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第5章 結界と侵入者
第41話 ★諜報者
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「もうよい、下がれ。」
野太く不機嫌な声を投げつけられ、商人風の男は身を縮めながら退出した。
「ふー、どいつもこいつも。役立たずばかりだ。」
ここは、バルティス王国の王都ルティスにある中央修道院の礼拝堂・・・の奥にある小部屋だ。小窓から外を覗き、周囲に人がいないことを確認して、男は外へ出た。先ほどの商人風の男が退出してから10分ほど後のことだった。
この男はアーネスト神父。40も半ばで、すでに髪は薄く、曲毛の金髪にはかなり白髪が混じっている。頭頂部は光沢を呈している。頬肉がやや垂れ下がっており、容貌はブルドッグを髣髴とさせる。お腹はでっぷりとふくらみ、若干重力に負け気味だ。簡潔に言うと小太りな禿親父だ。
かつては役所付きの徴税人で、市民から税金を徴収することを生業としていた。しかし、その取り立て方はとても評判が悪く、義務以上の納税を強要された市民が後を絶たなかった。現代社会で例えるなら、不良のカツアゲややくざのしのぎのようなものである。最終的に、市民の批判の声が集中し、アーネストは役所勤めを辞めることになったが、変わり身が早く、逃げるように修道院に入信することで、巧みに世間の批判をかわしたのだった。
その後は、役人時代の政治的な立ち回りのノウハウを駆使し、修道士の中で頭角を現し、今や修道士長の座を得ている。彼にはたいした魔力はなく、回復魔術はかすり傷を軽減する程度だが、弁が立ち、敬虔な信仰心を演出するポーズがうまく、権力者の本音に敏感に対応して満足させることが得意だった。それが彼の出世の極意と言える。
今、彼はある人物を影で必死に探している。探していることを周囲に知られたくないため、誰も見ていない部屋で雇った間者に会い、諜報活動の結果を聞いて回っている。先ほどの商人に身を扮した間者は彼を喜ばせる情報を持っていなかった。
今日の間者で5人目。市中くまなく捜索をさせているが、未だに奴の足取りがつかめない。港は既に監視の網を張っており、怪しい者が船に乗ろうとすれば、すぐに報告が来る手筈になっている。陸側の国境線から先は魔物や他種族の領土、生身の人間一人が生きていける世界ではない。
このバルティス王国のどこかにいるに違いないのだ。成果が出ない中、神父は焦りを覚え始めている。
修道院は信仰の実践と、信仰の加護を駆使した法術、要は回復魔術で、怪我や病を患った人を救済するのが役目である。
治療魔術はしばしば、国の要人からの依頼もある。しかし、ここ最近は失態が続いている。大臣や貴族の奥方など、重要な人物への治療の失敗が相次いだ。バルティス修道院の治療魔術師はどんな病も治療できると評判であったが、最近の失態続きで修道院の信用は危機的状況に陥っている。
以前はあの男があらゆる治療を担っていたおかげで問題がなかった。いや、少し言い方を変えるべきだ。あの男が現れるまで、修道院はここまで過度の期待を受けることはなかった。戦場から傷ついて帰ってきた戦士達の治療ができていればよかった。はやり病から奇病まで、修道院がありとあらゆる病の治療を担うなどという評判は、あの男が作ったものだ。ところがどうだ、当人は今や姿をくらまし、評判だけが残ってしまった。
あの男がいなければ、今まで通りのけがの治療で、世間から感謝され続けていたものを、今は国の要人から無理な治療を強要され、応えられず失望の目で見られるばかりだ。世間の評判よりも権力者からの失望の方が、損失は遥かに大きい。そしてその結果の責を負わされるのは、修道士長である私だ。なんと余計なことをしてくれたか。思い出すと、はらわたが煮えくり返る感情がこみ上げてくる。
すると、修道士に扮した男が、神父の部屋の戸をたたいた。「はいれ。」男を招き入れる。「しゃべってみろ。くだらない話だったらただじゃ済まさねぇぞ。」イライラが募っているアーネスト神父はその男に毒づくが、彼は落ち着いて口を開いた。
「耳寄りな情報を得ました。」
「何?」
「数ヶ月前に港湾都市エルチェリータ近郊を徘徊する黒い法衣の男を見たものが何人かおります。」
「?その男が何か怪しいのか?」
「男が森に入った後、何か大きな物体が空を飛ぶのを見た者がおりますれば・・・。」
「なんだと?(空を飛ぶだと?だがもし本当なら、奴はもう国内にはいない?)」
「ご安心を。お探しの人物はまだ手の届くところにいると思われます。」
「!」
「リアム・アシュリーは、アロン島に潜んでいる模様です。」
アロン島・・・。ああ、港からもよく見えるあの島か。そうか、あの野郎あんなところに。
「そうか、良い情報だ。でかしたぞ。」
いやらしい笑顔を作るアーネスト神父。
「神父よ。報酬を。」
「ふん。持って行け。」
ジロっと男に目をやると、アーネスト神父は銀貨を入れた皮袋を投げつけた。
-------------------------
