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3 及川奈緒という女
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翌日。
どこのブランドとも分からないトートバッグに、近くの薬局で買ったドライフードを詰め込む。
猫の年齢ごとに適したフードを与えるべきだったが、肝心の年齢が分からないため、若猫用と老猫用を準備してある。
この時はまだ、義務感はなかった。
あるとすれば仔猫を見殺しにしてしまったことへの罪悪感と、女の活動に無用の口出しをしてしまったことへの申し訳なさだ。
失敗したら自分でその責任をとりなさい、と小さい頃からミサキに教えていた美子だったから、その教育方針を自分にも当てはめる。
スーパーでの勤務は午後5時までだったから、公園に寄っても6時過ぎには帰宅できる。
幸治が帰ってきて風呂に入り、それから夕食をとるようにすれば、時刻は7時。
これなら充分に間に合う。
公園に着いたが、女の姿はまだない。
相変わらずゴミだらけの園内。
今日は数人の子どもがいて、走り回ったり、ブランコで遊んだりしている。
遊具は奥のほうに集中しており、入り口付近の植え込みとはいくらかの距離がある。
美子は倉庫にもたれて、子どもたちの様子を眺めた。
小学校低学年から高学年くらいの子が数名。
そこそこ広い園内を駆け回っているのは、おそらく鬼ごっこでもしているのだろう。
他にはブランコをどれだけ高く漕げるかを競っていたり、鉄棒で逆上がりの練習をしたり。
遊び方は自分の頃とあまり変わらないな、と美子は思った。
しばらくすると1匹の茶トラの猫がやって来た。
美子を警戒してか、柵の外側から植え込みを見ている。
「大丈夫だから、こっちにおいで」
それに気付いた美子が手招きする。
猫は訝しむようにひらひらと動く手を眺めるが、その場から動こうとはしない。
家で飼われている猫とちがい、野良は警戒心が強いから、昨日今日会ったくらいでは心を開いてはくれない。
美子は辛抱強く待つことにした。
さらに2匹の猫がどこかからやって来る。
茶トラと同じく、美子がいるせいで柵の中までは入ってこなかった。
「あなた、何やってるの?」
呼ばれて顔を上げると、昨日の女が立っていた。
「あ、あの、昨日はすみませんでした。それで私も何かお手伝いしたいと思いまして、ほら……」
美子がバッグの中身を見せると、女は鼻を鳴らした。
「そのまま置くつもり?」
不手際を蔑するように女は皿を並べ、フードを分けていく。
「中途半端にやるとかえって迷惑だよ。ただ餌をばら撒きゃいいってものじゃないの。そこのところ分かってる?」
「いえ……分かってませんでした……」
いつの間にか集まっていた猫たちは、それぞれに自分の皿を確保して一心に夕食にありついている。
強い猫は他の子の分まで横取りしようとしたが、女が手で払って追い返した。
「猫好きなの? あんた」
女ははじめて美子の顔をじっと見て言った。
「好き、です」
「ただ好きなだけ?」
「はあ……?」
質問の意図を測りかねて美子が曖昧に頷くと、女は憮然として、
「やめたほうがいいわ。迷惑だし……」
植え込みでうろうろしている猫を撫でながら言った。
失礼な人だ、と美子は口に出しそうになった。
たしかに昨日、失礼なことを言ったかもしれないが、そんなあしらい方はないだろうという不満が湧いてくる。
ここにいる猫たちは別にこの女が飼っているのではないのだから、そこまで言われる筋合いはない。
美子は抗議の声をあげようとしたが、
「簡単なことじゃないわよ。気が向いた時だけご飯をあげて、かわいがる……どうせそんな程度にしか考えてないでしょ?」
先回りするように女が言う。
「そんなこと……!」
ない、とは美子には言えなかった。
後ろめたさを拭うためにフードを持って来たが、それが明日も明後日も、さらにいえば何年かに渡ることは想定していなかった。
「無責任なことしないで。あんたみたいな人がいるから、この子たちみたいな不幸な猫が減らないのよ」
