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童貞を死守します(その1)
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はっ!? また時が戻ったんだな!?
ここは……スワン王国の訓練場だ!
よかった……サキュバス達はいないぞ。
全裸の兵士達が転がっているだけだ。
今は……デヴィルンヌを倒した直後で合ってるよね?
あ……魔法陣が消えているぞ!
で、スカーレンもいない。
現在、彼女は魔界にいるわけだよな……。
……よしよし、魔王の情報通りだ。
ということは今、ケーミーがここに向かっている……ってことだよね?
それも魔王が言っていたはずだ。
彼女から言われたことを信じ、とりあえずケーミーを待つか。
その間、俺は全裸の兵士達の介抱をすることにした。
「ちょっとぉ~! 勇者様……私に回復アイテムを使ってくださいよ~」
しばらくすると、訓練場にケーミーがやってきた。
よかった……魔王が宣言したとおりだ。
「あ! ケーミー! ごめんごめん!」
「あれっ? なんか一段落してる感じですかね? もうサキュバスの親玉を倒したんですか!?」
「ああ、倒したよ!」
ケーミーに癒しの聖水を使いながら会話をする。
「そうでしたか、よく誘惑を振り切れましたね……。私、途中から気を失っちゃって……」
「そうだったね。助けられなくてごめん。……体は大丈夫?」
「はい、大丈夫です! 魔力もまだ残ってます!」
彼女はスカーレンが来たこと自体、気づいていないようだな。
スカーレンが助けてくれたことぐらいは伝えておくか。
今後、また彼女は瞬間移動で俺たちのところに現れると思うから、印象を良くしておきたい。
俺とスカーレンは【サキュバスの残り香】の影響とは言え、ちょっと良い感じになっているからな。
ケーミーに敵対して欲しくないんだよね……。
「あのさ、俺は以前の旅でスカーレンと遭遇した……っていう話をしたでしょ? 魔法四天王の1人の子ね。あのときはケーミーのおかげで勝てたんだけどさ。今回、そのスカーレンが助けてくれたんだよ」
俺は大まかに事情を話した。
スカーレンのエロい姿を見て魅了を免れたことは言わないでおこうかな……。
なんか印象が良くないよね?
あと、もちろんスカーレンとのエッチな現場をケーミーに見られて、オナニーしてやり直したことも言わないよ!
「へぇ~。そうなんですね……。その強い魔族の助けがあったからサキュバスに勝てたんですね。……って、魔王軍の幹部同士なんですよね!? 仲間割れじゃないですか……! スカーレンさん……お会いしたことはないのに、なにか強い信念を持っていることは分かります。魔族も分からないものですね」
……お!?
俺の狙い通り、スカーレンに対して好印象になったようだ。
ケーミーの様子はネガティブな感じではない。
こ、これは効果的だったぞ……!
前回の反応とは全く違う。
実際、今回の危機はスカーレンのおかげで乗り切れたからね!
「そうなんだよ、男の弱点を突くサキュバスのやり方が許せないんだって。……良い子なんだよね!」
「勇者様……めっちゃ笑顔ですね。良い子っていうか、輪を乱しているだけの可能性もありますけど」
た、確かに……。
魔王軍の中ではそうなのかもしれない。
魔王は困っていたぞ。
まぁ、魔王も二枚舌なところがありそうだから、実際はどうなのか不明だけどね。
「う~ん……あと、あまり魔族に肩入れするのはどうかと思いますけどね」
うっ……! ケーミー!?
やはり簡単には信用してくれないか……。
魔族は人間の敵だ。
しかもケーミーは恋人を魔王軍に奪われているわけだしな。
「そ、そうだね……。とりあえず、残された下位のサキュバスを倒しに行こう! 魔法で援護してね」
「は~い! サキュバス達は城の中と……城下町にも行っちゃってると思います!」
俺はケーミーと一緒に、未だに暴れ回っているサキュバス達を退治しに向かった。
---
よし……人間達を襲っていたサキュバスを一掃できたぞ。
城内と町中を駆けずり回って、もう朝日が昇ってしまったな。
1番最初に襲撃されたときに比べたら、サキュバス達はぜんぜん召喚されていなかったので一晩で全滅させることができた。
けど、それでも体力的にキツいよ……。
ケーミーにはあまり疲れが見えないな。
年齢的な問題なのだろうか……?
