珊瑚の恋

hina

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「兄様ー! あ、桜さんも! おはようございます」
「陸、おはよう。爽やかな朝だね」
「はい! 今日も昼は暑くなりそうですね」
「おはようございます、陸様」

青様唯一のご兄弟で、青様より七つ下の陸様が居間に現れる。
今日は青様は仕事、陸様は学校だ。
朝食は青様と先ほど食べ終わり、今は休憩中。青様はもう少ししたら仕事へ向かう。

「兄様、また剣の稽古に付き合って下さいね! いつか兄様を倒します!」
「陸はいつもそれだな」
青様が苦い笑みを浮かべる。
「だってー!」

陸様はいつも手加減した青様に負けている。とは言え、青様は手加減はしているものの、いつも真剣に手合わせしていた。
でも成長前の陸様では、勝つことは難しいだろう。成長後の陸様でも青様に勝てるかどうかはあやしい。
以前家に来た青様のご友人と青様が剣を合わせているのを見たことがあるけど、青様は動きに無駄がなく、美しく強かった。相手も素人ではないとわかるのに、圧倒的な差があったのだ。


「僕の目標の一つなんです。諦めません!」
「その言葉、覚えておくよ」
「打倒兄様! じゃあ僕はご飯を食べて学校に行ってきます」
「ああ」
「慌てて怪我しないように気をつけて下さいね」
「はーい!」

慌ただしく居間を去る陸様の後ろ姿を見守りながら、ソファの隣に座る青様からの口付けを受ける。

「私もそろそろ行ってくる」
「玄関までお見送りします」
「うん。有難う」








最近、青様が変だ。私との触れ合いが減って、家にいる時は自室にこもり、顔を合わせれば思い詰めたように暗い顔をしている。
食事の時も黙りがちで、理由を聞いても言葉が詰まったように口を噤んでしまう。
原因がわからないからどうにもならなくて、私も落ち込んでしまっている。


「青様、話す気になりませんか? 悩みなら、私も一緒に悩みます。一人で抱え込むより楽になりますよ……」

青様の部屋の障子の前に座って、声をかける。

時季は夏真っ盛り。もうすぐ青様の誕生日が来て、青様は成人を迎える。

めでたいはずなのに、屋敷も青様も沈んでいるように感じる。
陸様も首を傾げていた。

夜も更けてきた時間。青様の部屋にはあかりが灯っているからまだ起きてるはずだ。
部屋には踏み込めないけど、物音がしている。



「桜、私がまじないの術者を手配するから、この家から出ていってくれないか? 帝都から離れた私の知らないところで暮らしていって欲しい。当面の生活資金も渡すから」
「え? え?」

急に障子が開いたと思ったら、かけられた信じられない言葉に耳を疑った。
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