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決戦(その1)

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 俺とケーミーは気絶しているマインドを連れて魔王城の中を歩いた。
そして、ボルハルトの部屋に戻ることができたぞ。
部屋の中に入り、床に描かれた魔法陣の上に立った。
そういえば、この魔法陣……まだ使えるのか?
すでに地上に帰ったであろうカリバデスがスワン王国に事の顛末てんまつを報告してしまっていたら……?
俺たちを締め出すために、魔法陣の使用を中止しているかもしれない。
もし魔法陣が使えなかったら……正規のルートで帰るしか方法がないな。
地上の最果てから帰ることになるので大変だけど。
 ……お? 魔法陣が輝き出したぞ!
無事に発動したようだ!
俺とケーミー、そして気絶しているマインドが光に包まれる……!
その後、目を開けるとスワン王国の城の中であった。
よかった! 一瞬で地上に帰って来れたぞ!
床には魔法陣が描いてあり、魔界に向かった部屋であることが分かった。
ここもボルハルトの部屋だったね。
 あ! 目の前にボルハルトがいるぞ!
ちゃんと魔法陣を発動させてくれたんだな。
……って、カリバデスはどうなった!?
もう全てを報告してしまったのだろうか……?

「勇者アキスト……戻ってきたのですね」

 ボルハルトが何とも言えない表情でこちらを見ている。
これは……もうカリバデスが報告していそうだ。
 あ、後ろにはスワン王国の国王様……そして大臣達もいる。

「勇者アキスト、どういうことだ……?」
「いや、もう勇者とは呼ぶべきではないのかもしれない」
「サキュバスを討伐してくれて、信じていたのに……」

 大臣たちが次々に発言する。
うわ……俺に落胆している?
どちらかと言えば否定的な感じだぞ。
国王様は何も喋らないな。
俺の様子を伺っているようだ……。
大臣たちに続いて、さらに後ろにいる人達が口を開く。

「だから言ったんだ! 勇者アキストには頼れない!」
「これだから遅咲きマイペース勇者は……!!」
「これは大きな問題だぞ! 放っておいては、我々の責任問題になる!」

 うわっ!? こ、攻撃的だな……!?
この人達は……誰だ!?
わざわざ俺を【遅咲きマイペース勇者】と呼ぶなんて!
あ、わかったぞ! この人達は……グリトラル王国の大臣達だ!!
間違いない……!
グリトラル王国の大臣達が、この国にわざわざ来ているなんて!
……まぁ、スワン王国と協定を結んだわけだからな。
俺の状況を確認しに来ていても不思議ではない。
グリトラル王国のお偉いさんは、俺に対して必要以上に厳しいんだよなぁ。
さすがに国王様……グリトラルIII世はいないみたいだ。

「私は最初からアキストを信じていなかった!」
「迷惑しかかけないな、お前は……」
「グリトラル王国の名誉にかけて、許すわけにはいかない! 聖剣の没収……そして牢屋行きだな!!」

 ほら……さらに圧力をかけてきたぞ!
まだまだ俺への糾弾が続きそうだぞ。
……って、勇者の聖剣を没収されるのはマズい!
牢屋行きも絶対に勘弁してくれ……!!
俺にはやらなきゃいけないことがあるんだ!

「スワン王国の皆様方! もうこの勇者は血迷っていますぞ……!」

 うわぁ……!?
グリトラル王国の大臣の1人が、大きな声で言い放ったぞ!?
今度はスワン王国の大臣たちが発言する……!

「けど、アキスト様の実力は本物でしたよ……? サキュバス討伐で証明されました!」
「犯罪者というのは行き過ぎでは……?」
「いや、しかし……本当に勇者なのか? 明らかに魔族の味方をしている映像だったぞ!?」

 スワン王国側は迷っているな。
やはり……水晶玉を使って全てを見てしまったようだ。
あの映像はね……そう思っちゃうよね。
言い訳……できるかな?
 ……あ、あれ!?
誰かが部屋に入って来たぞ?
みんなの注目がその人に集まる。
げ! あ、あれは……グリトラルIII世!?
グリトラル王国の国王様だ!
わざわざ国王まで、スワン王国に足を運んでいたのか!

