╣淫・呪・秘・転╠亡国の暗黒魔法師編

第7章 レース編

第186話 イグレシアからアレグリア3

港町リベルタが見えると選手達に動きが有った。
二つの黒い機体を追う白い機体が三つ。
そして女性が２人続き、後列だが１位で余裕の笑顔の２人がいた。
そして何故か町が見えて来ると順位を上げたがる選手達だ。
まず動いたのは女性達だった。

ビエルナスが放つ魔弾を難なく避けるカミラ。
その魔弾がバスティアンを襲うが、二度と油断しないと心に誓った男には当たらず、フリオに着弾。
魔弾の有効範囲は前方20mなので接近して飛行しているのだ。
次々に抜かされるフリオはブオに魔法を放ち着弾。
そしてリアムが放ち察知したカニーチェが避ける。
と、同時にバスティアンが避けた方角に放ち着弾。
悔しがるカニーチェがバスティアンを狙うが交わされてしまい最後尾になる。
だが乱戦になるかと思ったが、それで終わったのだ。
全員が魔弾の温存を決め込んだのだった。

そしてリベルタの会場に到着。
観衆の声援を浴びながら走り出す選手達。
順位は(7,ネル+1+1)、(4,リアム+1+1)、(5,バスティアン+1+1)、(2,カミラ±0+1)、(9,ビエルナス+1+1)、(3,フリオ・カデラ+1+1)、(8,カニーチェ+1+1)、(1,ローガン+2±0)、(6,ブオ+2±0)だ。

ここでも脚力の違いが出てしまった。
カニーチェはペロ族だからか? 小柄だからか? 兎に角走るのが早い。
逆に言うとローガンとブオが遅すぎるのか定かでは無い。

そして問題の減点だが到着時刻は15:10で選手達は(7,ネル+1+1+1)、(4,リアム+1+1+1)、(5,バスティアン+1+1±0)、(2,カミラ±0+1±0)、(9,ビエルナス+1+1±0)、(3,フリオ・カデラ+1+1±0)、(8,カニーチェ+1+1±0)、(1,ローガン+2±0+1)、(6,ブオ+2±0+1)だった。

暫定１位のカミラ。
２位がバスティアン、ビエルナス、フリオ・カデラ、カニーチェで、３位がネル、リアム、ローガンにブオだ。
この時点で先頭の２人は理解した。
早すぎるのだと。
しかし、観衆は見た目の順位を重視している。
そして先頭のネルは見栄っ張りだ。

リアムは割り切った。
気持ちを切り替えて徐々に速度を落とし順位を下げたのだ。
バスティアンには直ぐに理解した。
しかし、自身の順位は変えなかった。
リアムはビエルナスと並行する位置で飛行している。
リベルタでは５人が±0だったのだ。
今日はネルに先頭を譲り得点で上位を狙うリアムだった。

港町リベルタから古都アレグリアまでは荒地が続く土地で、到着予定時刻は16:20だ。
そして、この日の特典として最終ゴールした先着順にボーナス得点が加算される事になっている。
それは、上位３着に減点を消す得点が与えられるのだ。
１位には-3。
２位には-2。
３位には-1が合計点から引かれる。
しかし、１位が2分以内に早ければ意味が無い。
だか、これまでのレース結果は既定の時刻に迫っていて、大幅に違いは無いと全員が思っていた。

このコースでも特に魔物が近づく訳も無く、順調に進みゴールである最終目的地の古都アレグリアが見えてきた。
そして先頭のネルとバスティアン以外、一斉に魔法を使いだす。
流石に”来る”と思っていた時に自ら魔法を放ち最後尾のブオ以外全員が避けた。
しかし、ターゲットは目の前の先行者とは限らない。
射程距離の範囲内であればターゲットなのだ。
先ほど魔法を一斉に使った時に第二破を撃った者が居た。
ビエルナスとカニーチェだ。
当然二度撃ちもかわしたリアムとフリオだが、カミラとビエルナスに着弾。
カニーチェは味方に当てた事がショックだった。

そして乱戦は続き、フリオ、カニーチェ、ローガン、ブオが乱れ打ち状態だ。
先頭の二人、ネル、バスティアンは射程外なのだが、リアムのブロエ・マルシベーゴォ使いが凄かった。
後方から飛んで来る魔弾を上下左右と悉ことごとく躱かわし当たる事は無かった。
するとフリオとカニーチェが着弾し、すれ違い時にカニーチェがローガンに。
フリオがブオに魔弾を当てた。
その４人を大きく外側から抜き去る女性２人だ。
先行の３人と続く女性２人には距離が有り魔法は届かない。
最後尾の一団も女性達には魔法が届かないが４人で乱戦になる。
フリオとカニーチェはお互いを意識し過ぎて後続の魔法が着弾するも抜き去り際に打ち返し順位は変わらずだ。
最後尾の４人はその繰り返しでゴールを迎える。

