端に世界の崩壊が始まるんじゃないかって・・・危機感を持って。国王は敵対していたフォルセル王国と手を結んでまで軍を差し向けたってのに。」
リリカがきょとんとしてリアムを見た。リアムも訳が分からず、「何を言っているんだこいつは。」という表情だ。セラフィーナもさっきからずっと「お前ら何を言ってるんだ。」という気持ちで一杯だ。双方ともお互いの言動が全く理解できない。
(おかしいな。こいつは話せる人間だと思ってたのに、何か全然話が見えないぞ。)当初、彼女なら話せば穏便に事を済ませられるだろうと思っていたリアムだが、急激に不安になってきた。
「え・・・っと・・・、いろいろよく分からないんだが。・・・まず『暗黒大事変』てなんだ?」
「は?」
「え?」
セラフィーナはここにいて知らないってどういうことだ?という表情で聞き返す。リアムは、え、それ知ってて当たり前のことなの?という感じで聞き返した。
「まさか、知らないはずがないだろう?数ヶ月前に世界が漆黒の闇に包まれた大事件を。アロン島の上空から闇が広がり、世界を覆いつくしたあの大事件を。様々な専門家が原因について議論を尽くしたが、人外の魔物がこの島に出現し、凶行に及んだという結論になっている。影響の規模を考えれば、その魔物は神話の魔王の再来もありうるという説まで語られているんだぞ。」
「・・・・・・え?」
自分の住んでいる島が、知らないうちにとんでもない話になっていて、リアムは面食らった。
「あ!ご主人様。きっとあれですよ、あれ!」
「んん?」
リリカは思い当たることがあることに気付いたようだ。
「ほら、ちょっと前にご主人様の魔術が暴走しかかって・・・。」
「あ、ブラックドラゴンフレアのことか?あれはたしかに暗くなったけど、この辺一帯だけのことだろ?・・・まさか・・・」
「そのまさかなんじゃないでしょうか。リリカはそんな気がするんですけど。」
「はっはっは。やだなーリリカ。いくら何でもそんな大それたこと俺ができるわけないだろ?ちょっと冗談がすぎ・・・」
「でも、数ヶ月前で、暗闇に包まれて、アロン島から始まったのってあの時のことしか思い当たりませんけど。」
「・・・・・・」
リアムは顔色がサーッと青ざめ、沈黙してしまった。
「そのブラックドラゴンフレアというのは?」
黒魔術の知識がないセラフィーナが聞く。
「闇の魔術の一つです。ご主人様の持ってる魔導書の中で、闇の魔術の一つを実験で使ってみたんです。そしたら術が暴走しそうになって、島が吹き飛びそうになったんですけど、何とかお空に力を拡散させて無事に済んだんです。ね?ご主人様。」
「あ、ああ。ちょっとお試しでやっただけなんだぞ。それで世界を大騒がせなんてことは・・・。」
「今、さらっと島が一つ吹き飛びそうみたいな言葉が聞こえたんだけど。」
リリカの言動の中に耳慣れない表現があり、セラフィーナが聞いた。島が一つ吹き飛ぶような威力というのは、普通の人間が使える魔術のスケールと全く合わない。魔術のことをよく知らないセラフィーナでもそのくらいのことは分かる。
稀代の天才魔術師・ジャンヌが演武で披露したファイアーエクスプロージョンは、1メートル程度の火の玉の爆発だった。もちろん演武なのでフルパワーということはないが、人々を驚かす威力というつもりで使って見せたことを考えると、本気で魔術を放ったところで民家を1軒爆破できればいい方という感じだ。城ひとつ破壊することだって無理な話なのだが、島一つとなればなおのことだ。
「あー・・・。あの術はもの凄い大量の魔力が必要で、俺の実力じゃ制御できるかできないかのぎりぎりのところだったからな。」
「・・・・・・」
「俺の実力じゃ」などと謙遜の単語が混じっているが、島ひとつを消し飛ばすとか、世界を闇に陥れるような魔力を一人で操れる人間がどこにいるというのか。しかも彼はぎりぎりコントロールしたのだ。
以前返り討ちにあった時も圧倒的な魔術の前にたたき伏せられたセラフィーナだったが、彼の何気ない一言の裏に見て取れるその潜在能力は、明らかに人外のレベルだ。セラフィーナは改めて戦慄を覚えた。そんな実力を未だに自覚していないが、(もしかして俺、やっちゃった系?)などと思い始めたリアムに、リリカが付け加えた。