「……そうじゃな。皆の言うとおりじゃ。勇者アキスト……! 勇者の聖剣を剥奪する! 勇者の称号も剥奪じゃ!!」

 な、なぁっ……!?
こ、この国王は相変わらず俺に厳しいな!!
 あ……黙っていたスワン王国の国王様が、グリトラルIII世に話しかけるぞ!

「しかし……グリトラルIII世殿よ。話を進めるのは勇者アキストの言い分を聞いてからでも良いのでは?」

「む? いや、アキストの愚行を見たであろう。あの水晶玉が映した映像が何よりの証拠……!!」

 くっ! それは言い訳ができないんだよなぁ。
……って、みんなに水晶玉を見せたのはカリバデスだよね?
みんなに何て言ったんだろう?
まぁ、何を言ったとしても映像があるからなぁ。
あれ……? そもそも、カリバデスはどこに行ったんだろう?
彼女はここにいないぞ……!?

「確かに……動かぬ証拠があるな。そもそも、勇者アキストの処遇についてはグリトラル王国に全権限があるか……」

 げっ!?
スワン王国の国王様も味方にはなってくれないのか!?

「……牢屋に入れるのはカリバデスではなく、勇者アキストということか!?」
「そうだな! カリバデスは魔王を討ち取ったというわけだな!」
「勇者は、我々を騙していたんだな……!!」

 うわ……スワン王国の大臣達まで、何だよ……!?
カリバデスは牢屋に入れられちゃったのか!?
ん……? スワン王国の国王様が一歩前に出たぞ?
なんだなんだ……!?

「勇者アキスト……それでも聞かせてくれ。何か言い分はないのか?」

 おおっ……!
スワン王国の国王様は俺の証言を聞いてくれる!
まだ希望はあるぞ!!

「私は……人間と魔族が和解する道を目指します!」

 俺の発言を聞いて、みんなが静まりかえる。
徐々にザワザワし始めた。

「なっ? こ、この男は何を言っているんだ!?」
「何を無茶なことを……」
「我々が魔族からどれだけの被害を受けたか知らないのか!?」

 両国の大臣達が騒いだり呆れたりしているぞ。
これは、受け入れてもらえないな……。

「危険な思想だな……。地上を侵略し続けた魔族を許すとは……!! 早く聖剣を没収しろ! 兵士達をたくさん呼べ!」

 グリトラルIII世……!
本当に俺を捕まえる気だ!!
もはや目が血走っているぞ……!?

「勇者アキスト……残念だ。サキュバスの恐ろしさを、その身で味わったというのに」

 スワン王国の国王も……ダメなのかよ!
やばい……このままでは捕まってしまう!
幸い、この部屋にはまだ兵士が少数しかいないな……。
兵士が集まってくる前に逃げるか!?
……うん、逃げよう! 逃げてしまおう!
聖剣を没収されて牢屋に入れられている場合じゃないんだ……!!