カミラとビエルナスはほぼ横並びだ。
機体半分カミラが先行している。
ビエルナスは迷っていた。
それは今まで封印してきた体当たり攻撃だ。
奇しくも各国の参謀は最終日まで体当たり攻撃は控えるように、もしくは禁止と指示されていたからだ。
それは初めてのレースで体当たり攻撃がどれだけ機体に影響を与え、選手に危害が出るのか解らなかったからである。
ゆえに最終日まで使用禁止として参謀たちだった。

しかし今は、それしか方法が無い。
ビエルナスは悩む。
近づいて来る古都アレグリア。
つい先日までの王都だった場所で、長年勤めて来た城と城下町だ。
見知った者も多い。
”カッ”とビエルナスの目が見開いた。
そして覚悟を決めてカミラを見ると、カミラもこちらを見ていた。
実はカミラも同じ事を考えていたのだった。
ただし、ビエルナスがどう動くかと考えていたのだ。
カミラには成すスベは無い。
先行者は射程距離の外だし、後続機の射程距離外を飛行中だ。
となると、斜め後方に居るビエルナスがどう動くかを考えていた。
答えは２拓だ。
体当たりをするか、しないかだが、ビエルナスの表情で察したカミラだった。

(彼女は来る!) 
ビエルナスが仕掛けてくると確信したカミラは動体視力にビエルナスの機体を入れて飛行中だ。
選手たちは第２城門を通過。
そして城門内でビエルナスが仕掛けた。
勢いを付けてカミラの後ろ斜めにぶつけるビエルナス。
しかし、カミラは上昇し交わしたのだ。
「チッ」
悔しがるビエルナスに、してやったりのカミラだった。

城下街に入ると獣人達の歓声が轟いていた。
これは先代獣王が先頭で入って来たからだろう。
実は昨晩２人で極秘で内合わせしていたのだ。

「やはりお前が１位だったから国民は盛り上がったな」
「お前、まさか!」
「国民の期待を裏切るのは良くないだろう」
「確かにそうだが」
「まぁ勝負は最終戦だ。それまでは国の為、道化になるのも良いのではないか?」
(・・・ネルの癖に良い事を言う)
「仕方が無い。明日はお前に花を持たそう。ただし、最終日は覚悟しておけよ」
「ガッハハハハッそれは、お前の方だぞ」

第１城門前に機体を停め、王城前に有る特設会場に走る選手達。
注目はフリオ・カデラだ。
カニーチェに負けじと必死に激走する。
その光景を見ている”とあるエルフ”はハンカチを咬み、震える手を握りしめ凝視していた。
しかし、余裕の表情でカニーチェが横に並ぶと笑顔で抜き去ろうとした。
そこに魔法を唱えた声がした。

「カパシダ・フィジィカ身体能力向上魔法・メホラ」
余裕の笑顔だったカニーチェを瞬時に抜き去りビエルナスに迫る男だ。

昨夜、”２人のエルフ”は吐息がかかる距離で話し合ったのだ。
そして伝授した魔法が身体能力向上魔法で、女のエルフは躊躇ったが”自分の男”が獣人に負けたくないと悩んでいる姿を見て、愛おしい思いが募り魔法を教えたのだった。
前国王達も極秘で使っているし、既定にも無かったので問題無いのだが、背徳感で一杯だった２人だ。

だが、最後の時間も意地悪してある。
(7,ネル+1+1+1+3)、(5,バスティアン+1+1±0+3)、(4,リアム+1+1+1+2)、(2,カミラ±0+1±0+1)、(3,フリオ・カデラ+1+1±0±0)、(9,ビエルナス+1+1±0±0)、(8,カニーチェ+1+1±0±0)、(1,ローガン+2±0+1+1)、(6,ブオ+2±0+1+1)だ。
そして今日のレースの特典でもある上位三人への点数を加算すると。

結果は(2,カミラ±0+1±0±1)、(3,フリオ・カデラ+1+1±0±0)、(9,ビエルナス+1+1±0±0)、(8,カニーチェ+1+1±0±0)、(7,ネル+1+1+1+3-3)、(5,バスティアン+1+1±0+3-2)、 (4,リアム+1+1+1+2-1)、(1,ローガン+2±0+1+1)、(6,ブオ+2±0+1+1)の順だった。

本日のレース結果は１位が２点のカミラ、フリオ・カデラ、ビエルナス、カニーチェで、２位が３点のネル、バスティアンで、３位が４点のリアム、ローガンにブオだ。

明日は午後からの最終戦で、この順位で一斉にスタートする。
同列の順位だが、ゴールした順の並びになる。
夕方に到着した選手達は各国に別れて作戦会議に入った。
夜は晩餐会が用意されていて、それまでに明日の戦略を練り直す必要が有るからだ。





☆
エルフがリードしている。
エルフの時代が来るのか!?