「ご主人様。リリカね、あの時もおかしいなって思ったんですけど、絶対魔力の量が多すぎたんだと思います。だからこんなことになったんじゃないでしょうか。」
「・・・多すぎたって・・・、そもそもブラックドラゴンフレアは多量の魔力が要る術で。しかもあの時は」
予定よりも魔力が少ないくらいだったんだから、そんなに広範囲に影響が出たなんておかしい、というのがリアムの主張だ。だが、そもそもその「予定」というものの見積もりがおかしいとは思わなかったのだろうか。
平均的な魔術師一人が一度に動員できる魔力は約100MS。それに対し、ブラックドラゴンフレアを使用するには8,000MSという魔力が必要だ。だからリアムは自分の魔力も100MSと仮定して、チャージサークルという魔力を貯める魔法陣を80個は作らねばならないと思った。しかし、あの時は60個程度しか作れなかったから術としては不十分だったと彼は今も思っている。
だが実際のところ、本人は知らないが、リアムが動員できる魔力は10,000MSほどに達しており、実は魔法陣などの小細工をしなくてもブラックドラゴンフレアを使うことはできた。そこにフルパワーの魔力を込めたチャージサークルを60個作ったため、あの時の動員魔力はリアム本体の60倍相当の600,000MSという、魔術師6千人分規模の人智を超える規模の魔力を投入していた。世の中の噂の方が正しく、あの時は世界が終わってもおかしくなかったのだ。
「リリカは、あの時見た夜空一面の魔法陣は綺麗だったんでよく覚えてるんですけど。あんなにたくさんの魔力を使う術が普通のはずないって思うんですけどね。」
もしこの話をジャンヌが聞いたら腰を抜かすような内容だ。セラフィーナは魔術の知識がないので、リアムとリリカが話している内容が、どれほどのものか正確には捉えられなかったが、それでも普通のレベルの話ではないと思った。
「わ、分かった!もういい。あんたがすごいのはもうよく分かった。」
「いや、だからそんなすごいものでも大それたものでもなくて・・・」
「いや、・・・いいんだ。」
リアムはまだ何か言おうとしていたが、セラフィーナはこれ以上話を聞いても無駄だと思い、さえぎった。もうこれ以上話を聞くことも、ここにいることも無駄だ。話を聞く限り、リアムが元凶なのは間違いないが、彼に野望のようなものはなく、そもそも己の実力を自覚すらしていない。自分らの心配は全くの杞憂で、これ以上この島をつつくことの方がむしろ危険だ。
「邪魔をした。もう私は引き下がる。だが、最後に少しリリカと二人で話をさせてくれないか?」
「リリカと?」「え、私と?」
リアムが眉をひそめた。
「あ、危ないことはしない。武器はここに置いていく。女としてこの子の話を少し聞いておきたいんだ。」
「?リリカは構わないですけど、いいですか?ご主人様。」
「あ、ああ。じゃあ、隣の部屋を使ったらいい。危ないと感じたらすぐに知らせるんだぞ。」
「はい!」
世間の常識を知らないリリカの失言が心配であまり気が乗らなかったが、断りにくい話の流れだったのでリアムは認めた。
二人で隣の部屋に入ったセラフィーナはリリカにソファーに座るように促され、腰かけた。リリカは隣に座った。
「あんた、あいつに奴隷として買われたんだろ?」
「はい。」
いったい私に何の用かとリリカは少し緊張気味だ。
「こんな誰もいない島で男と一緒で、辛い思いをしてないか?」
「そんな、ご主人様はとっても優しくしてくれて、リリカは本当に幸せ者だなって思ってるんですよ?」
「そ、それならいいが・・・。ほら、さっきも私が入った時にその、・・・してただろう?あいつに毎日あんなふうに求められてるんじゃ。」
「はい!いつもね、魔術のお勉強のご褒美にご主人様、交尾してくれるんです(笑顔)!だからリリカは毎日お勉強頑張ってて(以下、略)」
「・・・こ、(交尾?)」
リアムとのエッチの話題になって、リリカはがぜん口数が多くなった。好きなことを語るときは人は饒舌になるものだ。一方、セラフィーナは絶句してしまった。
「(中略)ただご主人様、リリカほど交尾が好きじゃないみたいなんで、いつもどうやってご主人様をヤる気にさせるか考えてるんですけど、やりすぎると怒られちゃうんで難しいんですよね。」
「・・・・・・。」
「あ、セラフィーナさん。大人の女の人って、みんなどんなふうにするんですか?」
