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第8章 魔王国編

第233話 教祖とシオン

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その日の午後、教祖と聖女一族がペンタガラマの大聖堂に転移してきた。
出迎えはエルヴィーノにバルバとファイサンだ。
ブオとポヨォはシオンと別室で待機している。

「ようこそいらっしゃいました。教祖様、大司教様、ご親族の方々」
バルバの挨拶で出迎えて、お気に入りのファイサンに手を取られ教祖様が先に歩かれる。

午後からは教会の儀式が有るとして、関係者だけとし大聖堂の入口は固く閉ざされていた。
普段は信者が座る席に教祖一同が座り、シオンと接したバルバの印象や会話の内容を一同に説明させたのだ。
教祖としても初めての体験となる魔族こと、クエルノ族との邂逅だ。
出来るだけ事前に知識を得たいと親族が食い入る様に聞いていた。

「・・・なので、外見の印象とは全く違い、知識の豊富さに礼節を重んじる方だと判断いたしました」
「バルバよ、お前を疑ってはおらんが騙されてはおらんか?」
「国王との同席で、言葉が詰まる事無く自然に話されておりました」

「「「ふぅむ」」」
バルバの感想を聞いて、従来教えられていた魔族と違い至って普通。
もしくは節度を重んじる武人の様な立ち振る舞いと受け取った一族だ。
「では次に親衛隊に聞きましょう」
そう言って別室の三人を呼んだ。

代表してブオが話す。
「シオン殿の秘密を見るまでは、非常に礼節を重んじる武将のような方だと我ら三人は感じておりました。陛下からご説明が有り、その姿を拝見した時はとても驚きました。しかし、普段のシオン殿と接して至って普通の、いえ信頼の出来る方だと思います。確かに先入観はぬぐえませんが我らは陛下の親衛隊なので、どのような環境でも付き従う所存です」

「うむ、よぉ言うた」
教祖様から褒められた親衛隊だ。
「では皆さん。本人を呼ぶ前に、軽くお見せしましょうか」
「何を見せてくれるんじゃ国王」
「親衛隊がノタルム国へ向かう時の仕様です」
そう言って変化の魔法で三人に角を出した。
「「「おおおっ」」」
「これは角が生えたぞ」
「はい、魔法で角を作りました」
親族が三人に集まり角を触っている。
「リアム殿が変化した時と比べたら普通でしょ?」
「むむっ」
「それはそうだけね、身近に居る者だと嘘と解っているもの」
義父と義母の返事だ。

「では皆さん、そろそろ呼びましょうか?」
一斉に緊張し強張った表情になる。
そして迎えに行ったブオとバルバと一緒にシオンが奥から現れた。
ブオよりは若干バルバがデカい。
そのバルバよりも一回り大きなシオンだ。
親族は息を飲んで凝視していた。
中央に立つシオンが挨拶する。

「我はエルヴィーノ・デ・モンドリアン陛下に忠誠を誓い従者となった、クエルノ族の出身でレボル・シオンと申します。以後お見知り置きください」

初めて見る”魔族”を凝視して言葉を失っている親族だ。
問われる前に答えておこうと思い説明した。

「こちらの国にクエルノ族が来る場合は”隠している”状態で来ます。先ほど親衛隊が”出した様に”こちらの者が出向く際は”出す”予定です」
まだ、バルバには話していないので話しが見えないだろう。すると
「シオンとやら、何故国王に忠誠を誓ったのじゃ?」
親衛隊と同じ質問だ。
今度は適当ではマズイとそれぞれが思っていたが、腰を折って挨拶するシオンだ。

「初めまして教祖様。我は戦争や貧富における犠牲者達が国の陰で悲しむ姿に心を痛めておりました。我は戦う事しか出来ない身で有れば、弱者を助ける方法も思い付かず救済も出来ずに停滞しておりました。そんな時、同じ思いを持つ方が我に手を差し伸べてくれたのです。そのお方は我を凌ぐ力を持って困窮から解放していただき、その御心を知り忠誠を誓いました」

シオンの話しを親衛隊やバルバも真剣に聞いていた。
多少省略してあるがその通りだ。
(まぁゲレミオと言う組織を使って人と街を活性化させる手段だが・・・)

「こちらの国に来てどうだったかな?」
「初めまして大司教様。まことに残念ですが陛下の国の方が遥かに先を進む文明を切り開いた存在です。アルモニア国は拝見しておりませんが同様に素晴らしい国だと容易に想像できます」
シオンには教祖と大司教の容姿を事前に教えていたのだ。

