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◇
「失礼する。リュシアン、大丈夫か? 全身を打ったんだろう? 抱きしめるのは……まだ無理か」
「カミル……」
部屋の扉がノックされ、返事をするとカミルが入ってきた。
僕が目を覚ました翌日、カミルは公爵家までお見舞いにやってきた。
「僕は大丈夫だよ。身体は痛いけど、昨日も魔法師に治癒魔法をかけてもらったんだ。今日も治療してもらう予定だし」
公の場ではない時は敬語を使わないでいいと言われているので、親しげに話す僕は、合わせた顔に泣きそうになる。
「そうか。今はゆっくり休もうな。顔を見るまで気が気じゃなかった……」
「カミル、お願いがあるんだ」
「お願いか……。何でも言って」
百八十を超すバランスのとれた長身に、白銀に輝く背中まである長い髪。切長の淡い紫の瞳。鼻筋はすっとしていて、薄すぎず厚すぎない形の良い唇は柔らかに微笑んでいる。
「学園でのお昼のことなんだけど……これからはカミルとじゃなくて僕の友人達と一緒に食べることを許して欲しいんだ」
「なぜ?」
カミルが笑顔から険しい顔になる。
「え?」
「なぜそんなことを言うんだ。私と共にいるのは嫌なのか? ただでさえ、放課後や休みの日も王太子の仕事が忙しくてリュシアンとの時間がなかなか取れないし、私はリュシアン不足なのに」
「僕不足って……」
いつまでその好意を僕に持っていてくれるのか、びくびくしながら過ごすのが嫌なんだ。
「カミルには、ノアがいるし……」
「ノア? ああ、あの子爵家の」
主人公のノアは僕と同じΩの可愛い系男子だ。
甘い花の香りのフェロモンが漂う魅力的な人……。
「リュシアンが彼に遠慮する事はない。私の婚約者はリュシアンだけだ」
そう言ってくれるのも今のうちだけかと思うと、心が痛い。
「なっ、泣かないでくれ、リュシアン。今は抱きしめられないのに」
気が付けば僕の瞳からポロリと涙がこぼれ、自覚した途端、次から次へと止まらなくなってしまった。
「違、違う、僕は、カミルが嫌なんじゃなくてっ……」
「そうだな。悪かった……友人達と親睦を深めたいんだよな。でも私との時間がなくなってしまうのは容認出来ないよ」
頭では分かっていても、感情は思う通りにならなくて、でも嫉妬する権利も僕にはないような気がして、途方に暮れてしまう。
「頭には触れてもいい?」
カミルに聞かれて、小さく頷く。
カミルは仕方ないなと呟いて、緩く僕の頭を撫でた。
その動作がとても優しくて、僕はもっと泣いてしまったのだった。
「失礼する。リュシアン、大丈夫か? 全身を打ったんだろう? 抱きしめるのは……まだ無理か」
「カミル……」
部屋の扉がノックされ、返事をするとカミルが入ってきた。
僕が目を覚ました翌日、カミルは公爵家までお見舞いにやってきた。
「僕は大丈夫だよ。身体は痛いけど、昨日も魔法師に治癒魔法をかけてもらったんだ。今日も治療してもらう予定だし」
公の場ではない時は敬語を使わないでいいと言われているので、親しげに話す僕は、合わせた顔に泣きそうになる。
「そうか。今はゆっくり休もうな。顔を見るまで気が気じゃなかった……」
「カミル、お願いがあるんだ」
「お願いか……。何でも言って」
百八十を超すバランスのとれた長身に、白銀に輝く背中まである長い髪。切長の淡い紫の瞳。鼻筋はすっとしていて、薄すぎず厚すぎない形の良い唇は柔らかに微笑んでいる。
「学園でのお昼のことなんだけど……これからはカミルとじゃなくて僕の友人達と一緒に食べることを許して欲しいんだ」
「なぜ?」
カミルが笑顔から険しい顔になる。
「え?」
「なぜそんなことを言うんだ。私と共にいるのは嫌なのか? ただでさえ、放課後や休みの日も王太子の仕事が忙しくてリュシアンとの時間がなかなか取れないし、私はリュシアン不足なのに」
「僕不足って……」
いつまでその好意を僕に持っていてくれるのか、びくびくしながら過ごすのが嫌なんだ。
「カミルには、ノアがいるし……」
「ノア? ああ、あの子爵家の」
主人公のノアは僕と同じΩの可愛い系男子だ。
甘い花の香りのフェロモンが漂う魅力的な人……。
「リュシアンが彼に遠慮する事はない。私の婚約者はリュシアンだけだ」
そう言ってくれるのも今のうちだけかと思うと、心が痛い。
「なっ、泣かないでくれ、リュシアン。今は抱きしめられないのに」
気が付けば僕の瞳からポロリと涙がこぼれ、自覚した途端、次から次へと止まらなくなってしまった。
「違、違う、僕は、カミルが嫌なんじゃなくてっ……」
「そうだな。悪かった……友人達と親睦を深めたいんだよな。でも私との時間がなくなってしまうのは容認出来ないよ」
頭では分かっていても、感情は思う通りにならなくて、でも嫉妬する権利も僕にはないような気がして、途方に暮れてしまう。
「頭には触れてもいい?」
カミルに聞かれて、小さく頷く。
カミルは仕方ないなと呟いて、緩く僕の頭を撫でた。
その動作がとても優しくて、僕はもっと泣いてしまったのだった。
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