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夢の中?

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 あれ……?
どうなったんだっけ?
確かケーミーと一緒に野宿して、オナニーして……。
あ、呪いが発動したのか!?
……ん? 前方から女性の声がするぞ。

「……殺されちゃったわ。もう、嫌になっちゃう」

「え……? 魔王!?」

 おおっ!?
魔王らしき女性が目の前にいる!
けど、ここは魔王城ではないよね?
周囲は暗く……ぼやっとしている。
な、なんだこの空間!?
どこに飛ばされたんだろう……?
目の前に魔王がいることは、かろうじて分かるけど。
もしかしてこれは……

「……夢?」

 俺の疑問に魔王が答える。

「まぁ、夢というか、あの世の1歩手前というか、生と死の狭間はざまというか……そんな感じね」

「な、なんだそれ!? お、恐ろしいな……!!」

 魔王は俺のリアクションに少し微笑んだ後で口を開く。

「……それにしても、まだ僅かに残っていたみたいね。私の呪い」

「呪いが僅かに残っていた……? え? 魔王は……本当に生きているのか? 死んでしまったように見えたけど……」

「……まぁ、死んでいるわね。死んでいるけど、呪いの効果は僅かに残っていたってことよ」

「なるほど、そうなのか……。僅かに残っていたってことは、この先ちゃんと呪いは消えるってことだよね? 魔王は……その……死んでしまったわけだし……」

「そうそう。そういうことよ。呪いの効果はすぐに消えると思うわ。……このあと、勇者さんは魔王城で目覚めることになるでしょうね。けど、魔力を注入する私はもういないから、時をさかのぼることはないの」

「え!? 魔王城!? ほ、本当に……?」

 魔界に行く手段があるなら、野宿を続けてスカーレンを待つ必要はなくなるぞ。
俺の質問に、魔王が首をかしげながら答える。

「……まぁ、私が死んだのはもちろん初めてだから、この先どうなるか実際には分からないけどね。文献に載っていた過去の例を参考にして伝えているだけよ」

 文献……か。
さすが勉強熱心な魔王だ。
これは本当っぽいぞ。

「……そうか。とにかく呪いは消えるみたいだね。うん……魔王城に行けるのであれば好都合だ」

「あら、好都合なの? 魔界や地上の状況は私には分からないわ。死んでしまったからね。まあ、いいわ。……平和的に解決するっていうのが、勇者さんの目的なのよね? その目的のために、とにかく最後まで頑張ってもらいたい……私はそう思っているから良かったわ」

「魔王? 和解を望む俺のことを応援してくれるのか……? サリーヌ達の味方じゃないんだね?」

「もちろん、サリーヌ達の味方よ。ただ……人間達に殺されると分かっているのに、戦って欲しくないと思っているわね。殺されるぐらいだったら、平和的な解決を望むわよ。サリーヌ達が人間達と戦って勝てると思う?」

「……」

「……人間が有利よね。私を殺したあの女の子が本当に厄介だわ。勇者さんが目的を達成すれば、サリーヌ達の生存確率が上がるわ。勇者さんには頑張って欲しいの」

 確かに……人間側が有利だ。
魔王……言いたいことを言い終えたのだろうか?
スッキリした表情になっている。
……ん? 魔王の表情が変わったぞ?
今度は、今までに見たことがないぐらい真剣な顔になっている。

「そろそろ……私は行かなきゃ」

 そうか!
完全に死んでしまう……ってことなのかな?
いや、もう完全に死んでいるんだけど、こんなふうに意思の疎通もできなくなるってことか?
魔王は今……た、魂だけの状態なのか?
よく分からない状況だけど、もうこれ以降は魔王と会話できない……それは分かるぞ。
うぅ……彼女とはけっこう仲良くなってしまったからな。
つ、つらいぞ……。

「魔王……。守れなくてごめん」

「守れなくて? ……あら? 私を守るつもりだったの? 勇者なのに魔王である私を守るつもりだったなんて。あ……勇者だからこそ、目の前の生命を守りたかったのね。むしろ勇者らしい、正義感に満ちた考え方なのかしら? スカーレンが惚れた理由も、あなたの分け隔てないその優しさなのかもしれないわね。……そんなあなたの考え方が人間達に伝わらないのは残念だわ」

 ま……魔王!!
嬉しいことを言ってくれる!
なんか……心に染みるぜ。
正直、人間達よりも魔王のほうが俺のことを分かってくれている気がするぞ……!
彼女の言葉が……む、胸に刺さった……。

「なんだかつらそうね。私の言葉に感銘を受けたのかしら? やっぱり人間より魔族のほうが合っているんじゃない? 正直、和解は難しいわ。もう充分、人間のために戦ってきたでしょ? やっぱり……魔族側についたら? スカーレンを救うために……」

「い、いや! 俺は……まだ和解を諦めていない」

 俺の目標は魔族と人間の和解だ。
魔王……やたらと味方になってくれるけど、俺とスカーレン、そしてサリーヌ達を協力させて魔族側を救いたいんだな?
けど、俺を利用しようとしている計算高さとかズル賢さとかは感じないんだよな。
さっきの魔王の言葉は本当に胸に刺さったし……。

「あ……もう本当に時間がないわ。……勇者さんがどう動くのか、楽しみだわ。私は……まだ諦めていないから」

「え……どういうことだ?」

 あ……魔王が消えていった……!
あ、『諦めていない』……!?
魔王……死んだことを受け入れていないのか?
そ、それとも他に何か意味が……!?
 そんなことを考えながら、俺の意識は薄れていった……。
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