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新たなる脅威篇
7 深謀-4-
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「なんだ、けっこうイイ感じじゃん」
「…………ッ!?」
フェルノーラが反射的に向きなおった先には――。
何か言いたげな微笑――彼女には揶揄っているように見えた――を浮かべるライネがいた。
しかもわざとらしく背伸びなどしている。
「おき……起きてたの……」
あせりを悟られたくないフェルノーラは平静を装った。
が、その努力を右往左往する視線が無駄にした。
「話し声がしたからさ。あ、アタシにかまわず続けてくれていいぜ? なんなら席はずそうか?」
ライネはいたずらっぽく笑んだ。
「くっ…………!」
何か言い返そうとするも言葉は出てこず、フェルノーラは黙り込んでしまう。
「あの、ごめんなさい……起こしてしまって――」
二人のやりとりの意味が分からないシェイドは首をかしげるばかりだったが、眠りの邪魔をしたことに気付くとすぐに詫びた。
「気にしなくていいって。だって……」
ライネはフェルノーラをちらりと見て言った。
「最初から起きてたし」
「なん――!?」
「寝ようと思ってたところにフェルが入ってきたからさ」
「なんで寝たフリしてたの!?」
「いや、なんとなく?」
フェルノーラは耳まで真っ赤にして俯き、
(やっぱり、この子……)
そして思った。
(……合わない!)
嫌っているワケではない。
恬淡としていて裏表のなさそうなライネは、むしろ付き合いやすい相手だ。
必要以上に気を遣わなくてすむし、その明るさが沈みがちな避難生活に刺激を与えてくれた。
片田舎の貧民だと見下さず、対等に接してくれた。
その意味での感謝の気持ちはあった。
だが同時に、なぜか彼女には対抗意識のようなものが芽生えてしまう。
そもそもこの少女は何に対しても、誰に対してもそうだった。
大人たちがそろって怯える役人にも毅然と立ち向かったし、どんな境遇に置かれても自棄を起こすことはなかった。
迫る脅威には応じ、降りかかる災いは受け止める。
これが彼女の強みだ。
ただ、ライネに対してはどこか、個人的な感情が関係しているようだった。
「……悪趣味。盗み聞きなんて」
今もそうだ。
知られて困るような話はしていないというのに、ライネに聞かれていたというだけで負けた気になる。
「なに言ってんだよ。アタシは隠れたりしないで堂々と聞いてたんだぞ」
まったく悪びれる様子もない彼女に、
「開き直ってる……!」
フェルノーラは非難がましい目を向けた。
(…………?)
シェイドは首をかしげた。
(フェルノーラさんってこんな感じだったっけ?)
この物静かな少女は何もかもを悟ったふうで、諦念とわずかな希望の間で凛然とかまえていたハズだ。
感情をどこかに置いてきてしまったみたいに、彼女は表情も声の調子も、仕草さえも起伏がなかった。
たまに見せる笑顔も心の底からではなく、笑っている顔を皮膚に貼りつけたように透明だった。
今のように恥ずかしがったり怒ったりと、ころころと口調や仕草を変えたところは見たことがない。
(なんだかヘンな感じ……だけど――)
シェイドは微笑んでいた。
(――すごく楽しそう)
それが率直な感想だった。
「……なに?」
その視線に気づいたフェルノーラは明らかに不機嫌そうだった。
「ごめ――」
彼女を怒らせてしまった、と思ったシェイドはいつもの癖で謝りかけたが、それもまた怒らせる理由になりそうだと思い、
「あ、ええっと、あの、ライネさん。本当にありがとうございました」
話題を変えることにした。
改まった様子で名を呼ばれたライネは怪訝な顔をした。
「ついて来てくれて……避難所でもたくさん手伝ってくれましたし、それに――みんなを守ってくれました」
「きゅ、急にどうしたんだ?」
「ちゃんとお礼を言っていなかったので……僕のせいでケガまでさせてしまって――」
「気にすることないって! それがアタシの仕事なんだし」
「でも…………」
年の近い、しかも女の子を危険に晒してしまったことをシェイドは申し訳なく思った。
ライネに限らず、誰にも犠牲になってほしくないと考える彼は、彼女が気丈であればあるほど心苦しい。