そういえば、この国の国王と大臣達もちゃんと助けたぞ。
皆、やっぱり全裸にされていた。
今回は下位のサキュバス相手に腰をヘコヘコしていたところを助けた。
そんな国王に朝一で呼ばれたので、城下町から再び城の中に向かう。
グリトラル王国よりも豪華な部屋で、国王と大臣達、そして王女様が出迎えてくれたぞ。
もちろん、男性陣は皆ちゃんと服を着ており、威厳を示している。
「……勇者アキスト! 素晴らしい! サキュバス退治、見事であった。よくやってくれた……!」
盛大な拍手が送られている……!
そしてお金をもらったぞ。
5万ゴールド……大金だ!
「やりましたね! 勇者様!」
「お、おう……!」
ケーミーが笑顔である。
こんなに素直に喜んでくれるのは嬉しいぞ。
かつての仲間には勇者の力を妬まれている感じがあったからな。
「まさかボルハルトが裏切っていたとは……。あやつの本心なのか、サキュバスに誘惑されていただけなのか……? 今は正気を取り戻したようだが。とりあえず魔法封じの結界の中にある地下牢に閉じ込めてはいるが……。少し様子を見ることにする」
ボルハルトは生きている。
俺は殺してないからね!
う~ん……ボルハルトの裏切りは、本心なのか誘惑されていただけなのか……。
どっちなんだろう?
デヴィルンヌの魅了は恐ろしいからな。
俺もずっと近くにいたら虜になっちゃっていたはずだ。
スカーレンの着物姿の美しさと戦闘力がなかったら無限ループで詰んでいたよ。
俺とケーミーは王様達に挨拶をし、部屋を出た。
「……ということで、勇者様。次はどこに向かうんですか? 私は、私の恋人を探さないと。魔界にある魔王城にいるんですよね?」
隣を歩くケーミーが話しかけてきた。
そうだね、今後の予定を決めなくては……!
「うん、そこに仲間達はいると思う。目指すは魔王城だね」
残念ながら、生きているのかどうかは分からないけどね。
魔王城に行くためには……
「……地上の果て行くよ。そこに魔界との出入り口がある。人間側が見張っているんだよね。勇者なら、そこから魔界に行くのに特別な許可は必要ないんだ」
「へぇ~。そうなんですね。たまに魔界から魔族がやってくる……って言われている場所ですよね? 人間側が見張ってるんですね。知らなかったです」
そう……魔族達は地上の最果ての出入り口から、ときおり地上に来てしまうんだ。
人間の見張りを強引に突破してくる。
今回のように、魔法陣で地上に出て来るケースの方が珍しい。
ボルハルトがこの城の中に魔法陣を描いてしまったからだな。
「え……いや、待ってくださいよ、勇者様。地上の果てなんて、めちゃめちゃ遠いじゃないですか。そんな遠くに行くよりも、もっと簡単な方法があります」
ケーミーが何かを思い着いたようだ。
「……ん? 何?」
「魔界に行くのであれば、あの勃起おじさん……ボルハルトでしたっけ? あの人の魔法陣で行けるんじゃないですか? 今回、サキュバス達は魔法陣で地上に来たんでしたよね? 逆に魔界に行くこともできるんじゃないですか?」
「なっ! なるほど……」
ケーミー……ありがとう。
それは良い案だ。
戦っていたとき、ボルハルトは『魔法陣で魔界に帰った』って言っていたな。
そういえば前回、サキュバス達が魔法陣で帰って行くところを目の当たりにしたし。
ボルハルトは今、地下の牢屋にいるんだったな……。
というわけで、俺とケーミーは地下牢に向かった。
---
こ、ここか……。
薄暗くて魔王の城みたいだぞ。
国王は魔法封じの結界があるって言っていたな。
この牢屋の中では魔法が使えないってことだな?
牢屋自体も、ずいぶんと強固そうな金属でできているぞ。
厳重だ……とても脱走できそうにない。
「おや、勇者アキストですか。昨夜はどうも。見事な一撃でした」
牢の中にボルハルトがいた。
「ええ、どうも……」
なんか思ったより冷静だな。
紳士的だし……。
俺との戦闘のせいで服はボロボロだけど、ケガは治っているみたいだな。
人権が守られている国でよかった……。
「なんだか夢から覚めたようです。……デヴィルンヌを討ったのですね?」
「……はい」
ボルハルトが静かに頷いた。
……やっぱり魅了されていただけなのか?
