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第5章 結界と侵入者
第58話 ★雌伏の末路
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3人の冒険者を載せた船がアロン島を離れ、港湾都市エルチェリータに向かって滑り出し始めた。波は穏やかで、航行は順調だ。しかし、船上は沈鬱な雰囲気に包まれていた。
完全敗北──
その一語に尽きる結果だった。雌伏の辛酸をなめ、帰り着く3人は、しかし身体の傷は全くなく、体調は万全だった。だがその精神には、癒しがたい深い傷を負っている。特にドルゴスは最もダメージが大きい。「・・・もう、二度とあの島にはいかねぇ。」「・・・もうたくさんだ、勘弁してくれ。」終始そのような泣き言を、誰に向かって言うともなくぶつぶつと口走っている。
鍛え抜かれた体躯は、今までこの男の自信を絶対的に支えていた。トロル、オーク、ミノタウロスからグリフォンまで、強力なパワーで知られる魔物や亜人種を相手に、一歩も引かずに戦ってきた戦績を持つ猛者だった。今回の任務では、最も自信にあふれ、それ故に悪く言えば謙虚さを欠いて任務に臨んでいた。それだけにこの敗北は、・・・それも一度死を経験するという凄惨な敗北は、彼の自信を粉みじんに砕き去った。
栄光の戦績が何も意味をなさなかった。彼がやったのは、屋敷に向かって歩き、戦鎚がぶつかったことで、結界の存在にいち早く気付いたことと、突如現れたガーゴイルと対峙したことだけ。ターゲットを拝むこともなく、攻撃を一度として振るうこともなく、悪魔のかぎ爪で致命傷を負い、そしてその絶望を感じる間もなく、灼熱の地獄によってあの世に旅立たされた。・・・はずが、ターゲットによって神の奇跡ともいえる蘇生魔術をかけられ、今や五体満足なのだ。
慌てふためくイケメンを追い詰め、命乞いをさせ、傍らにうずくまる男の性奴隷を奪って犯し、いけ好かない優男のプライドをずたずたにしたうえで、依頼主に引き渡そうとしていた己が愚かしい。指一本振れることなく、姿を拝むこともなく、命を奪われ、命を救われた。思い出すたびに、愚かしい昨日までの自身の姿が、心に突き刺さり、絞り出すように言葉が吐き出される。
もう、勘弁してくれ──
フィリップ:「・・・もうだめだな。あいつは冒険者をやめるだろう。」
同じく、瀕死の傷を負い、苦い敗北を思い知らされたフィリップは、しかし終始冷静に客観的に戦局を判断しようと努めていた分、ドルゴスよりは、精神的な痛手は少なかった。それでも、もうこの島の人間に関わることは決してないと心に決めたのだった。そう、いくら金を積まれても、この仕事だけは断る。身体が軽い。その良好なコンディションが、かえって己の無力さを思い知らせるのだ。
セラフィーナ:「・・・・・・」
セラフィーナは、無言だった。3人の中では、唯一敵に一矢報いたのが彼女といえる。とはいえ、リアム本人ではなく、リアムの結界に風穴を開けたという意味で。あれがなければ、自身もフィリップも灼熱地獄の餌食となり、助命を請うこともできなかっただろう。
もともと気の進まない任務だった。依頼主のミッションへの動機が気に入らなかった。ただ、誰の助けが入ることもない無人島で、男の欲望のはけ口にされている性奴隷の少女がいるらしい、任務を通して彼女はずっとそれが気にかかっていた。屋敷に入ったとき、そこにはかつての治療師のカリスマであるリアムと、そして話に聞いていた少女が確かにいた。
それは、セラフィーナが想像していた姿とはかなり異なっていた。少女は美しかった。長い黒髪は綺麗に整えられ、衣服は丁寧に作られた可愛らしいものだった。(ああ、この男の趣向で着飾ることはできているということなのか。)と思ったが、彼女の、リリカの目は、生気に満ちていた。主人であるリアムをかばわんとする姿勢で、こちらに威嚇の視線を投げつけていたのだ。少女は、外から来た私たちに、微塵も救いを求める気配がなかった。
それどころか、瀕死のフィリップを治療したのは彼女だった。あふれんばかりの非常識な魔力を持ち、目の前で初めてヒールの使い方を教わり、おそらく現在のバルティス王国のどの修道士もさじを投げるような大火傷を完治させてしまった。(元々魔術が使えた?ありえない。そんな人間が奴隷商人に売られるなどということは考えられない。)どう考えてもリアムが魔術を教えたのだろう。しかし、あそこまでの術師に育てられるものなのか?