「逃げるぞ……! ケーミー!!」

 俺の後ろにいたケーミーの腕を掴み、逃げ出した。

「え!? ちょっと! 勇者様!? に、逃げるんですか?」

 後ろから大臣達の声が聞こえてくる。

「なっ!? 魔法使いの女の子を連れ去ったぞ!?」
「なんて奴だ……! これ以上、罪を重ねるのか!」
「僧侶は守れ……!!」

 俺は部屋から、そして城から逃げ出した。
『僧侶は守れ』……?
あ、マインドのことか!
気絶していたから、置き去りにしてしまった。
 はは……これで追われる身か。
怖いなあ。
なんか分かってくれるかも……って、どこかで期待していたんだけどなぁ。
グリトラルIII世は当然ダメ。
スワン王国側も味方してくれなかったな。
2人の国王が最終的な判断を下したように見えたな。
最終的には、トップの一声で決まっちゃうよね。
これまで魔族からどれだけの被害を受けてきたか……って話は分かるんだけどさ。
このまま戦い続けても、被害は拡大する一方だぞ。
 ……魔王の言葉、今なら分かる気がする。
魔王は『人間の狂気とか残酷性が恐ろしい』……と言っていた。
さっきのは多人数から向けられる攻撃的な態度……は恐ろしかったな。
彼らなりの正義なんだろうけどさ。
大人数から向けられる敵意は嫌だ……。
カリバデスも2年前に陰湿なイジメを受けて、そんな思いをしたんだろうな。
まぁ、大人数に限らず小人数だってそうだよ。
俺は以前の勇者パーティで味わってきた。
魔王……人間の怖さは、分かるよ
集団化した人間の恐怖って感じだ。
まぁ……それは、魔族も同じかな。
スカーレンに対して、魔王達はちょっとイジメっぽかったよ?
 ……魔王が殺されて、サリーヌ達は怒りに燃えている。
仕返しに人間狩りを始めるかもしれない。
地上に攻め込んで来るかな?
あ……その可能性を国王達に伝えられずに逃げてきちゃったな。
俺は人間の敵というわけではないから、伝えたかったんだけどな。
 ああ……とにかく俺は、勇者の称号を剥奪された上に、犯罪者になってしまったぜ……。
うまく……いかないなぁ……。

「ちょっと、待ってください……どこに行きますか?」

 城を出て城下町を突き抜け、草原まで来た。
息を切らしたケーミーが俺に聞いてきたぞ。
……あ、どこに行くかは考えていなかった。

「どこに行くかは決めていないんだ……」

 って、もしかして……ケーミーも置き去りにしておいた方がよかったか?
捕まえられそうになっていたのは俺だけだったよね。

「……ケーミー、ごめん。ケーミーは逃げなくても捕まらなかったかも」

「そうかもしれませんけど……そんな気にしなくっていいですよ。置いてけぼりにされても勇者様が心配ですし。それにしても、グリトラル王国は聞く耳を持ってませんでしたね。スワン王国も話が分からない人達だなぁ……。もうちょっとぐらい話を聞いてくれてもいいのに」

 ケーミーが複雑そうな表情をしている。

「ケーミー……ありがとう。俺の味方になってくれて……」

「えっ!? ……いや本当、そんな気にしないでください! 勇者様が心配とは言っても、何か特別な感情を持っているわけじゃないですからね? 勘違いしないでくださいよ? 私は勇者様のおかげで、ターナーと再会するっていう目的を果たしましたからね! やっとスッキリしたんですよ……!! というわけで、感謝しています。勇者様に協力しますよ!」

「ありがとう、ケーミー……!」

「これで次の恋愛にいけます! あ……私の恋愛対象は人間ですからね。魔族の男には興味ありません。だから、最終的には人間の社会に戻ります! ……というわけで私は、このまま勇者様に連れ去られている身ってことでお願いします。全面的に勇者様に協力しているって伝わってしまうと、私も犯罪者になってしまう可能性が高いですから……。勇者様は魔界で生活する可能性も出てきましたよね。スカーレンさんも向こうにいますし」

「そ、そうだね……。わかったよ」

 意見がはっきりしているなぁ。
この子は恋愛重視なんだな……。
最初からターナーが目的だったしね。
俺とスカーレンを見て、その恋愛関係を大切に思ってくれているしな。
スカーレンの恋する乙女の姿を見て、わりと魔族に寛容になっていった気もする。

「よし……まずはサリーヌ達がどう出るかだな。雰囲気的に、けっこう危ない感じだった。スカーレンから情報を得ないとな……」

「確かにそうですね……。あ、ちょっと急いで遠くに逃げませんか? スワン王国もグリトラル王国も危険です。捕まっちゃいますよ!」

「そうなんだけど……スカーレンから情報を得たいな。けど、彼女が発見できる場所じゃないと会えないと思う。いつもは瞬間移動で地上に来たあと、探し回ってくれているんだよね」