それとも……まさか演技?
そんなわけはないか……。
魅了の再発とかもあるのかなぁ。
まぁ、国王様の言うとおり、しばらく様子を見た方が良さそうだ。
「あのー。聞きたいことがあるんですけど、いいですか? 私たちも魔界に行きたいんですよ。魔法陣を使わせてくれませんか?」
ケーミーが積極的に質問してくれた。
「ええ……私の部屋の魔法陣は残っているはずです。私じゃないと、消せないでしょうから。ここから私が出て魔法陣を操作すれば、魔王城に行くことはできます。ただし、私は罪人です。牢屋から出してもらうのは難しいかと……」
「ならんぞ」
こ、国王……!?
国王が直接、地下牢まで来た!
あ……隣には大臣が1人いるぞ。
「勇者アキストがボルハルトに会いに行ったと兵士から聞いてな。……なるほど、魔法陣の使用か。それは待ってくれ」
「えー! なんでですかー?」
ケーミーが反応した。
相変わらず度胸がすごい。
国王様相手に躊躇しないぞ。
けど、もうちょっと丁寧に聞こうよ……。
「国王様……さすがにボルハルトさんを牢屋から出すのは難しいでしょうか?」
俺が聞き直すと、国王が口を開いた。
「それもそうだが……ボルハルトはこの国に所属している。勇者アキスト……お主はグリトラル王国の所属だ。魔王討伐に対する、この国の貢献度を考慮する契約が両国の間で必要だ」
あ、そういうことね。
国同士の政治が関わる面倒なやつだ……。
「魔界で得られる情報や戦利品を共有し、魔王討伐の功績を両国に与えるという条件付きだ。我が国とグリトラル王国と話がまとまったらボルハルトの魔法陣の使用を許可する」
「わ、分かりました……」
なんか話が大きくなってしまったな……。
まぁ、仕方がないか。
ケーミーが不満そうだが、空気を読んで何も言わないみたいだな。
「大変だ……!! あ、国王様と大臣様! 大変です!!」
ん……!?
なんだなんだ?
奥の方から兵士が焦った様子で向かって来るぞ!?
息を切らしている。
「騒々しいぞ! どうした?」
大臣が対応する。
「脱走しているんですっ! 大罪人……カリバデスが!!」
「なっ!? なぜだ!?」
脱走?
大臣の顔色が変わった。
「おそらくサキュバス襲撃の騒ぎに紛れて! 牢に近づいた兵から鍵をもぎ取ったのでしょう……」
「な、なんだとぉっ!? あ、あの大罪人め……!」
カリ……バデス?
知らないなぁ……。
大臣がめっちゃ焦っている。
国王も不安そうな表情を浮かべているぞ。
質問してみるか。
「……大罪人? カリバデスって、何者ですか!?」
俺は国王に質問した。
なんだかヤバイ空気になっているけど……大丈夫だろうか?
「ボルバルトの弟子だ……! 最強にして、最悪の大罪人……!」
国王が答えてくれた。
ボルハルトの弟子で最強!?
大罪人のカリバデスか……。
う~ん……やっぱり知らない人だぞ。
以前の魔王討伐の旅ではサキュバス襲来がなかったし、脱走するチャンスがなかったんだな。
当然、俺と会うはずがない。
それにしても、ボルハルトより強いのか……。
なんで犯罪者になったんだろう?
「……奴は我が国の大臣を1名と、多数の兵士を重傷を負わせた罪がある! 危険過ぎる罪人だ! そ、捜索しなくては……!」
国王が周囲に指示を出す。
大臣達は返事をし、慌てて階段を上がって行った。
カリバデス……なかなか罪深そうだ。
もしかして、その脱走者……まだ城の中か城下町にいるのかな!?
き、危険だ……!!
「勇者アキスト。思わぬ非常事態になってしまった。だが、グリトラル王国との契約も進めるぞ。そうだな……1ヶ月ほどで何とかしよう」
国王様が俺に告げた。
い、1ヶ月……?
そんなに待つの!?
ボルハルトは目の前にいて、魔法陣はこの城の中にあるのに……!