だが、彼女を性奴隷から解放させてあげるのが、彼女のためなのでは?実力で叶わないとわかっていても、同じ女として、私は身体を張るべきところなのでは・・・、そう考えていたセラフィーナに、フィリップの治療を終えたリリカはヒールを向けた。
リリカ:「あなたのお顔の火傷も治療いたしますね。」
メテオストームの熱線は、セラフィーナに多少のやけどを負わせていた。左の頬だった。他の仲間のけがに比べれば、無視できるような軽傷。
リリカ:「あなたの大切な方が、悲しい思いをしないように、あなたが辛い思いをしないように。ね?」
リリカのその言葉を聞いて、セラフィーナは完全にこの島にいる理由を失ったのだった。ああ、奴隷なんかじゃなかったのだ。彼女は、二人は愛し合っている。リリカが口にした言葉は、彼女が愛で満たされているから、だからこそ他人にも投げかけられる言葉だった。
実に、実に野暮なことをしたのだった。誰の助けも必要としない二人の空間に土足で入り、返り討ちにあい、そしてけがの治療を受けたのだ。島に居続ける理由はもはやなかった。
「貴様ら、それでもギルドの強者か!冒険者の矜持はどこに行ったのだ!?」
後日、隠し部屋に報告に来た冒険者たちを、アーネスト神父は憎々しげに罵った。ドルゴスは、目線を伏し、身じろぎ一つしない。残りの二人は、冷ややかな目で神父を見つめた。
フィリップ:「先ほど説明したまでです。戦力に開きがありすぎた。そんなにあの男を何とかしたいのなら、国の軍でも動員するがよいでしょう。」
セラフィーナ:「もっとも、国境線やフォルセル王国に対する防備は、まったくお留守になるでしょうけどね。」
(たしかあの野郎は私腹を相当肥やしていたからな、こいつらに金を握らせて説得したに違いない。おのれ汚い真似を・・・。)汚いのは己自身といえるが、こめかみに青筋を浮きだたせながら、神父は3人を部屋から追い出したのだった。
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そろそろエロシーン以外のフラグ回収等、お片づけは終わった感じですかね。ただ、丸一日のプレイとか結構話にするのが難しそうなので、いかがいたそうか思案中です。
完全敗北──
その一語に尽きる結果だった。雌伏の辛酸をなめ、帰り着く3人は、しかし身体の傷は全くなく、体調は万全だった。だがその精神には、癒しがたい深い傷を負っている。特にドルゴスは最もダメージが大きい。「・・・もう、二度とあの島にはいかねぇ。」「・・・もうたくさんだ、勘弁してくれ。」終始そのような泣き言を、誰に向かって言うともなくぶつぶつと口走っている。
鍛え抜かれた体躯は、今までこの男の自信を絶対的に支えていた。トロル、オーク、ミノタウロスからグリフォンまで、強力なパワーで知られる魔物や亜人種を相手に、一歩も引かずに戦ってきた戦績を持つ猛者だった。今回の任務では、最も自信にあふれ、それ故に悪く言えば謙虚さを欠いて任務に臨んでいた。それだけにこの敗北は、・・・それも一度死を経験するという凄惨な敗北は、彼の自信を粉みじんに砕き去った。
栄光の戦績が何も意味をなさなかった。彼がやったのは、屋敷に向かって歩き、戦鎚がぶつかったことで、結界の存在にいち早く気付いたことと、突如現れたガーゴイルと対峙したことだけ。ターゲットを拝むこともなく、攻撃を一度として振るうこともなく、悪魔のかぎ爪で致命傷を負い、そしてその絶望を感じる間もなく、灼熱の地獄によってあの世に旅立たされた。・・・はずが、ターゲットによって神の奇跡ともいえる蘇生魔術をかけられ、今や五体満足なのだ。
慌てふためくイケメンを追い詰め、命乞いをさせ、傍らにうずくまる男の性奴隷を奪って犯し、いけ好かない優男のプライドをずたずたにしたうえで、依頼主に引き渡そうとしていた己が愚かしい。指一本振れることなく、姿を拝むこともなく、命を奪われ、命を救われた。思い出すたびに、愚かしい昨日までの自身の姿が、心に突き刺さり、絞り出すように言葉が吐き出される。
もう、勘弁してくれ──
フィリップ:「・・・もうだめだな。あいつは冒険者をやめるだろう。」