人生の先輩として意見を聞きたいという感じでリリカが目を輝かせてセラフィーナを見つめる。が、セラフィーナの方は、すっかり理解不能な生き物を見つめる目に変わってしまっていた。
「いや・・・。心配してたんだが元気そうで何よりだな。時間を取らせて悪かったね。そろそろ彼のところに戻ろうか。」
「・・・あれ?・・・はい、じゃあ戻りましょう。」
期待したアドバイスをもらえず拍子抜けしたリリカだったが、それ以上は食い下がらなかった。
セラフィーナはもう本当に何の目的もここにはなくなった。ただただ無駄に命を懸けて、またしても、しなくてもいいことをしてしまったようだ。自分の覚悟とか、諸々・・・、一体何だったんだろう。心中で哀しみにくれるセラフィーナだった。
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テーブルの席に着き、差し出された茶をすするセラフィーナ。数分して嗚咽はようやく収まった。別に泣くほど悲しいことというのはなかったかもしれない。しかし、あまりにもショックが大きすぎ、彼女の精神が現実に追いつけなかったのだろう。
無理もない。命がけの戦いをくぐりぬけ、一度は仲間たちを殺されかけたこともある館に単身乗り込み、また、性奴隷にされた少女の安否も気遣っていたのだが・・・。扉を開けてみれば、その少女は館の主リアムとあろうことかエッチの真っ最中だったのだ。
自分たちが命を懸けて戦っている時に、その戦いの相手はセックスに励んでいた。これほど屈辱的なことがあろうか。激昂して二人に斬りかかるという反応をしてもおかしくなかったかもしれないが、セラフィーナは逆に何もかもがバカバカしくなり、生きているのさえ嫌になってしまった。救わねばと思っていた少女は、およそセラフィーナが考えうる最悪の状況にありながら(性奴隷としての奉仕ね)、嬉しそうな表情で絶頂していたのだ。
一時は衝動的に、本気でもう死んでしまおうかと思ったが、リアムに引き留められ今に至る。茶はよい葉を使っているようで非常に香り高い。彼女が普段飲むものと比べ物にならないくらい高級な茶だ。茶一つでも、もう消えてしまいたくなる心持ちだ。
「そろそろ話そうか。。ともかく、さ・・・さっきのことは置いておいてくれ。お仲間は戦闘中だし、ぐずぐずしてはいられんだろ?」
頃合いを見てリアムが声をかけた。セラフィーナは無言のまま、少しだけ顔を上げリアムを見た。
「まさか、またここでお前の顔を見るとは思ってなかったぞ。今回はここに何をしに来た?また、アーネスト神父が手を回したのか?」
「・・・アーネスト神父?・・ああ。あいつは関係ない。今は牢獄の中だよ。」
「え?」とリアムは驚く。彼は今回の件も、神父が自分をひっとらえようとして行ったことだと思っていたのだが、あっさり予想は裏切られた。
「どういうことだ?今回はフォルセル王国の魔術師まで動員しているみたいだが。そこまでしてこんな島で何をしようというんだ。」
逆にセラフィーナの方が訝しげな顔をする。世界が終焉の危機を迎えているかもしれないという時に、その現場の最前線でセックスしてた挙句、「何をしに来た?」とは・・・。そこは聞くまでもない話のはずだと思っていたのに、この男は本当に理由がわからないという顔をしている。
「何をしに来たって・・・。あんたら何でここで呑気に暮らしてるのさ。ここは、暗黒大事変の起きた現場。あたいらは神話の魔王が復活したのではないか、この島を発端に世界の崩壊が始まるんじゃないかって・・・危機感を持って。国王は敵対していたフォルセル王国と手を結んでまで軍を差し向けたってのに。」
リリカがきょとんとしてリアムを見た。リアムも訳が分からず、「何を言っているんだこいつは。」という表情だ。セラフィーナもさっきからずっと「お前ら何を言ってるんだ。」という気持ちで一杯だ。双方ともお互いの言動が全く理解できない。
(おかしいな。こいつは話せる人間だと思ってたのに、何か全然話が見えないぞ。)当初、彼女なら話せば穏便に事を済ませられるだろうと思っていたリアムだが、急激に不安になってきた。
「え・・・っと・・・、いろいろよく分からないんだが。・・・まず『暗黒大事変』てなんだ?」
「は?」
「え?」
セラフィーナはここにいて知らないってどういうことだ?という表情で聞き返す。リアムは、え、それ知ってて当たり前のことなの?という感じで聞き返した。