いや、けど……そんな場合じゃないか。
凶悪犯が逃げているんだもんな。
……ん? ボルハルトが俺に何か言いたそうだ。
とても真剣な目つきである。
「勇者アキスト……カリバデスには気を付けた方がいい。奴は……あなたより強い!」
マ、マジで……?
ボルバルトの弟子で……人間なんでしょ?
師匠より弟子のほうが強くなってしまったのか……。
本当かな?
ボルハルトもすごい強いと思うんだけどな。
けど、実際に俺と戦ったボルハルトがそう言うのであれば、本当っぽいなぁ……。
---
俺とケーミーは城から出た。
大罪人が脱走しているけど、まだ城下町には伝わっていないようだな。
町の人たちは静かだ。
「大変な事態になったな……」
「脱走者はかなりヤバそうな人みたいですね。みんな、めちゃめちゃ焦っていました」
ケーミーも危険を察知している。
「魔法陣のほうは面倒なことになっちゃったね……。グリトラル王国と協定を結ぶって感じか……」
「そうですよね、長引きそうです。脱走者の捜索を優先してしまいそうですし。でも私は……早く恋人の行方を知りたいんです! 無事なのかどうか心配なんですよ!!」
ケーミーの圧力がすごい。
「ケ、ケーミー……うん、そうだよね」
「仲間のことに関しては勇者様にも分からないことが多いようですし……。私の不安はもう限界ですぅ……。1ヶ月も待てません……。こういう国同士の話って、絶対に長引きますよ……」
ケーミーが焦っている……!
彼女には、仲間が魔界にいることを伝えている。
けど、現在どうなっているのかは俺も本当に知らないんだよね……。
あ……ケーミーの恋人である戦士と魔法使いが付き合っていることは、まだ言っていないな。
これは言っちゃうとマズいよね?
「そうだね。けど……とにかく宿屋に泊まろうよ。徹夜でクタクタだ……」
「えっ!? そうなんですね? お、おじさん……」
ケーミー!?
ちょっと引いてるな……。
彼女はまだ動けるのか。
マジかよ……。
おそらく彼女は20歳前後だよな。
若者の体力は底なしだな……。
下位サキュバス達の退治も頑張ってくれたし、なんか成長が目覚ましいな。
若いってすごい。
よし……とにかく休もう。
俺は宿屋に帰り、すぐに寝た。
ここは……スワン王国の訓練場だ!
よかった……サキュバス達はいないぞ。
全裸の兵士達が転がっているだけだ。
今は……デヴィルンヌを倒した直後で合ってるよね?
あ……魔法陣が消えているぞ!
で、スカーレンもいない。
現在、彼女は魔界にいるわけだよな……。
……よしよし、魔王の情報通りだ。
ということは今、ケーミーがここに向かっている……ってことだよね?
それも魔王が言っていたはずだ。
彼女から言われたことを信じ、とりあえずケーミーを待つか。
その間、俺は全裸の兵士達の介抱をすることにした。
「ちょっとぉ~! 勇者様……私に回復アイテムを使ってくださいよ~」
しばらくすると、訓練場にケーミーがやってきた。
よかった……魔王が宣言したとおりだ。
「あ! ケーミー! ごめんごめん!」
「あれっ? なんか一段落してる感じですかね? もうサキュバスの親玉を倒したんですか!?」
「ああ、倒したよ!」
ケーミーに癒しの聖水を使いながら会話をする。
「そうでしたか、よく誘惑を振り切れましたね……。私、途中から気を失っちゃって……」
「そうだったね。助けられなくてごめん。……体は大丈夫?」
「はい、大丈夫です! 魔力もまだ残ってます!」
彼女はスカーレンが来たこと自体、気づいていないようだな。
スカーレンが助けてくれたことぐらいは伝えておくか。
今後、また彼女は瞬間移動で俺たちのところに現れると思うから、印象を良くしておきたい。
俺とスカーレンは【サキュバスの残り香】の影響とは言え、ちょっと良い感じになっているからな。
ケーミーに敵対して欲しくないんだよね……。
「あのさ、俺は以前の旅でスカーレンと遭遇した……っていう話をしたでしょ? 魔法四天王の1人の子ね。あのときはケーミーのおかげで勝てたんだけどさ。今回、そのスカーレンが助けてくれたんだよ」
俺は大まかに事情を話した。
スカーレンのエロい姿を見て魅了を免れたことは言わないでおこうかな……。
なんか印象が良くないよね?
