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第2章 リリカの水魔術

第12話 ★紙

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 ある雨の日、畑への水やりが必要ないため少しだけ時間に余裕ができたリリカはいつもと違うことをしていた。台所で何やら怪しげなことをしている。

「ご主人様。こんな感じでいいんですか?なんか膜みたいになってきました。」

 台所の洗い物をする流しに水を溜め、木枠に布を張ったものを何度も浸している。溜まった水は白く濁っている。(白く濁っているからといってすぐにそっちの話題と思わないように!タイトルに★がついているように今回は普通の話です)

「どれどれ。・・・まあ、そんな感じだな。じゃあそれを風通しのいいところに置いておいて乾けば出来上がりだ。」
「・・・これ。すごく大変ですね。」
「まあな。」

 二人は今、紙を作っているところなのだ。なぜこんなことを始めたかというと少しさかのぼって話をする必要がある。

 魔術の実戦演習をするようになって、当然だが生活の時間的な余裕はかなり狭まってしまった。朝、6時頃に起床し、朝食を用意して(時短のために昼食も一緒に準備)7時には食べ、鶏に餌をやり、その後掃除や洗濯などを行って(不思議なことにすぐに体液で汚れるので毎日シーツを交換が必要で結構大変w)、湯舟の洗浄などお風呂の準備をしておいたうえで、11時ころから1時間みっちり実戦演習をする。

 へとへとになって館に戻ったのち、12時ころ昼食を食べ、入浴を済ませ、仮眠をとる。目を覚ましてから、魔力回復のために(笑)エッチをして、また寝る。起きると大体3時から4時くらいになる。畑仕事と鶏への餌やりをしたらすぐ夕食の支度をし、6時頃に夕食を食べ、洗い物をしたのち、8時まではリリカはその日の魔術のお勉強の予習をし、リアムは読みたい魔導書を読む。

 8時ころに入浴し、9時から魔術のお勉強タイム、終わったら楽しい(笑)ご褒美の時間、そして11時には就寝する生活だ。毎日結構ハードなのだ。AM11時から始まる実戦演習とそのあとの魔力回復(笑)を含む諸々の所要時間は占めて5~6時間ほどとなり、これが一日の時間をかなり圧迫している。

 そのため、以前は割とのんびりやっていた畑仕事や鶏の世話は、最速でてきぱきやるような感じになった。最近は、リアムも一緒に協力するのが当たり前になっている。なんといっても大事な食料の生産なので、手抜きはできないのだ。

 しかし、それも毎日休みなくとなるとなかなか続けるのが苦痛になってくる。そんな折、リリカがリアムに相談したのだ。

「ご主人様。リリカ、水の魔術をもっと色々使えるようになりたいです。」
「・・?氷ではなくて水をか?」
「です!」

 水の魔術というのは、結構微妙な系統で魔導書においてもそう多くはない。魔導書の中で圧倒的に多いのは、やはり高い攻撃力を持つ火の魔術だ。水系はいくつか冷気に関わる書物が存在するだけで、水そのものとなるとほとんどない。

 魔術はあらゆることを自在にできそうではあるが、人は神ではないので何もかも意のままにできるわけではない。基本的には使用魔力と魔術が繰り出す力の間にはエネルギー保存則が成り立っている。

 (メタ:普通の人間と同じものを食べているリアムがなぜ人外レベルのチート魔力を持っているかは・・・、その・・・なんだ、ご都合主義!おれTUEEは気持ちいいからね。)

 つまり、無から水を生み出すという術は、水の魔術の中にはない。あくまで実在する水を操作するのが水系の魔術だ。冷気系は水を瞬時に蒸発させ、膨張熱によって周囲の温度を急激に下げることを狙う魔術だ。しかし、水が気化した後の冷気自体は気体なので風の魔術と併用しなければあまり使い道がない。

 冷気でもない水だけとなると、戦術的な価値はほとんどないため、フォルセル王国の黒魔術師の間でもあまり熱心な研究がなされていないのだ。

「水って、あまり魔導書も多くないんだが・・・、なんで水の魔術を覚えたいんだ?」
「んっと・・、もしかしたら土の魔術かもなんですけど、地面に水を含ませた後、普通よりも蒸発しないで地面にずっと水を留めることができたらいいなと。」
「それって、畑の水やりの話か?」
「そうです!だって、最近時間ないじゃないですか。水を上げる手間を水魔術で効率化出来たら素晴らしいなと思いまして。そういう術はないんですか?」

「ない。」
「えー」

 かつて畑仕事を効率的にするという動機で魔術の開発を行った魔術師はいない。魔術師は超ド級のインテリなので、そもそも畑の土を耕すとかそんなことに関わるようなことはなく、魔術の開発をするにあたって、農作業の現場改善など頭の片隅にも発想することなどないのだ。

 リアムもカリスマヒーラーとして名を馳せた時分には、修道院のエリート街道を邁進し、庶民の俗な生活の諸々の中に魔術の使用を考えたことは一度もなかった。彼の場合は、医者のようなものであり、重病人をいかに高度な技術を駆使して治療する方全てだった。

 でも最近リリカと一緒に土いじりに精を出すようになって、彼自身畑仕事のしんどさは身に染みて理解している。トレーニング時間が増えて、忙しくなっても畑仕事を怠れば、作物は実らない。それは困る。

「リリカ、お前は面白いな。」
「面白いですか?」
「ああ、畑仕事のために魔術を覚えようなんて発想をした魔術師は今までいなかっただろうな。」
「だから、魔導書もないんですね(シュン)」

「まあ、そう悲観するな。ないならお前が考えればいいじゃないか。」
「え?私が魔術を考えるんですか?そんな事できっこないと思います。」
「そんなことはない!俺も手伝ってやるから、一度やってみろ。意外とすごい魔術になるかもしれないからな。俺も魔導書を読む方は何千冊も手を出してきたが、いざ魔導書を書くとなるとなかなか大変になるかもな。」

「リリカ、書き損じとかいっぱいしそうです。」
「そりゃするに決まってる。・・・そう言えば文字を書く紙って、もうあまりなかったような。」
「あ・・・」

 リリカは毎日魔術の勉強のために紙に字を書いているが、最近は新品がないので、以前に使った紙の空白を一生懸命使って何とかしのいでいるのだった。

「しょうがない。紙を造ろう。」
「そ、そこからですかー。。」

 何とも回り道になったが、こうして今二人は台所で作業をしているのだった。畑仕事が楽になる道のりは遠い。。

──────
 エロ要素皆無なうえ、内容もやや迷走気味ですみません。長い目で見れば次につながる内容のつもりではあります。
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