「いいってば!」
大袈裟に手を振るさまはどこかわざとらしい。
実際、彼女は落ち着きなく体を揺すったりしている。
「本当に感謝してるんです。それと同じくらい申し訳なくて」
言葉ではとても足りない、と言わんばかりにシェイドは謝意を並び立てる。
その度にライネはそわそわする。
そして彼女はついに言ってしまった。
「なんつうかさ、なんか恥ずかしいんだよ……改まってそう言われると……!」
アシュレイの推薦を受けたこのボディガードは、褒められると気を良くするが、感謝されることには弱いらしい。
うっすらと赤い頬がそれを証明している。
「ふぅん……」
良いものを見せてもらった、とばかりに今度はフェルノーラの口元がゆるむ。
「――ねえ」
姿勢を正し、ライネを真正面に見据える。
「私からもお礼を言うわ。あなたのおかげよ」
声色は妙に艶っぽい。
聞く者に、これは本心からの言葉だと思わせる、説得力のある静かな響きだ。
「皆、あなたに感謝してるわ。避難所の被害も小さくて済んだし」
「フェルまで何を言い出すんだよ!?」
「だって本当のことだもの。彼も言ったけど、感謝してもし足りないくらいよ」
冗談めかして言ったのでは効果がない。
だから彼女は真剣な口調で言い、真剣な眼差しでライネを見つめた。
「あ、ああ、いや……」
ライネは目を泳がせた。
動揺しているせいか声が上ずる。
「だから、その……改めて――言うわ」
そしてなぜかフェルノーラもまた顔を赤くしていた。
「あ……り…………」
深呼吸をひとつ。
大きく息を吸い込んで、
「……ありがとうっ」
最後のほうはやけ気味に言った。
「やめ……やめろってぇぇ……ッ!!」
堪えきれずライネはテーブルに突っ伏した。
真っ赤になった耳がぴくぴくと動いている。
自身も気恥ずかしさから頬を紅潮させ、フェルノーラは荒い息をしながら天井を見上げた。
(勝った……!!)
その表情は満足げだった。
「…………ッ!?」
フェルノーラが反射的に向きなおった先には――。
何か言いたげな微笑――彼女には揶揄っているように見えた――を浮かべるライネがいた。
しかもわざとらしく背伸びなどしている。
「おき……起きてたの……」
あせりを悟られたくないフェルノーラは平静を装った。
が、その努力を右往左往する視線が無駄にした。
「話し声がしたからさ。あ、アタシにかまわず続けてくれていいぜ? なんなら席はずそうか?」
ライネはいたずらっぽく笑んだ。
「くっ…………!」
何か言い返そうとするも言葉は出てこず、フェルノーラは黙り込んでしまう。
「あの、ごめんなさい……起こしてしまって――」
二人のやりとりの意味が分からないシェイドは首をかしげるばかりだったが、眠りの邪魔をしたことに気付くとすぐに詫びた。
「気にしなくていいって。だって……」
ライネはフェルノーラをちらりと見て言った。
「最初から起きてたし」
「なん――!?」
「寝ようと思ってたところにフェルが入ってきたからさ」
「なんで寝たフリしてたの!?」
「いや、なんとなく?」
フェルノーラは耳まで真っ赤にして俯き、
(やっぱり、この子……)
そして思った。
(……合わない!)
嫌っているワケではない。
恬淡としていて裏表のなさそうなライネは、むしろ付き合いやすい相手だ。
必要以上に気を遣わなくてすむし、その明るさが沈みがちな避難生活に刺激を与えてくれた。
片田舎の貧民だと見下さず、対等に接してくれた。
その意味での感謝の気持ちはあった。
だが同時に、なぜか彼女には対抗意識のようなものが芽生えてしまう。
そもそもこの少女は何に対しても、誰に対してもそうだった。
大人たちがそろって怯える役人にも毅然と立ち向かったし、どんな境遇に置かれても自棄を起こすことはなかった。
迫る脅威には応じ、降りかかる災いは受け止める。
これが彼女の強みだ。
ただ、ライネに対してはどこか、個人的な感情が関係しているようだった。
「……悪趣味。盗み聞きなんて」
今もそうだ。
知られて困るような話はしていないというのに、ライネに聞かれていたというだけで負けた気になる。
「なに言ってんだよ。アタシは隠れたりしないで堂々と聞いてたんだぞ」
まったく悪びれる様子もない彼女に、
「開き直ってる……!」
フェルノーラは非難がましい目を向けた。
(…………?)