あと、もちろんスカーレンとのエッチな現場をケーミーに見られて、オナニーしてやり直したことも言わないよ!
「へぇ~。そうなんですね……。その強い魔族の助けがあったからサキュバスに勝てたんですね。……って、魔王軍の幹部同士なんですよね!? 仲間割れじゃないですか……! スカーレンさん……お会いしたことはないのに、なにか強い信念を持っていることは分かります。魔族も分からないものですね」
……お!?
俺の狙い通り、スカーレンに対して好印象になったようだ。
ケーミーの様子はネガティブな感じではない。
こ、これは効果的だったぞ……!
前回の反応とは全く違う。
実際、今回の危機はスカーレンのおかげで乗り切れたからね!
「そうなんだよ、男の弱点を突くサキュバスのやり方が許せないんだって。……良い子なんだよね!」
「勇者様……めっちゃ笑顔ですね。良い子っていうか、輪を乱しているだけの可能性もありますけど」
た、確かに……。
魔王軍の中ではそうなのかもしれない。
魔王は困っていたぞ。
まぁ、魔王も二枚舌なところがありそうだから、実際はどうなのか不明だけどね。
「う~ん……あと、あまり魔族に肩入れするのはどうかと思いますけどね」
うっ……! ケーミー!?
やはり簡単には信用してくれないか……。
魔族は人間の敵だ。
しかもケーミーは恋人を魔王軍に奪われているわけだしな。
「そ、そうだね……。とりあえず、残された下位のサキュバスを倒しに行こう! 魔法で援護してね」
「は~い! サキュバス達は城の中と……城下町にも行っちゃってると思います!」
俺はケーミーと一緒に、未だに暴れ回っているサキュバス達を退治しに向かった。
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よし……人間達を襲っていたサキュバスを一掃できたぞ。
城内と町中を駆けずり回って、もう朝日が昇ってしまったな。
1番最初に襲撃されたときに比べたら、サキュバス達はぜんぜん召喚されていなかったので一晩で全滅させることができた。
けど、それでも体力的にキツいよ……。
ケーミーにはあまり疲れが見えないな。
年齢的な問題なのだろうか……?
そういえば、この国の国王と大臣達もちゃんと助けたぞ。
皆、やっぱり全裸にされていた。
今回は下位のサキュバス相手に腰をヘコヘコしていたところを助けた。
そんな国王に朝一で呼ばれたので、城下町から再び城の中に向かう。
グリトラル王国よりも豪華な部屋で、国王と大臣達、そして王女様が出迎えてくれたぞ。
もちろん、男性陣は皆ちゃんと服を着ており、威厳を示している。
「……勇者アキスト! 素晴らしい! サキュバス退治、見事であった。よくやってくれた……!」
盛大な拍手が送られている……!
そしてお金をもらったぞ。
5万ゴールド……大金だ!
「やりましたね! 勇者様!」
「お、おう……!」
ケーミーが笑顔である。
こんなに素直に喜んでくれるのは嬉しいぞ。
かつての仲間には勇者の力を妬まれている感じがあったからな。
「まさかボルハルトが裏切っていたとは……。あやつの本心なのか、サキュバスに誘惑されていただけなのか……? 今は正気を取り戻したようだが。とりあえず魔法封じの結界の中にある地下牢に閉じ込めてはいるが……。少し様子を見ることにする」
ボルハルトは生きている。
俺は殺してないからね!
う~ん……ボルハルトの裏切りは、本心なのか誘惑されていただけなのか……。
どっちなんだろう?
デヴィルンヌの魅了は恐ろしいからな。
俺もずっと近くにいたら虜になっちゃっていたはずだ。
スカーレンの着物姿の美しさと戦闘力がなかったら無限ループで詰んでいたよ。
俺とケーミーは王様達に挨拶をし、部屋を出た。
「……ということで、勇者様。次はどこに向かうんですか? 私は、私の恋人を探さないと。魔界にある魔王城にいるんですよね?」
隣を歩くケーミーが話しかけてきた。
そうだね、今後の予定を決めなくては……!
