黒魔術と性奴隷と ~闇の治療魔術師奇譚~

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第5章 結界と侵入者

第51話 ★二人のファイアーボール

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 洗濯掃除、鶏の餌やりに畑の手入れを済ませた二人は、今屋敷の外の台地にいる。昨日は索敵用の魔石設置で、島中を歩き回って、結局リリカのファイアーボールの練習をする余裕がなかった。

「んじゃ、さっそく試してみよう。まずは5メートル先の的に正確に当てることができるか。」
「はい。」

 二人から5メートルほど離れたところに、地面に打ち込まれた杭が立っている。杭の上には薪から切り落とした小枝の束が載せられている。リリカは、精神を集中させて、火の魔術の基本所作に入った。たちどころにリリカの目の前に、キャベツぐらいの大きさの火球が発現した。

「えい!」

 リリカは、念力によって火球を飛ばす。火球は轟音を立て、ものすごいスピードで的をめがけて飛んでいき、あっという間に的を飲み込んだ。火球の剛速球の直撃を受けた的は、燃えながら吹き飛び、一瞬にして灰燼と化し、地面には塵がはらはらと舞い落ちるのみだった。

 それは、一般的なファイアーボールの威力とかけ離れていた。実戦におけるファイアーボールは、術の発動に時間がかからないことを活かし、威力よりは素早く打てることを重視する。その術のみで決定的なダメージを与えるのではなく、敵をひるませてその隙に逃げるとか、別の本命の大技を決めるとか、そういう一連の連携の中に織り交ぜるのが普通だ。

 リリカのそれは、明らかに術自体に必殺力があった。しかもものの1秒も必要とすることなく術を発動させた。

「ファイアーボールにしては、威力が高すぎるような気がしたな。」
「威力が高いのはいいことなのではないですか?」
「まあそうだが、普通威力を高くしようとすると、術は遅くなるもんだ。ファイアーボールってのは、威力は二の次で術の速さを活かす魔術だからな。高い威力にするなら、もっと高位の魔術を使った方が、戦術的には有利と言われているよ。」

「リリカのファイアーボールは遅かったですか?」
「俺も本職の黒魔導士の魔術を見たことはないからな、正直よくわからん。でも、1秒かからないくらいで火の玉が作れて、あのスピードで飛ばせるんなら、実戦では結構使えるんじゃないかな。・・・そういう意味では、あの位の威力は適正になるのかな?」

 そこそこ距離を確保していたら、相手はおそらく間合いを詰めることもできないだろう。今見た威力のファイアーボールが人に当たったら、多分それで勝負ありだ。威力と言いスピードと言い、申し分なく思えた。

「リリカ、ちょっとわからなくなりましたけど・・・、」
「何が?」
「ファイアーボールって、最初にお稽古で覚えるような簡単な魔術と思ってましたけども。」
「うん、その通りだな。」
「それって、あまり強くない魔術ってことじゃないんですかね・・・?リリカ、今使ってみてとても強そうに思えました。」
「いや、そんなはずは。昨日読んだファイアーボールの章の冒頭部にも書いてあったろ?戦術の組み立てとして重要な役割を果たしうるが、威力よりも術の速度を重視すべき魔術であり、攻撃の要にはなりえない、って。」

「リリカでこんなだと、ご主人様が使うとどんな感じなんですか?」
「俺か?俺、ファイアーボールとか使ったことないからな。興味なかったから。」
「参考までに見てみたいです。」
「しょうがねぇなぁ。じゃああの杭めがけてやってみるか。いいか、術の速度が大事。威力は期待しねぇで撃つんだからこんな感じだ。」

 リアムは瞬発的に魔力を集中させて、持てる限りの速力でもって火球を撃ち放った。魔力を盛ることなく、瞬間的に動員できる分だけで火球を作ったつもりだったが、(ちょっと火の玉が大きくなりすぎたかな)などと思ったが・・・、実際、球の半径が思いの外大きかったようで、火球が少し地面にかすっており、かすった部分の地面がえぐれ、弾道を追う形で溝を作っていった。

 その間は一瞬の出来事である。目の前の杭は、火球の本体が到達する前に気化するように姿を消し、火球は(すでに姿を消した)杭のあった場所をそのまま突っ走り、地面に溝を描きながら直進し、あっという間に遠くに行き、よく見えなくなったが島の外まで飛び、海に突っ込んで形を失った。遠くで海水が蒸発したとみられる大量の水蒸気が、もうもうと立ち昇り雲を作っている。

「リリカ、戦いとかしたことがないので、よくわからないんですけども・・・、ご主人様のファイアーボールを何とかできる人って、いないんじゃないかと思いました。」
「ば、馬鹿言うな。俺だってな、本職はヒーラーで、黒魔術は魔導書を独学で読んでちょっと覚えた程度なんだぞ。本場の黒魔術師はもっとすごいに決まってるだろ?」
「そうなんですか?世界って広いんですね。そんな黒魔術師が攻めてきたら、バルティス王国なんてすぐに負けちゃいそうですけど。」
「・・・、どうなんだろうな。俺も国の騎士団とかが、こういう魔術に対応する姿が思いつかないが。」

 呑気に会話する二人だが、本来ファイアーボールは、大した威力はない。鍛えぬいた戦士が魔導士と戦う時の基本戦術は、魔導士がファイアーボールで牽制をして来ようとするなら、ひるまずよけることなく突進して一気に間合いを詰め、攻撃するのが常套手段とされている。ひ弱な魔導士は、体力は常人並みなので、剣や斧の一振りで簡単に命をとれるからだ。

 彼ら魔導士を恐れるべきは、ライトニングボルトとかヘルインフェルノなどと呼ばれる高位の強力な魔術を使われること。離れた間合いからこれらの魔術を使われると、いかに鍛え抜かれた戦士といえども一撃のもとに倒されてしまう。しかし、それには数十秒はかかる長い詠唱を必要とし、それが最大の弱点であるから、戦士達は魔術を使われる前にいかに間合いを詰めるかに腐心するのだ。

 故に1秒もかからない一瞬で、必殺の威力を持つ魔術など使われた日には、はっきり言ってお手上げである。だが、そんなことを可能にする強力な魔力を持つ魔導士など、実際はフォルセル王国の魔導研究所にも数名いるかいないかというところだ。

 そんなことは知る由もない、リアムとリリカは、とりあえずファイアーボールって、そこそこ役に立ちそうだね。でも我々戦闘用魔術は初心者だから、これからもいろいろ練習は必要だよね。などとのんきに話していた。

 元々高い魔力を持っていた上に、毎日魔力が底を尽きるほどに、イグニスヒールを使い、魔石を作りまくった二人の生活は、実は本職の黒魔導士もしないような過酷な修業だったのだ。

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エロ描写し始めると、それだけで結構文字数かかるので、最近ストーリー進めるのとエロ描写するのを同時にするのをあきらめ始めてます。というわけで今日はストーリー回です。エロ期待してた方はごめんなさい。
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