それは叱責や批難ではなく、諭すに近かった。
女はそれ以上は何も言わず、自分に近寄ってくる猫を抱き上げ、手足や耳を観察した。
猫ははじめ嫌がったが、やがて観念したように力を抜いた。
それを黙って見ていた美子は、またふつふつと怒りが湧いてくるのを感じていた。
今度は彼女に対して、ではない。
指摘された自分の無力さ、至らなさに対してだった。
幸治と結婚し、ミサキを産み育てていくうちに、すっかり和らいでいた彼女の負けず嫌いの性質が、ゆっくりと表に出てくる。
「そんなことありません」
猫たちを驚かさないように、しかし通る声で美子は言った。
「無責任なことはしません。途中で投げ出したりしません」
女はおもむろに顔を上げ、美子を睨みつけた。
「明日も来れるの?」
「はい」
「何年もかかるのよ?」
「分かります」
「フードだって毎日になればバカにならない金額よ?」
「……働いてますから」
やはりお金の件になると戸惑いはしたが、今の美子は金銭的な問題では引き下がらない。
それに金額という話であれば、十数匹分の手術費用を負担した女のほうが、はるかに大きな出費のハズだ。
それに対しても競争心のようなものが働き、彼女は不退転の決意であることを表明した。
「………………」
女は美子の目をじっと見つめ、彼女のバッグを見やった。
中には猫の年齢に対応したフードが入っている。
が、給餌に来たにしてはあまりにお粗末だ。
盛り分ける器もなければ、食べ残しを掃除するための道具もない。
所詮はただの餌やりだ。
ハトやスズメにパンをちぎってばら撒くのと、何も変わらない。
その後のことを何も考えていない。
(とはいえ、一応はフード選びに気は遣ってるのね)
評価できるのはそこだけだ、と女は思った。
いい加減な餌やりを彼女は何度も目撃している。
まるでゴミを捨てるように、たまたまいた猫の目の前に放り投げる。
それは栄養や健康を考えたものではなく、残飯や菓子パンが大半だった。
中には猫が食べれば中毒を起こすものもあり、彼女は見つけてはすぐに回収することで彼らの誤食を防いできた。
そういう経緯があったから、特に餌やりについては神経質になっていた。
給餌は猫に限らず命をつなぐ大切な行為だが反面、間違いがあれば命を奪いかねない恐ろしいことなのだ。
もし美子がそんな最低限の、最も重要なことさえ疎かにするような性格であれば、怒鳴りつけてでも追い返すべきだ。
「好きにすれば?」
いろいろと考えた末、女は突き放すように言った。
「ありがとうございます」
緊張から解き放たれたように破顔し、美子は大袈裟に頭を下げた。
「別にいいわよ。許可なんて要らないんだし」
女は態度を変えない。
まるで他人に向ける愛嬌の分も、猫たちに愛情として注いでいるようだった。
「遅れましたけど私、呉谷美子っていいます」
名刺代わりに美子はもう一度、お辞儀した。
甚だ失礼なことではあるが、女はこの時、わざと背を向けていた。
挨拶を交わす、という面倒が嫌いだったのだ。
人間はこうやって慇懃に振る舞って、笑顔で近づいておきながら、裏では悪辣な爪を研いでいる。
それが人間というものだから、常に裏と表があると思わなければならない。
そう心得ている女は、安易に愛想よくしたりはしない。
「及川奈緒」
彼女は早口で名乗った。
「及川さん、ですね」
訊き直すつもりで美子が言った。
「そう言ってるでしょ」
奈緒は並べていた皿を片付け始めた。
どの子も食欲旺盛で食べ残しはない。
ただ彼らにも好き嫌いはあるようで、安物のフードで満足する子もいれば、スープ状のやや高価なものしか食べない子もいる。
奈緒はそうした好みもよく分かっていて、同じフードを食べさせているように見えて、少しずつ銘柄や配合を変えている。
今日は味にうるさい子が、珍しく何でも食べてくれたので、奈緒は無意識に微笑を浮かべていた。
「明日から容器を持ってきますね。それと小さな箒も……」
もう帰ったものと思っていた美子に言われ、奈緒は慌てて表情を固くした。
「だから勝手にすればいいでしょ」
彼女にとって、邪魔さえされなければ美子はどうでもいい存在だった。