「うん、そこに仲間達はいると思う。目指すは魔王城だね」
残念ながら、生きているのかどうかは分からないけどね。
魔王城に行くためには……
「……地上の果て行くよ。そこに魔界との出入り口がある。人間側が見張っているんだよね。勇者なら、そこから魔界に行くのに特別な許可は必要ないんだ」
「へぇ~。そうなんですね。たまに魔界から魔族がやってくる……って言われている場所ですよね? 人間側が見張ってるんですね。知らなかったです」
そう……魔族達は地上の最果ての出入り口から、ときおり地上に来てしまうんだ。
人間の見張りを強引に突破してくる。
今回のように、魔法陣で地上に出て来るケースの方が珍しい。
ボルハルトがこの城の中に魔法陣を描いてしまったからだな。
「え……いや、待ってくださいよ、勇者様。地上の果てなんて、めちゃめちゃ遠いじゃないですか。そんな遠くに行くよりも、もっと簡単な方法があります」
ケーミーが何かを思い着いたようだ。
「……ん? 何?」
「魔界に行くのであれば、あの勃起おじさん……ボルハルトでしたっけ? あの人の魔法陣で行けるんじゃないですか? 今回、サキュバス達は魔法陣で地上に来たんでしたよね? 逆に魔界に行くこともできるんじゃないですか?」
「なっ! なるほど……」
ケーミー……ありがとう。
それは良い案だ。
戦っていたとき、ボルハルトは『魔法陣で魔界に帰った』って言っていたな。
そういえば前回、サキュバス達が魔法陣で帰って行くところを目の当たりにしたし。
ボルハルトは今、地下の牢屋にいるんだったな……。
というわけで、俺とケーミーは地下牢に向かった。
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こ、ここか……。
薄暗くて魔王の城みたいだぞ。
国王は魔法封じの結界があるって言っていたな。
この牢屋の中では魔法が使えないってことだな?
牢屋自体も、ずいぶんと強固そうな金属でできているぞ。
厳重だ……とても脱走できそうにない。
「おや、勇者アキストですか。昨夜はどうも。見事な一撃でした」
牢の中にボルハルトがいた。
「ええ、どうも……」
なんか思ったより冷静だな。
紳士的だし……。
俺との戦闘のせいで服はボロボロだけど、ケガは治っているみたいだな。
人権が守られている国でよかった……。
「なんだか夢から覚めたようです。……デヴィルンヌを討ったのですね?」
「……はい」
ボルハルトが静かに頷いた。
……やっぱり魅了されていただけなのか?
それとも……まさか演技?
そんなわけはないか……。
魅了の再発とかもあるのかなぁ。
まぁ、国王様の言うとおり、しばらく様子を見た方が良さそうだ。
「あのー。聞きたいことがあるんですけど、いいですか? 私たちも魔界に行きたいんですよ。魔法陣を使わせてくれませんか?」
ケーミーが積極的に質問してくれた。
「ええ……私の部屋の魔法陣は残っているはずです。私じゃないと、消せないでしょうから。ここから私が出て魔法陣を操作すれば、魔王城に行くことはできます。ただし、私は罪人です。牢屋から出してもらうのは難しいかと……」
「ならんぞ」
こ、国王……!?
国王が直接、地下牢まで来た!
あ……隣には大臣が1人いるぞ。
「勇者アキストがボルハルトに会いに行ったと兵士から聞いてな。……なるほど、魔法陣の使用か。それは待ってくれ」
「えー! なんでですかー?」
ケーミーが反応した。
相変わらず度胸がすごい。
国王様相手に躊躇しないぞ。
けど、もうちょっと丁寧に聞こうよ……。
「国王様……さすがにボルハルトさんを牢屋から出すのは難しいでしょうか?」
俺が聞き直すと、国王が口を開いた。
「それもそうだが……ボルハルトはこの国に所属している。勇者アキスト……お主はグリトラル王国の所属だ。魔王討伐に対する、この国の貢献度を考慮する契約が両国の間で必要だ」
あ、そういうことね。
国同士の政治が関わる面倒なやつだ……。
「魔界で得られる情報や戦利品を共有し、魔王討伐の功績を両国に与えるという条件付きだ。我が国とグリトラル王国と話がまとまったらボルハルトの魔法陣の使用を許可する」
「わ、分かりました……」
なんか話が大きくなってしまったな……。
まぁ、仕方がないか。
ケーミーが不満そうだが、空気を読んで何も言わないみたいだな。
「大変だ……!! あ、国王様と大臣様! 大変です!!」
ん……!?
なんだなんだ?
奥の方から兵士が焦った様子で向かって来るぞ!?
