珊瑚の恋

hina

文字の大きさ
上 下
5 / 7

しおりを挟む
「な、何故ですか? 私、何か青様の気に障る事をしてしまいましたか? 最近塞ぎ込んでいたのは、私が原因ですか?」
「違うんだ。桜のせいじゃない。ただ危険な目にはあわせたくないんだ」
「危険な目?」

話が見えなくて青様を見上げる。
ふと青様の部屋の中を見ると、分厚い本や沢山の書類が机や床に散らばっていた。
綺麗好きな青様らしくない。



「取り敢えず、入ってくれ」
「はい」

私の部屋も青様の部屋も三階建ての海星家本邸の三階にある。
見晴らしが良く、庭の向こうに帝都の様子も見られる和室だ。

青様の部屋に入り、何個もあるクッションに埋もれる。
ふと近くにあった書類を見てみると、この近辺のまじないの術者や薬屋のリストだった。
ペンで線が引かれていたり、文字が書き込まれている。



「桜、信じられないような話かもしれないが聞いてくれ」
「は、はい」
肩に両手を置かれ、引き締まった表情をする青様を前に唾を呑む。

「数百年前、海星家の若い男性がある薬を飲んだんだ」
「ある薬?」
「そう。不老不死の薬らしい」
「不老不死!? そんなものが実在するんですか?」
私の問いかけに青様が頷く。

「その薬は、その男性の子孫に呪いを残した」
「呪い?」
「ああ。身体が病気にも怪我にも強くなり、老いが緩やかになって、寿命が長く延びる」
「ん? それが呪い?」
良いことのようにも思えるけど……。
「愛する伴侶がいても先立たれるんだ。呪いじゃないか。それに、それだけじゃない」
「それだけじゃないって」
「ここからが重要なんだ。その呪いが発動するのが成人した間近の時で、その時に一時的に正気を失い、珊瑚族の血肉を欲するようになるらしい」
「血肉……」
「桜を、食べてしまうかもしれない」
「え」

思わず絶句する。青様はこんな事を抱え込んでいたのか。

「血肉を欲するって、摂取出来なかったらどうなるのですか?」
「その時は耐え切れず、自害するらしい」
「自害……」
「ああ。調べてみたら、元々不老不死の薬の調合は凄く難しいらしいんだ。材料に珊瑚族の妖の瞳が使われていて、調合に失敗したのに気が付かずに服用してしまうと、変に作用してしまうらしい。そして子孫に呪いのような副作用が出た……。それでも、不老不死にならなかったことに感謝するべきなのかもしれない」
「私がこの家を出たら青様の命が危ないなら、私はこの家に残ります!」
「そう言うような気はしてたよ……」

青様が震える腕で私をふわっと抱きしめた。久しぶりの抱擁に涙が出てくる。

「もう時間がない。副作用を消す薬や術、方法がないかも調べてみたんだが、解決策は見つかっていない。ただ、特殊な薬を売る薬屋の情報は掴んだから、そこに行ってみようと思う。私も本当は桜と離れたくない。だけど、危険な目にもあわせたくない。正気を失うとしても、桜を傷付けてしまったらと考えたら、それこそ気が気じゃないない。私は自分を責め続けるだろう。呪いの話は父から聞いたんだ。父も成人の時に苦しんだらしい。珊瑚族が隠れて暮らす意味も今ならわかる。桜、まじないの術者は私が父に内緒で手配するから、いざという時は迷わず逃げて欲しい」
「青様……」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

疑う勇者 おめーらなんぞ信用できるか!

uni
ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:923pt お気に入り:246

座敷童と貧乏神

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:639pt お気に入り:9

異聞白鬼譚

BL / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:231

推理小説にポリコレとコンプライアンスを重視しろって言われても

ミステリー / 連載中 24h.ポイント:1,533pt お気に入り:3

処理中です...