シェイドは首をかしげた。
(フェルノーラさんってこんな感じだったっけ?)
この物静かな少女は何もかもを悟ったふうで、諦念とわずかな希望の間で凛然とかまえていたハズだ。
感情をどこかに置いてきてしまったみたいに、彼女は表情も声の調子も、仕草さえも起伏がなかった。
たまに見せる笑顔も心の底からではなく、笑っている顔を皮膚に貼りつけたように透明だった。
今のように恥ずかしがったり怒ったりと、ころころと口調や仕草を変えたところは見たことがない。
(なんだかヘンな感じ……だけど――)
シェイドは微笑んでいた。
(――すごく楽しそう)
それが率直な感想だった。
「……なに?」
その視線に気づいたフェルノーラは明らかに不機嫌そうだった。
「ごめ――」
彼女を怒らせてしまった、と思ったシェイドはいつもの癖で謝りかけたが、それもまた怒らせる理由になりそうだと思い、
「あ、ええっと、あの、ライネさん。本当にありがとうございました」
話題を変えることにした。
改まった様子で名を呼ばれたライネは怪訝な顔をした。
「ついて来てくれて……避難所でもたくさん手伝ってくれましたし、それに――みんなを守ってくれました」
「きゅ、急にどうしたんだ?」
「ちゃんとお礼を言っていなかったので……僕のせいでケガまでさせてしまって――」
「気にすることないって! それがアタシの仕事なんだし」
「でも…………」
年の近い、しかも女の子を危険に晒してしまったことをシェイドは申し訳なく思った。
ライネに限らず、誰にも犠牲になってほしくないと考える彼は、彼女が気丈であればあるほど心苦しい。
「いいってば!」
大袈裟に手を振るさまはどこかわざとらしい。
実際、彼女は落ち着きなく体を揺すったりしている。
「本当に感謝してるんです。それと同じくらい申し訳なくて」
言葉ではとても足りない、と言わんばかりにシェイドは謝意を並び立てる。
その度にライネはそわそわする。
そして彼女はついに言ってしまった。
「なんつうかさ、なんか恥ずかしいんだよ……改まってそう言われると……!」
アシュレイの推薦を受けたこのボディガードは、褒められると気を良くするが、感謝されることには弱いらしい。
うっすらと赤い頬がそれを証明している。
「ふぅん……」
良いものを見せてもらった、とばかりに今度はフェルノーラの口元がゆるむ。
「――ねえ」
姿勢を正し、ライネを真正面に見据える。
「私からもお礼を言うわ。あなたのおかげよ」
声色は妙に艶っぽい。
聞く者に、これは本心からの言葉だと思わせる、説得力のある静かな響きだ。
「皆、あなたに感謝してるわ。避難所の被害も小さくて済んだし」
「フェルまで何を言い出すんだよ!?」
「だって本当のことだもの。彼も言ったけど、感謝してもし足りないくらいよ」
冗談めかして言ったのでは効果がない。
だから彼女は真剣な口調で言い、真剣な眼差しでライネを見つめた。
「あ、ああ、いや……」
ライネは目を泳がせた。
動揺しているせいか声が上ずる。
「だから、その……改めて――言うわ」
そしてなぜかフェルノーラもまた顔を赤くしていた。
「あ……り…………」
深呼吸をひとつ。
大きく息を吸い込んで、
「……ありがとうっ」
最後のほうはやけ気味に言った。
「やめ……やめろってぇぇ……ッ!!」
堪えきれずライネはテーブルに突っ伏した。
真っ赤になった耳がぴくぴくと動いている。
自身も気恥ずかしさから頬を紅潮させ、フェルノーラは荒い息をしながら天井を見上げた。
(勝った……!!)
その表情は満足げだった。
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