(どうせすぐに飽きるか、面倒くさくなるに決まってる……)
奈緒には確信があった。
興味本位で加わった人間が長続きしたためしはないのだ。
どこのブランドとも分からないトートバッグに、近くの薬局で買ったドライフードを詰め込む。
猫の年齢ごとに適したフードを与えるべきだったが、肝心の年齢が分からないため、若猫用と老猫用を準備してある。
この時はまだ、義務感はなかった。
あるとすれば仔猫を見殺しにしてしまったことへの罪悪感と、女の活動に無用の口出しをしてしまったことへの申し訳なさだ。
失敗したら自分でその責任をとりなさい、と小さい頃からミサキに教えていた美子だったから、その教育方針を自分にも当てはめる。
スーパーでの勤務は午後5時までだったから、公園に寄っても6時過ぎには帰宅できる。
幸治が帰ってきて風呂に入り、それから夕食をとるようにすれば、時刻は7時。
これなら充分に間に合う。
公園に着いたが、女の姿はまだない。
相変わらずゴミだらけの園内。
今日は数人の子どもがいて、走り回ったり、ブランコで遊んだりしている。
遊具は奥のほうに集中しており、入り口付近の植え込みとはいくらかの距離がある。
美子は倉庫にもたれて、子どもたちの様子を眺めた。
小学校低学年から高学年くらいの子が数名。
そこそこ広い園内を駆け回っているのは、おそらく鬼ごっこでもしているのだろう。
他にはブランコをどれだけ高く漕げるかを競っていたり、鉄棒で逆上がりの練習をしたり。
遊び方は自分の頃とあまり変わらないな、と美子は思った。
しばらくすると1匹の茶トラの猫がやって来た。
美子を警戒してか、柵の外側から植え込みを見ている。
「大丈夫だから、こっちにおいで」
それに気付いた美子が手招きする。
猫は訝しむようにひらひらと動く手を眺めるが、その場から動こうとはしない。
家で飼われている猫とちがい、野良は警戒心が強いから、昨日今日会ったくらいでは心を開いてはくれない。
美子は辛抱強く待つことにした。
さらに2匹の猫がどこかからやって来る。
茶トラと同じく、美子がいるせいで柵の中までは入ってこなかった。
「あなた、何やってるの?」
呼ばれて顔を上げると、昨日の女が立っていた。
「あ、あの、昨日はすみませんでした。それで私も何かお手伝いしたいと思いまして、ほら……」
美子がバッグの中身を見せると、女は鼻を鳴らした。
「そのまま置くつもり?」
不手際を蔑するように女は皿を並べ、フードを分けていく。
「中途半端にやるとかえって迷惑だよ。ただ餌をばら撒きゃいいってものじゃないの。そこのところ分かってる?」
「いえ……分かってませんでした……」
いつの間にか集まっていた猫たちは、それぞれに自分の皿を確保して一心に夕食にありついている。
強い猫は他の子の分まで横取りしようとしたが、女が手で払って追い返した。
「猫好きなの? あんた」
女ははじめて美子の顔をじっと見て言った。
「好き、です」
「ただ好きなだけ?」
「はあ……?」
質問の意図を測りかねて美子が曖昧に頷くと、女は憮然として、
「やめたほうがいいわ。迷惑だし……」
植え込みでうろうろしている猫を撫でながら言った。
失礼な人だ、と美子は口に出しそうになった。
たしかに昨日、失礼なことを言ったかもしれないが、そんなあしらい方はないだろうという不満が湧いてくる。
ここにいる猫たちは別にこの女が飼っているのではないのだから、そこまで言われる筋合いはない。
美子は抗議の声をあげようとしたが、
「簡単なことじゃないわよ。気が向いた時だけご飯をあげて、かわいがる……どうせそんな程度にしか考えてないでしょ?」
先回りするように女が言う。
「そんなこと……!」
ない、とは美子には言えなかった。
後ろめたさを拭うためにフードを持って来たが、それが明日も明後日も、さらにいえば何年かに渡ることは想定していなかった。
「無責任なことしないで。あんたみたいな人がいるから、この子たちみたいな不幸な猫が減らないのよ」
それは叱責や批難ではなく、諭すに近かった。
女はそれ以上は何も言わず、自分に近寄ってくる猫を抱き上げ、手足や耳を観察した。
猫ははじめ嫌がったが、やがて観念したように力を抜いた。
