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第三部 社会人編

第32話 とある天下り役員へのオファー(※エロ要素なし注意)

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人口問題研究所の役員執務室。


立派なデスクとソファのしつらえに、白髪の男性がおさまっている。


所長:光嶋 傑こうじま すぐる(70歳)


厚●労働省の局長を退任後、この社団法人に天下りしてきた元官僚のお偉いさんだ。現役時代は現政権の庇護下で、堅実に仕事をこなし、無難に職位を上げたのち、本当はもう少しいいポストが欲しかったものの、ともかく行政の外郭団体である人口問題研究所の役員として天下ってきた。

官僚のお偉いさんたちの間では、この社の役員ポストはそこまでおいしい天下り先ではない。ずっと目立った成果が上がらず、政府からの補助金の予算が伸びないので、役員報酬の期待値もさほど伸びないのだ。

そんな人口問題研究所だが、地味に変化が起き始めていた。


「しかし、・・・なんだね。今年の新人に随分生きのいいのがいるみたいだな。こいつの担当エリアの出生比(精子の購入案件数に対する出生数の比率:第12話参照)の数字が目立って上がっている。」(光嶋)

こんなことは、今までなかった。快挙といえる。光嶋個人にとって、世の中の人口を増加させて、社会に貢献したいという思いはさほどないが、社としての業績が上がれば、組織運営に対する補助金の予算の増額要求の結果は期待できるものになる。そうなれば、将来の自分の役員報酬を上げられるので、それは魅力だ。

「ふむ、船越君か。随分童顔な、少年のようななりだが、人は見かけによらんもんだな。」(光嶋)


思わぬ期待のルーキーの登場をみて、折角の若い人材が他に流れないようしっかり引き留めておかねば、などと考えていた矢先、社の電話が鳴った。


「はい、光嶋だが」(光嶋)
「あ、光嶋様。外部からお電話がありまして、お繋ぎしてよろしいでしょうか。」(秘書)
「ん?私にか。だれかね?」(光嶋)
「それが、早瀬家の次期当主の方で。」(秘書)


早瀬家?早瀬家といえば、大物政治家と幾つものコネクションを持つ名家じゃないか。総理大臣の人選を裏で握っているとさえ噂されている・・。確か、アソコの時期当主はまだ二十歳そこそこの・・、地方の最底辺の高校を卒業したのち、いきなりハーバ●ド大学に留学して飛び級で卒業したとか、という化け物だったはずだ。

わ、私のようなしがない天下り役員に一体何の用が。わし、何かマズいことしたっけ?

「わ、わかった。つないでくれたまえ。」(光嶋)


「こんにちは。光嶋さんですか♪」(綾香)
「ははい。私が光嶋です。」(光嶋)

「はじめましてぇ♪早瀬綾香と申します~。」(綾香)
「ど、どうも。噂はかねがね耳にしております。して・・、本日は私にいかようなご用件で・・。」(光嶋)
「そろそろ期末も近づいているしぃ、決算の数値とか出そろってきている頃だと思うんですけどぉ♪」(綾香)
「・・・はい。」(光嶋)
「精子バンクの管理業績、例年と比べると向上してるんじゃないですかー?ほら、出生比とか♪」(綾香)


ど、どうやってそんな情報を仕入れてるんだ?この娘、一体何者なんだ。だが、落ち着け。別にやましいことはない。業績が上がっているという話なんだからな。

「はい、今年は若手の頑張りもあり、いつにない数字となってはおります。」(光嶋)
「でしょ?その若手についてなんですけどぉ、船越さんという方がかなりよく働いたんじゃないですかぁ?」(綾香)

「よ・・・・よくご存じで。」(光嶋)
「その方ね、期初に私の肝いりでそちらに入社いただいた方なんですぅ♪」(綾香)


ッッ!どおりで、ただモノではない匂いがしていたが、そういうことだったのか。


「はっ、早瀬様のご推薦の方だったとは、上長でありながら把握しておらず、大変申し訳なく。」(光嶋)
「いいんですよぉ♪内々で推薦したんで、人事部長の方以外にはお伝えしてないし、口止めもしてましたんでぇ。」(綾香)

・・・なんか、口調はギャルっぽい軽い喋り方なのに、話す内容にいろいろ毒が盛られてる感じで、恐いぞ。ヤバい、この電話の受け答え、失敗したらわし、くびが飛びかねんのかもしれん。

慎重に対処せねば・・。

「そのような経緯がある方だったのですね。いや、さすがは早瀬さまが見出してくださった人材。若手ながら、既に目覚ましい働きをしております!来期は新たな役職に就いていただくことも考えておりますので、今後ともよしなに」(光嶋)
「あ、いいのいいの♪彼ね、今期限りで退職いただこうと思ってますので―♪」(綾香)
「は・・・は?」(光嶋)

「で、今日はご相談したいのは、別件なんですけどぉ。」(綾香)
「は、はい。」(光嶋)

は、話が急展開すぎてついていけん(汗)。

「もうじき、総理が衆●院解散に踏み切る気なんですよねー。で、東京●区と○区、▲区なんですけど、私の方で立候補させたい人がいましてぇ。」(綾香)
「・・・は、はぁ。」(光嶋)
「光嶋さん、協力してもらえませんかぁ?ほら、OBだし、厚●省内の●局とか▲局とかだったら顔がきくじゃないですか。そこのトップの人を動かしてもらって、部下の面々と、あと、関連の外郭団体の人員も動員していただいて♪」(綾香)

「・・・・」(光嶋)
「私の一押しの方々はぁ、柔軟な思考の方なんで光嶋さんの事情も配慮してくれますよ♪ほら、補助金とか、大事じゃないですかぁ♥当選した暁には、彼女等の中から誰かをゆくゆく厚●省のトップに据えたいと思ってるので、ほら!そしたら役員報酬とか!光嶋さんにもきっといいことありますから!」(綾香)

「は、はあ。・・・そういうことでしたら。」(光嶋)
「ありがとうございますぅ♪じゃ、そういうことで、これからも仲良くしていきましょうね♪」(綾香)


ガチャ


・・・・


とりあえず、美味しい類の話だったから良かったが。あの女、絶対敵に回しちゃいけないやつだな。声は可愛らしいのに。若いのに末恐ろしい・・・。

久しぶりに鳥肌立った。
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