「まさか、知らないはずがないだろう?数ヶ月前に世界が漆黒の闇に包まれた大事件を。アロン島の上空から闇が広がり、世界を覆いつくしたあの大事件を。様々な専門家が原因について議論を尽くしたが、人外の魔物がこの島に出現し、凶行に及んだという結論になっている。影響の規模を考えれば、その魔物は神話の魔王の再来もありうるという説まで語られているんだぞ。」
「・・・・・・え?」
自分の住んでいる島が、知らないうちにとんでもない話になっていて、リアムは面食らった。
「あ!ご主人様。きっとあれですよ、あれ!」
「んん?」
リリカは思い当たることがあることに気付いたようだ。
「ほら、ちょっと前にご主人様の魔術が暴走しかかって・・・。」
「あ、ブラックドラゴンフレアのことか?あれはたしかに暗くなったけど、この辺一帯だけのことだろ?・・・まさか・・・」
「そのまさかなんじゃないでしょうか。リリカはそんな気がするんですけど。」
「はっはっは。やだなーリリカ。いくら何でもそんな大それたこと俺ができるわけないだろ?ちょっと冗談がすぎ・・・」
「でも、数ヶ月前で、暗闇に包まれて、アロン島から始まったのってあの時のことしか思い当たりませんけど。」
「・・・・・・」
リアムは顔色がサーッと青ざめ、沈黙してしまった。
「そのブラックドラゴンフレアというのは?」
黒魔術の知識がないセラフィーナが聞く。
「闇の魔術の一つです。ご主人様の持ってる魔導書の中で、闇の魔術の一つを実験で使ってみたんです。そしたら術が暴走しそうになって、島が吹き飛びそうになったんですけど、何とかお空に力を拡散させて無事に済んだんです。ね?ご主人様。」
「あ、ああ。ちょっとお試しでやっただけなんだぞ。それで世界を大騒がせなんてことは・・・。」
「今、さらっと島が一つ吹き飛びそうみたいな言葉が聞こえたんだけど。」
リリカの言動の中に耳慣れない表現があり、セラフィーナが聞いた。島が一つ吹き飛ぶような威力というのは、普通の人間が使える魔術のスケールと全く合わない。魔術のことをよく知らないセラフィーナでもそのくらいのことは分かる。
稀代の天才魔術師・ジャンヌが演武で披露したファイアーエクスプロージョンは、1メートル程度の火の玉の爆発だった。もちろん演武なのでフルパワーということはないが、人々を驚かす威力というつもりで使って見せたことを考えると、本気で魔術を放ったところで民家を1軒爆破できればいい方という感じだ。城ひとつ破壊することだって無理な話なのだが、島一つとなればなおのことだ。
「あー・・・。あの術はもの凄い大量の魔力が必要で、俺の実力じゃ制御できるかできないかのぎりぎりのところだったからな。」
「・・・・・・」
「俺の実力じゃ」などと謙遜の単語が混じっているが、島ひとつを消し飛ばすとか、世界を闇に陥れるような魔力を一人で操れる人間がどこにいるというのか。しかも彼はぎりぎりコントロールしたのだ。
以前返り討ちにあった時も圧倒的な魔術の前にたたき伏せられたセラフィーナだったが、彼の何気ない一言の裏に見て取れるその潜在能力は、明らかに人外のレベルだ。セラフィーナは改めて戦慄を覚えた。そんな実力を未だに自覚していないが、(もしかして俺、やっちゃった系?)などと思い始めたリアムに、リリカが付け加えた。
「ご主人様。リリカね、あの時もおかしいなって思ったんですけど、絶対魔力の量が多すぎたんだと思います。だからこんなことになったんじゃないでしょうか。」
「・・・多すぎたって・・・、そもそもブラックドラゴンフレアは多量の魔力が要る術で。しかもあの時は」
予定よりも魔力が少ないくらいだったんだから、そんなに広範囲に影響が出たなんておかしい、というのがリアムの主張だ。だが、そもそもその「予定」というものの見積もりがおかしいとは思わなかったのだろうか。
平均的な魔術師一人が一度に動員できる魔力は約100MS。それに対し、ブラックドラゴンフレアを使用するには8,000MSという魔力が必要だ。だからリアムは自分の魔力も100MSと仮定して、チャージサークルという魔力を貯める魔法陣を80個は作らねばならないと思った。しかし、あの時は60個程度しか作れなかったから術としては不十分だったと彼は今も思っている。