親族から幾つか質問が有ったが無難に回答し最後に教祖からの質問となった。
「シオンや、ノタルム国でアルモニア教は広まるかのぉ?」
肝心な所だ。
「我の様に平和を望む者も存在しますので、少人数でも確実に広めて行かれると良いでしょうな」
「そうかそうか。所でお主は何をするのじゃ? 従者と言っても国王は縛られるのが嫌いじゃぞ?」
「既に陛下から拝命されており、ノタルム国でゲレミオを導入する事です」
「なるほどのぉ、着々と地盤を固めておる訳だな国王よ」
大司教様に認識してもらえたようだ。

「はい、暫くは向こうと行き来してクエルノ族を数人連れてきて、この街で研修させる予定です。アルモニア教とすれば、親衛隊の三人に頑張ってもらいノタルム国に教会の建設許可を貰う事が第一の目標で良いかと思いますが?」

「ふむ、親衛隊の三人よ。教会建設の許可を早期にもらう事がお前達の使命と知れ」
「「「はっ」」」
親族の前で大司教直々の命令だ。
これで自分の監視は大分無くなると心で喜んでいるエルヴィーノだ。

「教祖様、時間はかかると思いますが我らも一種族。長い目で手を差し伸べてください」
そう言って巨漢の男が跪き礼を取った。
「シオンや。お主の気持ち、しかと受け取ったぞ」
「はっ、有り難き幸せ。大司教様にも同じく宜しくお願い致します」
「うむ。配慮しよう」
「はっ、光栄です」

教会の上層部である親族で教祖と大司教がシオンを受け入れたのだから他の親族が近寄って来た。
「しかし、デカいなぁ。バルバの倍は有るのか?」
リアム殿だ。
バルバが近づき自分と比べて居るようだ。
「全くです。シオン殿の大きさはガトー族を越えた大きさですなぁ」

そしてリアムの耳元で確認するバルバ。
「リアム殿、親衛隊の三人に角が有るのですが、アレは一体? まるで・・・」
言葉が止まったバルバに問いただすリアム。
「魔族みたいか?」
ギョッとして驚いたバルバだ。

教会の教えで魔族の存在を教えられてきたバルバに説明する時が来たようだ。
「バルバ、ここに居る全員が知っていて、お前だけ知らない事を教えよう」
「はっありがとうございます」
「驚くなよバルバ」
「国王はな、なんと、あの!」
教祖と大司教がもったいぶって説明する。
「魔族を手に入れる為に動いたのじゃ!」
違うので即座に訂正するエルヴィーノ。

「バルバ、俺の話しを聞いてくれ。魔族と呼んでいたのは仮の名で、本当はノタルム国のクエルノ族と言う種族だ。シオンがその種族なのは聞いただろ? 今は角を隠しているが親衛隊の様に本来は角が有る。しかし、シオンの事はバルバが感じたような人物だ。っておい。聞いているのか?!」

呆然とブツブツ言っているバルバが自分の妄想を語り出す。
「流石は陛下。宗教で世界を纏め、ゲレミオで流通と経済を一手にし、それぞれの国はそのままで、争いを起こさず統一支配をされるとは、このバルバやはり陛下のお言葉に従って正解でした」

1人で過大な妄想をしている様だ。
そんな妄想家とは知らなかったが、大声で話すから全員がこの意見に感化されたようだ。
「「「おおおっ」」」
「何と言う大胆な発想だ」
マルソ殿だ。
このエルフのおっさんに魅力は使っていないはずだが。
「まさしく覇道を進んでおるな」
いやリアム殿、それは戴冠した時フォーレが言った戯言だし。

「アルモニア教が世界宗教に成るのも遠い未来では無いかも知れんぞ」
「全くじゃ、サンクタ・フェミナが導いてくれるじゃろ」
年寄り2人が世迷言を言いだした。
エルヴィーノは親族の妄想が止まらないので割って入った。
「兎に角バルバ! この事は当分の間、秘密にするようにな」
「畏まりました」
「魔族、角、ノタルム国、クエルノ族に俺が出向く事も全てだ。良いな」
「は、例え我が親族でも他言無用と心得ております」

(ふぅ、”バルバの兄”に知れたら絶対行きたいって言いだすからな)
現にガルガンダは子供のように浮かれている。
グラナダもしかりだ。
何故、獣人は魔法で角を付けると、はしゃぎ出すのか理解出来ないエルヴィーノだ。
(もしかしてバルバも角を付けたいのかな?)
いつか聞いてみるか。







親衛隊を引き連れて行く前にパウリナに説明しなきゃ。
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