ストーリーを動かしにかかりました。エロが少なくならないように頑張ります。
うまくまとめられるかちょっと不安。
野太く不機嫌な声を投げつけられ、商人風の男は身を縮めながら退出した。
「ふー、どいつもこいつも。役立たずばかりだ。」
ここは、バルティス王国の王都ルティスにある中央修道院の礼拝堂・・・の奥にある小部屋だ。小窓から外を覗き、周囲に人がいないことを確認して、男は外へ出た。先ほどの商人風の男が退出してから10分ほど後のことだった。
この男はアーネスト神父。40も半ばで、すでに髪は薄く、曲毛の金髪にはかなり白髪が混じっている。頭頂部は光沢を呈している。頬肉がやや垂れ下がっており、容貌はブルドッグを髣髴とさせる。お腹はでっぷりとふくらみ、若干重力に負け気味だ。簡潔に言うと小太りな禿親父だ。
かつては役所付きの徴税人で、市民から税金を徴収することを生業としていた。しかし、その取り立て方はとても評判が悪く、義務以上の納税を強要された市民が後を絶たなかった。現代社会で例えるなら、不良のカツアゲややくざのしのぎのようなものである。最終的に、市民の批判の声が集中し、アーネストは役所勤めを辞めることになったが、変わり身が早く、逃げるように修道院に入信することで、巧みに世間の批判をかわしたのだった。
その後は、役人時代の政治的な立ち回りのノウハウを駆使し、修道士の中で頭角を現し、今や修道士長の座を得ている。彼にはたいした魔力はなく、回復魔術はかすり傷を軽減する程度だが、弁が立ち、敬虔な信仰心を演出するポーズがうまく、権力者の本音に敏感に対応して満足させることが得意だった。それが彼の出世の極意と言える。
今、彼はある人物を影で必死に探している。探していることを周囲に知られたくないため、誰も見ていない部屋で雇った間者に会い、諜報活動の結果を聞いて回っている。先ほどの商人に身を扮した間者は彼を喜ばせる情報を持っていなかった。
今日の間者で5人目。市中くまなく捜索をさせているが、未だに奴の足取りがつかめない。港は既に監視の網を張っており、怪しい者が船に乗ろうとすれば、すぐに報告が来る手筈になっている。陸側の国境線から先は魔物や他種族の領土、生身の人間一人が生きていける世界ではない。
このバルティス王国のどこかにいるに違いないのだ。成果が出ない中、神父は焦りを覚え始めている。
修道院は信仰の実践と、信仰の加護を駆使した法術、要は回復魔術で、怪我や病を患った人を救済するのが役目である。
治療魔術はしばしば、国の要人からの依頼もある。しかし、ここ最近は失態が続いている。大臣や貴族の奥方など、重要な人物への治療の失敗が相次いだ。バルティス修道院の治療魔術師はどんな病も治療できると評判であったが、最近の失態続きで修道院の信用は危機的状況に陥っている。
以前はあの男があらゆる治療を担っていたおかげで問題がなかった。いや、少し言い方を変えるべきだ。あの男が現れるまで、修道院はここまで過度の期待を受けることはなかった。戦場から傷ついて帰ってきた戦士達の治療ができていればよかった。はやり病から奇病まで、修道院がありとあらゆる病の治療を担うなどという評判は、あの男が作ったものだ。ところがどうだ、当人は今や姿をくらまし、評判だけが残ってしまった。
あの男がいなければ、今まで通りのけがの治療で、世間から感謝され続けていたものを、今は国の要人から無理な治療を強要され、応えられず失望の目で見られるばかりだ。世間の評判よりも権力者からの失望の方が、損失は遥かに大きい。そしてその結果の責を負わされるのは、修道士長である私だ。なんと余計なことをしてくれたか。思い出すと、はらわたが煮えくり返る感情がこみ上げてくる。
すると、修道士に扮した男が、神父の部屋の戸をたたいた。「はいれ。」男を招き入れる。「しゃべってみろ。くだらない話だったらただじゃ済まさねぇぞ。」イライラが募っているアーネスト神父はその男に毒づくが、彼は落ち着いて口を開いた。
「耳寄りな情報を得ました。」
「何?」
「数ヶ月前に港湾都市エルチェリータ近郊を徘徊する黒い法衣の男を見たものが何人かおります。」
「?その男が何か怪しいのか?」
「男が森に入った後、何か大きな物体が空を飛ぶのを見た者がおりますれば・・・。」
「なんだと?(空を飛ぶだと?だがもし本当なら、奴はもう国内にはいない?)」
「ご安心を。お探しの人物はまだ手の届くところにいると思われます。」
「!」
「リアム・アシュリーは、アロン島に潜んでいる模様です。」
アロン島・・・。ああ、港からもよく見えるあの島か。そうか、あの野郎あんなところに。
「そうか、良い情報だ。でかしたぞ。」
いやらしい笑顔を作るアーネスト神父。
「神父よ。報酬を。」
「ふん。持って行け。」
ジロっと男に目をやると、アーネスト神父は銀貨を入れた皮袋を投げつけた。
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うまくまとめられるかちょっと不安。
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