君と笑った

もしかしてポコ

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第十話

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君のいない世界で

 

季節は確実に冬へと移っていた。

木々は葉を落とし、街は乾いた風に洗われるように静かだった。

空はどこまでも青く澄み、けれどその美しさが逆に寂しさを引き立てていた。

蓮がいない冬は、景色の中にぽっかりと空洞ができたようだった。

 

私は変わった。

教室のざわめきの中にいても、誰とも目を合わせなくなった。

けれど、それが悲しいとは思わなかった。

蓮といた時間が、あまりにも濃かったから。

あの日々の重みが、今の静けさをすべて受け止めてくれていた。

 

年が明けてすぐのある日、私は電車に乗った。

目的地は、蓮がいる場所――少年鑑別所。

当然、面会は許されていなかった。

それでも、その近くに立ちたいと思った。

蓮が過ごしている空の下に、自分の影を重ねたかった。

 

施設の前に立ち、私は目を閉じて呼吸を整えた。

冷たい空気が肺に入り、胸を刺した。

私は、声に出して言った。

「蓮、私はまだ生きてるよ」

「ちゃんと歩いてる。泣いてない。嘘じゃないよ」

自分に言い聞かせるように、ゆっくりと空に向かって言葉を放った。

風が吹いた。蓮が頷いたような気がした。

 

帰りの電車の中、私はポケットの中の小さな折り紙を取り出した。

蓮が、あの日くれた鶴。

少しいびつで、角が折れすぎていたけれど、どこまでも優しい形をしていた。

「きれいに折れなくてもいい。折ろうとしたことが、大事なんだ」

あのときの蓮の声が、今も耳に残っている。

私は、窓の外を眺めながら、静かに微笑んだ。

 

春になれば、私は卒業する。

その先に何があるか、まだわからない。

蓮がどこに行くのかも、知ることはできない。

でも、私は待つ。

それは期待ではなく、祈りに近い。

彼が生きていてくれること。

彼が、もう一度笑える場所に戻れること。

それだけを願って、私は日々を重ねる。

 

私と蓮の物語は、もう語られることはないのかもしれない。

でも、私の中では、今も続いている。

あの春の日、彼が私に向けてくれた笑顔。

それが、今も私を支えている。

 

――君のいない世界で、私は生きる。

それがどんなに空っぽで、どれだけ凍える日々でも。

私は、もう逃げない。蓮が最後まで、私の手を離さなかったから。

あの笑顔を、忘れないために。
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