だが実際のところ、本人は知らないが、リアムが動員できる魔力は10,000MSほどに達しており、実は魔法陣などの小細工をしなくてもブラックドラゴンフレアを使うことはできた。そこにフルパワーの魔力を込めたチャージサークルを60個作ったため、あの時の動員魔力はリアム本体の60倍相当の600,000MSという、魔術師6千人分規模の人智を超える規模の魔力を投入していた。世の中の噂の方が正しく、あの時は世界が終わってもおかしくなかったのだ。
「リリカは、あの時見た夜空一面の魔法陣は綺麗だったんでよく覚えてるんですけど。あんなにたくさんの魔力を使う術が普通のはずないって思うんですけどね。」
もしこの話をジャンヌが聞いたら腰を抜かすような内容だ。セラフィーナは魔術の知識がないので、リアムとリリカが話している内容が、どれほどのものか正確には捉えられなかったが、それでも普通のレベルの話ではないと思った。
「わ、分かった!もういい。あんたがすごいのはもうよく分かった。」
「いや、だからそんなすごいものでも大それたものでもなくて・・・」
「いや、・・・いいんだ。」
リアムはまだ何か言おうとしていたが、セラフィーナはこれ以上話を聞いても無駄だと思い、さえぎった。もうこれ以上話を聞くことも、ここにいることも無駄だ。話を聞く限り、リアムが元凶なのは間違いないが、彼に野望のようなものはなく、そもそも己の実力を自覚すらしていない。自分らの心配は全くの杞憂で、これ以上この島をつつくことの方がむしろ危険だ。
「邪魔をした。もう私は引き下がる。だが、最後に少しリリカと二人で話をさせてくれないか?」
「リリカと?」「え、私と?」
リアムが眉をひそめた。
「あ、危ないことはしない。武器はここに置いていく。女としてこの子の話を少し聞いておきたいんだ。」
「?リリカは構わないですけど、いいですか?ご主人様。」
「あ、ああ。じゃあ、隣の部屋を使ったらいい。危ないと感じたらすぐに知らせるんだぞ。」
「はい!」
世間の常識を知らないリリカの失言が心配であまり気が乗らなかったが、断りにくい話の流れだったのでリアムは認めた。
二人で隣の部屋に入ったセラフィーナはリリカにソファーに座るように促され、腰かけた。リリカは隣に座った。
「あんた、あいつに奴隷として買われたんだろ?」
「はい。」
いったい私に何の用かとリリカは少し緊張気味だ。
「こんな誰もいない島で男と一緒で、辛い思いをしてないか?」
「そんな、ご主人様はとっても優しくしてくれて、リリカは本当に幸せ者だなって思ってるんですよ?」
「そ、それならいいが・・・。ほら、さっきも私が入った時にその、・・・してただろう?あいつに毎日あんなふうに求められてるんじゃ。」
「はい!いつもね、魔術のお勉強のご褒美にご主人様、交尾してくれるんです(笑顔)!だからリリカは毎日お勉強頑張ってて(以下、略)」
「・・・こ、(交尾?)」
リアムとのエッチの話題になって、リリカはがぜん口数が多くなった。好きなことを語るときは人は饒舌になるものだ。一方、セラフィーナは絶句してしまった。
「(中略)ただご主人様、リリカほど交尾が好きじゃないみたいなんで、いつもどうやってご主人様をヤる気にさせるか考えてるんですけど、やりすぎると怒られちゃうんで難しいんですよね。」
「・・・・・・。」
「あ、セラフィーナさん。大人の女の人って、みんなどんなふうにするんですか?」
人生の先輩として意見を聞きたいという感じでリリカが目を輝かせてセラフィーナを見つめる。が、セラフィーナの方は、すっかり理解不能な生き物を見つめる目に変わってしまっていた。
「いや・・・。心配してたんだが元気そうで何よりだな。時間を取らせて悪かったね。そろそろ彼のところに戻ろうか。」
「・・・あれ?・・・はい、じゃあ戻りましょう。」
期待したアドバイスをもらえず拍子抜けしたリリカだったが、それ以上は食い下がらなかった。
セラフィーナはもう本当に何の目的もここにはなくなった。ただただ無駄に命を懸けて、またしても、しなくてもいいことをしてしまったようだ。自分の覚悟とか、諸々・・・、一体何だったんだろう。心中で哀しみにくれるセラフィーナだった。
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