「ああ……そういうことですか。う~ん……あ! 射精して魔王城に戻れませんか? 例の呪いです。ループがどうなってしまうのか分かりませんが……」

「いや……魔王が死んじゃったから、射精しても戻れないんだよね。魔王自身がいつだか『私が死んだら呪いは解ける』って言っていた」

 改めて魔王が死んだ話をすると、悲しいな……。

「あ、そうか。それもそうですね。……じゃあ、どうしましょうか?」

「野宿かな」

「げっ!」

「スカーレンが近くに来れば、感知できるぞ。彼女が地上に来るとしたら、おそらくスワン王国かグリトラル王国、あとはグリトラル王国付近の草原だな。俺とスカーレンが最初に会った場所だしね」

「まぁ……確かに。思い出の場所ってわけですか。野宿は止むを得ないですね……」

「う、うん……」

 というわけで、グリトラル王国に向かって歩き、野宿をした。
兵士達に見つからないように、なるべく目立たないところで。


---


 その夜、俺は野宿しながら色々と考えていた。
追われる身か……悲しいな。
今まで人間側でがんばってきたんだけどね……。
まぁ、まだケーミーが味方してくれているからな。
あとはもちろん、なんと言っても魔界にはスカーレンがいるんだ!
 ……ああ、スカーレン。
会いたいな。
着物姿のスカーレンを思い浮かべた。
うっ……思わず手をチンコに伸ばしてしまうぜ。
呪いの刻印は消えたはずだから、オナニーができるぞ。
いや、ケーミーと一緒に野宿をしているからオナニーは難しいよね。
こんなときにオナニーをしようと考えるのは如何いかがなものか……。
と思いながらも、月夜の下……自分のチンコを見てみた。
……ん? あれ?
チンコに呪いの刻印が……あるじゃん!?
どういうこと!?
魔王が死んだのに、呪いは……消えていない?
これは本当に……オナニーをしてみるか?
呪いが発動すれば、また魔王城に行けるかもしれないよね?
もしかして、魔王は生きているかもしれないのか!?
よし……シコシコしてみよう。
 俺はスカーレンのおっぱいを想像しながら、オナニーを開始した。
シコシコ……シコシコと……。
よし……興奮してきた。
勃ってきたぞ。

「あ、ああぁぁぁっ……スカーレン……」

 ……やばい!
なんか久々のオナニーで気持ちが盛り上がっている。
声を上げてしまうとケーミーが起きてしまうな……。
って、ケーミーの顔を思い浮かべてはいけない!
確かに彼女も可愛いんだよなぁ……。
い、いやいや!
何を言ってるんだ俺は……!!
好きな子に集中しようと思えば思うほど別の人のことを思い浮かべてしまうこの現象は一体なんなんだ!?
想像だけで射精することの難しさはここにある!
 俺は必死にスカーレンの顔、おっぱい、着物を想像した!
ス、ス、ス、スカーレンッ……!!
俺が着物を着崩したスカーレン!!
お、おおぉっ……!!
うぅ……無事に発射できたぞ。
ど、どうだ?
呪いはどうなんだ……!?
あ……!! これは……!?
俺の体から禍々まがまがしいオーラが!
ま、まずいぞ!
本当に魔王のところに……行くのか!?
もしかして……魔界か!?
勇者の聖剣だけでも持っていかないと不安だ!
よし……聖剣を持った!
鎧は間に合わない……。
……ん? 何か物音がするぞ?

「ゆ、勇者さま~? って、何をやってるんですか!? こ、これは……オ、オナ……いや、ええっ!? へ、へんたい……」

 ケーミーが起きてきた!
そして俺をののしり始めそうだ!

「ケーミー……! 違うんだ! 魔王の呪いが発動するかも! 俺は……また魔界に……あ……あぁ……」

「の、呪い!? あ、あれ!? 呪いの効果がまだ残っていたってことですか……!? オナニー変態勇者……というわけではないんですね!?」

 あ……俺の意識が薄れていく……。

「勇者様!? ま、魔界……魔王城に飛ばされちゃうんですよね!? そういうことですよね? わ、私はどうすれば……ゆ、勇者さま~!?」

 ケーミーが騒いでいるぞ。
彼女の声を聞きながら、俺の意識は遠のいていった……。
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