それを黙って見ていた美子は、またふつふつと怒りが湧いてくるのを感じていた。
今度は彼女に対して、ではない。
指摘された自分の無力さ、至らなさに対してだった。
幸治と結婚し、ミサキを産み育てていくうちに、すっかり和らいでいた彼女の負けず嫌いの性質が、ゆっくりと表に出てくる。
「そんなことありません」
猫たちを驚かさないように、しかし通る声で美子は言った。
「無責任なことはしません。途中で投げ出したりしません」
女はおもむろに顔を上げ、美子を睨みつけた。
「明日も来れるの?」
「はい」
「何年もかかるのよ?」
「分かります」
「フードだって毎日になればバカにならない金額よ?」
「……働いてますから」
やはりお金の件になると戸惑いはしたが、今の美子は金銭的な問題では引き下がらない。
それに金額という話であれば、十数匹分の手術費用を負担した女のほうが、はるかに大きな出費のハズだ。
それに対しても競争心のようなものが働き、彼女は不退転の決意であることを表明した。
「………………」
女は美子の目をじっと見つめ、彼女のバッグを見やった。
中には猫の年齢に対応したフードが入っている。
が、給餌に来たにしてはあまりにお粗末だ。
盛り分ける器もなければ、食べ残しを掃除するための道具もない。
所詮はただの餌やりだ。
ハトやスズメにパンをちぎってばら撒くのと、何も変わらない。
その後のことを何も考えていない。
(とはいえ、一応はフード選びに気は遣ってるのね)
評価できるのはそこだけだ、と女は思った。
いい加減な餌やりを彼女は何度も目撃している。
まるでゴミを捨てるように、たまたまいた猫の目の前に放り投げる。
それは栄養や健康を考えたものではなく、残飯や菓子パンが大半だった。
中には猫が食べれば中毒を起こすものもあり、彼女は見つけてはすぐに回収することで彼らの誤食を防いできた。
そういう経緯があったから、特に餌やりについては神経質になっていた。
給餌は猫に限らず命をつなぐ大切な行為だが反面、間違いがあれば命を奪いかねない恐ろしいことなのだ。
もし美子がそんな最低限の、最も重要なことさえ疎かにするような性格であれば、怒鳴りつけてでも追い返すべきだ。
「好きにすれば?」
いろいろと考えた末、女は突き放すように言った。
「ありがとうございます」
緊張から解き放たれたように破顔し、美子は大袈裟に頭を下げた。
「別にいいわよ。許可なんて要らないんだし」
女は態度を変えない。
まるで他人に向ける愛嬌の分も、猫たちに愛情として注いでいるようだった。
「遅れましたけど私、呉谷美子っていいます」
名刺代わりに美子はもう一度、お辞儀した。
甚だ失礼なことではあるが、女はこの時、わざと背を向けていた。
挨拶を交わす、という面倒が嫌いだったのだ。
人間はこうやって慇懃に振る舞って、笑顔で近づいておきながら、裏では悪辣な爪を研いでいる。
それが人間というものだから、常に裏と表があると思わなければならない。
そう心得ている女は、安易に愛想よくしたりはしない。
「及川奈緒」
彼女は早口で名乗った。
「及川さん、ですね」
訊き直すつもりで美子が言った。
「そう言ってるでしょ」
奈緒は並べていた皿を片付け始めた。
どの子も食欲旺盛で食べ残しはない。
ただ彼らにも好き嫌いはあるようで、安物のフードで満足する子もいれば、スープ状のやや高価なものしか食べない子もいる。
奈緒はそうした好みもよく分かっていて、同じフードを食べさせているように見えて、少しずつ銘柄や配合を変えている。
今日は味にうるさい子が、珍しく何でも食べてくれたので、奈緒は無意識に微笑を浮かべていた。
「明日から容器を持ってきますね。それと小さな箒も……」
もう帰ったものと思っていた美子に言われ、奈緒は慌てて表情を固くした。
「だから勝手にすればいいでしょ」
彼女にとって、邪魔さえされなければ美子はどうでもいい存在だった。
(どうせすぐに飽きるか、面倒くさくなるに決まってる……)
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