同じく、瀕死の傷を負い、苦い敗北を思い知らされたフィリップは、しかし終始冷静に客観的に戦局を判断しようと努めていた分、ドルゴスよりは、精神的な痛手は少なかった。それでも、もうこの島の人間に関わることは決してないと心に決めたのだった。そう、いくら金を積まれても、この仕事だけは断る。身体が軽い。その良好なコンディションが、かえって己の無力さを思い知らせるのだ。
セラフィーナ:「・・・・・・」
セラフィーナは、無言だった。3人の中では、唯一敵に一矢報いたのが彼女といえる。とはいえ、リアム本人ではなく、リアムの結界に風穴を開けたという意味で。あれがなければ、自身もフィリップも灼熱地獄の餌食となり、助命を請うこともできなかっただろう。
もともと気の進まない任務だった。依頼主のミッションへの動機が気に入らなかった。ただ、誰の助けが入ることもない無人島で、男の欲望のはけ口にされている性奴隷の少女がいるらしい、任務を通して彼女はずっとそれが気にかかっていた。屋敷に入ったとき、そこにはかつての治療師のカリスマであるリアムと、そして話に聞いていた少女が確かにいた。
それは、セラフィーナが想像していた姿とはかなり異なっていた。少女は美しかった。長い黒髪は綺麗に整えられ、衣服は丁寧に作られた可愛らしいものだった。(ああ、この男の趣向で着飾ることはできているということなのか。)と思ったが、彼女の、リリカの目は、生気に満ちていた。主人であるリアムをかばわんとする姿勢で、こちらに威嚇の視線を投げつけていたのだ。少女は、外から来た私たちに、微塵も救いを求める気配がなかった。
それどころか、瀕死のフィリップを治療したのは彼女だった。あふれんばかりの非常識な魔力を持ち、目の前で初めてヒールの使い方を教わり、おそらく現在のバルティス王国のどの修道士もさじを投げるような大火傷を完治させてしまった。(元々魔術が使えた?ありえない。そんな人間が奴隷商人に売られるなどということは考えられない。)どう考えてもリアムが魔術を教えたのだろう。しかし、あそこまでの術師に育てられるものなのか?
だが、彼女を性奴隷から解放させてあげるのが、彼女のためなのでは?実力で叶わないとわかっていても、同じ女として、私は身体を張るべきところなのでは・・・、そう考えていたセラフィーナに、フィリップの治療を終えたリリカはヒールを向けた。
リリカ:「あなたのお顔の火傷も治療いたしますね。」
メテオストームの熱線は、セラフィーナに多少のやけどを負わせていた。左の頬だった。他の仲間のけがに比べれば、無視できるような軽傷。
リリカ:「あなたの大切な方が、悲しい思いをしないように、あなたが辛い思いをしないように。ね?」
リリカのその言葉を聞いて、セラフィーナは完全にこの島にいる理由を失ったのだった。ああ、奴隷なんかじゃなかったのだ。彼女は、二人は愛し合っている。リリカが口にした言葉は、彼女が愛で満たされているから、だからこそ他人にも投げかけられる言葉だった。
実に、実に野暮なことをしたのだった。誰の助けも必要としない二人の空間に土足で入り、返り討ちにあい、そしてけがの治療を受けたのだ。島に居続ける理由はもはやなかった。
「貴様ら、それでもギルドの強者か!冒険者の矜持はどこに行ったのだ!?」
後日、隠し部屋に報告に来た冒険者たちを、アーネスト神父は憎々しげに罵った。ドルゴスは、目線を伏し、身じろぎ一つしない。残りの二人は、冷ややかな目で神父を見つめた。
フィリップ:「先ほど説明したまでです。戦力に開きがありすぎた。そんなにあの男を何とかしたいのなら、国の軍でも動員するがよいでしょう。」
セラフィーナ:「もっとも、国境線やフォルセル王国に対する防備は、まったくお留守になるでしょうけどね。」
(たしかあの野郎は私腹を相当肥やしていたからな、こいつらに金を握らせて説得したに違いない。おのれ汚い真似を・・・。)汚いのは己自身といえるが、こめかみに青筋を浮きだたせながら、神父は3人を部屋から追い出したのだった。
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そろそろエロシーン以外のフラグ回収等、お片づけは終わった感じですかね。ただ、丸一日のプレイとか結構話にするのが難しそうなので、いかがいたそうか思案中です。
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