息を切らしている。
「騒々しいぞ! どうした?」
大臣が対応する。
「脱走しているんですっ! 大罪人……カリバデスが!!」
「なっ!? なぜだ!?」
脱走?
大臣の顔色が変わった。
「おそらくサキュバス襲撃の騒ぎに紛れて! 牢に近づいた兵から鍵をもぎ取ったのでしょう……」
「な、なんだとぉっ!? あ、あの大罪人め……!」
カリ……バデス?
知らないなぁ……。
大臣がめっちゃ焦っている。
国王も不安そうな表情を浮かべているぞ。
質問してみるか。
「……大罪人? カリバデスって、何者ですか!?」
俺は国王に質問した。
なんだかヤバイ空気になっているけど……大丈夫だろうか?
「ボルバルトの弟子だ……! 最強にして、最悪の大罪人……!」
国王が答えてくれた。
ボルハルトの弟子で最強!?
大罪人のカリバデスか……。
う~ん……やっぱり知らない人だぞ。
以前の魔王討伐の旅ではサキュバス襲来がなかったし、脱走するチャンスがなかったんだな。
当然、俺と会うはずがない。
それにしても、ボルハルトより強いのか……。
なんで犯罪者になったんだろう?
「……奴は我が国の大臣を1名と、多数の兵士を重傷を負わせた罪がある! 危険過ぎる罪人だ! そ、捜索しなくては……!」
国王が周囲に指示を出す。
大臣達は返事をし、慌てて階段を上がって行った。
カリバデス……なかなか罪深そうだ。
もしかして、その脱走者……まだ城の中か城下町にいるのかな!?
き、危険だ……!!
「勇者アキスト。思わぬ非常事態になってしまった。だが、グリトラル王国との契約も進めるぞ。そうだな……1ヶ月ほどで何とかしよう」
国王様が俺に告げた。
い、1ヶ月……?
そんなに待つの!?
ボルハルトは目の前にいて、魔法陣はこの城の中にあるのに……!
いや、けど……そんな場合じゃないか。
凶悪犯が逃げているんだもんな。
……ん? ボルハルトが俺に何か言いたそうだ。
とても真剣な目つきである。
「勇者アキスト……カリバデスには気を付けた方がいい。奴は……あなたより強い!」
マ、マジで……?
ボルバルトの弟子で……人間なんでしょ?
師匠より弟子のほうが強くなってしまったのか……。
本当かな?
ボルハルトもすごい強いと思うんだけどな。
けど、実際に俺と戦ったボルハルトがそう言うのであれば、本当っぽいなぁ……。
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俺とケーミーは城から出た。
大罪人が脱走しているけど、まだ城下町には伝わっていないようだな。
町の人たちは静かだ。
「大変な事態になったな……」
「脱走者はかなりヤバそうな人みたいですね。みんな、めちゃめちゃ焦っていました」
ケーミーも危険を察知している。
「魔法陣のほうは面倒なことになっちゃったね……。グリトラル王国と協定を結ぶって感じか……」
「そうですよね、長引きそうです。脱走者の捜索を優先してしまいそうですし。でも私は……早く恋人の行方を知りたいんです! 無事なのかどうか心配なんですよ!!」
ケーミーの圧力がすごい。
「ケ、ケーミー……うん、そうだよね」
「仲間のことに関しては勇者様にも分からないことが多いようですし……。私の不安はもう限界ですぅ……。1ヶ月も待てません……。こういう国同士の話って、絶対に長引きますよ……」
ケーミーが焦っている……!
彼女には、仲間が魔界にいることを伝えている。
けど、現在どうなっているのかは俺も本当に知らないんだよね……。
あ……ケーミーの恋人である戦士と魔法使いが付き合っていることは、まだ言っていないな。
これは言っちゃうとマズいよね?
「そうだね。けど……とにかく宿屋に泊まろうよ。徹夜でクタクタだ……」
「えっ!? そうなんですね? お、おじさん……」
ケーミー!?
ちょっと引いてるな……。
彼女はまだ動けるのか。
マジかよ……。
おそらく彼女は20歳前後だよな。
若者の体力は底なしだな……。
下位サキュバス達の退治も頑張ってくれたし、なんか成長が目覚ましいな。
若いってすごい。
よし……とにかく休もう。
俺は宿屋に帰り、すぐに寝た。
応援ありがとうございます!
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